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カテゴリー: 人間

群れは、なぜ同じ方向を目指すのか?

カテゴリー:人間

著者  レン・フィッシャー 、 出版  白揚社
イナゴは、環境が混雑してくると、行動をがらりと変える。通常は隠れて単独で暮らしているが、近くに仲間が増えてくると、突如パーティー好きに豹変する。
サバクトビバッタは、仲間が接近してくると刺激を受け、セロトニンが生産される。
 ここのイナゴが最初に異動を始めるときは、まだ若く、羽もない状態であり、動きもランダムだが、集団の密度が増してくると、次第に運動の方向がそろってくる。やがて集団の密度が非常に高くなる(1平方メートルあたり80匹ほど)と劇的な転移が急速に生じ、高度に統率のとれた進軍へと変化する。
 イナゴの群れの場合、後ろのイナゴに食べられたくないという単純な欲に動かされる。移動するイナゴはエサを探しており、前にいるイナゴはおいしそうで食欲をそそる。したがって、食べられないようにするには、前進を続け、距離を保つのがいいということになる。
他の個体に衝突するのを避ける。近隣の個体群が向かっている方向を平均し、その方向に向かって動く。近隣の個体群の位置を平均し、その方向に向かって動く。
 横から向かってくる物体に反応したイナゴは、羽を畳み、一瞬のあいだ滑空状態になる。こうした対応策によって、イナゴは衝突する可能性を最小限にし、また、たとえ衝突したとしても羽を痛めることがないようにしている。
 目的地を明瞭に思い描き、そこに到達する方法をはっきりと知っている匿名の個体がわずかでもいれば、集団内の他の個体は、自分がついて行っていることも知らぬまま、それに従って目的地へと向かうことになる。そのとき必要なのは、意識しようとしまいと、他の個体たちが集団にとどまりたいと望んでいること。そして、相反する目的地をもっていないことだけである。
集団内に別の目標が存在しない限り、単に目標を持つだけで集団を導くことができる。リーダー役の成員たちが、自分たちが導いている相手からリーダーと認識される必要はない。
 グンタイアリは、巣から距離のある餌場に移動するときには、自己組織化して綺麗な三車線の経路をつくる。巣から出たアリは経路の両脇を進み、餌を持ち帰るときは中央を通る。グンタイアリは、ほとんど目が見えないが、以前に経路を通ったアリが残したフェロモンをたどること、そして新しい社会的力を使うことで、整った行動をこなすことができる。
 群衆の中を効率的に進んでいく最善の方法は、自然発生的な群衆力学のことを理解して、それに抗うのではなく、同調すること。
 危険な状況から脱出しようとして出口を探している群衆の中にいるときは、60%の時間を群衆とともに行動し、残りの40%を別の出口を自分で探すのに使うと、脱出の可能性が一番高くなる。群衆の密度が非常に高い場合は、行き先を自分でコントロールすることは、ほとんどできなくなる。
 つまり、危険を知らせる情報を見聞きしたら、速やかにそれにもとづいて行動すること。決して群衆に巻き込まれてしまうまで、待ってはいけない。
 二つのうち、どちらか一つを選ばなくてはならず、見たことや聞いたことがあるのが一方だけの場合、他に情報がなければ、覚えのある方を選ぶこと。
覚えがあるかどうかだけにもとづいて決めなければならず、覚えのある選択肢が複数あるときには、一番思いあたりやすいものを選ぶこと。
 何もしないという初期設定があるなら、そのままにしておいた方がいい場合が多い。
一時的に集団から離れ、しばらく自分の頭で考えてみることで、集団思考に陥ってしまうのを避けること。自分なりに結論を出し、それに納得してから集団に戻ること。
 群集心理に陥る危険から脱出する方法を教えてくれる本でもありました。
(2012年10月刊。2400円+税)

