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カテゴリー: 司法

若手法律家のため法律相談入門

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中村 真 、 出版  学陽書房
法律相談でいちばんむずかしいのは市役所の無料相談の対応です。なにしろ、種々雑多、何が飛び出すか予測がつきません。そして、時間制限ありで、待ったなしなのです。下手に間違ったことを答えて、弁護士も自治体も訴えられる危険だってあります。
この本は、マンガを描ける神戸の弁護士による入門書ですので、至るところにユーモアたっぷりのマンガによる解説がついていて、とても読みやすくなっています。
相談者との信頼関係がまだない法律相談の場では、求められても手書きの文章の交付は控えるべき。一人歩きしてしまう危険がある。
もちろん、一人歩きの危険がないと判断したら、メモを渡してもいいと私は思います。私は、たまにメモを書いて渡すことがあります。
そして、相談者があまりにも切迫した危険を感じていないときには、危機感をもってもらう必要がある。そうなんです。たまに、そんな人がいます。
法律相談を受けるとき、同席者がいるときには、氏名と本人との関係をたずねること。同席者が身分を明らかにしようとしないときには要注意。相談を受けるのをやめたほうがいいときもある。
たしかに、うさんくさい人が同席しているときには警戒すべきです。
いつも聴き手の側が話の主導権(イニシアティヴ)をしっかりと握っておく。
ときには、相談者の話をやんわりとさえぎることも必要。
不信感を抱かせずに、話をコントロールするためには、言葉だけでなく、表情や身振りでも共感していることを示す。これは大切なことですよね。
大切なことは、本当に共感しているかどうかではなく、共感しているように見えるかどうか。弁護士は、相談者が当面、どのように対応すればよいのかを、具体的に示す必要がある。
相談者から尋ねられていないことでも、説明してやったほうがよい場合もある。
この本には見通しが厳しい事件を受任するときには確認書をとりかわすべきだとして、その見本が紹介されています。たしかに、私も何回となく、そのような事件を受任しましたが、書面をとりかわすという発想まではありませんでした。
受任を拒否するときのヒナ形も紹介されています。そして、「見合わせます」とか「お断りさせていただきたい」などと、もって回った言い方ではなく、「断ることとした」と、端的かつ明確に打ち出すべきだとしています。なるほど、そうなんですよね。
不当な事件と思われるときには、依頼が不当であることを端的に理由にあげて断るべきで、それ以外の事情を理由にしない。
事件の着手を早くするのは、気分の乗らない事件に自分を駆り立てやすいからでもある。受任して、着手金ももらっているのに、遅くなると、時間がたってしまうと、それが難しい。
この本では契約書を依頼者と取りかわすのをマンガのなかで「巻く」と言っています。私自身は使いませんが、若手弁護士にも使う人は多いようです。私には、どうにもなじめない言葉です。
(2016年5月刊。2400円+税)

進駐軍が街にやって来た

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  堤 淳一 、 出版  三省堂書店
 私の敬愛する東京の先輩弁護士が書いた本です。日弁連の弁護士業務委員会でご一緒させていただきました。
 年に2回、盆暮れに事務所報を送っていただきますが、その歴史読み物は秀逸です。ともかく半端な掘り下げ方ではありません。よくもここまで調べたものだと驚嘆しています。
 弁護士生活50年を迎え、これまで所報に書いた文章を選び出して一冊の本にまとめられています。有事法制や日本の防衛問題の点では著者の考えは私と一致しませんが、その指摘には、なるほどというところがたしかにあります。
 著者は居合道を55歳で始めて、今も続けているとのこと。すごい粘りです。今では三段です。
居合道では、敵は頭の中で想定されたもので、実際にはいない。要するに居合は形(かた。所作)を修業するのであって、居合において斬突する相手はイメージである。
 ガリ版、そして「ガリ版をきる」という懐かしい話も出てきます。私も大学生のころは、必死で「ガリ切り」をしていました。コピー機なんて、なかったころの話です。
そして、この本の白眉は、横浜大空襲と飢餓の体験談です。
 アメリカ軍のB29が昭和20年(1945年)4月、5月、横浜を襲いかかりました。当時37歳のカーチス・ルメイ少尉が指揮する大空襲でした。このカーチス・ルメイは、まさしく「大放火魔」と言うべき人物であり、ベトナム戦争では「ベトナムを石器時代に戻すと高言し、実行しました。アメリカ軍は、昭和20年以降は4~5000メートルの高高度から、もっぱら焼夷弾をもって民家を焼き払うことを狙った。
ところが、戦後の日本は、こともあろうに「大放火魔」のカーチス・ルメイに勲一等という大層な勲章を与えているのです。日本政府には信じられないほど、アメリカ人へのおべっか使いばかりです。日本の政治がアメリカにこれほどまでに従属しているかと思うと、思わず泣けてしまいます。
戦後の日本において、子どもたちの遊びが絵入りで紹介されています。懐かしい思い出がたくさんで、ありがとうございました。
(2016年11月刊。2000円+税)

