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カテゴリー: 司法

企業内法務の交渉術

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  北島 敦之 、 出版  中央経済社
 弁護士にとって交渉をうまくすすめるのは大切な仕事のひとつです。でも、これがなかなか難しいのです。経験年数としては超ベテランに入るはずの私も、相手方と交渉するときは、とても緊張します。
 この本は、社内で信頼される法務部員になるためにとして書かれていますので、弁護士向けではありませんが、弁護士が読んでも大変役に立つ本として、少し紹介します。
 ビジネスにおける交渉は、まずビジネスとは何かを理解する必要がある。ビジネスは戦争ではなく、最後にはちゃんと仲直りができる「ケンカ」のようなもの。ビジネスは、信頼をベースにした合意によって形成されていくのであり、交渉は当事者間の主張を出しあうことで、お互いに合意できる着地点を見出すためのプロセスだ。
 交渉には陣取り合戦の意味もある。最終的にこちらの欲しい条件が得られたらよし、相手に何も残らないような交渉は無理がある。それは、時間がかかり、感情的なしこりが残って、よろしくない。
そうなんですよね。ゼロか100か、ではない、感情的なしこりの残らないほうがいいのです。
この交渉は誰のためにするのか、交渉相手方は誰なのかを、しっかり認識しておくこと。
 合意すべき相手側の心が、かたくなになるような雰囲気に追い込むのは得策ではない。
交渉する前に、きちんとしたシナリオをつくる。実際にはシナリオどおりに事はすすまないことは多い。それでも、シナリオを書きながら、交渉のシミュレーションをしている感覚になって、想定外の事態が起きても柔軟に対応できる。作成したシナリオは、交渉チーム全員で共有しておく。
交渉するときには、相手方の了解を得て録音する。ただし、無断で録音されている可能性があることを常に念頭においておく。
基本的に、相手側にはできるだけ話をさせる。これが交渉をスムーズにすすめるために欠かせない。忍耐を必要とするが、相手側が何を考え、何について心配し、どのように交渉を持ってきたいと考えているのかを理解することができる。そこからビジネスの合意形成に向けての交渉は始まる。
 当方に契約不履行の事実があることが明らかになったときには、交渉に入る前にきちんと謝罪することが欠かせない。文書を作成するときには、その内容・表現ともに、万一公開されたとしても非難の対象とならないよう、関係部署の確認を得ておくなど、慎重に対応する。
 弁護士に相談するときには、もし訴訟になったら、裁判所はどう判断するのか知見をもっている人に相談する。それをもっていない弁護士に相談しても意味がない。
交渉を上手にすすめるためには次の四つが大切。
 ①ごまかさない。②相手をミスリードしない。③交渉を楽しむ。④相手も楽しませる。
 交渉は人間が行うものであり、人間の心の動き、気持ちといったものについての理解を深めるほうが交渉を楽しむことができる。交渉力をあげることは、世間の出来事や事象に興味をもち、人に対する愛情や信頼を醸成していくこと尽きる。
 長く総合商社につとめ、法務部で活動してきた体験をふまえていますので、説得力があります。そして、文章が平易で読みやすいのです。一気に読めました。交渉力をつけたいと願う弁護士にとって、大いに読まれるべき本です。
(2017年1月刊。2500円+税)

