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カテゴリー: 人間

作家の人たち

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 倉知 淳 、 出版  幻冬舎
モノカキを自称する私も、本当は作家になったり、ベストセラーを出して、ガッポガッポと印税を稼ぎ、世に作家として認められたい、そして文化勲章(文化功労章?)をもらいたいという夢があります。
でもでも、それに冷や水をぶっかけるのが、この本です。
本が書けない、書いても売れない、生活ができない、世間からだけでなく家族からも見捨てられ、ついに飛び降り自殺するしかない・・・、トホホの現実が嫌になるほど写実的に描写されています。
いやはや、やっぱり作家なんかにならなくて良かった。弁護士であり続けるようがまだましだった・・・、そう思わせてくれる本なのです。
20年ほど前から、出版界を覆う構造不況は、もはや限界に達していた。本が売れない、消費者が誰も本を買ってくれない時代になっている。これは、娯楽の多様化、若年層の人口減少、ネットの爆発的普及、といった原因が複合的にからみあった結果の出版不況なので、誰にも手の打ちようがない。本の出版部数は減り続け、本職の作家は困窮するしかない。出版社は手をこまねき、廃業する作家が続出している。
そんななかで売れているのは、テレビタレントが書いた本。ゴーストライターではなく、お笑いタレントが自分で創作して文章をつづった小説だ。
文学賞の受賞作は、著者本人の知名度やテレビでの活躍、あとは視聴者の好感度などを基準として選び出されるもの。選考委員が受賞作を読んでいるのは例外的・・・。
ええっ、う、ウソでしょ。いくら小説とはいえ・・・。井上ひさしは受賞策の選出過程のコメントまで本にしていますよ。いくらなんでも・・・。
本は、たしかにアイデアの勝負というところがあります。それまでにない、意表をつくテーマ、題材を文章化できたら、もちろん強いと思います。
そして、タイトルも大事です。松本清張はタイトルのつけ方が秀逸でした。井上ひさしもうまいです。いえいえ、山本周五郎も藤沢周平もうまいですよ・・・。
売れない作家を、どうやったら売れる作家に変身させられるのか・・・、私もぜひぜひ知りたい、誰か教えてほしいです・・・。
作家家業の苦悩が圧縮されている、私にとっては超重たい本でした。
(2019年4月刊。1500円+税)

世界を変えた勇気

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版  あおぞら書房
無関心になったら、状況はいっそうひどくなる。変えようとする意思をもち、行動すれば世界は変わる。
本当にそのとおりだと思います。安倍首相が国会で平然として嘘をつきながら、学校では教師と子どもたちに道徳教育を押しつける。
過去に日本が侵略戦争をしかけて内外に無数の被害者をうみ出し、国土を荒廃させたことに目をつむり、「美しい日本をつくる」などと、ソラゾラしいことを臆面もなく言いつのる。自分の都合の悪いことは、ないものとするか、書きかえてしまう。アベ一強の政治は身内優先の汚れた政治でもあります。あまりのえげつなさに圧倒され、つい怒りを忘れて、あきらめてしまいそうになってしまいます。そんなときにカンフル栄養剤となるのが、この本です。
韓国で文在寅大統領が誕生する過程では、日本人が安保法制に反対して国会を包囲したニュースが韓国人を奮起させたそうです。
そうなんです。日本人だって、やってやれないことはないんです。もっと私たちは、自分たちの力に自信をもつ必要があります。どうせアベはこれからも首相に居すわり、悪政を続けるんでしょ・・・。そんなに簡単にあきらめてしまったら、それこそアベの思うツボです。
著者は私と同じ団塊世代のジャーナリスト。世界82ヶ国を歩いて取材したそうです。
アメリカに長く住んでいる日本人がこう言った。
日本人は文句を言うだけ。アメリカ人は文句を言う前に行動する。
そうです。文句を言い、行動することが必要です。行動のてはじめが投票所に行くこと。
いま、日本の若者は世界へ出かけようとしない。日本が一番でしょ・・・、そんな思いこみから。とんでもないことです。知ろうとするのをやめることは、知性をもった人間であることを放棄すること。
アルゼンチンでは、軍部が政権を握っていたとき、多くの市民を虐殺した。少なくとも3万人が犠牲となった。
まだ見ていませんが、最近、天(空)から遺体が降ってきたというアルゼンチン映画の上映が始まったようです。政府に楯ついた人をヘリコプターから突き落として殺していたことに結びついた実話です。そんな軍部独裁政権も、ついに打倒される日が来ます。子どもや夫を拉致・殺害された母親・妻たちが広場に集まって抗議行動したことが始まりの一つとなりました。
最近、軍政に手を貸して労働者の人権をふみにじったとして、アメリカの自動車会社フォードのアルゼンチン現地法人の当時の幹部2人が禁固10年と20年の判決を言い渡されたとのこと。すばらしい判決です。虐殺した人だけでなく、それに加担した人たちの責任が問われるのは当然のことです。
コスタリカでは、軍事費が国家予算の3割を占めていた。その軍事費をそっくり教育費に振り替えた。すると、医療や社会保障の予算も増え、国民生活の質が格段に向上した。
フィリピンでは、アメリカ軍の基地を廃止したら、経済は明らかに好転した。基地で働く人は4万2千人。基地なきあとに働く人は、6万人から10万人へ急増した。
著者は、この本の最後に次のように呼びかけています。まったく同感です。
行動の選択を迫られ、思いあまったとき、世界の人々がどんな行動をとったかを知れば、勇気も湧いてくる。自分のまわりだけを見ていても、展望は開けない。この本を読んで、一歩を踏み出してほしい。
モリモリ勇気の出る本として、強く一読をおすすめします。
(2019年4月刊。1500円+税)

