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カテゴリー: 生物

キツネのせかい

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 塚田 英晴 、 出版 緑書房
 野生のタヌキは我が家の近くをウロウロしているのを見たことがあります。でも、野生のキツネを家の近くで見たことは残念ながらありません。北海道を旅行したときにキタキツネは遠くに見ましたが…。
 この本を読んで、キツネのことを大いに知ることができました。この本を読んで驚いたことは、いくつもありますが、とりあえず二つ。
 その一は、キツネは夫婦で子育てをし、母親が不幸にして事故などで亡くなったら父親だけで子どもを育てあげることがあるということです。まあ、そうは言ってもメスのキツネはこっそり浮気をしているそうです。なんだか人間社会とそっくりですね。
 その二は、生まれたキツネが10頭いたとして、そのうちの8~9頭は1歳の誕生日を迎えられずに死んでしまうというのです。キツネは子だくさんで、たくさんの赤ちゃんを産むが、子ども同士はライバル関係にある。そして、野生のキツネは6~7歳までに100頭生まれたうちの99頭は死んでしまうということです。これではキツネがネズミ算式に増えていくことはありえませんよね。
 キツネはイヌ科。野生のイヌの一種。キツネは犬と同じで、爪の出し入れは出来ない(ネコは出来る)。
 キツネは長い足のおかげで走るのが得意。全速力で走ると時速72キロにもなる。
 キツネは人と違って、夜でも目がきく。目の内側に「タペタム」という特殊な細胞をもっていて、この細胞が目に入ってきた光を反射させて光を増幅することができるので、暗闇でも、ものを見分けることができる。
 キツネの聴覚もとても優れている。
 キツネは雑食性。そして好き嫌いがある。ネズミはキツネの好物だが、アカネズミは食べないし、トガリネズミやモグラなども食べたがらない。
 キツネの家族では、社会的順位の高い、一番強い夫婦だけがこどもを産むことができるという決まり(掟)がある。だから、順位の低いメスは結婚して子どもを産めず、姉として子どもの面倒をみるしかない。
 イノシシには子別れの儀式があるというのは聞いたことがあります。ウリ坊たちが大きくなると、母イノシシに体をこすりつけて別れ去っていくそうです。キツネにもあるようです。子どもが一定大きくなると、ある日突然、母キツネが鬼と化して子ギツネを追いかけまわすというのです。でも、実際にその現場を見た人はとても少ないとのことです。
 映画「キタキツネ物語」は昔見たような気もしますが、キツネのことを本当に知らなかったと思いました。
(2024年2月刊。2200円+税)

