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カテゴリー: 人間

アロハで猟師、はじめました

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 近藤 康太郎 、 出版 河出書房新社
東京は渋谷の生まれ、夏はいつでもアロハ姿の新聞記者が、どこをどう間違ったのか、九州は長崎・諫早そして大分・日田で仕事をしながら、百姓として米づくりに挑戦し、さらに猟師になり、罠師になったという抱(捧)腹絶倒の展開です。
まずは農業。朝の1時間だけで、自分1人が1年間に食べるお米をつくるという計画を立てた。田起こし、代(しろ)かき、田植え、稲刈り、脱穀、そのすべてを人力でやってみせよう。男1人の1年分のお米なら、2畝(せ)あれば十分。2畝は1反の5分の1なので、25メートルプールの4分の3ほど。2畝の田だと、田起こしはテーラーを使えば30分ですんでしまう。でも、人力だけでやるとなると、毎朝1時間なら、9日間かかる計算だ。それにしても大変な重労働だ。
私も庭にジャガイモやサツマイモを植えたりしていますから分かりますが、まず腰をやられてしまいますよね…。土いじりは楽しいものですが、ともかく身体がすぐ悲鳴を上げてしまうほど大変なんです。
そして田植え。人力田植えとは、「触覚、視覚、聴覚、味覚を動員する感性の力作業」。
ともかく農作業は腰がやられます。私の父も、百姓をしたくなかったのは、腰を痛めるからだと言っていました。まったく同感です。
そして、著者は次に鴨撃ちのために銃猟の免許をとったのです。鴨は耳のいい動物。軽トラが停車しただけで、はや警戒レベルはマックスになる。
鴨は、メスが撃たれると、コガモのオスは戻ってくる。逆はない。
鴨撃ちに上達するつもりなら、ノートにとって記録しておくべき。日付、天候、場所、逃げていった飛行コースなど…。
安心しきっている鴨にこっそり近づき、逃げるコースをつぶして撃つ。これが堤での鴨の猟だ。撃っても回収できないような場所では、そもそも撃つべきではない。回収しない、食べない猟師は、下の下。
鴨は勇敢な動物。いち早く危険を察知し、敵を発見する。発見したら逡巡せず、すぐに回避行動に移る。
動物は「死」を知らない。「死」という概念がない。
鴨猟は、鴨がこちらを見つけるのか、こちらが鴨を見つけるのか、どちらが早いかで勝負は決まる。高速で飛来する鴨を撃ち落とすのがまず至難の技だが、せっかく撃ち落としたとしても、その鴨を探しあてるのは、弾を当てるよりもずっと難しい。鴨を撃つ場所となる堤を探すのが猟の入口で、出口は「精肉」。探し出した獲物を、きれにさばいて、おいしく料理して、骨の髄まで残らずいただく。大切なのは、なるべく水で洗わない。こまめに布巾で血をふき取る。猟場にカラ薬莢を残さず、羽をむしるなんてこともしない。
罠にかけて猪をとる。猪は運動能力が高く、強い。そして、賢くて、きわめて用心深い。猪は地面の臭いに敏感なので、罠師はシャンプーを使わず、長靴も履き替える。タバコを吸うなんて、もってのほか。
うまい肉をとるための三大ポイント。血抜き、はら抜き、熱抜き。肉のくささは血の臭い。血抜きは重要。茶わん2杯分の血を出す。はら(内臓)抜きを手早くすませて、内臓が熱をもって発酵しないようにする。
いやはや、まさしくとんでもない変人ですが、これで現役の新聞記者としてつとまるというのですから、世の中は意外なことばかりで、面白いのです。
(2020年5月刊。1600円+税)