気骨、ある刑事裁判官の足跡

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 石松 竹雄 、 出版  日本評論社
著者は裁判官懇話会の世話人の人でした。裁判官懇話会は宮本康昭さん(13期)の再任拒否があった昭和46年(1971年)に発足しました。私が司法試験を受けて合格した年のことです。そして、平成18年の20回懇話会で幕を閉じています。
懇話会の内容は判例時報に詳しく紹介されていますし、本にもなっています。
多いときには、現職の裁判官が全国から300人も参加していましたが、20回目には、42人の参加しかありませんでした。
なぜ、懇話会が衰退してしまったのか、著者はいくつか理由をあげています。若い裁判官を獲得できなかったし、意識的な勧誘を怠ったことによるとしています。
裁判官志望の修習生や判事補に対して徹底的な骨抜き教育が行われた。分からないときには、先輩裁判官や裁判長の言うとおりにしておけ、判例があれば何も考えずにそれに従っておけ、令状で判断に困ったら検察官の主張に従っておけば間違いはない・・・。
そして、思想・信条を理由としか考えられない新任判事補の任官拒否が相次いだ。
裁判官懇話会が分科会に重点を置く、いわゆる実務路線をとり、ほとんど司法当局に抵抗らしい抵抗をすることをしなかったのは失敗だった。
裁判官は、真面目に事件だけをやっていればよいという風潮が裁判所を支配してしまった。
裁判官、裁判の独立というのは、結局、裁判官個々人が孤立していたのでは、決して守れるものではない。ドイツなど、ヨーロッパでは、裁判官連盟のような、裁判官の組合的な組織がある。日本に、そのような組織がないのは問題だ・・・。
現実の裁判官のなかには、「裁判官・検察官同一体の原則」とでもいうような検察官との一体感をもっている人がいた。
いえ、これは今でも少なからずあるのではないでしょうか・・・。私はそう考えています。
著者は裁判官を退官して弁護士になり、大阪弁護士会に登録しています。そして、大阪弁護士会で九条の会の代表呼びかけ人にもなっています。
著者は学徒動員とか兵役を経験したことから、平和運動にも関心をもち、行動しているのです。これまた、すごいことですね。
気骨のある裁判官が本当に少なくなったと思います。やる気の感じられない、行政追随しかしない裁判官があまりに増えてしまいました。もっと、自分の足で大地に立って、司法当局なにするものぞと声を大いにして呼んでほしいものです。
気骨ある裁判官の勇気ある歩みに接して、我が身を握り返り、思わず襟を正してしまいました。一読を強くおすすめします。
(2016年9月刊。1400円+税)

沈黙法廷

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 佐々木 譲、 出版  新潮社
老年男性の不審死が相次いで発生します。疑われたのはフリーの家事代行業の女性。現代日本における一人暮らしの男性に忍びよる危険が背景にあります。
金持ちの中高年男性をターゲットとする危険な商法があるのです。その名簿が売られて
います。高額な商品を買った人のリスト。バリアフリーのリフォームをした人のリスト。訪問介護を受けている一人暮らしの人のリスト・・・。
いろんなリストが売買されている世の中です。そして、暮らしを成り立たせるのも難しい女性がたくさんいます。資格がなくてもやれる仕事として家事代行業というのがあるのですね・・・。
ひところ便利屋が流行していましたが、最近はあまり目立たなくなりました。
警察小説の第一人者である著者が、弁護士の監修も得て、迫力ある法廷場面を描いています。まるで実況中継していると思えるほど、真に迫っています。
状況証拠だけで被告人を有罪とできるのか・・・。
検察と弁護側の激しい攻防戦が繰り広げられるのですが、自分の過去を知られたくない被告人の女性は、突然、証言台で「答えたくありません」を連発しはじめるのです。
いったい、なぜ。どうして、そんな自分に不利な行動をするのか・・・。
世の中には、白か黒でスパッと割り切れないことがたくさんあるのですよね。そして、本当はクロではないかと思いつつ、シロとなったり、逆に明らかにシロなのに灰色で有罪となったり・・・。不条理、不合理にみちみちた世の中です。
550頁をこす大作です。休日の半日で、一気に読了しました。
(2016年11月刊。2100円+税)

なぜ弁護士は訴えられるのか

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 升田 純 、 出版  民事法研究会
 弁護士が元依頼者から訴えられることが珍しくはないという時代になりました。アメリカでは弁護士過誤を専門とする弁護士までいると聞いたことがあります。
 医療問題を専門に扱う弁護士団体(研究会)が日本でも活動していますが、アメリカと同じような状況になるのでしょうか・・・。
 実は、私も元依頼者から訴えられた経験があります。代理人として誠心誠意やったつもりでも、結果が悪ければ、依頼した弁護士に八つ当たりしたくなるのでしょう。ちゃんと期日前に準備書面を作成して裁判所に提出し、証人尋問の打合もきちんとし、期日の報告を欠かさなくても、結果が出ないと責任を取れ、払った着手金を返せと迫られるのです。もちろん私は弁護士過誤保険に加入していますから、過誤があったとなれば、保険の適用を受けて保険会社に賠償金を代わりに支払ってもらいます。でも、結果が悪かったから着手金を戻せと言われたら、たまりません。
 その事件の反省点は、そもそも受任すべきではなかったし、相性が悪いと思った時点で、途中でさっさと辞任しておくべきだったということです、なんとなくズルズルと判決までいったのが失敗でした。
 この本は、弁護士が訴えられた218の裁判例を分類し、判決の意義と指針を短くコメントしています。といっても680頁もの大作です。
 驚くべきことに、裁判官が事件担当の弁護士の主張について名誉棄損の不法行為が成立するとされた判決があるのです(控訴審は否定しました)。
 「本件訴訟は裁判所の適法な訴訟活動に対して因縁をつけて金をせびる趣旨であり、荒れる法廷と称する現象が頻発した時代にもあまり例がないような新手の法廷戦術である」その裁判官は、このように書いたのでした。目を覆いたくなるほどのひどさです。
 この本には、「中には社会常識を逸脱した言動、根拠を欠く言動、粗暴とも思われる言動をする裁判官も見られるのも現実である」としています。
 たしかに、私も30年ほど前には、よく見聞しました。私がこの10年来、困るのは、枝葉にとられ、形式ばかり細かくて、大局観に乏しい裁判官、強いものや権力に歯向かう勇気のない裁判官、やる気の感じられない投げやり姿勢の裁判官が目立つことです。
弁護士は、どのような場合に法的責任があるとされるのか、多くの判例を集めて分析している貴重な労作です。
(2016年11月刊。6900円+税)