人類の原点を求めて

カテゴリー:人間

著者   ミシェル・ブリュネ 、 出版   原書房 
 古生物学者にとって、歯はこのうえなく貴重な宝である。歯は、骨の中でもっとも硬い部分であり、時間などの侵食に耐えられる可能性がきわめて高い。しかも、哺乳類の場合、歯さえ残っていれば、その個体を識別することができる。
 歯には、無数の手がかりが隠されている。たとえば、化石の哺乳類を特定したければ、たいていは、その第二大臼歯を見れば分かる。歯冠の形、咬合面の咬頭の数や形や位置、歯根の数や長さ、エナメル質の厚さを調べれば、種やその食性を判別することが可能である。
 それだけではなく、歯の位置や大きさや数、あごの形を見れば、その哺乳類の進化の程度が分かる。エナメル質の厚さ(ゴリラやチンパンジーは薄く、先史人類や現代人は厚い)や、その組織学的な構造、歯冠の形や高さ、咬合面の形を確認すれば、その動物の食性が把握できる。
 歯髄は生きている間にだんだん小さくなっていくため、歯髄の大きさから、その個体が死んだ年齢を推測することができる。歯のエナメル質の厚さは、明らかに食性と関係がある。生肉は意外に硬い。柔らかい食べ物も硬い食べ物も食べるためには、エナメル質は厚くなければならない。ゴリラやチンパンジーのように、熟した果物ややわらかい若葉しか食べないのなら、薄いエナメル質で十分だ。
人類の起源はアフリカにあります。砂漠のなかで、ヒトの化石を求めて大変な苦労をしている学者の様子がよく描かれている本です。そのおかげで、ヒトの歩みがかなり分かってきました。ありがたいことです。
(2012年7月刊。2200円+税)

ヒトはなぜ難産なのか

カテゴリー:人間

著者   奈良 貴史 、 出版   岩波書店 
 ヒトは、腰の骨を見たら、男か女か見分けられる。安産をするか、しないかという性差が腰の骨にあらわれる。骨盤を構成する骨である寛骨と仙骨をみると、90%以上の確率で男女を判断できる。
 ところが、ニホンザルは骨盤に性差はない。オスとメスの区別は犬歯の大きさや体格の違いで見分ける。
 ヒトの形態学的定義は直立二足歩行。そのため、ヒトの骨盤は類人猿と大きく異なった独自の形をしている。難産がヒトの性差をつくり出している。
 人類は難産の出現によって、助けあう人間社会をつくり出した。お産に立ちむかうことで、人間は進化してきた。ヒトは、地球上の哺乳類のなかで、一番難産だろう。
 江戸時代の女性の死因の4分の1以上を難産か産褥死が占めていた。
ヒトは初産だったら平均15時間もかかる。かつてお産はかなり危険性の高いものだった。1900年には、年間6200人が死亡した。1940年でも、全国で5000人以上が亡くなっている。
平安時代の歴史物語「栄華物語」に登場する経産婦47人のうち11人、23.4%がお産によって死亡している。
今でも、決して100%安産ではなく、日本では毎年60~70人の妊産婦が死亡している。
多くの子どもは、母親の体を傷つけながら誕生する(会陰裂傷など)。
ヒトが難産な理由は、直立二足歩行に適応した身体構造と、脳の大きさが二大要因である。産道は、S字形の急カーブになっている。ヒトの産道は曲がりくねっているうえ、形が変化している。
現代のお産が難産なのは、女性の肥満も影響している。ただでさえ狭い産道に脂肪を蓄えている。
 人間が難産であることは人類の特質と深くかかわっていることが分かりました。
(2012年9月刊。1200円+税)

