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カテゴリー: 司法

薬害肝炎・裁判史

カテゴリー:司法

著者    薬害肝炎全国弁護団 、 出版   日本評論社  
 薬害肝炎に取り組んだ福岡の弁護師団から贈呈されました。560頁もの分厚い本ですし、私自身が関わった裁判ではないので、少しばかり気が重たかったのですが(なにしろ手にとると、ずしりと重くて、とてもカバンに入れて持ち運びながら読む気にはなれません)、せめて、弁護団の苦労話を語った座談会だけでも読んでみようと思ったのです。ですから、この本を通読したわけではありません。でも、私が読んでも大変勉強になるところが多々ありました。
 弁護士、とりわけ若手弁護士のモチベーションをいかに高めるか。これには、事件に対するモチベーションの問題と組織の中で働くことのモチベーションを高めることの2つがある。新人弁護士だからといって、事務的な雑用だけをやらせるのではなく、責任のある仕事をできる限り頼んで、その責任ある仕事が成果として見える、そんな仕事を若手弁護士にどう割り振るかに苦心した。
 弁護士としては、訴訟活動を抜きにして、モチベーションを維持するのは難しい。また、地元の被害者の救済があるので、地元提訴は有効だ。これが、東京・大阪の訴訟の応援だけだと難しい。5地裁で提訴したのは、非常に有効だった。
 大型集団訴訟は、特許事件のように、東京と大阪だけに絞り込むべきではないかという極端な意見もあるが、全国に被害者が散在している事件では、それはありえない。
 東京地裁だと扉が大きく開かれないが、関門海峡を越えると治外法権になるとか、法が違うとか、いろいろ言われるように、驚きの連続だった。
 福岡では扉が広く、原告弁護団側から裁判所にどんどん働きかけができて、争点を設定して訴訟進行の主導権をとっていけた。
 先発組がぽろぽろと負けたあとで、後発組がきちんとした戦略を立ててやっても、その問題について既に負け判決が出ているなかで勝っていくのはものすごく困難だ。
 新しい集団訴訟で勝つというのは、理屈だけではできない。被害をきちんと伝えて、「原告を勝たせなければ」と裁判官に思わせるには、多様な力がいる。言いたいことを言い、証拠さえ出せば勝ち判決がころがり込んでくるという甘い見通しではダメ。この裁判官に、勝判決を絶対に書かせる、そのための戦略と力量と意欲が必要。
 目標は、社会における誤った政策を変えること。そのための手段として裁判を使う。負けては何にもならない。たくさん裁判があればよいというのは、50年前の発想。
東京では22人の原告全員の本人尋問はできなかった。しかし、東京以外は、原告全員について本人尋問した。九州は18人、大阪は13人、名護屋は9人、仙台は6人だった。
被告となった国は、関門海峡を越えた福岡では勝てそうにない。大阪もどうも風向きが怪しい。そこで、東京に集中して、東京で勝とうという戦略を、途中からとったと思われる。
 国は、各地の弁護団の弱い分野を意識して証拠を立てた可能性がある。九州は有効性が強くて、重篤性がいくらか弱い。そこで、国は重篤性についての証人を九州で申請した。
5地裁に提訴すると、同一争点に関する証人尋問を5回も行うことになりかねない。そこで、争点一つにつき、原被告とも証人1人を選抜し、それを各地で分散しながら立証していく計画を立てた。
 また、中間的に提出した統一準備書面はすごく効率があった。
 集団訴訟の勝訴判決は、被害の重大性を直視した裁判官によって、ある程度の飛躍がないと書けない。
 薬害肝炎については2002年10月に東京・大阪で提訴してから、2007年12月の政治判決まで5年かかった。しかし、5地裁判決がそろってからは、わずか4ヵ月で解決した。しかも、東京地裁判決直後の官邸入りから9ヵ月で解決したのは、かなりハイスピードの解決だった。
大阪地裁のときも福岡地裁のときも、判決が出た時点で国会は閉会中だった。つまり、司法判断をテコにして政治問題化していくときの、その舞台が用意されていなかった。
 裁判所は、大規模訴訟については4年以内でおさめる、裁判迅速化法も受けて4年内に解決するために計画審理をする方針をとっている。しかし、薬害肝炎のような薬害訴訟を2年で終わらせようとすると、弊害のほうが大きくなる危険がある。
5地裁のどの裁判長も、自ら指揮をとってこの問題を和解で解決しようというそぶりがまったく見られなかった。だから、わざわざ裁判所に、判決の前に和解勧告してほしいと言いに行く動機がもてなかった。
薬害肝炎訴訟において、仙台地裁では国が勝ったけれど、これは使えない勝訴判決だった。最悪の勝ち方をしてしまった。
 国はいくつ負けても、一つ勝てば責任を否定して解決を遅らせるので原告はすべて勝たなければならないという教訓があるのも事実だ。
 原告になった人は、匿名から実名になったときに、自分の問題としてやっていかざるをえない立場に立たされ、どんどん成長していった。
 新しい課題は、いつも若手、新人弁護士が切り開いていくものだ。裁判戦略は法的責任を明確にすること。訴訟の重要性を改めて認識することだ。
 被害に始まり、被害に終わる。弁護団は国民に共感を広げ、裁判所に共感を広げ、政治の舞台に共感を広げていく。その共感が広がれば、その先に勝利は約束される。逆を言うと、苦しいときには共感が広がっていないということ。薬害肝炎でも、試行錯誤しながら結果的に勝てた。
 なかなか味わい深い統括の言葉だと受けとめました。
 福岡の八尋光秀、浦田秀徳、古賀克重弁護士が、裁判でも本のなかでも大活躍していて、うれしくもあり心強い限りでした。
(2012年1月刊。4000円+税)