弁護士の経験学

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 髙中正彦・山下善久・太田秀哉ほか 、 出版  ぎょうせい
困難な時代をどう生き抜くか、失敗続きの人生、それでも何とかなる!
オビのフレーズです。本のサブタイトルは、「事件処理・事務所運営・人生設計の実践知」となっています。現役として活動している弁護士全般にとって大変役に立つ内容となっています。
私は、この本に書かれていることの大半について、まったく同感だと思いながら、福岡までの帰りの飛行機のなかで一気に読みあげました。
福岡県弁護士会では、このところ懲戒処分を受ける弁護士が相次いでいます。先日は、福岡県弁護士会自体が監査責任を問われた裁判の判決が出ました。幸いにも弁護士会の監督責任は認められませんでしたが、これをギリギリ詰めていくと、あまりに統制が強すぎて息苦しくなってきます。すると、戦前のように行政の監督下においたらいいとか、強制加入をやめてアメリカのように自由化せよということになりかねません。それは、いずれも権力をもつ人が大喜びする方向です。
自由業としての弁護士と、権力を抑制・監視する存在としての弁護士と、弁護士は独立した存在であり続ける必要と意義があると私は確信しています。そして、強制加入団体としての弁護士会は、その制度的保障なのだと思います。
それはともかくとして、懲戒処分を受けた弁護士には共通するところがあると本書は指摘しています。
虚栄心が強い人、見栄っ張りの人。性格的に弱いため、自制が利かない人が多い。
弁護士の仲間内でも孤立していると危険。IQの高さは関係ない。
弁護士の依頼層は、その弁護士の人格の投影である。
弁護士の誰もが転落するリスクを負っている。それは、弁護士業務が楽しいことばかりではないからだ。苦しいときに独りぼっち。そんなとき、果たしてとどまることが出来るのか。自分は絶対に大丈夫だといっている人はリスクが大きい。
ハッピーな終末を迎えるためには投資も必要。もっとも大切な投資は、自己への投資、とりわけ健康に対する投資である。 
収入を増やし、支出を減らすこと。まとまった大きな収入があったとき、ダメな人は豪遊してしまう。そうではなくて、半分は定期預金にしておく工夫がいる。
弁護士がうつ病にならないためには、依頼者とともに泣かないこと。
依頼者と一歩でも距離を置いていてこそ、冷静な判断が出来ると私は考えています。岡目八目です。
弁護士に対する苦情のなかには、うつ病だとか脳出血の後遺症があるということが少なくない。これは悲しい現実です。
法律事務所をわたり歩く弁護士には、能力のない人、協調性のない人が多い。
この本の前半は、弁護士業務を適正かつ円滑にすすめていくうえで大変参考になることが盛り沢山です。
反対尋問は、弁護士の仕事の花だ。反対尋問は意地悪であることが求められる。わざと順番を逆転させ、予想の裏をかくという工夫もする。
証人尋問のリハーサルのとき、答えまで覚え込ませるのはよくない。それでは学芸会の台本のようになって、緊張感が希薄になってしまう。答えを覚えておこうという意識が先行すると、ちょっとした反対尋問でもボロボロになる危険がある。
クレーマーには、毅然とした対応することが原則。できる限り話は聞く。しかし、それで満足することはない。だから、きちんと当方の見解を述べて対応を打ち切ること。長く話を聞けばよいというものではない。話を聞くのは、喫茶店など、外部の開けた場所が望ましい。密室の面談室で1対1で会うの危険だ。
嘘を言う人。自分が絶対に正しいと言い張る人。ずるい人。自分に都合のいいことしか話さない人。時間にルーズな人。頼んだ書類をもってこない人。話し方がぞんざいな人。自慢話を長々とする人。みな要注意だ。
とても実践的な本です。ご一読をおすすめします。
(2016年12月刊。3000円+税)

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