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カテゴリー: 人間

じゃがいも父さん

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 日色 ともゑ 、 出版  文芸春秋
宇野重吉一座、最後の旅日記というサブタイトルがついています。劇団民芸とは別に、宇野重吉が地方巡行したときの模様が熱く語られていて、読んでいる私の胸まで熱くなりました。1986年(昭和61年)9月の第一次巡業はじめから、翌1987年10月までの第五次巡業まで、全国をまわりました。福岡にも八女や福岡に来ています。そして沖縄にも・・・。
行く先々で大変な歓迎を受け、舞台は大いに受けて、大笑いと大拍手、そしておひねりが舞台に飛んできました。おひねりは、すぐに受け取らなければいけないものだそうです。米倉斉加年は、セリフを話しながら、上手に拾っていったとのこと。
宇野重吉は肺ガンが発見され、体重は40キロ台にまで落ち、点滴を受けながら舞台に立ったといいます。すごいですね、まさしく神業(かみわざ)です。
演ずる劇は「おんにょろ盛衰記」と「三年寝太郎」の二つ。宇野重吉は三年寝太郎役です。舞台の本番の前、著者は1時間かけてたっぷりストレッチ体操をし、楽屋入りしたら1時間は発声練習。開演1時間前にメーキャップにとりかかる。この手順をきちんと守る。まだ40歳台の著者が老婆役を演じるのです。
福井出身の宇野重吉は、なんでも福井のものが「日本一」なんだそうです。酒・魚・越前ガニ・ソバそして青くび大根・米・・・。イカ大根を宇野重吉が料理し、好んでいたというのも初めて知りました。
宇野重吉は演出家でもある。
大学の応援団のように、台詞(セリフ)をがなっていてはダメなんだ。
舞台の様子を録音しておいて、テープを聴きながら、勉強会をする。どういう声で、どういうしゃべり方をしているか、自覚すること・・・。
「台詞が一面的で、自分の演じる人物のキャラクターの個性がない。台詞の音の高低、強弱、遅い、速い、ということがはっきりせず、前の日との台詞にひっぱられてしまっている」
「同じことばかり言われているのに、台詞の調子が変わらないのは、どういうことか。台本をよく読んで、どこがどう足りないのか、注意深く読みとること。人間のうらのうら、一人ひとりの意識、そのたぐいとりが足りない。今からでも遅くはないから勉強しなさい。そうすれば、ましな役者になるでしょう。貧乏しても役者をやっていようと思うでしょう」
「芝居というのは、90%が台詞術で、あとの10%が動き。一にも二にも台詞、そして声」
福岡では嘉穂劇場でも演じています。福岡の昼食は「多め勢」のおそば。そして、夕食は「まめ丹」。今もある店なのでしょうか・・・。
若い著者がおばあさんになるには、メイク、かつら、着付けと40分はかかる。開演の15分前には舞台袖にスタンバイして気持ちを整えておきたい・・・。
宇野重吉は、毎日毎日、台本を読んで、毎日毎日、工夫している。台詞の言い方、間のとり方、緩急が毎日ちがう。幕開きにしても、寝ころんでいたり、障子によりかかっていたり、いろいろな工夫がされている。
宇野重吉が亡くなって30年がたちました。私は、残念ながら舞台でみたことはありません。テレビと映画だけです。滝沢修とあわせて、とても存在感のある役者でした。
宇野重吉の息子が寺尾聡です。
昭和63年5月刊行のこの本を五月の連休中に読んだのは、不要本を一掃する大片付けをしているとき、たまたま発見して、宇野重吉一座の地方巡業ってどんな様子だったのかなと気になったからです。いい本でした。今では、日色ともゑも本物のお婆さんになりましたね・・・。
(1988年5月刊。1200円)

