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カテゴリー: 司法

法服の王国(下)

カテゴリー:司法

著者  黒木 亮 、 出版  産経新聞出版
読みすすめているうちに、思わず背筋を伸ばしてしまいました。それほど緊張感にあふれる裁判所の内外の動きがつぶさに再現されています。最大の魅力は弓削晃太郎として登場する矢口洪一にあります。
 青法協を目の敵にして血も涙もない司法反動の権化と思われていた(私も、もちろん、そう思っていました)矢口洪一が、実は最晩年に、青法協裁判官部会の後身にあたる裁判官懇話会に出席して講話したのでした。この内容は判例時報で紹介されました。
 この本の末尾にある参考文献は、司法反動の実態、そして司法改革とは何だったのかを知るためには欠かせない本ばかりです。司法界と無縁だった(と思われる)著者がこれだけの本を読み込んで、小説に仕立て上げた筆力には驚嘆します。
裁判官の内情をさらけ出す小説として『お眠りの私の魂』(朔立木、光文社文庫)はショッキングでした。
 もちろん日本裁判官ネットワークの本も紹介されています。
 じん肺訴訟については、福岡の小宮学弁護士の『筑豊じん肺訴訟』(海鳥舎)が紹介されています。
 しかし、なんといってもすごいのは、原発訴訟を一貫して取りあげているところです。この点については海渡雄一弁護士は実名で登場していますし、最新作である『原発と裁判官』(朝日新聞出版)も踏まえているところが、すごいと思いました。
 つまり、裁判官も人の子。行政にタテつく判決を書くのは、とても勇気のいることなのです。これから出世できないのではないか・・・。夜も眠れないほど悩むのです。
 実名と仮名で多くの裁判官が登場する、とても刺激的な本です。司法反動そして司法改革を知りたいあなたに、必読の本です。
(2013年7月刊。1800円+税)

日本の最高裁を解剖する

カテゴリー:司法

著者  ディヴィッド・S・ロー 、 出版  現代人文社
日本の最高裁判所について、多くの裁判官は「サイコー」と呼びます。若いときの私は、それを聞くと、いつも心の中で「サイテーじゃないか」と、あざけっていました。
 ところが、今では、高裁のほうがむしろ「サイテー」で、かえって最高裁のほうが積極判断を示すことがあるようになりました。司法反動のとき、裁判官統制がききすぎるようになって、「ヒラメ裁判官」(上ばかり見て、保身か立身出世しか考えない裁判官のこと)ばかりになってしまって、むしろ上に立つ裁判官のほうがやきもきして焦っているという構図が成立していると言われるようになりました。今や、その傾向はますます強くなっている気がします。たまに覇気のある元気な裁判官にあたると、ほっとします。
 アメリカの学者が、日本の最高裁をインタビューもふくめて分析した本です。
 日本は積極的に実現するに値する憲法に恵まれている。日本国民は世界で最古の部類に属するが、にもかかわらず、最先端の憲法を有している。
 日本国憲法は、制定して66年になるが、ほとんど陳腐化していない。日本国憲法はそれが施行された当時、かなり先進的なものだったが、今でも世界に立憲主義の主流にしっかりとどまっている。
 改憲を意図する保守派は、外国からの押しつけ憲法と特徴づけることで、その正当性を掘り崩そうとしてきた。しかし、反動的な政治家に憲法を押しつけることと、日本国民に憲法を押しつけることには重要な相違点がある。
 アメリカ人の学者である著者は、このように日本国憲法を高く評価し、改憲派を厳しく批判しています。最高裁判所が1947年に発足してから、違憲無効として法令は、わずか8件のみ。ドイツの連邦憲法裁判所は600件以上の法律を違憲無効としている。
 司法部は一群のエリートの幹部裁判官に牛耳られている。彼らは最高裁長官を含む重要な司法行政ポストに就き、強大な権限を行使して、自分たちの好む見解を司法部の隅々まで常に押し通すころができる。
 彼らが統一性と継続性を達成するために用いる官僚機構は、保守的な政治のルールを保守的な司法部の行動へ常に忠実に翻訳してきた。
裁判官の再任審査を外部に対して透明化するために設置された下級裁判所裁判官指名諮問委員会は、任命過程をとりまく透明性を向上させることにはつながらなかった。委員会の議事要旨をみても、委員会の議論の中味はわからない。委員は政府のために働いている。
 日弁連から選ばれた委員は、委員会にとっての厄介者だった。弁護士からの任官が目立って拒否されている。弁護士が司法部左派であるのは広く知られているので、弁護士任官に司法部が難色を示すのは、法廷のイデオロギー的バランスからみても当然のことかもしれない。
 青法協から脱会した裁判官のなかには、その後、順調なキャリアを重ねた者も多くいる。そのなかの一人の町田顕は最高裁長官にまでのぼりつめた。
 もっとも有力な司法官僚は最高裁人事局長である。事務総局は、より人気のある任地を特定の裁判官に割りあてている。人事局長ポストは、現役局長がたいてい自分の後継者を指名する。
 日本の最高裁について、かなり踏み込んでインタビューし、分析している面白い本です。
(2013年6月刊。1900円+税)
 炎暑の夏がようやく終わったようです。お盆過ぎから大雨が続いていたせいか蝉の鳴き声もぱったり止んでいましたが、ツクツクボースが鳴きはじめました。一気に秋の気配となりました。芙蓉のピンクの花が咲き、彼岸花も見かけます。車中にある温度計も19度を表示したり、8月の36度の表示が表示が嘘のようです。
 季節の変わり目です。みなさん、風邪などひかないようにしましょう。

