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「漢語四方山話」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 一海 知義 、 筧 久美子・文生 、 出版 岩波書店
 呉(ご)音と漢音の由来(ゆらい)と相違点。
 呉音は昔の中国の南方音で、漢音は北方音が日本に伝わったもの。
 仏教は奈良朝より前、つまり漢音が日本に渡来するより前に日本に伝わったものなので、お経は呉音で読まれてきた。したがって、仏教関係の言葉はだいたい呉音で読む。
 792(延歴11)年以降、朝廷はこれから漢文は漢音で読むようにという布令を繰り返し発した。ところが、なかなか徹底しなかった。
 たとえば、元号についてみると、大正は漢音ならタイセイで、ダイショウは呉音。昭和も漢音ならショウカであり、呉音でショウワとなる。つまり、現実には、呉・漢混同で読まれている。
生は、呉音ではショウと読み、セイというのは漢音。
 漢文の読み方は、いろいろあって難しい。捲土重来は「けんどちょうらい」と読むべきもの、ただ、「じゅうらい」と読んだら間違いかというと、そうでもない。この語句は唐の杜牧(とぼく)の詩に由来するもので、土を捲(ま)きあげ、重ね来たらんという意味。
 傍若無人を、「そばに若い人がいない」などと間違って理解されることがある。本当は、「傍(かたわ)らに人無きが若(ごと)し」と読むべきもの。つまり、世間体を気にせず、心のおもむくままに自由に行動することをいう。
 御用は、もともとは皇帝が使用するもの、という意味の言葉。明治維新のころ、官尊民卑の風潮のなかで、政府のお先棒をかつぐ新聞は、自ら「御用新聞」という看板を掲げ、それによって民衆の信用と尊敬を得ていた。ところが、自由民権運動の高まりのなかで、「御用」の価値が逆転した。それから、「御用学者」というと、軽蔑の意味が込められて用いられている。
 不夜城というのは、たとえば夜の銀座を指して使われたりする。もとは、古代中国の幻の町につけられた名前。遊仙志向の方士が架空の世界をあたかも実在するかのように語り伝えてつくり出した地名。それが、唐の玄宗皇帝のとき、夜も昼間のように灯火が明るく輝いているという意味で使われるようになった。
 「春風に坐するが如し」とは、まるで春風にでも吹かれているかのような心地よさを意味している。
 漢語について、認識を深めました。
(2005年2月刊。2400円+税)

運び屋として生きる

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 石灘 早紀 、 出版 白水社
 モロッコの北部にスペイン領の町がある。いわゆる飛び地。
 この国境地帯は、アフリカからヨーロッパを目ざす移民や難民の経由地。なので、国境には高さが6メートルもあるフェンスが3重に張りめぐらされていて、監視カメラやセンサーで警備されている。そして、この国境を毎日往来する「ラバ女」とも呼ばれる「密輸」の運び屋がいた。ジュラバ(モロッコの伝統的な民族衣装)の下に洋服を隠した女性たち。運ぶのは衣料品と食料品。
 モロッコには、運び屋が4万5千人、間接的に関わっている人は40万人いた。
 当局から暴行(性的なものも)されたり、商品を没収されたりもするが、法的な検挙はなかった。
 この本は、日本人女性が現地で体当たり取材して判明したことを紹介しています。勇気ありますね。
 モロッコは移民の送出国。モロッコ国外に住むモロッコ人は540万人(2020年)。海外に住むモロッコ人から本国への送金額は90億ドルをこえ、モロッコのGDPの7%超を占めた。
 フランスには、100万人のモロッコ人が住んでいる。
 私が30年前に南フランスのエクサン・プロヴァンス大学の外国人向け夏期集中講座を受けたときの講師も若い元気なモロッコ人女性でした。
 2015年11月と2017年8月にパリとバルセロナで起きた同時多発テロの容疑者の多くはモロッコ系だった。しかし、生まれはモロッコだとしても、育ったのはフランスであり、スペインだったのですから、モロッコにだけテロの原因を求めると、間違います。
 モロッコにいるサブサハラ移民の存在は、モロッコにとっての切り札となっている。
 運び屋のほとんどは、50~100キロにもなる商品を背中にかついで運んでいて、「密輸」であることを隠しもしていなかった。彼女らは、「自分用のお土産」を持ち帰るという建物なので、本来なら科せられるはずの関税20%を支払わず、商業輸入していた。
 この20%というのは、実に大きいですよね。ここに「密輸」ビジネスの合法的根拠があるわけです。
運び屋になるには、言語能力も特別なスキルも何も必要なく、ネットワークも不要。ただ、ビザ(責証)免除の対象となることだけが求められる。なので、現地の女性がなるわけです。
運び屋は35~60歳の貧困層の女性が中心。
モロッコの非識字率(文盲の割合)は、男性22%、女性42%(2014年)。女性だけをみると、都市部の非識字率は31%なのに対して農村部では60%超。
モロッコ社会では、運び屋は売春婦と同等の社会的地位にあるとみられている。
ところがモロッコは、2019年10月、重大な方向転換をした。長いあいだ容認してきた「密輸」を根絶すると宣言した。これはモロッコの国産品の競争力向上を目ざしたもの。すっかりなくなってしまったのでしょうか…。
モロッコにおける密輸の状況を現場に行って聞き取り調査もして、まとめた論文が分かりやすい本になっています。問題状況をかなり認識することができました。
(2024年4月刊。2800円+税)

