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カテゴリー: 人間

手塚番、神様の伴走者

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 佐藤 敏幸 、 出版  小学館文庫
手塚治虫とは、天才というより神様ですよね。60歳で亡くなったのが、本当に残念でたまりません。
この本は、手塚治虫を担当した編集者たちへのインタビューから成っています。いわば、天才というか神様の実像をあばき出したような本なのですが、本当に憎めない神様の実体の一面を知ることができます。車中で読みふけってしまい、乗り過ごしを警戒しました。
横で見ていると、手塚さん、わがままだし、やきもち焼きだし、原稿遅いし、約束守んないし、「こんな野郎とは、1日でも早く別れたい」と思う。でも、遠く離れてしまうと、富士山ではないけれど、その高さ、姿の美しさが分かる。
手塚さんの記憶力は、直感像という、デジカメと同じで、思い出そうとすると、原稿のどの場面でも、瞬時に、たぶん見開き単位で頭の中に出てくるのだろう。
原稿の催促のために、そばに編集者が山ほどいてくれるというのが、手塚さんのベストコンディションなのだ。
手塚さんは、平気でウソつくところがある。まあ、可愛げのあるウソなんだけど・・・。
手塚さんは、寂しがり屋だね。ずーっと自分のことを思っていて欲しい人なんだよね。
すべて自分の思いどおりに持っていくんだけど、ものすごく心の弱い人なので、担当者に相談する。「これでいいです」というコトバを聞きたいんだ。担当者がいいと言わない限り、できない。必ず聞いてくる。
原稿が遅いと、テヅカオソムシ。それでも着かないと、テヅカウソムシ。これが、デンポーの文言だった。うひゃあ、そ、そうだったんですか・・・。
手塚さんにしてみると、担当編集者がいないと、「何なんだ、ぼくだけ働かしておいて・・・」という気持ちになる。寝ずにやっていると、被害者意識が出てくる。だから手塚番は、手塚さんが起きているときは、絶対に起きている必要がある。
編集者は、描き手に気持ち良く描かせるのが、絶対条件だ。
手塚先生は、宇宙のかなたから地球にきて、使命を終えて帰っていったんだ・・・。
こんな弔電があったそうです。60歳にして、かぐや姫のように月世界か宇宙の果てに帰っていったのでしょうね。残念です・・・。
とても面白い文庫本でした。ありがとうございました。
(2018年6月刊。610円+税)

世界一美しい人体の教科書

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 坂井 建雄 、 出版  ちくまプリマ―新書
私は1990年から1泊の人間ドッグを利用しています。平日に2日間、読書ざんまいの時間を過ごすのです。日頃は、なかなか読めない大部の本を持参し、必死で読みふけります。そして、なんとか6冊を完読します。その入院のおまけとして持ち帰るのが、私の内臓のカラー写真です。胃と腸が見事にうつっていて感動します。もちろん、日頃の仕事のストレスから来る異変も見つかります。
人間は、結局のところ管(くだ)から成り立っていると喝破した人がいますが、私も、人間って、本当にそういう存在なんだなと思います。
人間の身体は、37兆個の細胞でできている。唾液(だえき)腺を備えているのは哺乳類だけ。唾液腺をもたない動物は、そしゃくできない。唇(くちびる)は、哺乳類だけがもつ筋性のヒダで、乳を吸うためのもの。
筋肉で出来たチューブのような食道は、ふだんは前後につぶれて閉じているが、食物が通過するときには、蠕動(ぜんどう)運動によって、先へ先へと送っていく。
胃は、ビール瓶2本分に相当する1600ミリリットルの量を貯めておける。胃液にふくまれている塩酸は、強い酸性をもっているが、この働きによって食物を殺菌消毒し、腐敗や発酵を防いでいる。そして、胃粘膜から特殊な粘液も出ていて、この粘液が胃を保護している。
ピロリ菌は、私も除去しましたが、しばし苦しい思いをしました。
ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を出して自分の周りをアルカリ性のアンモニアに変えることで中和して生きのびるので、除去するしかない。そうなんですか・・・。
小腸の消化器は、効率よく栄養を吸収するために、他の臓器よりも細胞の入れ替わりが早い。腸上皮細胞は、栄養の吸収力を維持するため、24時間と、人体でもっとも寿命の短い細胞だ。腸壁からは、毎日200~300グラムの細胞が新陳代謝によって脱落していく。
24時間しか寿命のない細胞が、私たちの身体にあるのですね。まったく感謝、ひたすら感謝するしかありません。
肝臓は、体内で最大、最重量、最高温の臓器で、栄養素の分解と合成、貯蔵、有害物質の解毒、胆汁の生成などを行っている。50万個といわれる肝細胞によって構成される、いわば化学工場だ。そして、この肝臓は、4分の3を切除しても生命が維持でき、数ヶ月後には、肝細胞が増殖して元の大きさに戻るほど、再生能力の高い臓器である。
人間の身体は不思議そのものです。その身体が細胞レベルまでカラー写真で見せつけられると、いったい人間とは、いかなる存在なのか、それこそ考えさせられます。
新書版ですので、手軽に読めますが、その人体内部のカラー写真には、思わず息を吞むほど圧倒されます。
(2018年4月刊。1800円+税)

