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カテゴリー: 人間

歯みがき100年物語

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 ライオン歯科衛生研究所 、 出版  ダイヤモンド社
いま、毎日、合計10分間の歯みがきに挑戦中です。歯ぐきに違和感があったので歯科医院に行ったところ、心配していた虫歯はありませんでした。そのとき歯周病の恐ろしさから、毎日20分間の歯みがきをすすめられたのです。実際やってみると大変です。キッチンタイマーを目の前にして歯ブラシを動かしますが、夕食後の6分間は、すごく長く感じられます。
歯の表面をこするより、歯ぐきのマッサージのつもりです。まだまだ力の入れすぎだと反省しています。やり始めた直後は、口を開けている時間が急に長くなったせいで、アゴが痛くて、かむ力が弱くなった気がしたほどです。
そんな苦労をしているときに、この本を紹介されたので、さっそく読んでみました。
庶民が今のような歯みがきを日常的にするようになったのは、明治になって歯みがき剤や歯ブラシが普及してからのこと。
明治になってから、人々が甘い物をたくさんとるようになって、明治末期になると、子どものむし歯罹患率は96%に達した。このままでは、むし歯で国が滅んでしまうという危機感から、口腔衛生思想の普及活動が強まった。
今では、小学生(12歳)のむし歯保有数は1本を切っている。そして8020運動(80歳になったとき、自分の歯を20本もっている人が50%以上)の目標達成に近づいている。
私は、むし歯にやられたのは一本だけです(差し歯をしています)。歯は大切ですよね。
平安時代から江戸時代まで続いていたお歯黒(はぐろ)には、むし歯予防の効果もあった。でも、なんだか気持ち悪いですよね。黒い歯って・・・。やっぱり、歯は白いのが一番です。
日本人の歯並びの悪さは世界でも突出している。
江戸吉原の遊廓では、客が朝帰りするときに、楊枝と歯みがき袋、うがい茶碗を出していた。
子どもたちのむし歯洪水が急速に改善した要因として、フッ素配合の歯みがき剤があげられる。
歯垢(しこう)は、歯の表面に付着した飲食物の残りかすと思うのは間違い。本当は細菌のかたまり。これをそのままにしておくと石灰化が始まり、歯石(しせき)になる。
歯周病は、糖尿病を悪化させる要因のひとつ。日本人の成人で歯周病をかかえている人は8割。歯周病は、糖尿病の6番目の合併症。
よくかんで食べる。食後にはきちんと歯みがきをする。寝る前にも歯みがきをする。
すこやかな生活を送る工夫のひとつだと思います。いい本でした。
(2017年1月刊。1800円+税)