社会を変える学校、学校を変える社会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 工藤 勇一 、 植松 努 、 出版 時事通信社
 著者の工藤さんは、東京の麹(こうじ)町中学校の校長を6時間つとめ、定年後の今は横浜の中学・高校の校長です。
麹町中学校の校長として、学級担任制を廃止して学年担任制とし、中間・期末テストそして宿題を廃止して単元テスト・再テストをセットで導入し、校則を廃止し、また数学の一斉指導を全廃しました。いやあ、すごいことです。日本でも、校長がその気になれば、今だって、これくらいの画期的な革命は実現できるのですね…。ぜひ、全国の校長先生に勇気をもって追従・普及してほしいと思います。
 「先生が教えない授業」をすると、子どもたちが自分の意思で教師に質問するようになるそうです。子どもは、言われて嫌々やれば、教師への反発する気持ちが生まれるし、サービスに慣れ切ってしまった子どもは、他力本願で自己決定ができない。逆に自分の意思でやれば、とんでもない力を発揮する。なるほど、そうなんですね。自発性が大事なんです。
 親が先回りして、どんどんやってしまうと、子どもが自分で考えたり、リスクを取って挑戦することができなくなってしまう。子どもには、どんな小さなことでも、自己決定させることが大切。  
学年担任制にすると、子どもたちや保護者が相談したい教師を自由に選べる。すると、教師へのクレームが劇的に減る。教師のほうもメンタル的に解放されて、連携しやすくなる。たしかに教師が学校で伸び伸びしていると、子どもたちへの好影響は甚大だと私も思います。
 日本は明治維新から、ずっと毎年70万人ずつ人口が増加してきた。ところが、今では毎年80万人ずつ人口が減っている。山梨県クラスが毎年一つずつなくなっているということ。これは大変なことですよね。結婚しない、子どもをつくりたくないという主要な要因の一つに、若者に収入の不安定な非正規雇用が多いということがありますよね。
 もう1人の著者の植松さんは、北海道の赤平市で会社を経営している。この会社は小さいながらも、世界的に注目されているモノをつくっている。たとえば、低電力で強力なマグネットを発明したので解体した資材の中から、鉄だけを拾い上げる機械をつくっている。そして、その業界シェアは、なんと日本一。
 また、宇宙空間と同じ微小重力状態を地球上でつくり出せる実験装置を生み出した。これは世界に3台しかない。なので、アメリカの企業も実験したいと日本にやって来る。いやはや驚きますね…。
 植松さんは、大卒理系はすぐに「それは専門外です」とかいうので採らず、高卒文系の子を採用している。その豊かな発想を大切にしているというのです。
 植松さんは、大学に入るのに「学歴」という他者評価のためだけに行くのでは、時間とお金がもったいないと考えている。
 また、宇宙のことだけをやりたいと就職希望の学生がいたら、採用しないようにしている。宇宙専門の会社ではないから…。このように、植松さんの発想は「あたりまえ」ではありません。
植松さんの会社では「ベーシック」インカムの給料制度をとっている。具体的にはどうなっているのか、知りたいところです。
 植松さんが従業員を選ぶ基準は、雑談が弾(はず)む人、いい文章が書ける人である。
 国立大学の学費が再び値上げされようとしています。年に10万円も値上げするというのです。とんでもないことです。政府はオスプレイやトマホークを購入するのを大胆カットして、その分を教育・福祉にまわせば、値上げなんかする必要がないどころか、学費をタダにできるのです。すべては自民・公明の間違った軍事予算偏重政策のせいです。
 子どもにもっと「投資」すべきだし、豊かな発想を育てる環境を大人はつくりあげるべきだと、改めて痛感しました。
(2024年3月刊。1800円+税)
 庭のジャガイモを掘り上げました。今年は不出来じゃないかと心配していましたが、まあまあの収穫ではありました。
 でも、大きいのは赤い細い虫が食い込んでいて、中くらいのと小さいのばかりで、昨年ほどはとれませんでした。
 ポテトサラダは最高です。とはいうものの、私は「食べる人」なので、何でも美味しくいただいています。ブルーベリーがもう少しで食べられそうになっています。
 ノウゼンカズラの橙色の花が咲きはじめました。
 朝顔のタネをまいたら、少しずつ芽が出ています。夏の朝には、真紅の花がよく似合います。