児童相談所における子ども虐待事案への法的対応

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  久保 健二 、 出版  日本加除出版
 著者は福岡県弁護士会に所属する弁護士ですが、現在は福岡市の一般職員として子どもセンターの緊急支援課の課長として勤めています。その経験を生かした本です。
 児童相談所に常勤の弁護士が存在する第一の意義は、即応性。虐待事案では、一時保護や立ち入り調査など緊急に対応すべきことが少なくない。常に現場にいて職員とともに活動し、法的助言もまさに現場で即時に対応できる。そのことによって職員の法的革新にもとづく業務や心理的負担の軽減に寄与することができる。
 弁護士が常勤していることによって、隠れた法的問題を指摘してトラブルに対して予防的に対処することもできる。常勤弁護士は児童相談所の業務の適法性だけでなく妥当性を確保することができる。
著者は、児童相談所に警察官が常駐するのを当然としていいものかと問いかけてもいます。私も、この疑問は正当だと思います。
 面前DVというコトバを私は初めて知りました。子どもがDVを目撃することのようです。それは子どもの心理面に影響を与え、心理的虐待に該当する。とはいえ、面前DVは、ほかの虐待事案と比べると、子どもの安全自体は確保されていることが多いので、緊急に子どもの安全を図る措置をとらなければいけない事案は多くない。すべての面前DVについて、一律に同じ対応することは、児童相談所の乏しい人員体制を考えると、効果的な配分とは言えない。なーるほど、たしかにそうなんでしょうね。ひどい直接的虐待事案が優先されるべきなのですよね。
 ネグレクト事案のときには、具体的に何が不適切なのかを示さなければ、保護者が改善を図るのは難しい。不適切養育を具体的に指摘して、改善を促す必要がある。
 全国にいる里親(さとおや。養育里親として登録されている人数)は7900世帯で、実際に委託されているのは2900世帯。子どもの実数は3600人。児童養護施設は定員3万3000人のところ、現員は2万8000人(入所率84%)、児童自立支援施設は定員3750人に対して現員1400人(入所率37%)。
 ネグレクトは、必要な食事を子どもに与えないとか、必要な医療を受けさせないというだけでなく、子どもの不安に親がきちんと対応してやらない、不安を解消して子どもが情緒的に安定した生活が送れるようにしないで、放置し続けるという情緒的ネグレクトもある。その結果、子どもが親から安心を得ることができず、情緒的に不安定ななかで生活することになり、成長の過程で、家出や深夜徘徊、万引きなどの問題行動としてあらわれることがある。
 なるほど、そういうことですね。表情の乏しい大人を見ていると、きっとこの人は子どものときに親から愛情たっぷりにかまってもらえなかったんだろうなと私は見ています。
 児童相談所をめぐる法的諸問題のほとんどを網羅していますので、いわば百科全書のように実務上すぐに活用できる本になっています。著者の引続きのご健闘を期待します。
(2016年10月刊。3900円+税)