助監督は見た!実録「山田組」の人びと

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 鈴木 敏夫 、 出版  言視舎
今秋に公開予定の『男はつらいよ』を私は今から楽しみにしています。
映画『男はつらいよ』は私が東京で大学3年生のときに始まり、年に2回、はじめは一人で、やがて家族とともに正月の楽しみとしてみていました。ですから、山田洋次監督は私のもっとも敬愛する映画監督です。その「山田組」の実態が実況中継のように描かれた興味深い本です。
山田監督って、他人(ひと)を笑わせることには長(た)けているわけですが、自身は人前ではあまり笑わない人のようです。そして、あからさまにほめることもしないとのこと。意外でした。ですから、助監督は撮影現場の雰囲気をなごませるのも大きな仕事の一つなのです。
撮影現場で、俳優たちの表情が硬く、緊張している、その要因は山田監督の仏頂面。
愛想良くしなくてもいいけど、せめて不機嫌そうな顔をやめてほしい・・・。
山田監督はテレビドラマは見ない。映画はよくみているようですが・・・。
「はい」「はい」と返事をしすぎる俳優は、まずダメ。言われたことを理解していない。その場を逃れようとしているだけのこと。
山田監督は、「東京家族」の撮影のとき、林家正蔵さんに「顔で芝居しようとしないで!」と、よく叱責した。
ええっ、落語家って顔で芝居するものではないのか・・・。
子役に対する演技指導のポイントは三つ。その一は、相手に分かる言葉で話すこと。その二は、ほめること。「さっきより良いよ」、「すごいね、できちゃうんだね」。その三は、空いている時間は、寄り添って相手をする。山田監督は、この三つとも苦手だ。山田監督は、子役の俳優にこういう芝居をしろと命じるだけで、具体的に指導しているのは助監督たち。子どもはほめるに限る。ほめれば、やる気が出てくる。
山田監督は、「面と向かってほめるなんて、照れ臭いじゃないの」という。
山田監督は、緊張をときほぐす技をもちあわせていない。むしろ、どんどん追い込んでいく。山田監督は、俳優への注文が多い。
山田ジョークは相手に伝わらないことがある。
俳優は、一般の人が経験しないことも対処しなくてはいけない。それが嫌なら、できないのなら、俳優なんかにならないことだ。
山田組の撮影現場は、いつもピリピリした緊張感に包まれている。俳優への要求も多く、ときには激怒し、容赦なく罵声を浴びせることも・・・。うひゃあ、そ、そうだったんですか・・・。そんなフンイキのなかでつくられた映画なので、腹の底から、何のわだかまりもなく笑えるのでしょうか・・・。
山田監督はあきらめが悪い。カット割りが決まるまで、悩みに悩みぬく。芝居のテストを何度も何度も繰り返す。ロケ撮影になると怒鳴りまくる。残業が多くなる。
そんな山田監督のつくった映画の出来はよい。
助監督として著者が復帰して、山田監督が怒鳴る回数が減ったそうです。
早く『男はつらいよ』で、渥美清を久しぶりにアップで見たいです。
(2019年3月刊。1600円+税)

国際線機長の危機対応力

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 横田 友宏 、 出版  PHP新書
いつも飛行機に乗るとき、落っこちないでくださいと願っています。だって、怖いじゃないですか、こっぱみじんになって死ぬなんて・・・。ですから、機中では、一心不乱に本を読むのに集中して、怖さを忘れるようにしています。
そんな私ですから、飛行機のパイロットって、どんな人種なのか、とても興味があります。この本はパイロット、とりわけ機長について書かれていますが、大変面白く、また勉強になりました。イソ弁からパートナー弁護士、そして独立弁護士になるときの心得に共通したものも大きいと思いました。
パイロットにとって、何か一つのことに集中するのは大変に悪いこと。パイロットは常に一つのことに意識を集中させないように、何かに心を留めないようにしなければならない。
うひゃあ、そ、そうなんですか・・・。
機長として大事なのは、自我の抹消。
機長は猛々しいライオンであってはならない。機長は長い耳をもつ、臆病なウサギでなければならない。機長はウサギと同じように、常に強い警戒心を持ち、自分に不利な情報や危険の徴候を探さなければならない。
理想の機長は、さまざまな緊急事態にてきぱきと対応する機長ではない。緊急事態が起きないように見えないところで手を打って、何事も起こらないフライトをするのが理想の機長である。
なるほど、そうなんですね・・・。
自分でも懸念をもちつつも、何らかの理由をつけて合理化し、懸念を解消しない機長は危険だ。
機長は自分の感情や心理状態をコントロールできなければならない。
機長が副操縦士にアドバイスされたときの第一声は、必ず「ありがとう」でなければならない。そして、副操縦士のアドバイスが間違っていたとしても叱ってはいけない。
機長と副操縦士は同じことに関わってはいけない。操縦中は、どちらか一人は操縦に集中しておかなければならない。
みんな、もっとも、当然のことばかりです。
アルコール類は、フライトの12時間前から一滴も飲んではいけない。
これから副操縦士になる訓練生を教えるとき、一番重要なことは、機長の指示どおりに動くのではなく、自分の頭で考えるパイロットを育てるということ。
どうやって後進を育てていくかについても、大変示唆に富んだ話が満載の新書でした。
(2019年1月刊。880円+税)