山伏と僕

カテゴリー:人間

著者   坂本 大三郎 、 出版   リトルモア  
 東北は山形県の山中で山伏になったという体験記です。
 九州にも英彦山(ひこさん)には山伏がいるようですね。
舞台は山形の羽黒山(はぐろさん)です。近くに月山(がっさん)や湯殿山もあります。
 山伏といっても、ふだんは普通の生活をして、修行のときだけ山にこもって山伏になるのです。
山伏は自分の葬式をあげ、自分を死者と考えて山に入る。
 山に入れば、みんな同じ仲間。どうして山伏になったのかという質問は昔はタブーになっていた。
山伏をしたから人間が皆謙虚になるということでもないようです。逆に修行に耐えたことで偉いと過信し、俗世間で騙す人もいるとのことです。人間の業(ごう)の深さを思い知りますね。
 修行中、ケータイの使用は禁止。テレビも見られない。パソコンなんて論外。
返事は、「はい」ではなく、「承(う)けたもう」のみ。
山伏の白装束は自分たちが死者となったことを、頭にかぶる白い宝冠は、胎児が母体のなかでかぶっている胞衣(えな。胎盤)を意味している。山伏の白装束が死者を意味しているって、初めて知りました。
 修行中に断食する。これは際限なく物を欲しがり、どんなに物を集めても満たされない「餓鬼」の状態を味わう行である。
護摩とは、サンスクリット語で焼くことを意味するホーマの音訳である。
 なーるほど、そうだったんですか・・・。
修行のなかで、勤行するときには、般若心経を唱える。何十回、何百回と般若心経を唱える。真暗闇の山中を歩いていくというのは恐ろしい限りです。著者の勇気に敬意を表したくなりました。
(2012年7月刊。1300円+税)

痲酔をめぐるミステリー

カテゴリー:人間

著者   廣田 弘毅 、 出版   同人選書 
 全身麻酔は単なる眠りではない。呼吸や心循環系も抑制されている。つまり、眠っているだけではなく、息が止まって、血圧も下がっている。麻酔薬は、一般的な医薬品に比べて、安全域がきわめて狭い。麻酔機などの設備が整った場所で、熟練した麻酔医が使用してはじめて麻酔薬は「安全」と言える。
 全身麻酔のプロポフォールは鎮静目的。その投与中は血管痛といって、点滴の刺入部位が痛むことが多い。その血管痛をやわらげるために、局所麻酔薬リドカインを混ぜる。これは業界で常識となっている裏技だ。そこで、マイケルジャクソンの死は局所麻酔薬中毒による心停止の可能性がある。
麻酔薬には呼吸・循環抑制作用があるし、その作用には個人差がある。患者Aに効いた濃度が患者Bに効くとは限らない。吸入麻酔薬による眠りは、患者にとって、一瞬の出来事に感じられる。麻酔薬を投与されて「眠った」と思った次の瞬間に、「手術は終わりましたよ」という言葉を聞かされる。眠っていたという感覚がまったくない。これは30分の小手術でも、10時間の大手術でも同じで、患者は麻酔をかけられた瞬間に、手術終了後の世界にタイムスリップする。
 吸入麻酔薬は、興奮性シナプス伝達を抑制し、抑制性シナプス伝達を促進することにより、海馬の機能を完全にシャットダウンしてしまう。つまり、海馬における記憶の形成が起こらない。
 私が人間ドックに入って胃カメラを呑み込むときの状態が、まさにこれです。静脈に麻酔薬を注射されると、すとんと眠りに入り、胃カメラが抜かれたとたん目が覚めるのです。
 静脈麻酔薬プロフォール。チオペンタールからの覚醒は、「あー、よく寝た」という印象で、生理的な睡眠からの目覚めに似ている。静脈麻酔薬により、抑制性の神経伝達物質であるGABAが脳内で大量に放出されるためと考えられている。
 この静脈麻酔薬は麻酔ではない。しかし、投与された人は、スッキリ爽やかな目覚めが忘れられなくなる。吸入麻酔薬ハロタン、セボフルランでかける麻酔は安定感がある。興奮性シナプス伝達を抑制し、抑制性シナプス伝達を促進することで、ニューロンの興奮性をダブルブロックするからだ。十分な濃度の麻酔薬を投与していれば、不意な行動で手術に支障を来す心配がない。
 静脈麻酔薬プロポフォール、チオペンタールによる麻酔では強い刺激によって患者が覚醒する可能性があるので、注意が必要である。抑制性シナプスの亢進だけでは、不意な興奮性入力を抑えきれなくなる。
 安定な麻酔をとるか、眠りの質をとるか、麻酔科医は、臨床状況に応じて麻酔薬を使い分ける。
麻酔薬にもいろいろなものがあること、人間の身体とりわけ脳と眠りの関係について知らないことが盛りだくさんの本でした。
(2012年7月刊。1600円+税)

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