読んでも忘れる人のための読書術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 印南 敦史 、 出版  星海社新書
正しいタイトルは、読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術、です。
私は、この20年間、年間に読む単行本は500冊です。ところが、書評家でもある著者は年間700冊よんでいます。実は、私も、弁護士会の要職にあったときは旅行の連続でしたから700冊以上を読んだことがあります。でも、さすがにそれは疲れます。50代の初めでしたから出来たことです。フツーに生活して年に500冊のペースを維持しているのが、今ではぴったりの生活リズムになっています。
もちろん、たくさんの本を読むのは楽しいからです。義務感とかノルマではありません。今度、あの本が車中、機中で読めるなと思うと、楽しく、待ち遠しくなります。そして、本屋で前に読んだ本を見つけると、ああ、この本って面白かったよね、そんな思い出がよみがえってくるのも楽しいひとときです。
私が、このコーナーで紹介しているのは、1年間一日一冊なので、要するに読んだ本の7割ほどを紹介していることになります。そして、このコーナーにアップすることで、私は安心して忘れることができます。
読書習慣が身につくと、本を読むこと自体が楽しい。1冊よみ終えると、ちょっとした達成感が得られる。
読書の義務感から解放される必要がある。読書は、つらい勉強でも修行でもない。自分にとって心地よく、そして楽しい読み方をすべき。
大切なのは、その本を読んだことによって、自分の内部に何か残ったか、ということ。結果として残ったものは記憶のひだに刻まれ、自分の新たな価値観を形成する。
要は、自分にとって有意義なことだけを吸収できれば、いいやと考えるのだ。それだけのこと。大切なポイントは二つ。一つは、忘れる自分を肯定すること。二つは、次に進むこと。
読書は楽しい。すべての仕事の憂さを忘れさせてくれる。そして夢幻境へと導いてくれる。何かを創造しようという気にさせてくれる。もう少し、元気で何かをやってみようという気にさせてくれる。
それが読書なんです。どうですか、ご一緒に・・・。
(2018年5月刊。960円+税)

ゴリラからの警告

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版  毎日新聞出版
ゴリラと比較して、「人間社会、ここがおかしい」というサブタイトルのついた興味深い問題提起が満載の本です。
ゴリラ学者の著者がゴリラ集団に受け入れてもらうためには相当な苦労があったようです。
近づくときには、グックフームという挨拶音を出す。「だれだい」とゴリラ特有の音声で問いかけられたら、必ずこたえる。顔をのぞきこまれたら、視線をそらさず正面から見つめ返す。これがゴリラ社会に受け入れられるときのマナー。
ゴリラは食べるときには、個々ばらばらに分散する。人間は、集まって一緒に食べようとする。
ゴリラは顔と顔を近距離で向かいあわせて挨拶するが、人間は少し距離を置いて、じっと向かいあう。
ゴリラの赤ちゃんは2キロ以下で生まれ、3年から4年は母乳を吸って育つ。人間の赤ちゃんは3キロくらいと重く、2年以内に離乳する。
人間の目には、サルや類人猿の目とちがって白目がある。この白目のおかげで、1~2メートル離れて対面すると、相手の心の動きから心の状態を読みとることが出来る。
ゴリラは3~4年、チンパンジーは5年、オランウータンは7年も母乳を吸って育つ。だから、出産間隔が長く、生涯に数頭しか子どもを産めないし、大人になる子どもも2頭前後。そのため数が増えず、絶滅の危機に瀕している。
人間の赤ちゃんは2年足らずで離乳し、母親は年子を産むことも可能。私も年子です。生涯に10人以上の子どもを育てることが出来る。
人間の祖先は、捕食によって高まる子どもの死亡率を補うために多産になった。
人間の赤ちゃんとちがって類人猿の赤ちゃんは、とても静かだ。ゴリラのお母さんは、生後1年間、片時も赤ちゃんを腕から離さない。赤ちゃんは、ずっと母親にしがみついているから、泣いて自己主張する必要がない。人間の赤ちゃんがけたたましい声で泣くのは、産まれ落ちてすぐに母親以外の手に渡されて育てられるから。
人間がゴリラと違うのは、自分が属する集団に強いアイデンティティーをもち続け、その集団のために尽くしたいと思う心があること。これは、子ども時代に、すべてを投げうって育ててくれた親や隣人たちの温かい記憶によって支えられている。そして、人間が他者に示す高い共感能力も、家族をこえた子どもとのふれあいによって鍛えられる。
相手に何かしてもらえばお返しをしなければという思いや、何かすればお返しがあるはずだという思いは人間独特のものだ。
人間の笑いの多くは、サルたちの遊びの笑いに由来する表情だ。そこには相手と楽しさを共有しようとする気持ちがふくまれている。
アフリカで野生のゴリラとつきあっていると、だんだん自分の顔の表情が乏しくなっていくことに気がつく。人間が類人猿と共通なのは、胃腸が弱く、子どもの成長が遅いこと。
人間が類人猿と違うのは、離乳が早く、思春期に成長が加速して心身のバランスが崩れる時期があること。
生れてはじめて出会う人間に身の回りの世話をしてもらい、何もかも頼って暮らした経験が、人間を信頼して生きる心をつくる。逆に、幼いころに虐待を受けたり、裏切られたりした経験は、子どもの心に大きな傷を残す。
サル真似というコトバがあるが、実はサルは真似ができない。
中身は紹介しませんが、京大理学部のチームが中高生中心の女子タレントのチームと競って京大チームが2度も惨敗したというのが紹介されています。思わぬ発想が世の中では高く評価されることがあるのですね・・・。
京大総長の著者の指摘には、常にうむむと頭をひねって考え込まざるをえません。
軽く一読できる、大変コクのある話が満載の、ゴリラと人間を比較した本です。
(2018年8月刊。1400円+税)

