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カテゴリー: 人間

老いの思考法

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版 文芸春秋
 長くアフリカ現地でゴリラと向きあい探究してきた著者の話は、どの本を読んでも参考になり、考えさせられます。
人間だけが長い時間をかけて老いと向きあう。うへー、そうなんですか…。他の動物には老いて長く過ごすというのがないのでしょうか。
 動物は基本的に繁殖能力がなくなったら死ぬので、長い老年期というのはない。
 人間社会は離乳期と思春期と老年期という三つの固有の要素から成り立っている。
介護はサルや類人猿にはない、人間に特異な行動。
人間の赤ちゃんは、ゴリラの4倍のスピードで脳が成長する。
 ゴリラの赤ちゃんは基本的に泣かない。チンパンジーもそう。というのは、ゴリラの母親は生後1年間は子どもを片時も離さず、一体化しているから。
 ゴリラの世界では、老いたオスもメスも群れを追い出されることなく、若い世代から敬われて暮らす。ゴリラの子育てはオスの役目。思春期を過ぎても、子どもたちはオスのシルバーバックに頼り続ける。この親密な関係が老いたシルバーバックを敬い従うことにつながっている。
 ゴリラのオスは、子育てすると、ものすごく優しくなり、体つきも変わる。優しさと威厳が同居している構えになる。重要なことは子どもに頼られること。子どもに頼られるようになって、ゴリラは初めて父親らしくなる。乳離した子どもたちの安全を守り、子どもたちを仲良くさせて社会勉強させるのは父親の仕事。
 ゴリラのメスは、子どもの世話や保護のできないオスには見向きもしない。オスがメスに気に入られる大きな条件は、子どもを守り、世話をすること。
 父親に育てられた息子たちは、成長して力が強くなっても、決して父親を粗末に邪険に扱うことはなく、見捨てることもしない。なるほど、これは人間の子育てにも言えますよね。
 高齢者が本領を発揮できる美徳は仲裁力にある。
 ゴリラは非常に優しい動物だ。ゴリラは獰猛(どうもう)どころか、戦いを避けようとする。胸を叩くドラミンゴは宣戦布告ではなく、自分は対等な存在だという自己主張。
ゴリラは「負けない」。負けるというポーズがない。双方ともメンツを保ったまま、対等な関係を維持する。
人間は1~2年で離乳するけれど、ゴリラは3~4年、チンパンジーは4~5年、オランウータンは7~8年も授乳する。人間の赤ちゃんが泣くのは、面倒をみてほしいという自己主張。
 ボケには効用がある。自由な遊び心は老人の特権。
進化の過程のうち、ほとんどの時期は言葉を使っていない。言葉は脳を大きくした原因ではなく、結果なのだ。
 動物園のゴリラは、うつになることがある。人目にさらされすぎるからだ。
 サルに猿真似(サルマネ)はできない。学習して真似る、まねぶことが出来るのは人間だけ。
 ゴリラはお腹で笑う。ゲタゲタゲタと豪快に笑う。
 ゴリラは、みんなで分かちあった食べ物を、お互いにちょっと離れて、仲間で一緒に食べているときが一番満足しているとき。このとき、幸せそうに、ハミングを奏(かな)でる。
 人と人との直のつきあいのなかに自ら入っていくことが、人間の根源的な安心感につながる。いくつになっても家にひきこもらず、毎日5人に会うこと。毎週15人に会おう。もちろんスマホ(インターネット)ではなく、対面コミュニケーションで…。そうなんですよね。スマホを持たない私も共感するばかりです。
 後期高齢者の私にも大変勉強になりました。
(2025年3月刊。1650円)

