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カテゴリー: 人間

僕のリスタートの号砲が、遠くの空で鳴った

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 田原 照久、竹島 由美子 、 出版  高文研
うまいですね、しっくり読ませます。さすが演劇指導し、劇の台本を書いている人だけあって、若者(高校生)と教師の揺れ動く微妙な心の奥底が見事な文章となり、視覚化されています。
今まで学校で学ぶことができなかったNと、そのかたくなで攻撃的な性格のために友人に恵まれなかったIは、ともにほとんど方言を使わない。同世代との会話を楽しむ何気ない日常が閉ざされていたからだろう。
高校生が方言を使わないというのに、こんな深い意味があっただなんて・・・、驚きました。
教室に入るとき、「おはよう!」と声をかけてたとき、前を向いて「おはようございます」と返してくるのは半数ほど。下を向いたままか、あるいは顔を上げていても視線は力なくさまよっている。「引き籠もり」の若者が急増していると言われる社会現象が事実だということを彼らは教えてくれる。
高校1年生のクラス。考え方の違いがはっきりするにつれて、複雑にもつれあったり対立しながら、クラスのなかはいくつにも分裂していく。その混乱を眺めているのは少々面倒ではあるけれど、この分裂こそが高校生らしいつながりを生み出していく・・・。
夢中になるものがあると、時間の流れをとても速く感じる。まさしく、そのとおりですよね・・・。
15歳から18歳の高校生たちは、信じられないスピードで大きく変化していく。ときには、大人の予想など平然と蹴散らして、まるで別人に生まれ変わる高校生だっている。それが高校という空間のもつ不思議な力だ。
同級生から自信にあふれた存在と思われているにもかかわらず、本人の内面では自分に納得できずに自己否定を繰り返す高校生。
高校生の世界は、まさにモザイク。まさに混沌。閉じていない世界。閉じようにも閉じることのない世界。いや、むしろ、世の中との間に扉のない世界・・・。
今どきの高校生たちの置かれている社会の実際。そして、演劇を通して友人、そして自分とぶつかりあい、また自己認識を深めていく・・・。じっくり、しっくり読みすすめ、なんだかほっこりとした気分になりました。
福岡の宇都宮英人弁護士よりいただいた本です。ありがとうございました。みなさんに、ご一読を強くおすすめします。
(2019年11月刊。1600円+税)

いつもそばには本があった。

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 國分 功一郎、互 盛央 、 出版  講談社
私も本はよく読んでいるほうだと思うのですが、この二人は哲学的分野で深みがあります。とてもとても、かないません。
1996年は出版界で売り上げがピークを迎えた。この年は本の販売金額は2兆6500億円。その後は減少傾向にあり、2017年は1兆3700億円なので、まさしく半分になった。ところが、新刊点数のほうは、1996年に6万3000点だったのが、2017年には7万5000点を大きく増加している。1980年代は3万点だったから、そのころに比べると2倍以上となる。
かなり多くの人が自分の研究する分野以外の本をほとんど読んでいない。文系の大学院に行って研究しようとしている人たちがこうなのだから、本が売れないのも当然だ。
今は、自分の知りたいことしか知りたくないという傾向がどんどん強まっているのではないか・・・。
今どきの若者が新聞を読まず、ネットを見ただけで世の中のことを分かった気になっているのに、通じている気がします。
この謎を解明したい。この論点について、もっと知りたい。この思想を分かりたい。そのような欲望に突き動かされて読書することが、読書において何よりも大切なこと。
解明したい、知りたい、分かりたい、そのような欲望のなかにいて、その欲望にこたえてくれる本に出会い、それを読んでいるときの喜びは格別のものがある。その喜びをずっと感じていたいという気持ちが、読書に駆り立てる最大の要因だ。
もちろん、何かを分かりたいと思って読書をしていると、分かりたいと思う別の何かにも出会うことになる。次々と欲望の対象があらわれ、解明したい、知りたい、分かりたいという留まることを知らない欲望に捕まえられる。このプロセスの中に居続けることが、読書の理想なのだ。
これは、まったく私と同じなのです。知りたい、謎を解明したいと思い、次々に本を読みます。すると、どんどん謎は深まり、広まっていくのです。ですから、読書の幅は無限大に広がっていきます。そして、その欲望の充足感にほんのひととき浸っているのが至福の境地なのです。
(2019年3月刊。900円+税)

皮膚はすごい

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 傳田 光洋 、 出版  岩波科学ライブラリー
人間の身体がいかに良くできているか、またまた認識が深まりました。
人間の先祖であるアウストラロピテクスは全身が体毛で覆われていた。つまり、いまのように体毛がなくツルツルの肌というのではなかったのです。では、いつ体毛がなくなったかというと、120万年前のこと。体毛がなくなり、皮膚がむき出しになったことから、人間に何が起きたのか・・・。表皮を環境にさらすことで、さまざまな情報が全身を覆う表皮からもたらされるようになった。
人間の全身を覆うケラチノサイトの数は1層で200億あるので、少なくとも1000億個以上はある。これは脳の神経細胞数と同じレベル。その一つ一つが温度や圧力や電磁波などの物理現象、化学刺激のセンサーを複数もっていて、情報処理施設であり、かつ、身体や脳に指示を出す能力がありことを考えると、表皮からもたらされる環境情報は膨大な量になる。
瞬時の情報処理は、表皮とせいぜい脊髄でなされ、脳にもたらされた情報のあるものが記憶として脳に保存される。
表皮は可視光のみならず、紫外線から赤外線まで感知できる。音については、耳の限界、2万ヘルツを超えた超音波まで感知できる。表皮は大気圧を感じ、酸素濃度を感知し、地球の磁場程度の弱い磁気も感知し、電場にも応答する。
人間は、本来、自分の身体を守るためのものだった表皮から体毛をなくし、あえて外界にさらし、世界を、そして宇宙を知る装置に変えた。いわば、皮膚を世界に宇宙に向けて開放したと言える。
人間の皮膚やトマトの皮の表面は、死んだ細胞が重なって出来ている。
人間の皮脂には、水をはじくスクワレンという脂質が入っている。
人間の皮膚にいちばん似ているのはカエルの皮膚。
激しく運動したあと、身体を冷やすために汗をかくのは人間と馬だけ。
人間が体毛を失ったことの結果なのか、それを目的として体毛をなくしたのか、それも知りたいと思ったことでした。とてもとても知的刺激にみちた本です。
(2019年9月刊。1200円+税)