デンマークにみる普段着のデモクラシー

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 小島文ゴート孝子 、 澤渡夏代ブラント 、 出版 かもがわ出版
 デンマークに長く住んでいる日本人女性2人が身近なデモクラシーを語っています。
 2人ともデンマーク人男性と結婚し、子どもたちはデンマーク国籍ですが、女性は日本国籍のままです。
 多数決でものごとを決めることをデモクラシーと考えている社会や人びとが多いが、それはあくまでもデモクラシーの一片に過ぎない。デンマークのデモクラシーは、ある意味、真逆で、いかに少数派の意見をよく聞き、汲み取り、反映できるかをとことん話し合い、考えてものごとを進めていくことだ。そのプロセスがデモクラシーであり、どうしても話し合いで解決策が見出せないときの最後の切札が、多数決だ。
いやあ、まことに正論です。今の日本の国会のように、まともな議論もせずに、ただひたすら多数決で押し切っていくというのは、デモクラシーでも何でもありません。今の自由民主党には、少なくとも「民主」、デモクラシーの名称を使う資格はまったくありません。
 2人の日本人女性がデンマークで長く暮らしていて常々思うことは、デンマークの女性が仕事面でもプライベート面でも、自立し、力強く、イキイキしていること。
どうでしょうか、日本の女性は…。もちろん、自立し、力強く、イキイキしている女性も決して少なくはありません。でも、まだまだ多くの女性が、自立しきれず、誰かに頼りがちで、その日暮らしをしているように思えてなりません。その一つの指標が投票率の低さです。
 デンマークでは、医療・福祉分野における女性の割合は85%、教育分野では60%を占めている。女性の就労率は76%(2019年)。たいしたものです。賃金の男女格差も小さいと思います。
 デンマークでは、学校運営にあたる理事会には、生徒代表も加わっている。
 デンマークには、学校選挙という14~17歳のための疑似選挙プログラムがある。2021年の学校選挙には全国750校の「中学生」8万人が参加した。そして、この投票の結果は、テレビで実況中継される。
 これは政治参加を体験できるものとして、日本でもぜひやってほしいです。
 デンマークでは、青少年国会が2年に1度開催される。そして、子ども市議会もあります。デンマークでは、中学生からアルバイトするのは普通のこと。性教育は高校でも実施されています。
 デンマークでは、教育は国の投資と考えられていて、大学をふくむすべての公立教育機関の学費に自己負担がない。留学するときも、国費留学のときには、大学相互で費用をカバーする。
 デンマークでは、政治は国民の生活に直結した、身近なものに感じられている。
 デンマークでは、教育も医療も無料で受けられるし、安心して暮らせるので、高い税金であっても払うのは当然と考えている。
 私の大学生のころは、学費は月に1000円、年に1万2千円でした。それが今では国公立大学でも50万円とか100万円です。信じられません。あの欠陥オスプレイやトマホークを買うお金を教育予算にまわしたら、日本でもすぐに実現できることなんです。つくづく日本には民主(デモクラシー)がないと、怒りすら覚えます。
(2023年6月刊。1700円+税)

流出する日本人

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大石 奈々 、 出版 中公新書
 海外移住の光と影というサブタイトルがついています。
 最近は聞きませんが、少し前までは退職して年金生活者になったら、物価の安い東南アジアの国に移り住んで優雅な生活を送っている日本人高齢者がいるというのがニュースになっていました。でも、コトバも生活習慣もまるで違い、何より身近な友だちもいないなかで、何を楽しみに生きていくことになるというのか、私にはまったく想像できない話でした。
 通産省は「シルバー・コロンビア計画」なるものをすすめていたのですね。オーストラリア、カナダ、スペインなどに、退職した日本人の移住者村を建設して、老後の海外生活を支援する計画でした。でも、「老人輸出」とか「棄民計画」と批判されて頓挫してしまいました。当然です。そんなものがうまくいくわけがありません。思いつきで良いことは何ひとつないのです。  
日本人の海外移住は52万人。アメリカに41万5千人、中国に10万人強、オーストラリア10万人、カナダ7万人、タイ7万人。そしてアメリカには20万人以上の日本の永住者がいる。
海外移住するのは、女性のほうが多い。カナダでは8割近いし、オーストラリアでも7割が女性。
日本人の帰化率は5割に達しない。中国は7割、インドは8割近いのと対照的。
日本人の大卒率で海外に永住するのを希望するのは25%。
この40年間に、ワーキングホリデー制度を利用した日本人は50万人以上。
この30年間に、20万人の日本人女性が国際結婚によって海外へ流出した。
離婚をきっかけに単身で海外に出る日本人女性もいる。ただ、海外に移住したあと、クレ被害者となった女性も少なくなく、帰国したくても帰国できないというケースもある。
海外で暮らすことのメリットとあわせてデメリットも考えておく必要があることがよく分かる新書でした。
(2024年3月刊。840円+税)
 久しぶりに筑後川でしかとれないエツのフルコースをいただきました。刺身は、叩きみたいにしてミソだれで食べます。塩焼き、煮つけ、天ぷら、つみれ(団子)、どれも美味しく、すっかり満腹となりました。
 目下、6月中旬のフランス語検定試験(1級)を目ざして猛勉強中です。過去問が1995年からありますので、30年も受験していることになります。残念ながら、成績は低下する一方で、最高で5割近くまでいった(6割で合格)のですが、今や4割もとれず、3割ほどでしかありません。ボケ防止のつもりで、がんばっています。

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