サルとジェンダー

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 フランス・ドゥ・ヴァ―ル 、 出版 紀伊国屋書店
 小学4年生と1年生の孫がいます。どちらも男児です。見るからに元気モリモリで、いつだってエネルギーにみちあふれています。おとなしくお人形さんで遊ぶなんてことはありません。二人での取っ組みがケンカに発展するのはザラです。
類人猿の男の子たちの尽きることのないエネルギーには舌を巻く。はね回り、ものに飛び乗り、飛び降りる。取っ組みあって、顔中で大笑いしながら地面を転げ回り、互いに激しく攻撃を加える。熱狂的なまでに乱暴で騒々しく活力を見せつける。
これに対して、類人猿の女の子たちは、そんな男の子たちを見ても寄りつかないで、他の遊びをする。
 霊長類の女の子は、赤ん坊に心を奪われる。男の子よりもはるかに強い関心を示す。子を産んだばかりの母親を取り囲み、赤ん坊に近づこうとする。子育てのトレーニングをすると、あとで子どもを産んだとき、授乳したり、守ったり、運んだりして育てるのに役立つ。
 チンパンジーは、シロアリの巣に小枝を差し込んでシロアリを釣って食べる。その様子を娘たちは熱心に母親を見守る。女の子は、こうして、どういうものが適切な道具になるかを学ぶ。ところが男の子は自分を頼みにし、母親の手本はそれほど重視しない。息子たちは、母親の手本の影響は受けない。
 男女間の違いは、白か黒かのように、はっきりしているわけではない。他のオスほどオスらしさを示さないオスがいつもいるし、お転婆なメスも必ずいる。
 チンパンジーのなかにも、地位をめぐる駆け引きをしない男が必ずいる。筋骨隆々の巨体をしていても、対決はせず、身を退(ひ)く。トップにのぼり詰めることはないが、最下位に沈むこともない。難なく自分を守ることができるからだ。それでも他の男たちからは無視される。危険を冒す気のない男は、上位者に挑むとき何の助けにもならない。女たちも、こんな男には関心を示さない。男や他の女に嫌な目にあわされたとき、守ってくれそうにないからだ。そのため、支配欲のない男は、比較的おだやかではあるものの、孤立した生活を送ることになる。
 チンパンジーの男社会って、まるで人間社会そのものですよね。著者は、チンパンジーのオスにはなりたくないと言います。
類人猿の女は、セックスに積極的で、さまざまな男と交尾しようとすることが多い。
 チンパンジーとボノボは、ともに気安くセックスする。イルカとボノボは、両方とも、絆(きづな)づくりや平和的共存のために頻繁に生殖器を刺激したり、性的な愛撫をしたり、交尾そのものをする。
 チンパンジーの青年期の女は、オレンジやマンゴーのような色鮮やかな果物を押しつぶし、肩にのせて自体の身体を飾りたてる。
 霊長類の群れは、禁じられた性行動であふれている。密会のとき、チンパンジーの女は、交尾のクライマックスでも声を上げない。
鳥類学者がDNAを調べると、父親の違う卵がたくさん見つかった。鳥のメスたちは積極的に第三者を追い求めている。
チンパンジーの女は、自分の意見に反するセックスはしない。チンパンジーにレイプ(強姦)はありえない。
 チンパンジーでもボノボでも、女たちの集団的な権力は男をはるかに上回る。
 男の子には青、女の子にはピンクというのは、衣料業界とおもちゃ業界によって作り上げられたもの。かつては、逆転していた。1981年の雑誌は次のように書いている。
 「ピンクのほうが、はっきりした強い色で、男の子にふさわしい。ブルーは、繊細で優美であり、かわいらしいから女の子に向いている」
 これが逆転したのは、最近のこと。いやはや、驚きましたよ…。常識って、変わるものなんですね。
 チンパンジーの男たちは、日和見(ひよりみ)主義で、連携の形成と解消を繰り返す。最大ライバルでさえ、将来の盟友になりうるし、盟友が最大のライバルにもなりうる。彼らは、あらゆる選択肢を残しておく。チンパンジーが「政治をする」という事実を、私は著者の本によって知り、大変な衝撃を受けたことを思い出します。
 優しくて平和的な女というのは錯覚であり、崩れつつある。とはいっても、チンパンジーの女たちはみな、自分の家族に尽くすし、忠実な友だちも2、3人はいて、彼女たちは、こうした関係を守り、対立を避けている。
 ボノボの女たちは、連帯して男の過剰な暴力を抑えこむ。女どうしの絆は、彼女たちにとって決定的に重要。なので、彼女たちは、多くの時間をグルーミングに費やす。
 著者は私と同世代(1948年生)ですが、残念なことに2024年3月にガンで亡くなっています。1泊の人間ドックのとき、病室に持ち込んで一生けん命に読みました。大変勉強になりました。
(2025年3月刊。3200円+税)