屋根うらの絵本かき

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  ちば てつや 、 出版  新日本出版社
 私も大学生のころは、毎週、マンガ週刊誌を心待ちにしていました。私のいた学生寮(駒場寮)では、寮生がまわし読みをしていました。発売初日はケンカこそしませんでしたが、奪いあい状態で、みんな競って読んでいました。何をかって・・・。「あしたのジョー」です。この本では原作者の梶原一騎との壮絶なバトルが文章だけでなく、絵によって再現されていますから、まさしく臨場感があります。『少年マガジン』は、そのころ飛ぶように売れていたと思います。
 ジョーの相手となったのが力石徹。そして力石徹はついに死んでしまうのです。その死に至るストーリーにするのかどうか、編集とテレビ局と壮絶なバトルが展開していたというのです。ところが、著者はついに力石徹を殺してしまうのです。すると、全国のファンから、たくさんの弔電が届き、ついには力石の葬儀までやられたのです。冗談ではありません。講堂には特設リングがつくられ、お坊さんが真面目な顔でお経をあげたのです。大勢のファンが葬儀に参列しようと行列をつくりました。まあ、私は、そこまではしていませんが、たしかに、「あしたのジョー」のインパクトは相当なものでした。このころ私はまだ20歳前です。著者は30代半ばでした。
 私は、著者の丸っこい感じの絵が大好きです。ほのぼの感があり、心がゆったり、気分がよくなります。ちばあきおは弟のマンガ家です。こちらも好きでしたが、50代でなくなったとのこと、惜しいことです。
 著者がマンガ家として初めて原稿料をもらったのはなんと高校2年生のとき。1万2351円でした。母親から、本当に原稿料なのかと疑われたとのことです。
 著者は戦前の満州で生まれ育ち、6歳までいました。父親は印刷会社につとめていたのです。そして、敗戦後は戦前に親しくしていた中国人に助けられ、生命からがら日本に帰ってきました。その経過も見事な絵で再現されています。ですから、著者は戦争反対、平和を愛する心が人一倍、強いのです。
 終戦後に満州で亡くなった日本人が24万5000人もいるとのこと。本当に哀れです。誤った国策による犠牲者です。
 いま、著者は宇都宮にある大学で学生に漫画を教えているそうです。そして、東京の自宅では屋根裏のような部屋を仕事部屋としているとのこと。それは満州で中国人一家に隠まれて生活していた屋根裏と同じような気分になって居心地がいいというのです。
 著者は何かにつけて要領が悪くてノロマだったとのこと。そのすばらしいマンガからは想像もできません。
 ほのぼのマンガをみて、そして人と人とのつながりを大切にして生きてきた著者の話を読んで、いいマンガって、読む人を幸せな気分にしてくれることを実感しました。ありがとうございました。皆さんに強く一読をおすすめします。
(2016年12月刊。1900円+税)

乱読のセレンディピティ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 外山 滋比古 、 出版  扶桑社文庫
セレンディピティとは、思いがけないことを発見する能力のこと。
乱読によって、面白いアイディアが得られる。
夜ねているうちに当面、不要と思われるものが分別されて、廃棄、忘却される。頭のゴミ出しのようなものである。朝、目が覚めたとき気分が爽快なのは、頭のゴミ出しがすんだあとなので、頭がきれいになっているからだ。
まったく忘れることが出来なかったら、人間は生きていられないだろう。それを忘れていられるのは、忘却のおかげである。
どんどんものを忘れるのは健康な証拠。頭をきれいにする、はたらきやすくすることで、忘却は記憶以上のことをすることができる。知識によって人間は賢くなることができるが、忘れることによって、知識のできない思考を活発にする。その点で、知識以上の力をもっている。これを創造的忘却、新忘却と呼べる。
私は、この書評を書くことによって文章力を身につけると同時に、安心して忘れることができます。
本は買って読むべきである。私も同じ考えです。
自分の目で選んで買ってきて、読んでみて、しまった、と思うことのほうが重い読書をしたことになる。人からもらった本がダメなのは、その選択ができないから。
図書館から借りた本だと、読んでいる本に書き込みが出来ません。私は、それでは困るのです。
広く知の世界を、好奇心にみちびかれて放浪する。人に迷惑がかかるわけではないし、遠慮は無用。20年、30年と乱読していれば、ちょっとした教養を身につけることが可能となる。
私も乱読を始めて、もう40年になります。この書評を始めてから16年を過ぎました。好奇心というのは、どこまでいっても尽きないものだと、我ながら驚嘆しています。
さっと読める手頃な文庫本でした。さすが、乱読の大先輩だけあって、含蓄あふれる指摘がいっぱいです。
(2016年10月刊。580円+税)