もしも世界からカラスが消えたら

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 松原 始 、 出版 エクスナレッジ
 毎年、今の時期(2月下旬から3月上旬)、電柱の高いところにカササギが巣をつくります。私の通勤途上に4個、巣を見かけます。本当にうまくつくり上げたものだと毎年感嘆して見上げています。ちょっとの強風ではビクともしません。つがいのカササギが巣を作り上げ、一緒に子育てするのです。とは言っても、子どものカササギを見たことはありません。カラスもよく飛んでいますから、カササギの卵、そして幼鳥をカラスから守るためカササギ夫婦は必死にがんばっているのだと思います。
 南米にはカラス属がいないそうです。カラスがいるのはメキシコまで、とのこと。どうして、こんな不思議なことが起きたのでしょうか・・・。著者はカラスは北回りでユーラシアから入ってきたからだとしています。でも、どうしてメキシコで止(停)まり、それより南下をしなかったのでしょうか。謎は深まります。ただし、南米にはコンドルがいる。とはいっても、北米では、コンドルとカラスは同居しているのだから・・・。
 鳥の先祖が恐竜だというのは、今や定着した学説です。そして、この恐竜とは、二本足で駆け回る活発な肉食恐竜だった。つまり、鳥は肉食だったはずなのに、鳥には種子食や果実食に特化したものが存在する。肉食から草食への転換が起きている。なぜなのか・・・。
 恐竜から鳥が分岐した時点、その時代には、まだ果実そのものがなかった。そして、鳥のほうも甘みを感じる能力をまだ身につけていなかった・・・。そういうことなんですね。
 カラスはオウムのように訓練したら、しゃべれるんだそうです。「オハヨウ」「オカーサン」「カーコチャン」というように。
カササギは、佐賀・福岡・熊本そして北海道の苫小牧・室蘭周辺にいるだけ。
北海道のカササギはロシアと遺伝子が共通している。また、九州のカササギは、秀吉の朝鮮出兵の際に持ち帰ったものとされているが、遺伝子情報によると、もっと古くから日本にいたとのこと。
さてさて、やっと本題に入ります。カラスは、本当に何でも食べる。隠れた主食は果実類。胃の内容物に占める果実種子は、ハシブトガラスで44%、ハシボソガラスで18%。
果実を食べる鳥がいないと、植物はとても困ることになる。鳥に食べられることによって遠くに種子を運んでくれ、生殖範囲が広がっている。
カラスの強みは、人間が近くにいても平気なこと。なるほど、人間を恐れないどころか、子を守るためには人間を襲うのも平気です。
イスラム教では、カラスとフクロウは不吉な存在だとされている。あまりカラスがいないということの反映なのでしょうか・・・。
カラスの生態を一生の研究テーマとしている著者は、カラスがいなくなっても、直ちに生物社会が成り立たないことはないとしています。少しだけ安心しました。それでも、カラスのいない社会なんて考えられませんよね。
同じことはミツバチについても言えます。ミツバチがこの世界からいなくなったとしたら、ハチミツも採れませんし、多くの果実の受粉が出来なくなって、たちまち食糧不足時代に到来することになるでしょう。
カラスと人間の関係について、改めて考えさせられました。それにしても、路上のゴミ出しをカラスが狙って散乱させているのだけは見るに耐えません。もちろん、人間のほうが悪いのです。きっちり締めておかないといけませんよ・・・。
(2024年1月刊。1600円+税)

ともぐい

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 河﨑 秋子 、 出版 新潮社
 ときは明治のころ。ところは北海道の東部。山に犬1頭だけを連れて、愛用の村田銃をひっさげて入っていく猟師の話です。
 出だしの猟は鹿。一発で仕止めると、すぐに鹿の腹を裂き始める。開かれた腹の中には、むき出しの鹿の内臓がつやつやと横たわっている。腸は汗で粘ついた白粉(おしろい)のような白さを晒(さら)している。その白さが肝臓の鮮やかな赤紫色を引き立たせていた。
 赤紫色した肝臓に手を伸ばし、持ち上げると、ずしりと重い。これが綺麗でないと健康な個体とはいえない。胆管の若い汁がつかないように丁寧に切り取ると、朝の日光を反射してつやつやと輝いている。肝臓の端を親指の幅1本分くらいの大きさに切り取る。切った断面がしっかりと形を保ち、内臓に巣食う虫の痕跡がないことを確認して、勢いよく口の中に放り込む。
 鹿の温もりがほのかに残っている。歯を立てると、さくりと心地よい音がしそうなほどに張りがある。そして、甘い。血と肉の旨味を凝縮したような濃厚な味わいがかみしめるごとに口腔に広がり、滋味が鼻から抜けていく。肉ももちろん美味いが、仕留めたばかりの鹿の肝臓は格別なものだ。
 猟師(熊爪)は地面に両膝をついた状態で村田銃を構えた。銃口の先で、赤毛(ヒグマ)が猛烈な勢いで近づく。冷静に、呼吸を止めることなく、銃口を赤毛へと向ける。頭ではない。あれだけ成長した熊ならば、分厚い頭蓋骨が弾をはじく。狙うべきは、地面をかく両前脚の付け根の間。その奥にある心臓だ。万が一、心臓を貫けなくても、肺が損傷すれば勢いは削れる。距離にして、熊の体三つ分、十分に引き付けてから猟師は引き金を引いた。一瞬、赤毛の体が止まって見える。
 赤毛は横に跳んでいた。悪いことに猟師の左側、狙いづらい方へと跳んで、渾身の一発を避けている。遅かった。赤毛は後脚で立ち上がり、前脚を大きく振る。
 猟師はかろうじて銃身を盾として爪の直撃を避けたが、とてつもない衝撃に文字どおりぶっ飛ばされた。
 そして、また、もう一歩、赤毛が近づいてくる。猟師の全身の毛が逆立ち、まぶたは見開かれたままで、眼球の表面が乾く。村田銃の引き金にかけた指の感覚がない。
 緊張から呼吸が止まっている。あと5歩ほどまで赤毛が迫ったとき、引き金を引いた。
 銃口からの距離、当たった場所、熊の反応。経験から、猟師は赤毛の心臓をとらえたと確信した。
 赤毛は立ち上がったまま、左の前脚を上げた。そして前脚を空振りさせて自らの体に巻き付かせ、その勢いのまま横向きに倒れた。
いやあ、すごいものです。北海道の別海町生まれの著者による描写ではありますが、まさしく熊(ヒグマ)撃ちの実際をド迫力をもって再現しています(しているのだと思います)。
 直木賞を受賞した作品ですが、その発表前から読みたいと思っていた本でした。人間関係のところは、いささかひっかかりましたが、狩りの場合はすごい描写です。
(2024年1月刊。1750円+税)

