法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 人間

がん(上)(下)

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 シッダールタ・ムカジー 、 出版  ハヤカワ・ノンフィクション文庫
癌についての分厚い上下2冊の文庫本です。
今では多くの癌が死に直結するものではなくなりました。人類の英知の結晶です。この本は、現在に至るまでの医学の進歩をたどっています。
私は、この本を読みながら、人間の身体の神秘性をつくづく実感しました。なにしろ、人間の身体では、いろんな化学的成分がつくられているのです。それを現代科学が少しずつ解明しているわけですが、その対象は、なんと私たち人間の身体の奥深いところでつくられている各種成分なのです。
がんは単一の疾患ではなく、多くの疾患の集まりである。それをひとまとめにして「がん」と呼ぶのは、そこに細胞の異常増殖という共通の特徴があるから。
白血病は、がんのなかでも特別だ。その増殖の激しさと、息を吞むほど容赦のない急速な進行を示す。白血病は、ほかのすべてのタイプのがんと異なっている。白血病にとって、6ヶ月生存したというのは、6ヶ月はまさに永遠とも言うべき長い期間だ。1934年7月、マリーキューリーは白血病で亡くなった。
がん細胞は、正常細胞の驚異的な異形であり、がんは目を見張るほど巧みな侵略者かつ移住者だ。がんでは、無制御の増殖が次々と新しい世代の細胞を生み出していく。
がんは、今日、クローン性の疾患だということが判明している。しかし、がんは単なるクローン性疾患ではない。クローン性に進化する疾患なのだ。変異から淘汰、そして異常増殖という、この冷酷で気の滅入るようなサイクルが、より生存能力の高い、より増殖能力の高い細胞を生み出していく。
平均寿命ののびは、たしかに20世紀初頭にがんの罹患率が増加したもっとも大きな要因だった。
近代的な冷蔵庫が普及し、衛生状態が改善して集団的な感染が減少したため、胃がんの流行は見られなくなった。
がんの全身治療は、あらゆる肉眼所見が消えたあとも、長期間にわたって続けなければならないのが原則だ。
乳がんについて、根治的乳房切除術を受けた患者グループは、重い身体的代償を支払ったにもかかわらず、予後に関してなんの利益も得られていないことが1981年に判明した。今日、根治的乳房切除術の施行は、ほとんどない。
前立腺は、恐ろしいまでのがんの好発部位だ。前立腺がんは、男性のがんの3分の1を占める。これは白血病とリンパ腺の6倍だ。60歳以上の男性の剖検では、3人に1人の割合でなんらかの前立腺の悪性所見が発見される。進行はとても遅く、高齢男性は、前立腺がんで亡くなるのではなく、前立腺がんとともに亡くなることがほとんどである。
たばこと肺がん発症は30年近くも開くことがある。たばこメーカーは、新たな市場として発展途上国を標的にしており、今では、インドと中国における主要な死因はたばこである。
ヘリコバクター・ピロリの除菌は、若い男女で胃がんの罹患率を減少させたが、慢性胃炎が数十年も続いている高齢患者では、除菌療法の効果はほとんどなかった。
エジプト古代王国の時代から、まさしく4000年の歴史をもつ癌治療進化する状況の到達点が実に刻明に紹介されています。
(2016年7月刊。920円+税)
韓国映画『弁護人』をみました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が釜山(プサン)で弁護士として活躍していたときを描いた映画です。韓国では1000万人がみたとのことですが、大変な迫力があり、あっというまに2時間がたっていました。
 主人公のソン・ガンホは、まさしく法廷で不条理を許さないと吠えまくります。見習いたいド迫力でした。
 アイドル・グループのメンバーが拷問を受ける大学生役として登場してきます。彼がやったのは、女子工員を集めた、ささやかな読書会です。私も大学生のころセツルメント活動のなかで、「グラフわかもの」という雑誌の読者会をしていたことがあります。職場の話がどんどん出てきて、大学生の私のほうが聞き役でした。そんな活動をしていると、アカだとして拷問され、国家保安法違反だというのです。
 法廷の内外で裁判官と検察官は仲間として親しく交流しています。憲法も刑事訴訟法もそっちのけで、権力の忠実な番犬としての役割を競って果たしているのです。これって、日本でも同じようなものですよね。
 権力に真向から対決できる弁護人の存在が欠かせないことを明らかにした映画です。ぜひご覧ください。

