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カテゴリー: 司法

企業法務弁護士入門

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 松尾 剛行 、 出版 有斐閣
 今や企業法務が若い人に圧倒的な人気です。先日聞いた話では、東大ロースクール生は、40人のクラスで35人が企業法務を志望していて、五大事務所に内定しているそうです。もちろん私は企業法務を否定しませんし、日本社会に大いに必要だと考えています。それでも、企業法務以外に選択肢がないかのような昨今の風潮は残念でなりません。弁護士の仕事は地域的にも、仕事のうえでも、もっと多様なんです。それぞれ自分の人生をかけていきていて、弁護士をしている。そのことを法曹をこれから目ざそうとしている若い人に知ってほしいと切に願っています。
 そんな私が、なぜこの本を読んだのかというと、最近の企業法務の業務の実情を知りたかったからです。私の要望にしっかりこたえてくれる内容の本でした。
 企業法務弁護士になりたいという学生のもっているイメージは…。
 〇キラキラした仕事ができる
 〇一般民事を扱うより、仕事が楽そう
 〇感情論の比重の強い一般民事より合理的でロジックにもとづいて仕事ができる
 〇裁判所に行かず事務所で仕事ができる
 〇親族相続法や刑事法は扱わない
 これについて、企業法務を扱うべきベテラン弁護士である著者は誤解と過大評価があるとしています。
 キラキラ…仕事の実際は地味。
 楽な仕事…大きなプレッシャーを受ける
 合理的・ロジック…法務担当者の悩みを聞き、精神的なケアも必要
 事務所で仕事…面談しての仕事は欠かせない
 親族・相続、刑事を扱わない…社長の家族関係は扱うし、企業をめぐる犯罪を扱えなかったら困る
 著者の以上の回答は、いちいちうなづけるものばかりです。
 では、企業法務の特徴は何か…法務部門が行うリスク管理の過程に貢献し、組織としての意思決定に支援するところだと著者は考えている。
 なるほど、そうなのでしょう。
 企業法務であろうとなかろうと、弁護士実務は、正解のない問題に取り組むという特徴がある。誤りはあっても、唯一の正解というのはないのです。
 新人弁護士に欠けているものは、失敗の経験。なるほど、これは言いえて妙です。まったくそのとおりです。私も数々の恥ずかしい失敗を重ねてきました。
 弁護士業務ではバランスが重要、これまた、そのとおりです。仕事をすすめるうえでのバランス、利益衡量のバランス、仕事と家庭のバランス。いろんな面のバランスをうまくとっていかないと決して長続きしない。どこかに正解があるということはないので、自分なりに精一杯考え、必要なコミュニケーションをとり、周囲の人を巻き込んで正解をつくり上げていく。
 企業法務の弁護士であっても、私のような地方の一般民事・家事を扱う弁護士であっても、目の前には生身(なまみ)の人間がいることを忘れずに取り組むのです。
 弁護士にとって重要なものの一つに、人当たりの良いことがある。いつも明るく前向きにアドバイスすることで、法務担当者にとって相談したい弁護士になるべき。
 これは法務担当者には限りません。相談者が帰るときには明るい、晴れやかな顔をしているのが理想です。
 たとえば、「贈賄(ぞうわい)のリスクがあるから、やめなさい」と回答して終わってしまったら、法務担当者は次から相談に来ない。では、どうしたらリスクを回避できるか、一緒に悩みを共有して、打開策を探っていくべきなのです。
企業法務と刑事弁護は縁がないように見えるが、実はそうではないと著者は強調しています。著者自身が刑事弁護人として現役とのこと。私も、弁護士である限り、刑事弁護人の仕事は続けるつもりです。そのほとんどが国選弁護人ですけれど、やむをえません。
 従業員の横領、性犯罪そして取締役の背任・横領など、企業内外をめぐる刑事犯罪の発生は必至です。そのとき、私は刑事弁護はやってない、分からないという対処はもちろんありえます。しかし、企業にからむ捜査対応では刑事弁護人の経験を生かすことができるものです。もちろん、本格的な刑事弁護はその道のプロに依頼したほうがいいことは多いでしょうが、それでも刑事弁護人の経験の有無は大きな意味をもってくると私も思うのです。
 さすがの内容がぎっしり詰まっている本でした。
 最後にもう一回。弁護士の仕事は企業法務だけではありません。若い人たちに、地方で困っている人はたくさんいますし、いろんな新しい分野にぜひ進出していって開拓していってほしいと呼びかけたいと考えています。
(2023年11月刊。2300円+税)