道徳性の起源

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 フランス・ドゥ・ヴァール 、 出版  紀伊國屋書店
ボノボが教えてくれること。これがサブタイトルです。フランスの高名な動物学者がボノボやチンパンジーの長年の研究から人間の本質に迫っています。
ボノボは、私たちヒトの血筋の特徴が男性優位とよそ者恐怖症だけではなく、調和を愛する心と他者への気遣いでもあることを示してくれる。
ボノボ同士のあいだで、チンパンジーが見せるような死者の出るような攻撃的行為が観察されたことはない。
チンパンジーのオスは身体的な力では、メスを圧倒するが、メスも政治に無知ではないし、関与しないわけでもない。
チンパンジーの社会では、オスとメスとの間には恒久的な絆がないので、原則として、どのオスが自分の父親であってもおかしくない。
チンパンジーが血のつながりのない仲間を助けるのはよくあること。
野生のチンパンジーのオスが脚を傷めたとき、ひっそりと何週間も群れから離れて過ごして傷を癒しているのが観察された。ただし、そのチンパンジーは、ときにコミュニティのただ中に姿を現し、元気いっぱいに突進するディスプレイ(誇示行動)を見せ、それからまた離れていった。霊長類は激烈な競争社会に生きている。そのため、オスは強靭な外見を保つために、体の具合が悪くても、なるべく長くそれを隠さざるをえない。
ヒトの女の赤ん坊は、男の赤ん坊よりも長く他者の顔を眺め、男の子は機械仕掛けのおもちゃをもっと長く見る。その後も、女の子は男の子よりも向社会的で、情動的表現を読むのがうまく、声の聞き分けが得意で、他者を傷つけたあとに良心の呵責(かしゃく)に苛(さいな)まれ、他者の視点に立つのが上手だ。
タイの自然保護地区で2頭のメスのゾウを見た。盲目のゾウは案内役のゾウが頼みの綱で、案内役のゾウが移動すると途端に、低く重々しい声を2頭が発した。盲目のゾウに案内役のゾウが居場所を伝えているのだ。この騒々しいショーは、2頭が再び一緒になるまで続く。それから熱烈な挨拶が交わされる。2頭は耳を何度もばたつかせ、触れあい、匂いを嗅ぎあう。2頭は緊密な友情を楽しんでいた。
カメルーンの自然に暮らす30歳の雌のチンパンジーが心不全で亡くなった。スタッフが手押し車に乗せて、その亡骸(なきがら)を見せると、普段は騒々しいチンパンジーたちが周りに集まってきて、その亡骸を見つめ、互いの体にすがりつき、まるで葬儀に参列する人々のように静まりかえっていた。
ヒトが万物の霊長とは、いったいどこを指しているのでしょうか。人類を絶滅させるしかない核兵器にあくまでしがみつき、戦争を準備しようと叫ぶようなアベ首相に万物の霊長といえる資格は果たしてあるでしょうか・・・。
(2015年12月刊。2200円+税)

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