最後の秘境・東京藝大

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 二宮 敦人 、 出版  新潮社
天才ぞろいの大学です。奇人・変人ばかりと言っては失礼にあたります。安易な常識では理解できるはずもありません。こんな人たちがいるおかげで、世の中は楽しく心豊かに生きていられるのかなと思いました。やっぱり、世の中は、カネ、カネ、カネではないのです。
ここは、芸術界の東大とも言われていますが、実は、東大なんて目じゃないのです。なにしろ競争率が違います。絵画科80人の枠に1500人が志願する。18倍。昔は60倍をこえていた。だから、三浪して入るなんてあたりまえ、珍しくはない。専門の予備校がある。
音楽系だと、ある程度の資金力があって、親が本気じゃないとダメ。ピアノとかバイオリンだと、2歳とか3歳から始めるのが当たり前。
美校の現役合格率が2割なのに対して、音校は浪人は少ない。演奏家は体力勝負だから、早く大学に入って、早くプロとして活動しはじめたほうがいい。
センター試験は重視されていない。三割でも、場合によっては一割でも、実技さえよければ合格する。
絵画科の実技試験は、たとえば2日間で人間を描くこと。
そして卒業すると、その半分くらいは行方不明になる。
活躍している出身者はたくさんいる。しかし、それは、ほんの一握り。何人もの人間がそこを目ざし、何年かに一人の作家を生み出す。残りはフリーターになってしまう。それが当たり前の世界だ。
この大学は、全部で2千人。学科ごとに分けてみてみると、たとえば、指揮科の定員は2人。作曲家は15人。器楽科の定員98人は、楽器ごとの専攻なので21種類に分けたら、たとえばファゴット専攻は4人しかいない。少人数教育なのですね。
国際口笛大会でグランドチャンピオンの学生もいる。
音楽は一過性の芸術だ。その場限りの一発勝負。そして、音楽は競争。音校では順位を競うのが当たりまえ。それが前提となっている世界。
工芸科の陶芸専攻では、一緒に泊まって、一緒にご飯を食べて、一緒に寝る。窯(かま)番があるから。
人間の社会が実は奥深いものだということを少しだけ実感させてくれる本でもあります。音楽系と美術系が、これほどまでに異なるものだというのを初めて識りました。面白いです。読んで損をしたと思うことは絶対にありません。東大法学部はロースクール不振から定員割れしているとのことですが、こちらはそんなことは考えられませんね。万一、そうなったときは、日本社会が壊滅してしまったということでしょうね。
ベストセラーになっていますが、社会の視野を広げる本として、ご一読をおすすめします。
(2016年11月刊。1400円+税)

へんろみち

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 あいち あきら、 出版  編集工房ノア
四国遍路というと、ロマンを感じますが、現実はかなりの難行苦行のようです。お遍路さんとして歩いた体験が、よくぞここまでと思うほど刻明に再現されています。
もちろん、道々に記録していたのではないでしょう。かといって宿に入ってからも、詳しい日記をつける余裕があったとは、とても思えません。いったい、この道中記はいつ、どうやって書かれたのでしょうか・・・。
お遍路さんといえば、私が親しい仲間と一緒に貸切バスに乗って四国路を走っていると、なんと菅直人元首相が歩いているのを目撃しました。同行取材を受けていたので、遠くから見て気がつきました。3.11の直後、原発から完全撤退しようとする東電に激怒したということですが、私は真実なのではないかと考えています。
テクテク歩いていると、慣れないものだから足がひきつってくる、足の指にマメが出来て、血が出てくる。まあ、いろんな身体の不具合いにとらわれます。
山の嵐にさらされながら急な坂をおりていく。厚くふり積もった落ち葉の道。雨水を吸いこんで、すべりやすい。気をつけようと思ったそのとき、木の根っこを踏んでしまった。ツルリと足がすべって、体がふわりと浮き上がり斜面に落下してドスンと尻もちをついた。左の腰と右ひじをしたたか打った。声が出ないくらい痛くて唸った。すぐには立ち上がれず、斜面にへたり込んで、じっと痛みをこらえた。ようやく参道に戻ると、お遍路の団体がやってきた。先頭を歩く先達さんが声をかけてきた。
先達さんは、お遍路の案内人で、四国を何周もしたことのある経験と知識のある人がつとめている。その資格を得るのは容易ではない。
先達さんが言った。
「あなた、それは良かった」
「それは、泥に汚れたのではなくて、神の峯の泥にお清めされたのですよ」
「泥だらけになって良かったのですよ・・・」
何事も、考えようなのですよね・・・。著者は私と同じ団塊世代です。これは、5年前の5月から6月にかけて、四国88ヶ所巡礼、49日間を歩き通した苦闘の体験記なのです。すごいです。
札所にお参りすることを「打つ」という。巷のへんろは、小さな木の札に名前、出身地、願いごとを記し、札所のお堂に木釘で札を打ちつけていった。札所を「打つ」というのは、その名残だ。今は、木の札に代わって紙の「納め札」をお堂に置かれた箱に納めていく。
橋を渡るとときに杖をついてはいけない。橋の下でお大師さんが休んでずられると、礼を失するから。歩き遍路のルールだ。カンカンと杖をつく音がいけない。
お接待を受けるにも作法(ルール)がある。お接待してくれた方には「納め札」に名前や住所を書いて手渡し、手を合わせる。これが礼儀だ。
四国88ヶ所の遍路みちは、総距離1270キロ。昔から、1200年も前から続いている。
著者は、両足に17個のマメをつくった。足をひきずり、顔をしかめながら、ともかく歩き通したのです。えらいですね。私にはとても出来そうもありません。無理です。この本を読んで、歩いた気分に浸るだけにしておきます。
(2016年8月刊。1800円+税)