憲法の創造力

カテゴリー:司法

著者  木村 草太 、 出版  NHK出版新書
憲法学会の若き俊英が世に問う、ラディカルで実践的な憲法入門書。これは本のオビにあるキャッチ・フレーズです。そうならば、手にとって読まざるをえません。
 実りある憲法論のためには、何より想像力が重要である。
 そうなんです。条文(案)に何と書いてあるか、それがどういう意味なのかを知るためには、想像力が重要なのです。
 卒業式で、君が代を斉唱させ、日の丸掲揚を義務づけ、それに反する教員を処分する。これは、まさしく憲法問題である。
 著者は、次のように指摘します。そもそも、校長が式典での所作について命令を出すというのは、いかにも強権的である。冷めた目で見てみれば、「歌をうたえ」という職務命令が出ること自体が滑稽ですらあろう。たとえば、教員に対し、「入学式では、ちゃんと『ビューティフル・サンデー』をうたえ」という職務命令を出したり、歌わない教員に戒告処分や減給処分を科したりする学校があったら、多くの人は「変な学校だなあ」と思うのではないか。「ビューティフル・サンデーを歌わなかったこと」を理由とした懲戒免職など、もはやコントの域である。
 まったくもって、そのとおりです。学校を世界の常識が通用しない場にしてはいけません。それでは、何より子どもたちが可哀想です。
 生存権の保障というのは「フツー」の人の支持を「自然に」集められる政策ではない。貧困とは縁のない(と思っている)人々は、国家財政は、救貧施策ではなく、もっと文化的なものや、景気を刺激する政策に使ってほしい、と考えるかもしれない。また、勤労の才能に恵まれた「フツー」の人から見れば、生活保護受給の中には、「怠けている」ように見える人もいるだろう。
 しかし、個人の尊重という規範を貫くためには、生存権保障という「不自然」きわまる制度の意義を「フツー」の人々に十分に理解できるように説明できなくてはならない。
 憲法25条1項は、制度の現状を調査し、そこで何が行われているかに想像力を働かせ、改善のための想像力を発揮することを求めている。
 「最低限度」の生活に何が必要かを真剣に検討し、社会住宅の提供やコミュニティー形成への援助の重要性を憲法教育の現場で教えられていたら、政治や行政の現場も今とは違う状況になっていたかもしれない。
 ちょっと冷静に考えてほしい。休日に政治的行為をする人は、仕事でも政治的に偏ったことをするはずだという信念は、不合理な偏見にすぎない。私も、全く同感です。
憲法9条は、日本国の非武装を要求しているのではなく、日本国が非武装を選択できる世界の創造を要求しているということである。
 日本が非武装を選択できる世界の創造は、終わりがないと思えるほど途方もない仕事かもしれない。しかし、これは世代をこえて受け継がれなければならない仕事である。
 まだ30代前半の若きケンポー学者の指摘には本当に鋭いものがありました。
 多くの人に、とりわけ若い人に読んでほしい憲法の本です。
(2013年7月刊。780円+税)