アンパンマンと日本人

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 柳瀬 博一 、 出版 新潮新書
 日本の幼児の一番好きなキャラクターは、なんといってもアンパンマンです。孫たちもアンパンマン大好きでした。小学生になったら卒業してしまいましたが…。
アンパンマンの絵本は、なんと8100万部を突破している。そして、2300をこえる豊富なキャラクターもいて、アンパンマン関連の市場規模は累計600億ドルに達する。全国に5ヶ所あるアンパンマンミュージアムの年間入場者は300万人以上。日本の乳幼児中心なのに、ビジネス規模は年間1500億円で、世界6位を誇っている。
やなせたかしは、1919年生まれで、アンパンマンを生み出したときは54歳、テレビアニメのときは69歳だった。
 アンパンマンは、冴(さ)えない中年男として登場した。はじめは大人のメルヘンとして描いたもの。アンパンマンは平成以降のヒーロー。なので、私の子どもたちのころにはいなかったのです。
今や、子育てを助けてくれる最高のヒーローになっている。1~3歳の支持率は圧倒的。アンパンマンは、子どもたちだけでなく、親からも信頼されているのが、最大の強み。
 アンパンマンに触れ始めるのは0歳から2歳のときで、卒業は4~6歳の幼稚園のころ。
アンパンマンの客は親子一体。親の決定に委ねられている。アンパンマン映画の映画館は明るいままで、暗くはならない。アンパンマンが登場すると、子どもたち全員がピタッと泣き止み、アンパンマンの一挙手一投足にクギづけになってしまう。アンパンマンが敵に反撃すると、「がんばれ」と声援を送る。5分に1回はアンパンマンの出番がある。映画館を出るとき、子どもも親もニコニコ満足の笑顔。
アンパンマンのキャラクターは、みな徹底してモダンなスタイルでデザインされている。そして、そのワールドは、山と川と海に囲まれた「田舎の村」。アンパンマンの世界は、シンプルな描線と影のないフラットで鮮やかな配色で構成されている。
やなせたかしは、東京高等工芸学校で商業美術つまり広告デザインを学んだ。そして兵隊にとられ、中国大陸に行っている。このとき食べるものがない。喰わないと死んでしまうという状況に置かれた。この体験がアンパンマンに生かされている。
死なずに帰国してからは、高知新聞社に入り、雑誌をつくり始めた。そして、そこで、妻になる小松暢と出会う。NHKの朝ドラの主人公です。妻の「いだてんおのぶ」は、ちょっと気が弱くて、自身のないやなせさんを励まし続けました。
 アンパンマンは常に淡々としている。増長しないし、メロメロにもならない。
3.11大震災のあと、ラジオから流れてきた「アンパンマーチ」を子どもたちが一斉に歌い出した。この話には感動しますよね。
 「何のために生まれて何をして生きるのか、答えられないなんて、そんなのはいやだ!」
 やなせたかし自身がアンパンマンだった。
 お腹をすかしている人に、自分の顔をちぎって与えるなんて、突拍子もないんですけど、子どもたちは何の苦もなく受け入れるのです。そして、パン工場でおじさんに顔を再生してもらうのです。
 いい本でした。アンパンマンを赤ちゃんが好きになる理由が、やなせたかしの人生を掘り下げるなかで納得できるのです。
(2025年3月刊。880円+税)