ゴキブリマイウェイ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 大崎 遥花 、 出版 山と渓谷社
 この出版社がなぜ、ゴキブリを扱った本を出すのかな…。そんな疑問に引きずられながら読み進めました。
 ゴキブリをめぐる、とても面白い本です。ホッコリしながら、学者の厳しさと楽しさが伝わってくる本でもあります。
 ゴキブリといっても、わが家に出てくるような、憎き「敵」のゴキブリではありません。森の中の朽ち木に潜んでいて、「害虫」とは無縁です。それどころか、森の中の第一次清掃人の仕事をしている、いわば益虫です。
 私は著者をてっきり男性と思って読んでいたのですが、途中で女性だと知りました。若い女性が沖縄の森の中で、ハブを心配しながらゴキブリを採集し、リュック一杯にゴキブリを入れて飛行機に乗せて運び、研究室で大量に飼育・繁殖させ、その生態をビデオ撮影しながら観察し、分析するというのです。
 もちろん、学者に性差はありえません。でも、うちの女性陣はゴキブリを見たら、まずは何よりキャーッと叫び、次には「叩き殺せ!」という大合唱です。どこも同じではないでしょうか。
 著者の研究の対象は、クチキゴキブリ。森林の奥でひっそりと暮らす、害虫ではないゴキブリ。クチキゴキブリは、朽木(くちき)を食べながらトンネルを作り、そこで家族生活を営んでいる。父と母は生涯つがいを形成し、一切浮気をしない。
 これって本当でしょうか…、信じられません。かの有名なオシドリが、実は浮気する鳥だということは既に実証されています。
 クチキゴキブリは「卵胎生」。卵は母親の体内で孵化(ふか)して子が直接母体(腹)から出てくる。
 クチキゴキブリは、交尾後2ヶ月ほどすると子が生まれ、両親ともに口移しでエサを与えて、子育てする。この両親そろっての子育てというのは、とても珍しいこと。そうですよね。
 ゴキブリ研究の第一人者である著者は、実はゴキブリアレルギーの持ち主。クチキゴキブリを素手で触ると、無数の水ぶくれが出来てしまう。
 著者は、九州大学理学部を卒業し、クチキゴキブリ研究を現在進行しているのは全世界広くといえども著者だけ。まさしくあっぱれ、です。今はアメリカの大学で研究を続けています。
 全世界のゴキブリは4500種。日本には64種類いる。そのうち害虫と認識されているのは5種類だけ。1%にも満たない。
 クチキゴキブリは雑食性で朽木、落ち葉のほか、昆虫の死骸や動物のフン・キノコなど、全部、何でも食べる。分解の第一段階、物理的な分解を担っている。クチキゴキブリの寿命は3年ほど。メスは生涯に複数回、子を産む。
卵胎生の長所は、子どもが母親の体内で守られ、天敵の襲撃を避けられるし、メス親とともに逃げることができる。
クチキゴキブリのオスとメスは、配偶時に互いの翅を食べ合う。
いったい、なぜこんなことをしているのか、どんな意味があるのかを著者はじっくり観察し、記録しながら、学者として考察するのです。実にすばらしい。でも、根気がいりますよね。
そして、その行動(生態)を撮影して記録するため、暗室をつくり赤色LEDでクチキゴキブリをじっくり観察し、その成果物を学界(会)で発表したのです。一大センセーションをまき起こしました。
クチキゴキブリのオスとメスは配偶時にお互いの翅を食べあう。翅は付け根付近まできっちり食われている。昆虫の翅は再生しないので、食べられたが最後、一生飛べなくなる。
クチキゴキブリの後尾体勢は、互いに反対方向を向いて、お尻とお尻をくっつけるようなポーズなので、カマキリのように、交尾しながらメスがオスを食べることはできない。
ゴキブリを含め、昆虫の視覚は赤色光は見えず、紫外線は見える。
翅の食い合いは、オスとメスの協力行動。相手個体が嫌がって抵抗したり、逃げ出すことはない。食べるのに時間をかけている。非常に遅い。なぜなのか…。いったい何が起きているのか、互いの翅を食べて、飛べなくすることに、何の意味があるのか…。謎は深まります。
とても読みやすい文章なので、すらすらと読めました。ゴキブリの生態とあわせて学者(研究者)の生態までも深く掘り下げられていますから、とても面白いのです。
ご一読をおすすめします。なお、「関わらず」という、「不拘」と書くべきところの誤字が何回も出てきました。著者だけでなく、出版社(編集者)の責任です。ぜひ訂正してください。
(2023年12月刊。1760円)