弁護士の仕事術Ⅱ

カテゴリー:司法

著者  藤井 篤 、 出版  日本加除出版
弁護士が仕事をするにあたって必須のことが縦横無尽に語り尽くされています。著者よりは少しだけ先輩になる私にも大変役に立つ内容です。もちろん、若手・中堅弁護士には大いに活用・実践してほしいものばかりです。
 忘れないうちに書いておきますと、私が早速とりいれようと思ったのは、交渉事件について、当初の委任契約書において、数ヶ月という期限を切っておくべきだという指摘です。これは本当にそうしたらよかったと思いました。
 ヤミ金からの取り立て防止の案件、また消滅時効を主張する案件では、せいぜい1~2ヶ月がヤマで、あとはまず動きがありません。だから、3~6ヶ月で動きがなかったら、事件は終了したものとみなすという条項を付しておいたら、安心して既済事件として処理することができるのです。これまで、私はその条項がないばかりに、1年も2年もたって、みなし既済としていました。
 この本は、東京二弁のフロンティア基金法律事務所の初代所長を8年もつとめた著者による、若手弁護士育成の経験をふまえたマニュアルを集大成したものですから、とにかく、明日と言わず今日からすぐ使える実践的な内容です。
 「正義を分からせたい」と主張する請求は、よくない。
 「とれたお金は全部、弁護士にやってよい。全額寄付する」という言葉を、額面どおりに受けとってはいけない。
 本当に、そのとおりです。私も、何度、このようなセリフを聞かされたことでしょうか・・・。そんなことを言う人は、決して信用してはいけないことを何度も身にしみました。
自分がやれそうもなかったら、他の弁護士を紹介する。
そうなんです。私は、出張仕事は受けないことにしています。その地の弁護士を紹介するのです。同じように、私の活動する地域で起きた事件でしたら、全国各地の弁護士から紹介してもらっています。このようにして、弁護士からの紹介が3割あるという一般統計もあるくらいです。
必要もないのに依頼者の家や会社に出かけない。仕事の話は法律事務所でするのが基本。依頼者に弁護士を自宅や会社に呼びつけて何かやってもらう。この「悪習」を作らないのは大切なこと。対等の関係をあくまで維持する必要があります。安くみられてはいけません。
 また、依頼者を電話で説得しようとするのもいけない。説得は、直接、面談してすべきもの。そして、それも1時間以内にとどめる。そのときに説得できなければ、しばらくあいだをあけて、次回に続行する。
 裁判の報告はA4版ペーパーで1枚くらいで簡潔にする。電話ですまさない方がいい。私は、メールやFAXは使いません。なぜなら、郵便で依頼者に届くまでに、そして、その返事が来るまでに別の仕事ができるからです。メールやFAXだと、あまりに早く応答が来てしまい、他の仕事にとりかかれません。なんでも早ければいいというものではありません。時間を考えた優先順位というものがあるのです。
 うんうん、そうだよね・・・と、何度もうなずきながら読みすすめていきました。
 7冊シリーズの2冊目の本です。本になる前から、このマニュアルの存在を知っていました。多くの弁護士の共有財産にしたい内容が満載です。
(2013年7月刊。2200円+税)

原発と裁判官

カテゴリー:司法

著者  磯村健太郎・山口栄二 、 出版  朝日新聞出版
3.11原発事故について、東京電力の社長連中は不起訴で終わりそうです。とんでもないことではないでしょうか。東電の社長が未必の故意による殺人、少なくとも業務上過失致死傷で起訴されないというのでは、日本の検察庁も口ほどのこともない、大した能力のある組織ではないということです。2年以上たって、やおら不起訴を決めるという手法にも腹が立ちます。もう、みんな忘れているだろうということです。だって、今では原発再稼働どころか、日本の原発を海外へ輸出しようというのですからね。開いた口がふさがらないとはこのことです。
 原発輸出を口にしている人には、家族ともども福島に、原発のすぐ近くに移住する気持ちがあるのですか、と問いただしたいと思います。今でも15万人もの人々が住み慣れた故郷に戻れず、仮設住宅に住まざるをえない現実をどう考えているのでしょうか・・・。
 原発の危険さは、3.11の前には裁判所ではほとんど無視されてしまいました。でも、危ないと言った裁判所も二つだけはあったのですね。偉いものです。先見の明がありました。でも、そんな判決を書くのには、よほどの勇気が必要だったようです。
 そして、原発の危険性を否定した裁判官は反省の弁を語ります。
 私が原発訴訟を担当したとき、全電源の喪失はまったく頭になかった。裁判官時代の私には、原発への関心や認識に甘さがあったかと思う。国の審査指針は専門家が集まってつくったのだから、司法としては、見逃すことのできない誤りがない限り、行政庁の判断を尊重する。
 私が裁判長をしていたとき、なんで住民はそんなことを恐れているんだ、気にするのはおかしいだろうと思っていた。
 原発事故ではヒューマンエラーが重なっていることが分かった。そんなことが起こるとは思っていなかった。
 原発は、テロの攻撃対象にもなりうる。
 東電の従業員の誠実さを信頼してよいと思った。しかし、会社ぐるみの不正が次々と明らかになった。原発のデータ隠しが露見したのを見て、実態はこんなにだめな組織だったのかと驚いた。
国家の意思にそぐわない判決を出すと、自分の処遇にどういうかたちで返ってくるだろうか。そのように考えるのは組織人として自然なこと。だから、無難な結論ですませておいたほうがいいかな、そう思うことが十分ありうる。
 行政を負かせる判決は、ある程度のプレッシャーになる。
 裁判官のホンネを知ることのできる本です。
(2013年3月刊。1300円+税)

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