海ちゃんの天気、今日は晴れ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 大和久 勝、 出版  山岡 小麦  クリエイツかもがわ
発達障害の子どもは、どんな状況にあるのか、その子を受けいれたときにはどう対応したらよいのか、絵(マンガ)で示され、親切な解説がありますので、門外漢の私にも状況がよく分かりました(もちろん、本当のことは分かっていないのでしょうが、その大変な状況を推測する手がかりは得られました)。
海田(かいた)くんは発達障害の子です。小学3年生。
ADHDとアスペルガーの診断を受けています。
学校で気にいらない状況に直面すると、すぐにキレてしまいます。
友だちのシャツをバケツに入れたり、叩いたり、みんなと別に一人で紙ヒコーキを飛ばしていたり、教師はなにかと大変です。
海(かい)くんは、すごいこだわりがあります。
子どもの行動には、わけがある。そのわけが分からなくても、抱きしめたり、うなずいたりして、困惑や苦悩を受けとめるようにする。どんな行動にも理由があると考えて、子どもと対話をする。その聴きとる姿勢が子どもの心を開いていく。
暴力をふるったり、キレたり、パニックを起こしたりするのは、困っていることの訴え、叫びなのだ。このことを理解するには、一定の時間が必要。自分の感情や行動を自分で思うようにコントロールできない苦しさが子どもにはある。
発達障害の傾向の子は、安心した居場所がもちにくく、活躍して認められる出番がないなど、自己肯定感や自信がもてない子が多い。
発達障害といっても、実は発達上のアンバランスだということ。それは障害というより、特性や個性として見ることができる。そのためには、周囲の理解が何より大切だ。
とてもよく出来たマンガでした。大変さと希望がズンズン伝わってくるマンガです。
(2012年4月刊。1500円+税)

強父論

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  阿川 佐和子 、 出版  文芸春秋
書かれている文字どおり読んだら、それこそとんでもない父親ですよね・・・。なにしろ、テレビを見ていても、何をするにしても、「女はバカだ。だからダメなんだ」なんて口癖のように言っていたというのですから。
でも、本当に、そういう親子関係なのかなと、モノカキ志向の私は大いに疑っています。これはサワコー流の父親礼賛(れいさん、ではなく、らいさん)じゃないのかな・・・。
というのは、表紙の写真です。
3歳くらいのサワコが、にこやかにほほえんでいる「怖い父親」に抱っこされて幸せそうな様子と、今のサワコの笑顔は、まるで同じなのです。
いじめ、いじめで、こんな素敵な笑顔の美人になれるはずがないと私は思うのです。
そして、遠藤周作、壇一雄、北杜夫の家庭が、それぞれ
「嘘つけ、冗談じゃない。娘までおかしくなってきたぞ。もう疲れた。オレは帰る」
「あいつらより、俺はずっとマシ」
と言っていた。
そうなんですよね。世の中には、うちよりもっとひどい暴君の父親がいる。それで、親も子どもも、じっとガマンしているということがあるのです。
まあ、笑いながら気楽に読める、ちょっと変わった父親論として、おすすめします。
(2016年7月刊。1300円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.