私と北アルプス

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 中野 直樹 、 出版 自費出版
 神奈川県の弁護士がこれまで登った山の紀行文と写真をまとめた冊子です。どうやら5冊目のようです。私はどれも登っていませんが、著者は北アルプスの山々を駆けめぐり、また女山魚などを釣っています。著者に会ったとき、山登りこそが本業で、弁護士のほうは副業程度じゃないのか…と冷やかしたことがあります。
 著者が若いころの山行きの仲間は、私からしても大先輩にあたる岡村親宜弁護士(労災・職業病の権威)と大森鋼三郎弁護士が一緒しています。30年近くも前(1996年8月)の山行きです。著者は、それこそまだ初々しい青年弁護士です。いかにも元気溌剌で、うらやましいです。
 岩魚(イワナ)釣りの旅でもありました。イワナは、毛バリで釣り上げています。釣りのエサになる川虫を見つけるのは大変だったようです。師匠の岡村弁護士は板前として、イワナ寿司、イワナのムニエル、イワナ刺身、イワナ塩焼き、イワナの燻製(くんせい)、骨酒をつくり、みんなで堪能したとのこと。いやあ、さぞかし美味だったことでしょう。
 山小屋は大混雑で夕食は入れ替え制。そして寝ようとすると大いびきに悩まされる。私も、山小屋ではありませんが、同宿者の大いびきで眠れない夜を過ごしたことが何回かあります(幸い、いつのまにか寝入っていました)。
 同行した人の登山靴が劣化して銅線を巻きつけて歩いていく情景が紹介されています。私も近くの小山を久しぶりに歩いたとき、登山靴が古くなっていて、底がパカッと開いてしまって困ったことがありました。たまに山を歩くと、こんなこともあるのですよね。
 それにしても山の雄大な写真が見事です。まさしく気宇壮大な眺めに、すっかり病みつきになっている著者の心情を理解したことでした。
 いつもすばらしい写真を送っていただいて、ありがとうございます。これからも無理なく山行き(山歩き)を楽しんでください。
(2025年5月刊。非売品)

睡眠の起源

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 金谷 啓之 、 出版 講談社現代新書
 私は眠りはいいほうです。年齢(とし)とともに寝るのが早くなりました。前は夜12時まで起きていましたが、ちょっと前に午後11時なり、今では午後10時半には布団に入るようにしています。眠ると、朝はすっきり目が覚めます。
 夜しっかり眠れないという依頼者が少なくありません。そして、借金返済のためにダブルワークして毎日4時間しか寝ていないという人がいて、心配です。また、三交代労働などで深夜労働の人も少なくありません。私はコンビニが全部24時間営業しているのも問題だと考えています。すぐに全廃できないというのなら、いくつか例外的に開けておけばいいと思うのです。
 脳のないヒドラも、ときに動きを止めて休む状態がある。眠っているような状態だ。ヒドラの睡眠をコントロールする遺伝子は、他の動物と共通している。ヒトが眠るのと同じように、脳のないヒドラも眠っている。
 ヒトの脳はとても軽く、豆腐のように軟らかい臓器で、体重の2%を占めているだけ。
 ヒトの体は40兆個もの細胞で出来ている。ヒトの脳には、1000億個以上の神経細胞が存在する。
 睡眠は、ノンレム睡眠の時間が圧倒的に長い。レム睡眠は、鮮明な夢をみることが多い睡眠だ。
 断眠は、脳のはたらきに大きく影響する。断眠させると、ラットは2~3週間で死んでしまう。断眠は脳にダメージを与えるだけでなく、全身に及ぶ。ひどい場合は死に至る。
 拷問の一手法が眠らせないというもので、効果的だといいます。
 睡眠は貯蓄ができない。
植物のオジギソウは、体内時計によって葉を開閉させている。
ショウジョウバエの2万個以上ある遺伝子のうち、時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子は体内時計に関与している。
 ヒトの体のあらゆる組織に、時計遺伝子による体内時計のしくみが備わっている。脳のなかの思考叉(しこうさ)上核と呼ばれる領域が全身の体内時計の中枢だ。
 睡眠は、睡眠圧と体内時計という二つの成分によって調節されている。
 ヒドラは老化の兆候をほとんど示さない。1400年以上生き続けている個体がいる。ヒドラが眠るというのなら、睡眠に脳は必要なのかという疑問が生じる。
 海に浮かぶクラゲは昼寝をしている。
 ナルコレプシーの患者は、発作のように突然眠ってしまう。
吸入麻酔薬は100%、必ず効く薬だ。ところが、なぜ効くのか分からないまま、今日も服用されている。また、植物にも作用する。
 眠りって不思議ですよね。意識がある状態が一瞬で不思議な世界に入りこみ、朝になると、また体が動き出すのですからね…。大いに考えさせられる新書でした。
(2024年12月刊。990円)

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