読書と教育

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 池田 知隆 、 出版  現代書館
大牟田にある有明高専で国語を教えられた著者が、恩師である棚町知彌(たなまちともや)の戦中・戦後の軌跡をたどった本です。
国語とは、国を語ること。すなわち、自分と世界とのかかわりについて語ること。
私の講義は消化剤であり、ビタミン剤である。栄養はすべて本にある。
授業のなかで、課題図書を次々にあげる。「キュリー夫伝」、「三四郎」。授業では、まるでカラオケでも歌っているかのように朗読し、試験は読書感想文を書くこと。3年間の国語教育の集約として、全5巻の「チボ―家の人々」の読了が義務づけられた。
うへーっ、これはすごいことですよね・・・。著者は有明高専を卒業して、珍しいことに早稲田大学政経学部に進学します。私と同じ団塊世代で、学年も同じのようです。
棚町知彌は思想検事の子として生まれ育ったが、父親は50歳の若さで急死した。
成蹊(せいけい)高校を卒業して北海道大学理学部数学科に進学した。ところが徴兵猶予を自ら拒否して応召し、通信2等兵として中国戦線へ渡る。数学科出身なので暗号解読に強いとみられたようだ。
そして、戦後は、福岡でアメリカ占領軍の民間検閲局につとめた。
その後、博多工業高校の教諭となり、国語を生徒に教えはじめた。さらに、新設の有明高専で13年間、国語教員として勤めた。そのあと、山口大学、そして長岡技術科学大学に移った。
どこでも生徒・学生に膨大な課題図書を提起した。「黒い雨」や「播州平野」、「蟹工船」、「太陽のない町」、さらには「土」、「不毛地帯」、「怒りの葡萄」なども入っていて、さすが・・・と思いました。
棚町式ノートは、ルーズリーフ式ではなく、部厚いノートに手書きする。感想はいっさい書かない。ひたすら重要な個所を抜き書きする。ノートへの抜き書きは、時間を異にする自分の思考との出会いを確実にする記録である。抜き書きを重ねていくことにより読書にセンスが養われる。
私もこうやって毎日、抜き書きしていますので、棚町式ノートを実践していることになります。読書は、まさしく人々との出会いだと痛感させられた本でもありました。
(2019年4月刊。2000円+税)
日曜日の午後、フランス語検定試験(1級)を受けました。
はじめから合格するとは思ってもいないのですが、案の定、とてもとても歯が立ちません。それでも、フランス語歴は長いので、まるでチンプンカンプンという域ではありません。いやはや、フランス語って奥が深いよね、やっぱり難しいね、そんな実感を胸に抱きながらトボトボと西新駅に向かいました。
年に2回の難行苦行です。この1週間は、集中して頭をフランス語漬けにしました。もはや上達しようとか1級レベルに達して合格しようという高望みはしていません。せめて現状維持、必死で後退をくい止めようというレベルです。
このところ、NHKラジオ講座のCDを繰り返し聞いて書き取りをしながら基本文型を暗記するように努めています。なので、本番の仏検でも書き取りだけは、バッチリでした。聞きとりも、そこそこでした。ところが、今回は、なんと長文読解、読みとりが惨敗でした。自分でも信じられないほどの不出来なのです。
それやこれやで、いつものように大甘の自己採点で63点でした。150点満点ですから、やっと4割なのです。あと2割を上乗せするのはあまりにも大変です。1級を受験したのは1995年からですので、すでに24回目の受験ということです。
根性だけはありますが、世の中、根性だけで渡り切れるほど甘くはありませんよね・・・。