結いの島のフリムン

カテゴリー:司法

著者   春日 しん 、 出版   講談社
 保護司、三浦一広物語というサブタイトルがついた本です。非行少年・少女をあたたかく見守り、更生につとめている保護司の活動を紹介しています。南の島の奄美大島では、人々がのんびりのどかに暮らしていると思っていましたが、現実は大違いのようです。
 かつて、奄美大島の産業界で隆盛を誇った大島紬(つむぎ)も、現代人の着物離れから著しく衰退し、特産の黒砂糖の産業も思わしくない。島を訪れる人の数が減ると、島で働く人の仕事が減り、仕事がなくなると家庭のなかに不和が広がって夫婦が別れ、子どもとひとり親の母子、父子の家庭が増えた。奄美では、ひとり親家庭が全体の4割をこえている。
奄美大島は、本州など四島を除くと佐渡島に次いで面積5位の大きさをもち、人口7万人の美しい島だ。
保護司の三浦一広は、奄美市役所福祉政策課・少年支援係に勤務している。NPO法人奄美青少年支援センター「ゆずり葉の郷」の中心人物でもあり。また、奄美合気道拳法連盟の統帥範代である。その教育方針は、許し、認め、ほめ、励まし、感謝する。すごいですね。私など、なかなかできませんね。励まし、感謝するというのは年齢(とし)相応にできるようになりました。でも、許し、認め、ほめというところがまだまだです。他人(ひと)のあらがすぐ目につき、それを批判(非難)し、けちをつけたくなります。
 大きな声による説教の効果は3ヵ月しか続かなかった。信頼してほめた言葉は、説得しなくても心の底から子どもを変えた。なーるほど、そうなんでしょうね。やっぱり、誰だって、自分を認めてくれる人になら心を開きますよね。
 非行少年たちの心を変え、親も感謝し、本人も喜ぶ循環型の治安維持活動。これが、2004年、日本初の試みとして奄美に発足した少年警護隊だ。その成果として、2年間で、奄美の犯罪件数は675件から313件へと半減した。少年非行も96件から32件へと、3分の1に激減した。
三浦一広は1年365日、1日24時間、問題をかかえるこどもとその家族のために、夜眠る間もケータイを離せず、2時間過ぎに受信をチェックする。必要とあれば、夜中の何時でも、現場にとびだしていく。ええーっ、こんなことって常人にはできませんよね。体は大丈夫でしょうか、心配です。
奄美大島には、消費者相談で全国的に有名な禧久孝一氏もおられます。狭い島だと思いますが、二人も全国的知名度をもつ地方公務員がいるなんて、なんと幸せな島でしょうか。
 今後とも、健康にだけは留意していただき、ご活躍を祈念します。
(2012年3月刊。2800円+税)