大地よ! 宇梶静江自伝

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 宇梶 静江 、 出版 藤原書店
日本は単一民族だなんて、アベ内閣の大臣が今なおヌケヌケと放言するのですから、たまりません。北海道にアイヌ民族がいることは厳然たる事実であり、今では法律でも認められているものなのです。
2019年4月、アイヌ新法が制定され、国としてアイヌを先住民族として認めた。
明治32年(1899年)に制定された「北海道旧土人保護法」では、アイヌは「旧土人」とされていたが、100年後の1997年にアイヌ文化振興法が制定されて、「旧土人保護法」は廃止された。
北海道には2万4千人のアイヌがいて、東京にも5千人のアイヌが暮らしている。しかし、半数はアイヌと名乗っていない。アイヌの実態調査(東京都)の1回目、1974年(昭和49年)には700人弱のアイヌ人が回答したが、1989年(平成1年)には2700人に増えた。
この本の前半は、自伝ですから、当然のことですが、その生い立ち、両親と兄姉たちのことが語られています。両親とも文盲だったようです。著者は、そのなかでなんとか学校に行き、本を読めるようになり、ついには詩人としてデビューしたのでした。
生い立ちのなかでは、アイヌの人々の貧しさがとことん語られています。そのなかで姉たちが奉公に出て、結婚し、苦労して若くして病気で亡くなっていくのでした。
アイヌであるがための差別で苦しめられていますが、著者は、くじけることはありませんでした。そして、敗戦の年、著者は12歳。学校には、ほとんど行っていません。それでも20歳で中学校に行くのです。そこは、札幌の北斗学園という、お嬢さん学校でしたし、7歳も年長ですから、差別は受けなかったようです。
その後、東京に出て喫茶店につとめ、結婚し2人の子どもをもうけ、詩を書きはじめました。壷井繁治が著者の詩に注目したのでした。『二十四の瞳』の壷井栄の夫である詩人です。
そして、朝日新聞に1972年、アイヌとして叫びをあげたのでした。いやはや、たいした行動力です。
アイヌの踊りにリハーサルなんかない。著者の「エッサホイ、エッサホイ」という掛け声にあわせて即興で踊る。アイヌの音楽は手拍子と掛け声。すべて即興。お祈りの儀式やセレモニーが終わったあと、唄って踊る、跳ねる。すべて即興。アイヌは、「ホレ、ホレ」、(おいや、うれしいな、ありがとうカムイ、聞いていますか、私はこうして生きています…)と即興で歌う。
アイヌには見世物のような唄や踊りはない。ともに喜びを分かちあうためのもの、カムイが喜んで、自分も喜ぶ、そうするために唄い、踊る。
1975年ころ、著者43歳、福生(ふっさ)市にある「ゴーゴー喫茶」に誘われて行った。客は、ロック・ミュージックのリズムに乗って、ゴーゴーを踊っている。すると、著者の身体に眠っていた何かが急に目覚めたように、得も言われない衝撃に駆られた。自然に身体が動く。気がつくと、音楽に反応して、踊っていた。アルコールの飲めない著者はコーラを飲んだのみ。夢中で身体を動かし、リズムをとっている。その夜は、一晩中、踊り続けた。
なあるほど、そこが違うんですね…。身体の奥深くで反応するものがあるので、リハーサルなんて、必要がないというわけです。
1933年に生まれの現在87歳。ひき続き元気にお過ごしくださいね。アイヌの人々の実際を知ることのできる、いい本でした。
(2020年6月刊。2700円+税)

なぜ僕らは働くのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 池上 彰(監修) 、 出版 学研
マンガを主体としながらも、きちんとした文章で子どもたちが人生の選択を考えるうえのヒントが満載の本だと思いました。
私自身は、大人になったら何をしようか、とか考えたこともありませんでした。野球選手だとか考えたこともありません。だって、スポーツはおつきあい程度でしたし、歌は音痴ですし、せいぜい本を読むのが好きなだけでした。
ずっと学級委員長もやってましたけれど、別に世話好きではありませんので、政治家なんて考えたこともありません。学者もそんな能力が自分にあるとは思えませんでした。だから、無難なところで公務員(官僚)にでもなるしかないかなと思ったのでした。
小学生のなりたい職業ランキングが1990年には男子は野球選手、警察官、おもちゃ屋さん、女子は保育園の先生、お菓子屋さん、学校の先生でした。それが2018年には、男子は野球選手、サッカー選手そして医師になりました。4位にゲーム制作そして6位にユーチューバーが入っています。女子はパティシエール、看護師、医師となりました。有資格者が増えて堅実な傾向です。
時代が変わると、仕事も変わるのですね。
AIと仕事の関係も考えられています。でも、AIに奪われる仕事ばかりではありません。AIにまかせられない仕事として、精神科医、国際協力専門家、作業療法士、カウンセラー、はり・きゅう師などがあがっています。私自身は弁護士もカウンセラー的な要素をふくめてAIにとって代わられることはないと確信しています。
仕事がうまくいく人は、好奇心がある、持続性がある、柔軟性があるとされています。私も、この三つをもち続けたいと考えています。
そして、楽観性があり、冒険心があるのも大切だとしています。まったく異議ありません。
お金だけが人生ではない。まったくそのとおりです。
本を読む(読書)は、自分とも対話している。著者と対話するだけでなく、自分はどう思うかなど、自分との対話もしている。この2つが心のなかに生まれるので、人の精神が成長する。
とても読みやすいので、中学生にはぴったりの本だと思いました。
(2020年6月刊。1500円+税)