蒼天・青法協北海道支部50周年記念誌

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者   青法協北海道支部、 出版  青法協北海道支部
 1966年(昭和41年)に創立した青年法律家協会北海道支部の50年に及ぶ活動の成果が一冊にまとめられています。A4サイズで360頁もあり、ずっしり重たい記念誌ですが、書かれている内容も日本の近現代史を深く掘り下げ、重量感たっぷりです。
題字を岩本勝彦弁護士が見事に揮毫していますが、「50周年を迎え、改めて熱き志をもって、蒼き天を仰ごうではないか、そういった意気込みを示す」と解題されています。
 1966年に結成されたときの会員は弁護士4人、裁判官3人、そして司法修習生13人、計20人でした。このころは、裁判官が青法協に加入することに何の問題もなかったのです。今では、裁判官が外部の団体に所属するのは、官製団体とでも言うべき日本法律家協会(日法協)くらいでしょうか・・・。
 2016年11月時点の北海道支部の会員は114人ですから、6倍に増えています。全員が弁護士です。ちなみに、「青年」というのは「志ある者、みな青年」という考え方によっていて、年齢制限はありません。
佐々木秀典弁護士(16期)は青法協「騒動」渦中のときの本部議長でした。1969年5月に議長に就任しています。この69年8月に、札幌地裁の平賀健太所長が裁判干渉をする「平賀書簡」を福島重雄裁判長に手渡しました。ナイキ基地設置のための保安林解除の是非が争われた長沼事件です。ここでは自衛隊の合意性が正面から争われて係争中でした。国の意向を体して裁判所が陰に陽に動くというのは、現在も残念なことに、よく見かけます。近くは、諫早湾開門訴訟における裁判所の動きがありますし、那覇地裁の辺野古をめぐる裁判も露骨でした。
 最新のテーマとしては札幌・大通公園におけるヘイトスピーチに対する取り組みがあります。ヘイトスピーチの内容は、あまりにひどくて、ここで文章にして紹介しようとは思いません。
 アパホテルの経営者の南京大虐殺否定本もひどいデタラメ本ですが、ヘイトスピーチにいたっては、ナチス・ヒットラーと同じで、罪なき人々を暴力的に抹殺しようとするものです。
 ところが、市民の一部にヘイトスピーチをしている連中に対して拍手を送る人々がいるというのです。残念としか言いようがありません。それでも、カウンターデモのほうが、はるかに上回っていて、それを若手弁護士たちが支援しているのは頼もしい限りです。
 上田文雄前札幌市長の言葉が紹介されています。いいスピーチです。
「雪の降るときはとりわけ美しい札幌を、差別の言葉で汚してはいけない。多様性を否定することは、わが身に降りかかってくる」
 ヘイトスピーチに反対・抗議する意思は「可視化」しなければならない。反対・抗議の意思を可視化しないと、ヘイトスピーカーたちは、みんなが心の中では自分たちと同じことを考えているのだ、それを自分たちは代弁してやっているのだと錯覚してしまう。
 なるほどですね。その場ですぐに反対の声を上げる必要があるのですね。反省させられました。
 北海道らしい事件も、いくつか紹介されています。
 まずは中国人強制連行・強制労働事件です。劉連仁氏は、13年7ヶ月ものあいだ、厳寒の北海道の山野を逃げまわり、そして生き抜きました。同じように中国から日本へ強行連行されてきた中国人労働者について、日本政府と企業の責任を追及した裁判は原告が43人となり、訴訟代理人となった弁護士は60人(当時の札幌弁護士会員317人の2割)になったのです。このほかにも年1万円の会費を納める賛助会員を募って、裁判を財政的にも支えました。
 劉連仁判決では、除斥期間の適用を排斥し、請求額2000万円全額を裁判所は認容しました。ところが、2004年3月23日の札幌地裁判決は、国家無答責と消滅時効を認めてしまいました。
 箕輪訴訟と「道産子訴訟」も特筆されます。自衛隊の海外派兵の差止を求める裁判です。自民党のタカ派代議士だった箕輪登氏を原告とする差止訴訟は原告が増えていき、その代理人弁護団には109人の弁護士が名前を連ねたのでした。
 最後にアイヌの先住権についての市川守弘会員の論稿には大いに学ぶところがありました。市川会員は結論として、これまで日本で使われてきた「アイヌ民族」という表現は、その有する権限(権利)の主体との関連では適切な表現ではなく、対内的主権ないし自主決定権を有する主体としての表現であれば、各地に存在したコタンでなければならない、としています。つまり、表現としては○○コタンアイヌが正しいというのです。アイヌのコタンにおける権限(権利)の回復を考えていった場合、各地のコタンの慣習、それにもとづくサケ捕獲等の自然資源の利用を権限(権利)として復活させることが重要だと強調しています。
私は「沖縄民族」なるものは存在していないと考えていますが、「アイヌ民族」は存在するように漠然と考えてきましたが、どうやら間違っていたようです。引き続き勉強してみたいと思います。
なにしろ、A4サイズ360頁もの大作ですので、簡単に持ち運びして読もうというわけにはいきません。それでも、なんとかひととおり読了しましたので、ご紹介します。
ちなみに青法協福岡支部はこれより先に、5年前に50周年誌を刊行しています。こちらは先輩会員42人の活躍ぶりを写真とともに紹介するもので、大変カラフルで読みやすくて、大好評でした。
(2016年11月刊。非売品)

車いす弁護士奮闘記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 髙田 知己 、 出版  金融財政事情研究会
著者は茨城県弁護士会に所属する新60期の弁護士です。
高校を卒業してまもなく交通事故を起こし、そのために車いす生活となり、紆余曲折のあと司法試験を目ざして、法科大学院を経て弁護士を開業(即独)しましたが、今では弁護士6人、事務職員7人の法律事務所の所長としてがんばっています。
水戸地裁土浦支部のすぐ隣に事務所を構えていますが、いわゆる町弁(まちべん)です。一般民事、交通事故、労働問題、家事事件、借金問題、そして刑事事件を取り扱っています。恐らく土浦には大企業がないのでしょう。企業間の交渉や買収など、企業法務は掲げられていません。
弁護士の仕事は、人々が人生最大の危機にあるとき、その人の人生や生活に深く入って、一緒に考える仕事。とても大変で労力がいるけれど、その人の新たな出発の手伝いができるところにやりがいを感じる。
仕事だから辛いと思うことも少なくはない。でも、これほどやりがいのある仕事はないと思うくらい、夢中で打ち込める仕事だ。
弁護士は、なんといっても自由な仕事であり、どんな人でも、その個性を生かすことのできる職業だ。
この本では、車いす生活に慣れるまでの状況、そして司法試験を目ざしてからの生活ぶりが紹介されていて、司法試験へ向けてのガイドブックにもなっています。
さらに、車いす生活者からみた現代日本社会のさまざまな不便、問題点が具体的に指摘されています。たとえば、駅の自動改札口は幅が狭くて車いすの人は通れないというのを初めて知りました。
車いすというハンディキャップにめげることなく初志を貫徹して町弁の弁護士として地方都市で明るく元気に活躍している著者の姿には心うたれるものがあります。
この本を読んで、一人でも多くの若者(障がいをもつ人を含みます)が弁護士を目ざしてほしいと念じます。
(2017年1月刊。1500円+税)

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