有罪捏造

カテゴリー:司法

著者   海川 直毅 、 出版   勁草書房  
 大阪で2004年(平成16年)に起きた大阪地裁所長に対するオヤジ狩り事件についての本です。その犯人として警察が捕まえた人たちが実は無実だったという衝撃的な話なのです。ええーっ、大阪の警察はいったいどうなってんの・・・と思ってしまいました。警察の思い込み捜査のひどさがここにもあらわれています。
 大阪地裁所長が自宅に帰ろうとして、夜8時半すぎに歩いているところを4人組の若者から襲われ、所持金6万円を奪われたという事件でした。犯人は高校生風の4人組ということだったのに、29歳の、身長184センチ、体重90キロの成人が犯人とされたというのも納得できないところです。ところが、検察官は犯人像にまったくあわないのに起訴してしまうのでした。
 当然のことながら、弁護人は苦労します。被害者が現職の大阪地裁所長だけに、裁判官は被害者の尋問をなかなか採用とはしません。先輩に対する遠慮(保身か・・・?)が先に先立つのです。それでも、なんとか法廷での被害者尋問は実現しました。
そして、決定打は近くの民家に備え付けてあった防犯ビデオでした。その映像に犯人と思われる4人の人物が走り去る様子がうつっていたのです。どう見ても細身の少年風の四人組でした。29歳で巨大の被告人とはマッチしないのです。
 そこで、ビデオ映像を鑑定してもらうことにしました。すると、被告人の身体の特徴とは合致しないことが判明しました。
さらに、事件当夜、共犯とされていた少年と交際していた少女のケータイにメールのやりとりが残っていたのです。結局、これが決め手となりました。そのケータイ・メールは後から作為できるようなものではありませんでした。
 犯行当夜のアリバイが確実に裏付けられたのです。逆にいうと、これほど、明確なアリバイ証拠が出てこないと、被告人が無罪になるのは難しかったのではないかとも思いました。
 それほど、裁判所は警察や検察庁を信頼しているということです。この世は、信じられないことばかりですよね、まったく。
(2012年5月刊。2400円+税)

比例定数削減か民意の反映か

カテゴリー:司法

著者   坂本 修 、 出版   新協出版社
 一票を投ずると政治がかなり大きく変わり、自分たちの要求が実現することを国民が本気で思うようになると、院外の運動を発展させる可能性、財界からみると危険性が出てくる。だから、アメリカと財界は民主党の公約実行を許すわけにはいかなかった。
ここでいう民主党の公約というのは、「海外移転、少なくとも県外移転」というものです。
財界は、政権をとった民主党に対してさまざまな圧力をかけ、その公約(マニフェスト)の裏切りを実行させた。
 財界の機関紙とも言われている「日経新聞」は、二大政党離れが、鮮明になったと評価したが、これは真実を言い表している。支配層の考えていた「二大政党制」は、二つの同質の保守政党でなれあい政治をする。悪政による矛盾が深まっても保守二党間の政権交代でとりあえず国民の目はごまかして、政治をすすめる。
 小選挙区制のインチキは、サッカーでゴールの幅がいびつに設定されているようなものだという、著者の例えには目が大きく開かれました。
 サッカーの一方のチームのゴールの幅は2倍、地方のチームは4分の1、ゴールキーパーがいたら、ほとんどゴールできない。こんなサッカー試合だったらバカバカしくて誰も見にいくはずがない。ホント、そのとおりですよね。
いま政権をとっている民主党は2009年8月の選挙の得票率42%なので、204議席しかないはずなのに、現実には308議席。なんと104議席もの水増し議席がある。4割の得票で7割の議席を得た。少数政党である公明党は、得票率11%だから本来なら55議席なのが21議席。同じように得票率7%の共産党は、34議席のはずが9議席。社民党は、得票率4%で21議席のはずが7議席しかない。これって、どう考えてもおかしいと私は思います。でも、新聞、テレビはおかしいとは言いません。それもまたおかしなことです。そして、これって、本当に「少数意見の切り捨て」なのだろうかと著者は問いかけています。
 憲法9条守れ、原発ノー、消費税増税反対そしてTPP参加反対というのは少数意見でしょうか? 私はそうは思いません。ところが、国会では明らかに少数意見になってしまっています。こんな奇妙な「ねじれ」状況は打破する必要がありますよね。
小選挙区制に切り替えたときの選挙制度審議会には、27人のうち12人はマスコミのトップでした。読売、日経、毎日、朝日、NHK、テレビ東京などです。今も、マスコミは消費税増税賛成の一大キャンペーンをやって、同じことを繰り返しています。上から目線でみている限り、貧困の実相は分からないということなんでしょうね。
年間320億円という政党助成金がマスコミの宣伝費に使われていることも明らかにしています。税金のムダづかいの典型です。怒りが湧きあがります。
 2007年の参議院選挙でテレビCMに50億円、電通などの広告代理店に90億円も使われた。比例定数を80削減して「節約」されるのは56億円でしかない。だったら、それを削る前に320億円というムダな政党助成金を全廃すべきでしょう。
政党助成金はイタリアとアメリカにはなく、イギリスはわずか3億円ほど。フランスは98億円、ドイツは174億円。日本の320億円というのは、ずば抜けて大きい。
私は、大勢の国会議員がいること自体をムダだとは考えていません。でも、今は、たしかにあまりに役に立たないような議員が多いとは思います。かといって、下手に議員の数を減らすと、役に立つ議員まで失ってしまう危険があります。現に、私のよく知る弁護士は国会で大活躍していたのに、残念なことに落選してしまいました。役に立つ議員を失うと、劣化した政治の被害を受けると著者は指摘していますが、まったくそのとおりだ実感しています。
 わずか120頁、350円という薄いブックレットです。ぜひ、あなたもお読みください。世の中には考えるべきことがたくさんあることを知ってほしいと切に思います。
(2012年6月刊。350円+税)