熊の肉には飴があう

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小泉 武夫 、 出版 ちくま文庫
 著者の料理本(エッセー)は私の大好物です。いかにもおいしそうで、コピリンココピリンコとアルコールをいただきながら、素材の美味しさをチュルチュルと味わうことができ、心の中までハフハフと熱くなります。
 さて、この本は「ちくま文庫」のための書きおろし。「飛騨匠(ひだのたくみ)」の料理店が主人公となって、90皿もの料理が次から次に紹介され、目がまわりそうです。
食材自在の精神…自然界から調達してきた、さまざまな食材を巧みに利用する。
 粗料細作…自然から調達してきた材料に時間と手間をかけて高級料理に仕立ててしまう。
 就地取材…材料は、いつでもその土地で、自分たちの手で…。
 用具過少…ほとんどの料理は台所にあるさまざまな道具や器具をあまり使わず、数本の包丁と俎板(まないた)、鍋といったものだけでこしらえてしまう。
この店で出す野菜はみな、自家製の完熟堆肥を使って野菜を育てている。その堆肥は、飼っている軍鶏(しゃも)や野飼いの地鶏の糞を集めて、それを厨房から出た食品廃棄物や落葉などと一緒に大きな木枠の中で2年も発酵と熟成を重ねた完熟堆肥、だから、野菜が力強く成長するためのミネラル類が豊富に含まれていて、肥沃な土となっている。それを畑にまいて施耕するのだから、野菜に甘みやうま味が乗るのも当然だ。
 しかも、そのうえさらに秘密がある。冬に雪が積もると、雪洞をつくり、そのなかに野菜を入れて、外気から遮断する。つまり、雪下で野菜を休眠させることによって、野菜に含まれている糖化酵素が低温下で作用して糖をつくるので、甘くなるという仕掛け。そして、同時にうま味の成分のアミノ酸をつくる酵素も働くので、味もぐっと上る。
 いやはや、料理というのは、このように手間とヒマをかけてじっくりつくり上げるものなんですね。
 先日、庭の一隅の野菜畑にジャガイモを植えつけました。そこの土は長年にわたって生ゴミをすき込んできましたので、黒々、フカフカしています。それこそ完熟堆肥です。きっと、今年も美味しいジャガイモがたくさんとれることでしょう。今から楽しみにしています。
(2023年7月刊。880円)

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