秋元治の仕事術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 秋元 治 、 出版  集英社
私は、『こち亀』を読んだことは1回もありませんが、それが毎週連載を40年間も続けていた人気マンガだということは、もちろん知っています。
その著者が40年間も休まずに毎週連載を続けられた理由を大公開した本です。
読んでみると、著者の才能が大前提ではありますが、なるほどと思うことばかりでした。
マンガの世界は先のことが予想できない。突然、終わりを迎えてもおかしくない。そこで、とにかく面白いものを描き、1回1回、乗り切っていくことだけを考えてやってきた。先のことまで考えない。変化を恐れず、常に新しいネタを仕入れ続けてきた。
好きなことだけをやってきた。仕事を苦痛だと思ったことは一度もない。
漫画家はネタを考えるのが仕事の根幹。ネタを考えるのが不得意な人は、漫画家には向いていない。
漫画家はリスキーな職業なので、深く考えることができる人なら、まず選ばない道。
何事もなかったかのように、変化なくずっと毎日続ける。これこそが集中力を持続させるコツ。いつまでもくよくよ悩まず、ある程度悩んだら、さっと切り換えて次に行く。
『こち亀』のレギュラー連載は、十分なストックをもっていたので、落ちるというピンチを感じたことはなかった。
この書評も20年近く続けていますが、この間、1日たりとも切れていません(ときに飛んだのは、アップ担当者が急に休んでしまったからで、私が原因なのではありません)。
そのためのスケジュール管理を厳密にやっている。時間は、自分から積極的に生み出さないといけない。1本の『こち亀』に初めは7日間をかけていたが、6日間に短縮し、5日間で仕上げるというペースを確立した。
仕事をするのは朝9時から夜7時まで。昼と夕には食事のための休憩時間を1時間ずつとる。残業はなるべく少なくし、徹夜はしない。社員も、きちんと休みをとり、タイムカードで出退勤管理をしている。
著者は午前2時までには就寝し、起床は7時半。このようにして時間をきちんと守ると、社会的つきあいもできるようになる。
ギリギリの仕事はしない。原稿はいつも早めに担当者に渡す。
ながら族で仕事をする。マンガを描くときにはFM放送(ラジオ)を流しっぱなしにしている。ラジオから、新商品の情報や最新のニュースが頭に入ってきて、次のマンガのネタになっていく。
ネットでの評価は見ない。そしてつまらない批判は無視する。ファンレターは読む。
本屋には気分転換をかねて出かける。
眠いときは、無理をせず、しばし仮眠をとる。健康を保持し、仕事を続けるための一番の特効薬は、悩まないこと。
私より4歳だけ年下の著者ですが、私の考えと著者のやっていることに共通するところが多く、大変共感を覚えました。180頁あまりの本ですが、立派な仕事術がぎっしりの本ですので、あなたにも一読をおすすめします。
(2019年8月刊。1200円+税)

極北のひかり

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 松本 紀生 、 出版  クレヴィス
1年の半分をアラスカで過ごし、厳寒のなかで動物やオーロラを撮影する写真家の体験記です。
クマを用心し、蚊の大群と戦い、猛吹雪に耐える生活です。ところが、日本では写真を撮らないという徹底ぶりにも驚きました。
この本を読んで、クマよりも寒さよりも、何より蚊との戦いこそが、もっとも大変だと想像しました。アラスカに発生し生息する蚊は、なんと17兆匹。これはアラスカの総人口の2400万倍だ。
蚊をおびき寄せるのは、汗、体温そして呼吸。テントの真上5メートル付近の空洞が黒く染まり、揺れ動くほどの蚊の大群にテントは包まれる。外で用を足そうとして下半身をむき出しにしたら蚊の格好の餌食となる。うひゃあ、これはたまりませんね・・・。
蚊の対策はネットで頭を覆う。そして、アメリカ陸軍が開発した薬(ディート)を使う。
蚊はカリブーにも襲いかかる。カリブーが蚊にやられて衰弱していく。
食事は、朝も夕も同じ、豆雑炊。異なるのは、ふりかけの種類だけ。なぜ、豆雑炊なのか・・・。軽量で安価。腐らないので長期保存できるうえ、あっという間に調理できる。そして、匂いを発しないので、クマを誘引することがない。
アラスカのキャンプは食事を楽しむ場ではない。そう割り切る。いい写真を撮るためにここにいるのだから・・・。
クマ対策として、食料専用のテントを生活用テントから100メートルほど離して設営する。そしてクマよけの電気柵で取り囲んでおく。
いやはや良い写真を撮るためには大変な努力が、そして工夫と忍耐力が求められるのですね。おかげで、自宅でぬくぬくとしながらオーロラのすばらしい写真をみることができるわけです。ありがとうございます。
(2019年4月刊。1600円+税)

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