最高裁回想録

カテゴリー:司法

著者   藤田 宙靖 、 出版   有斐閣
 学者出身の最高裁判事は、何を見、何を聞き、何を考えたか、と本のオビに書かれています。著者の最高裁判事としての在任期間は2002年(H14)9月から2010年(H22)4月までです。
 最高裁判事に学者からなるのは、要するに、一本釣りのようです。ある日突然、最高裁の人事局長から電話があったのでした。弁護士の場合には、弁護士会の推薦手続が必要です。最高裁判事になるのは65歳ころが多いように思います。
最高裁判事の宿舎は塀の上に有刺鉄線と警報機を巡らせ、庭の各所を照らす照明器具に囲まれた物々しい要塞。専用車で、この宿舎と最高裁のあいだを送り迎えされる。これはほとんど「囚われ人」の日常生活である。最高裁判事は朝8時半に宿舎に専用車の迎えが来て、9時過ぎに最高裁に到着する。昼は昼食が裁判官室に運ばれてくる。途中3時にお金をのみ、あとは5時まで記録よみ。自宅に5時半には帰着する。トイレは裁判官室内に専用のものがあり、外に出る必要はない。そこで、一日に500歩しか歩かない日もある。そこで、著者は毎朝4時半すぎに起床して45分間ほど周辺を歩いた。
 最高裁の裁判官会議は、原則として毎週水曜日の朝10時半から開かれる。裁判官会議に出席して何よりも驚いたのは、その時間の短いこと。毎回せいぜい30分から1時間。なかには、会誌の定刻前に終わったこともあった。
これって、まさしく最高裁が事務総局によって牛耳られていることを意味しています。そして、著者は、それでよしと合理化しています。いちいち検討するのは時間的にも能力的にもできるわけがないというのです。まあ、実際はそうなんでしょうが、本当にそれでいいのでしょうか、疑問です。
2週間に1回、15人の裁判官のみで昼食をとるということもある。同じ小法廷の裁判官同士のあいだでも、審議の際を覗けば、日常的に顔を合わせることはほとんどない。
 最高裁の内部構造ははなはだ複雑を極めていて裁判官室から小法廷にたどり着くのも容易ではない。
最高裁に係属する事件の95%、つまりほとんどは、持ち回り審議案件で占めている。残り5%が重要案件として、評議室における審議の対象となる。
 最高裁に来る事件は毎年6000件。これに特別抗告などの雑件をふくめると9000件にもなる。小法廷への配点は機械的になされる。
 最高裁では、判決を言い渡しするとき、主文のみということであった。しかし、これは刑事規則の明文に反するという指摘もあり、判決理由の要旨も読みあげるようになった。理由を読みあげなかったのは、法廷の適正な秩序の維持という目的によるものであった。
 裁判官と調査官の共同作業によって裁判したというのが実感。
 最高裁判事を7年半つとめて、つくづく思うことは、裁判、とりわけ最高裁の判決というのは、しょせん常識の産物だということ。学者は分からないことは分からないと言ってはいけないが、裁判官は、本当には分からなくても、ともかく決めなければならず、判断を先送りすることができない。
最高裁の多数意見というのは、その性質上、常に、ある程度の妥協の産物であることを避けられない。今日、最高裁は、むしろ最高裁の意向を意識するあまりに下級審の裁判官が萎縮してしまうことのないよう意を払っている。
 ある年齢以降、「出世」を逃げていくものと、地家裁や支部を転々とするもののグループに分かれていき、後者から前者へ移行するのは困難だという現象もたしかにあるような気がする。これは組織体のなかでの協調性と、リーダーシップの有無についての所属庁における評価いかんではないかと思われる。器用な人間はトクをするし、不器用な人間はやはり損をする。しかし、これは、裁判所に限らず、組織一般に見られる現象である。
最高裁判事の日常生活や評議の様子がちらりとうかがえる本でした。
(2012年4月刊。3800円+税)

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