弁護士の日々記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 前田 豊 、 出版 石風社
 福岡の弁護士である著者が20年前に弁護士会の役職にあったときの随想、そして最近の世相に思うことをまとめた本です。
 私は、白寿(99歳)を祝った著者の父親の被爆体験を初めて識りました。長崎で19歳のとき被爆したのです。三菱造船稲佐製材工場で働いていました。
 突然、空気中が溶接ガスの火花の色みたいになって爆風に飛ばされた。もう、これで死ぬのだと思った。何にも分からず、十数分くらいたったと思う。
 三菱長崎製鋼所のあたりでは、市民や学徒動員の負傷者でいっぱいだった。まさに、この世の地獄だった。大橋から下の浦上川を見ると、そこも傷を負った人たちでいっぱいだった。死体もごろごろしていた。
 救援列車に乗った。いったん乗って、降りて、戻ってくるのを待つと、超満員で汽車が戻ってきた。重傷者は、血止めの方法を教えれくれとか、殺してくれとか、苦しんでいる人が多くいた。車内はまさに地獄状態だった。やっとこさで乗り、列車の連結のところに立ちずくめで諫早駅まで行った。
 焼けたふんどしに裸足(はだし)姿で駅から2キロ歩いて、家に着いた。畳に腹ばいになったあとは、何にも分からない。翌日、体全体が痛む。頭の毛が燃えた悪いにおいがする。昼間はハエがたかる。夜は蚊が刺す。弟たちがウチワであおいでくれる。火傷(ヤケド)にはイノシシや穴熊の油を父が塗ってくれる。背が自分の死を待っている状態で過ごす。8ヶ月後、ようやく歩けるようになった。
そんな状態にあったのに、99歳まで長生きしているとは、まことに人生とは分からないものです。
 さて、随想のほうは20年前の司法をめぐる話題が豊富に提供されています。読んで、そうか20年前というと、裁判員裁判が始まったころなんだなと自覚させられました。
 そして、法テラスもこのころ(2006年10月)スタートしたのでした。いろいろ批判もあるのですが、それまでの法律扶助制度に比べたら、格段の前進であることは間違いありません。
 現在、天神中央公園にある貴賓(きひん)館に福岡控訴院(福岡高等裁判所の前身)があったことを初めて知りました。その後、赤坂近くの城内に移り、今は六本松にあります。
 著者から贈呈していただきました。ありがとうございます。
 それにしても、今の仙人姿は、どうなんでしょう…。相談に来た人に近寄りがたいという印象を与えていませんか。それとも奥様のお好みによるものなのでしょうか。
(2025年2月刊。1760円)