40人の神経科学者に脳のいちばん面白いところを聞いてみた

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 デイヴィッド・J・リンデン 、 出版 河出書房新社
この本を読んで、私たちの脳についてさらに新しい知見を得ることができました。
たとえば、味覚です。いま、労災事故でアゴを負傷したため味覚を喪ってしまったという労災事故案件を扱っていますが、味覚を喪失するというのは、人生の最大の楽しみの一つである食事の喜びがないということです。なんという悲劇でしょうか…。
そして、この本によると味覚は消化にも関連しているというのです。
健康的で適切な消化を行うためには、食物と栄養素の摂取が予期され、身体が十分に準備を整えていなければならない。たとえば、胃の攪拌運動、腸の律動的な収縮、口内の唾液の分泌、血中への早めのインシュリン放出などの内分泌、栄養素を腸を通して血中に運ぶたんぱく質を増加させる分子反応など……。
脳とコンピューターを比較すると、脳の動作速度は最大で毎秒1000回の基本動作ができる程度なので、コンピューターの1000万分の1でしかない。精度の面でも、コンピューターのほうが脳より100万倍も優れている。
しかし、脳は大規模な並列処理ができるし、している。ひとつのニューロンが1000個のニューロンから入力を受け、また1000個のニューロンに出力する。こんなことはコンピューターには出来ない。さらに、脳のニューロンは、アナログの信号も使う。
他者を助けるというのは、哺乳類の基本行動だ。アカゲザルを10年間にわたって研究した結果、正常な社会的発達には、とくに同世代の仲間との社会的な触れあいが決定的に重要であることが判明した。
哺乳類であるというのは、単に身体的な問題ではなく、社会化により脳回路が形成されていなければならない。
恋愛と愛着は、私たちにとって非常に基本的なもので、生存にも非常に重要である。私たちは互いを必要とする。この世界で守ってもらうため、そして楽しみのために私たちは互いを必要とする。
人間とは何か、脳はどんな働きをしているのか、私の最大関心事です。
面白くて、一気読みしましたし、できました。
(2019年12月刊。2100円+税)

治したくない

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 斉藤 道雄 、 出版 みすず書房
日本では、精神病院に何十年も入っている患者って珍しくもなんともありません。それはフツーにあることです。ところが、イタリアでは精神病院に長く入院している患者はいないと聞きます。日本で患者が入院しているのは、退院しても居るところがないことが大きいと思います。受け入れてくれるところがないのです。
この本は、そこに果敢に挑戦している北海道の診療所のすごい話です。北海道浦河町にある「浦河ひがし町診療所」です。
開設したのは、今から6年前の2014年5月のこと。ワーカーがいなければ、精神科の患者は退院できない。ワーカーの支援がなければ、患者は退院してもまた病状が悪化し、再入院のコースをたどる。
ひがし町診療所の開設にあたって中心テーマとなったのは、精神医療をどう進めるかではなかった。患者・精神障害者の「地域での暮らし」をどう支えるか、だった。10年以上も入院していた人が、地域で生活するって、想像する以上に大変なことだ。
「金欠ミーティング」なるものがある。金欠病になったメンバーが、なぜ自分たちにはお金がないのか、どうすれば金欠とともに暮らせるのかを語りあう集まりだ。たんにお金がないというのではなく、とにかくお金を使ってしまう。分かっていながら、それでもなお使ってしまう。それが金欠病だ。
ある40代の女性は、生活保護のお金を手にすると、「使わなければいけない」という強迫観念にとらわれ、すぐにいらない洋服や雑貨を買い、すぐ金欠になる。お金がないと不安なのではなく、お金があると不安なのだ。こんなタイプの金欠病もある。
金欠ミーティングのスローガンは、逃げない、借りない、ごまかさない、だ。
嘘をつく人は、他人の嘘に敏感だ。
精神科に長期入院していた患者が退院して、町で暮らす。それが「すみれハウス」だ。
ひがし町診療所にやって来る多くの患者が求めるのは、医療技術ではなく、安心、そして楽しさだ。患者は、そんな医師に惹きつけられて外来にやって来る。
認知症を治すことはできなくても、家族を応援することはできる。訪問診療の目的は安心を届けること。医師が来る、いつでも相談できると思えば、家族は安心する。その安心が認知症の父親に伝わっていく。
依存症は、医者が一生懸命になればなるほど、再発と入院を繰り返していた。
医師が患者を、病気を丸ごと引き受けて自分の思うどおりに治療をすすめようとしても、事態は何も変わらない。
日本の精神科の入院患者は31万人。どの国と比べても突出して多い。とにかく病院に入れて出さない。
地域に退院してきた精神障碍者の居場所をつくるって、大変なことだけど、必要なことだと本を読みながら実感が伝わってきました。さて、浦河町以外にも、こんな診療所はいったい、あるのでしょうか…。
私たちにできることは、笑うこと、そして考えること。笑いは自分を支え、考えることができるようにするため。考えるのは、この自分とは、いったい誰なのか、なぜ自分はこのようなことをしているのか、あるいは出来ないのかそこにどんな意味があるのか、考え続けることだ。
なるほど、そういうことなんですね。思いのたくさん詰まった本でした。
(2020年5月刊。2200円+税)

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