母の老い方、観察記録

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(霧山昴)
著者 松原 惇子 、 出版  海竜社
面白い本というか、身につまされるというか、大変勉強になる本でした。
病院(目下、椎間板ヘルニアの治療のためにリハビリ科に通っています)の待ち時間で読みはじめ、そのまま昼食休憩に突入して読了しました。
著者は、私と同じ団塊世代の71歳の「おひとり様」。ところが、実家に戻って92歳の母と同居するようになったのでした。いえ、決して老母の介護のためではありません。住んでいたマンションが水漏れ問題発生のため売却して退去したのです。ところが高齢独身女性は借家を見つけるのも容易ではありません(私も知りませんでした・・・)。やむなく、50年ぶりに戻った実家で、相互不干渉を宣言し、借家人として2階で生活するようになったのでした。
夫(著者の父親)を亡くして独身の母親は、90歳です。まさしく妖怪のように元気も元気。すごいものです。
妖怪を知る人は、口をそろえて母をほめる。
「お母様は、すばらしいわ。90歳であんなにきれいに丁寧に暮らしている方を見たことがないわ。お母様は、わたしたちの憧れよ。お母様こそ、現代の高齢者の生き方モデルよ」
妖怪は運動しない。毎日散歩するということもない。ただし、生活にはリズムがある。毎日、同じルーティンで生活している。驚くほどきちんとしている。
妖怪は椅子の背にもたれることがない。まめに家の中をちょこちょこ動くものだから、わざわざウォーキングに行かなくてもいい。
午前6時にセットした目覚ましで起床し、パジャマ姿ではなく、起きた時間から、誰が来ても困らない服を着ている。
朝食にハムやソーセージは欠かさない。肉好きなのだ。ヨーグルトと納豆も欠かさず、小魚も食卓に出ている。そして、朝食のあとは、必ず緑茶とお菓子で、朝のテレビ小説を見る。そのあとは、手にモップをもって床を磨きはじめる。室内は、いつもピカピカ。掃除が終わると、新聞に目を通しながら、二度目の緑茶タイム。このときも、お菓子は欠かさない。
一日中、テレビの前にいるようなことはない。
夕食は自分でつくって食べる。牛肉を欠かさない。ステーキ肉や霜降りのロース肉が冷凍庫のなかにびっしり入っている。食べ物にはうるさい。
お風呂は自分で掃除をし、自分で沸かす。いつもピカピカ。用心して、最近は昼間にお風呂に入っている。
夜は9時から10時までに寝る。通い猫に「また来てね」を声をかけて送り出してから寝る。
妖怪のファッションセンスは抜群。友人も、おしゃれな妖怪を自慢するために誘ってくれる。ピンピン長生きの秘訣は、おしゃれであること、老いてますます楽しく暮らすためには、おしゃれをして外出することに限る。
行動しようという気持ちが心身ともに元気にしている。
老いるというのは、ひとつずつ上手に諦めること。今できることは、惜しみなくやるべきだ。今やれることを精一杯やって人生を謳歌する。嫌なことがあったら、近所を散歩するなり、お風呂に入るなりして忘れたい。終わったことは終わったこと。振り返らないのが一番、精神衛生上いい。
65歳をすぎれば、あとは死ぬだけなのだから、楽しく暮らさないと損だ。
病気の予防や薬の知識に強くなることにより、病気のことを忘れて生きるほうが賢い。
ひとつひとつ、もっともな指摘で、同感しきりです。元気の出るいい本でした。妖怪と一緒の著者がうつっている表紙の写真を見て、ほっとします。ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。
(2018年10月刊。1300円+税)

胎児のはなし

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(霧山昴)
著者 最相 葉月、増﨑 英明 、 出版  ミシマ社
人間が生まれる前の胎児についての本です。赤ちゃん学には大いなる関心がありますが、胎児についてどれだけ科学的に判明しているのか知りたくて読みました。
産婦人科医との問答として書かれていますので、大変読みやすく、一気に読み終えました。
父親のDNAが胎児を介して母親に入っているなんて、ええっ、ホントですか・・・と叫びたくなりました。
女性の性染色体がXX、男性はXY。Xの大きさが手の小指とすると、Yって小指の爪くらいしかない。おまけだ。
女性にXが2つあるというのは、一つが壊れてもいいようにということ。
女性はXを二つもっているのに、男性は一つしかないので、男性は早く死んでしまう。
えっ、えっ、本当ですか・・・。
小さいころの胎児は、みんな女性の性器の形をしている。
やっぱり、人間は女性が原型なんですよね・・・。
2000年ころに3Dの器械がつくられて、立体表示ができるので、今では胎児が立体のまま動いているのが見える。
「十月十日」って嘘。実際には9ヶ月ちょっとで生まれる。胎児の大きさは妊娠20週くらいまで、個体差がほとんどない。
超音波が登場して、予定日は完璧にクリアした。今では、予定日は、プラスマイマス2日。
胎児はおしっこを出して、それを飲む。30ccたまると、おしっこを出す。これは60分の間隔。1日に700cc
初期のころの羊水は血清と一緒。母親の血液。それが生まれる頃には、おしっこと同じ。
胎児は便はしない。9ヶ月間、出さないでためておく。出産したあと、緑色の便を出す。ビリルビン(胆汁色素)のせいで緑色になっている。
出産と潮の満ち引きは関係ない。
胎児はずっと寝ている。レム睡眠が長い。だから、胎児は夢ばっかり見ている。
自然分娩だろうと、帝王切開だろうと、元気に生まれたら、それでいい。
1950年ころの母体死亡率は600分娩に1つ。今は3万分の1。今でも毎年50人ほどがお産で亡くなっている。1950年代には毎年3000人が亡くなっていた。
妊娠中にアルコールを飲んだら、アルコールは胎児にいく。胎児性アルコール症候群というものがある。
体外受精による出産は、世界で700万人、日本で50万人ほどいる。
人間とは何かを知ることができる本でもあります。
(2019年3月刊。1900円+税)

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