手で見るいのち

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  柳楽 未来 、 出版  岩波書店
この本は筑波大学付属視覚特別支援学校が舞台です。実は、私の娘も突然、弱視になり、この学校にお世話になりました。それで、私も一度だけ父兄として学校訪問し、授業風景を見学したことがあります。
私の娘は大学を卒業していましたので、高校の部に入ったように思いますが、この本では中学生が生物の授業で動物の頭蓋骨を手で触って、その動物のもつ機能を考え、最後に、その動物が何であるかを推測します。著者も目をつぶって動物の頭蓋骨に触ってみたのですが、中学生たちにはまるでかないませんでした。子どもたちは視覚に頼れないため、すべて言葉を通して概念やイメージを他者に伝え、共有していく。目の見えない子どもたちにとって、感じたことを言語化することは、きわめて重要。
この授業は、40年以上も前から基本的な形をほとんど変えず今に続いている。教科書は使わず、板書もない。週1回2時間続きの授業を続ける。
事前に生徒に動物の種類は伝えないというのが授業のルールになっている。生徒たちは、穴の大きさや方向で正確に観察できる指先の能力をもっている。
これは著者のような目明き人間が目をつぶって骨を触っても、ただ物理的に骨に触れているだけというのとは違う。
全国の盲学校の在籍者数は年々減少している。1959年の1万264人がピークで、2018年には2731人となった。これは全国的な少子化に加え、医療技術の発達から乳幼児期の失明が格段に少なくなったこと、障害ある子どもも普通学級で共に学ぶ「インクルーシブ教育」が広がっている影響もある。
1982年、全盲の男子高校生がICUの理科(化学系)に合格し、入学を認められた。
実は、私の娘は、この盲学校に入る前はICUで学び、キュレーターを目指していたのでした。
その後は、東大の教授たち3人が盲学校にやってきて、「ぜひ、東大に来てほしい」と要請したというのです。世の中はいい方向に動いているのですね・・・。
今では、盲ろう者の福島智さんが東大教授になっています。すばらしいことです。
ところで、点訳ボランティアの平均年齢が70歳代になっていて、後継者の確保が大変になっているそうです。
この盲学校の授業は、生徒たちの発見をもとにして進んでいくけれど、生徒がそれぞれ自由に発言するだけでは、授業は前に進まないし、考察は深まっていかない。ただの雑談に終わらせない見通しをもった工夫が求められる。
この授業では、教員は生徒たちに知識を押しつけない。生徒が目の前にある骨を自分でしっかり触って、生徒自身で考える。この姿勢が一貫させている。これが大切だ。そのため、教師は、いろいろ質問し、観察するためのヒントを小出しにする。
すばらしい生物の授業です。私もこんな授業を受けてみたいと思ったことでした。
(2019年2月刊。1500円+税)

70歳のたしなみ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 坂東 眞理子 、 出版  小学館
昨年12月、私も70歳となりました。先日は、右肩が突然動かなくなり、4日間、泣きました。朝、目覚まし時計を停められない、布団から起き上がれない、着換えができない、歯みがきできない・・・。右肩が動かなくて、本当に不便しました。幸い、手は動かせましたから、ペンをもって字は書けましたので、仕事への支障はそれほどありませんでした。整形外科に行ってレントゲン写真をとると、右肩に石灰化が始まっているのが確認できましたので、恐らくこれが急に暴れたのでしょう、という判定でした。要するに、70歳という老化現象をひしひしと体感させられたということです。
70代というのは人生の黄金時代、新しいゴールデンエイジだというのが著者の訴えるところです。著者は私と同じ団塊世代です(2歳だけ年長)。
70歳になったら、毎日、上機嫌で過ごすことが周囲に対するマナーであり、礼儀であり、たしなみである。イライラしていても、意思の力で上機嫌に振る舞うこと。
機嫌よく過ごす秘訣は、意識して他人(ひと)の良いところ、可愛いところを見つけ、「をかし」と楽しみ、「いいな」と感心すること。
70歳になったら、良い加減に生きる知恵が大切だ。周囲の人が成功しているのを見たら、たとえ心の底からでなくても、必ず言葉で祝福し、ほめてあげる。これを習慣にするのが大切だ。
70歳になったら、「キョウヨウ」と「キョウイク」をつくる。「キョウヨウ」とは、今日は用事があること。「キョウイク」とは、今日は行くところがあること。何も用がない、どこにも行くところがないと言って、家でゴロゴロしていると、すぐにボケてくる。そして、用事も行くところも、自分で能動的に発見し、取り組む。
70歳になったら、お金をいかに貯めるかではなく、もっているお金をいかに上手に使って豊かに暮らす心がけこそ必要だし、大切だ。
70歳でするべきは終活ではない。生前葬はあまり早くするものではない。高齢期という新しいステージを生きるため準備の老活をすべきだ。
与えられる毎日毎日を丁寧に生きる。自分を励まして、少し無理して生きる。これが高齢期を豊かにするライフスタイルだ。
友人だからこそ、言ってはいけないことが、たくさんある。年齢(とし)をとったからこそ、相手の気持ちを想像して、どう表現したら相手の気持ちを傷つけないで言うべきことを伝えるのか、これを工夫する。それがたしなみだ。そんな工夫ができなくなったら、たちまち老化は加速する。
人間関係はこわれもの。大切に扱わないと、すぐにこわれる。
夫婦仲良く暮らすためには、上機嫌に振る舞い、できるだけずけずけ言わないように心がける。
他人の過去も自分の過去にもこだわらないのが70歳に必要なたしなみ。気にすべきは過去ではなく、これからの日々での有言実行、約束を守ること。
わずか200頁ほどの新書版です。病院での待ち時間で読了しました。さあ、私も、こんなたしなみを有言実行して、一日一日を楽しく上機嫌で生きていくことにしましょう。
(2019年5月刊。1100円+税)

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