腸科学

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  ジャスティン・ソネンバーグ 、 出版  早川書房
 私は子どものころから胃腸、とくに腸が丈夫ではないと自覚していますので、腸のことをもっと知りたいと思って読みました。この本は腸内細菌がとても大切な役割を果たしていることを強調しています。
 腸内にすむ細菌や真菌は、人体と環境間で起きる相互作用を決め、アレルギーや自己免疫疾患の発症や予防にもかかわっている。肥満や糖尿病を引き起こすのを防ぐのも、体内の炎症を抑えるのも、悪化させるのも、これらの細菌だ。
 人と微生物の共生関係は人が誕生したときに始まる。人は母親の子宮内では無菌状態にあるが、外界に出たとたんに無菌の身体に菌がどんどんすみついていく。小さい子どもが何か物を口に入れようとしたら、細菌の膜が新たなマイクロバイオータを形成するために貴重な微生物を提供してくれていると考えたらいい。
 腸内細菌がヒトの健康と幸福に欠かせないものだという証拠はたくさんある。人の腸内には、100兆個をこえる細菌が暮らしている。その大半は大腸をすみかとしている。大腸には、数百種をこえる細菌が全部で100兆個以上すんでいて、その内容物を小さじにすくうと、一杯あたり5000億個の密度でひしめいている。小腸内にすむ微生物は比較的に少なく、小腸の内容物を小さじにすくうと、一杯あたり、わずか5000万個しかいない。
 過剰に加工された欧米の食事、抗生物質の乱用、殺菌がすすんだ家屋などによって、腸内の住人はその健康と安全が脅かされている。
 ヒトは、腸内にいる微生物とずっと折り合いをつけてきた。ヒトは腸内マイクロバイオータを必要としている。腸内マイクロバイオータがあるだけで、やせた健康なマウスに体重増加が起きる。
アメリカでは、出産の3分の1以上が帝王切開である。帝王切開で産まれた人には肥満、アレルギー、セリアック病そして虫歯にかかりやすい。帝王切開で産まれた赤ちゃんには、母体の窒に綿棒で細菌を採取し、赤ちゃんの体の複数個所にそれを移植してやるといい。
母乳にふくまれる主要成分の一つは、それを飲む赤ちゃんは消化できないので、役に立たない。しかし、それはマイクロバイオータの食べ物になる。つまり、母乳は、赤ちゃんに飲ませるだけでなく、赤ちゃんの胎内にいる100兆個の細菌にも食事を提供している。
犬を飼っている家庭ではぜん息が減る。あまりに清潔な環境で子どもを育てるのは、その子の免疫系の発達にとって長期にわたって悪影響を及ぼすおそれがある。
腸内細菌を大切にすることは大切なことだということがよく分かる本でした。そのための食事レシピも紹介されています。要は食物繊維をたくさんとること、あまりに清潔すぎるのは良くないということのようです。早速、実行してみましょう。
(2016年11月刊。1900円+税)

山小屋主人の炉端話

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(霧山昴)
著者  工藤 隆雄 、 出版  山と渓谷社
 私は、年に何回か近くの小山(388メートル)に登りますが、本格的な登山や山歩きはしたことがありません。きつくて、寒くて大変だろうなという気持ちから敬遠したいのです。
 私にとって山小屋に泊まったというのは、50年も前の大学生のころに尾瀬の山小屋に泊まったくらいです。山小屋に近いのは、奥鬼怒の三斗小屋温泉の煙草屋旅館です。
 この本は各地の山小屋の主人の聞き語りから成っています。主人といっても男性ばかりではありません。若い女性も、いわば、おばさん級もいます。みなさん、山を愛することでは天下一品。
でも、山小屋の経営っていかにも大変ですよね。とても、もうかる商売とは思えません。ですから、この本にも、身内には跡を継がせたくないという話が出てきます。当然ですね。
 箱根にある金太郎茶屋に小田原少年院の子どもたちを迎えたという話は心温まるものがありました。大自然のなかを歩かせるのは、「非行」少年だけでなく、どんな子どもでもとってもいいことだと思います。自分の足で苦労して頂上までのぼりつめたとき視界360度のパノラマ(風景)は、何とも言えない感動を湧きあがらせます。
そして、ここの女主人は、何と100キロもある冷蔵庫をかついで、2時間かけて茶屋まで運び上げたというのです。信じられない力持ちです。
 今では山小屋のトイレも水洗式になっているところが増えているようですね。環境保護の面からいうと、どうなるのでしょうか。費用対効果ということもあるでしょうし・・・。
 山小屋生活の苦労話だけでなく、楽しい話もたくさんある、炉端話が満載の本です。
(2016年11月刊。1300円+税)

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