刑務所ごはん

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 汪楠、ほんにかえるプロジェクト、 出版 K&Bパブリッシャーズ
 私は福岡刑務所の食事を2回、大牟田拘置支所の食事も2回、食べたことがあります。どちらも出来たてのもので、大変美味しくいただきました。前者は弁護士会としての見学。後者は挨拶に行ったら、偶々、支所長が味見するという時間でしたので、支所長の分を少し分けてもらったのです。
 福岡刑務所では、刑務官から、受刑者の楽しみは食べることくらいですので、乏しい食材費の制約のなか一生けん命に美味しいものをつくるように努力していますとの説明があり、納得したものでした。食材費の安さを多人数でなんとかカバーしているとのことでした。いずれも20年以上も前の話です。
 ところが、今はまったく事情が異なるようです。先日、久しぶりに被告人国選を受任して拘置所で面会したとき、食事の話になりました。すると、なんと今はコンビニ弁当になっていて、しかも2種類を繰り返すだけだというのです。収容者が減ったことからのようですが、2種類しかないというのでは、本当に辛いと思います。留置場も同じようです。コンビニ弁当が繰り返されると聞きました。
 著者は、受刑者の更生を支援する目的のボランティア団体であり、個人のほうの汪楠(わんなん)は中国残留孤児2世で、13年もの受刑生活のあと、出所して2015年に設立した団体。会員は全国30ヶ所の刑務所にいる200人の受刑者で、うち女性は4人のみ。無期懲役の人が多い。
 この本によると、「犯罪白書」に、受刑者1人あたりの食費は543.21円(主食97.09円、副食446.12円)。10年前(2013年)と比べると10.38円の増額(2%増)とのこと。食材が20%以上も値上がりしているので、食事の質の低下を招いている。また、受刑者の高齢化を反映して、減塩化がすすんでいるそうです。
 20年前の食事は味付けもしっかりしていて、量も多く、料理のバリエーションも豊富で、満足感が味わえた。しかし、今ではそれが失われた。今では生の野菜や果物を食べることがない。夕食は夕方5時前に食べ、その後の夜は長く、空腹感に襲われる。
 主食は「麦(ばく)しゃり」と呼ばれる。米7麦3の割合のもの。米といっても保存期間の過ぎた備蓄米。受刑者に好評なのはカレー。味があるから。ただし、肉の塊(かたまり)が出てくることはなく、小さな肉片のみ。昼に麺が出てくるけど、のびていて、汁も冷めている。アツアツのラーメンを、フーフーしながら食べたいと受刑者は願っている。
 刑務所の食事は健康的で、糖尿病になる心配はない。クリスマスや大みそか、そして正月は特別な料理が出てくる。市販のお菓子も添えられる。受刑者にとって、お菓子が食べられるのは、とてもうれしいこと。
更生に必要なのは、社会との和解。反省は一人でも出来るが、更生は一人では出来ない。まったくそのとおりだと思います。人間らしく扱われない限り、その人は社会に恨みを抱いたままでしょう。
会員から寄せられた声をもとにして食事の再現写真があり、イメージを具体的につかむことができました。そうか、刑務所の食事は、まずくなってしまったのか…。世の中は変わった(悪いほうに…)と思いました。
(2024年11月刊。1980円)

武器としての国際人権

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 藤田 早苗 、 出版 集英社新書
 2月7日(金)夜、福岡県弁護士会館で著者の講演会があり、その会場で買い求めました。大変刺激的な内容で、とても勉強になりました。
 イギリスのスーパーではレジ係は座って客と応対しているのに、日本では依然として立ったまま。スーパーのレジ係の賃金(時給)は、イギリスでは2500円なのに、日本では1000円。すぐにでも1500円に引き上げるべきです。
インバウンドが急増しているのは、日本が「安い国」になっているから。
「日本での旅行や買い物が安くなったからインバウンドが急増している。だから、外国人観光客の急増は、本当は日本にとって恥ずかしいことだし、悲しいこと」(野口悠紀雄、一橋大学名誉教授)
 イギリスでは外食は高い。でも、食材自体は日本と変わらないくらい安い。人の手が加わると高くなる。つまり、労働の対価である賃金・報酬がきちんと守られている。
イギリスを含めてヨーロッパでは賃上げを求めるストライキが頻発している。それによって賃上げが実現している。イギリスではストライキについて、不便だけど、大事な仕事をしている人だから、もっときちんと支払われるべきだと考える人が一般的。ところが、日本では「迷惑」「わがまま」だといってストライキを毛嫌いし、禁忌(タブー)になっている。それでは賃上げすることは出来ない。
 日本の賃金があまりに低いため、優秀な人材は海外に仕事を求めて出ていく(頭脳流出)。そして、外国人労働者も日本を選ばなくなっている。
 個人的な怒りではなく、公的な怒りを表明するのは大切。不条理なことに対する「正当な怒り」のないところに社会変革はない。
 今の日本のメディアはだらしがないと、内心でつぶやくだけではダメ。「編集局長さま」と宛名を書いてメディアに送ることから始めよう。
 日本の学校の人権教育は、他人への「思いやり」が人権だと錯覚させている。しかし、「思いやり」と「人権とは全然、別のもの。
司法試験を受けるとき、国際公法を選択する人は少ない。なので、弁護士も裁判官も世界人権宣言を学んでいない。人権の実現には、政府が義務を遂行する必要がある。
ヨーロッパの子どもたちは、義務教育の中で自分たちの権利について学んでいる。そのため、若者がデモ行進をして権利を主張することは当たりまえのこと。日本では、そうはなっていない。
 女性に参政権が認められたのは1918年のこと。一定の条件を満たす30歳以上の女性に限定。それにしても、既に100年以上たっているのに、日本の国会議員の女性比率は2割でしかない。
日本軍の従軍慰安婦について、かつては教科書にきちんと紹介されて問題だとされていたのに、今では教科書から消え去ってしまっている。
 タイトルにあるように、多くの弁護士が国際人権宣言を武器としてつかいこなせるようになることが、まずは私たちの当面する課題だと痛感しました。
(2024年7月刊。1100円)

獄中日記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 河井 克行 、 出版 飛鳥新社
 日本史上初めて、法務大臣が刑務所に入って3年あまりを刑務所の中で過ごしました。
 その体験記というので、早速、読んでみました。この本のもとになったのは右翼の月刊誌に連載されていたものです。なので、今なお手放しの安倍礼賛が満載で、嫌になってしまいます。日本社会の底辺の現実に目を向けようとしない姿勢は刑務所に入っても変わらないようです。残念です。刑務所に入っている人々からじっくり話を聞く機会があったら少しは変わったと思いますが、刑務所のなかでは収容所同士の「交談」(雑談)は一切禁止されているのです。
 たとえば、昼、工場内で作業中にトイレに行きたくなったとき、どうしたらよいか…。右手を耳にくっつけてまっすぐに上げ、「担当前、願います」と言って移動の許可を得てから刑務官の前に行き、脱帽、礼をして自分の番号と氏名(苗字)を言ったあと「用便に行っていいですか?」と訊く。全身を触って検査を受けたあと、「移動願います」と言って、「よし」と言われてから歩き出す。途中を省略し、「用便終わりました」と言うと身体検査を受け、「移動願います」と発して「よし」と言われて自席に戻る。トイレに行って帰るまで、17回も挙手し、大声で許可を求めなければいけない。
 同じ工場内の収容者と仕事上に必要な会話をするにしても手を上げて刑務官から「河井、用件は?」と声がかかるまで待ち、「○○さんと交談願います」と言う。相手も同じく、「よし」と言われないと会話は始められない。そこまでの必要があるんでしょうかね…。
 著者が従事していたのは図書計算工場での図書係と報奨金の計算係。
平成20年に出所した受刑者のうち、5年以内に再び塀の中に入った人(再犯率)は4割近い。平成29年も37.2%と、ほとんど減っていない。10年以内の再犯率だと平成20年には40%なので、半数近い。なぜか…。懲らしめただけで反省する人はいない。人間らしく、尊厳をもって扱われたときに初めて人は更生しようという意欲を抱く。
 著者は、刑務官の処遇改善も訴えていますが、まったく同感です。受刑者いじめという、あってはならないことが横行したのは、やはり刑務官の待遇が劣悪なことも大いに影響していると思います。
著者は2021年10月21日から、2023年11月29日まで、3年2ヶ月間、「塀の中」で生活しました。判決では未決勾留日数408日間が、1日も刑期に算入させていません。懲役3年の実刑で、控訴したものの取り下げ、服役したのです。
 入ったのは喜連川(きつれがわ)社会復帰促進センターという名前の刑務所。ここは民間委託もしていたようですが、今は国営直轄に戻っています。私の知人(大学同期)の元弁護士(故人)も、ここにしばらく入っていました。
著者は1億5000万円の使途について、あくまで広報・宣伝費だと強弁し、選挙運動の買収費ではないと主張しつつ、被買収側が処罰されていないのは不公平だ、だから検察の起訴は公訴権の乱用だと主張しています。
 福岡で諌山博弁護士(故人)と一緒に私も公訴権乱用だと裁判で主張したことがあります。演説会告知ビラを柳川市内の商店街に配布したのが戸別訪問にあたるとして起訴されたのでした(松石事件)。一審の柳川支部(平湯真人裁判官、故人)は公選法こそ憲法違反だとして無罪判決を出してくれました。
 国会議員しかも法務大臣の経験者が刑務所に入って、その問題点を具体的に指摘することによって、少しでも刑務所内の処遇が人道的見地から改善されることを私も願っています。
(2024年10月刊。1727円+税)

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