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「モディ化」するインド

カテゴリー:インド

(霧山昴)
著者 湊 一樹 、 出版 中公選書
 この本を読んで、インドのイメージをすっかり考え直しました。インドは教育大国で、優秀な頭脳をもつ著者を日本を含めて世界中に送り出していると思っていました。それ自体は間違いないのですが、インドの圧倒的多数の子どもたちが十分な教育機会を与えられていないというのです。深刻な格差と教育システムの欠陥によります。そして、14億人をこえて、中国を抜いて世界一の人口だと言われるものの、2011年に国勢調査したあとはなく、正確な人口統計はないとのこと。驚きました。
 イスラム教徒はインドの全人口の14%を占めているのに、あからさまなヘイトや直接的暴力によって、イスラム教徒を社会生活から排除して、「2等市民」に追いやるような差別的法律をモディ政権は次々に制定している。
 インド経済は、コロナ禍の下での、突然の全土封鎖(2020年3月に始まった)により、大きな打撃を受けた。農村部は疲弊し、雇用不足が深刻化している。また、若者のあいだで雇用不足が深刻になっている。著者は雇用の安定を求めて、公的部門に殺到している。
 インドがロシアとの関係を重視しているのは、兵器の調達先としてロシアに大きく依存しているから。
 モディは、人の意見を聞かず、独断専行で物事を進め、派手な行動で注目を集める傾向が昔からあった。2020年2月末から数ヶ月もモディが州首相となったグジャラート州で多くのイスラム教徒がヒンドゥー至上主義組織によって虐殺された(グジャラート暴動)。このとき、モディは、人々に手静を保つように呼びかけるどころか、イスラム教徒への敵愾(てきがい)心をかきたてるような言動を繰り返した。そして、自らの責任を認めないばかりか、遺憾の意を表明することもなく、釈明もしなかった。
モディを支持するゴータム・アダニの資産は9年間で80億ドルから1370億ドルにふくれあがった。2022年だけで、720億ドルを稼いでいる。
 「モディ旋風」はインド全部で吹いたわけではない。インド全体では3割ほどの支持でしかない。
 グジャラート州は、学校への子どもの出席率、子どもの栄養不良、予防接種率のいずれでもインド全体の数値を下回っている。
モディ政権は、都合の悪いデータを隠し、改ざんしている。モディという一人の政治指導者が絶対的な権力と圧倒的な存在感を誇っている。まるでワンマンショーの世界。
 これって、中国における習近平政権と似ているというか、そっくりですよね。
 モディ首相は、記者会見を開かないし、記者からの質問を受けつけない。メディアの個別インタビューは、モディが一方的に自説を述べるだけの場。
 そして、モディ政権に批判的なジャーナリストに対して集中砲火をたきつけるため、モディは、SNSを活用している。
 コロナ禍に対してモディ政権は2020年3月25日から3ヶ月、全土封鎖に踏み切った。これは事前準備も周到な計画もないままトップダウンによって突然はじまった。この全土封鎖は、インド経済を直撃した。モディ政権は、大規模な選挙集会や宗教行事を規制しなかったので、コロナ感染の拡大をむしろ助長した。
 中国からインドへの輸入は増え続け、貿易面での中国への依存は、むしろ深まっている。
 モディ政権は、貧困層に対して、政策的に無関心。モディ政権は、個人支配型統治と専門知識の軽視が特徴。
 突然の雷雨のため、福岡空港で2時間も飛行機のなかに閉じ込められたときに一心に読みふけった本です。インドと中国、そしてロシアに大きな共通項があると思いました。ご一読を強くおすすめします。
(2024年5月刊。1980円)
 またぞコロナ禍が広がっています。どうしたことでしょう。私の身近な人が何人も発症しました。ワクチンを6回うったのに、コロナに2回かかったという人もいます。軽症の人が多いようですが、なかには重症の人もいるそうです。
 そして、信じられないほどの炎暑の毎日です。熱中症で次々に倒れる人がいます。私の孫2人も次々に熱中症にかかりました。幸い、早く寝たら、翌日には軽快しました。地球環境がおかしくなっているようです。気をつけましょう。

ノルマンディ戦の6ヶ国軍

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ジョン・キーガン 、 出版 中央公論新社
 映画「史上最大の作戦」をみたのは、私が高校生のころだったでしょう。圧倒的なスケールの戦闘場面には、まったく度肝を抜かれました。最近では、映画「プライベート・ライアン」です。あたかも観客にすぎない私自身が戦場の真っ只中に置かれているかのような迫真性がありました。
 ナチス・ドイツ軍を率いる砂漠の鬼・ロンメル将軍が鉄壁の陣地で待ち構えているところに突撃・突進していく連合軍兵士はどんなに心細かったことでしょう。そして、部下を死地に追いやった総司令官のアイゼンハワー将軍は万一、敗れたときに備えて早々に挨拶原稿まで用意していたそうです。
 ところが、「鉄壁の陣地」のはずのドイツ軍は、実はそれほどでもなかったのです。「軍事の天才」を自称するヒトラーがノルマンディーではなく、もっと東側に上陸してくると思わされていたことにもよります。ヒトラーは「天才」でもなんでもなく、ただの狂人でしかなかったのです。
 それにしても、当時は天候の予測はかなり難しく、まさかこんな悪天候の日に上陸はないと確信してロンメル将軍をはじめ、何人もの高級司令官たちが現場を離れていました。
 そして、現地からの報告を受けたドイツ軍司令部は「陽動作戦」だと信じていたので、対処が遅れたのでした。
 この本を読んで、連合軍のグライダー部隊が「お粗末」だったことも知りました。敵(ドイツ軍)の背後、奥深いところに連合軍兵士を大勢送り込むはずだったのです。でも、現地上空で厚い雲に覆われて、目標を見逃します。そのうえ、グライダー操縦も機材も、不十分だったのです。1590機の兵員輸送機のうち、440機が大破したか撃墜されました。これはひどい損耗率ですね…。
 ドイツ軍のレーダー探知を逃れるため、高度150メートルを30分間も飛び、いったん高度460メートルに上昇して目標地を視認し、さらに高度120メートルで目的に接近していったのです。
 パラシュートが故障したら、どうなるのか…。その恐怖心に備えて、アメリカ軍は予備のパラシュートをもっていたが、イギリス軍にはなかった。
 降下員たちの4分の1は、捻挫か骨折をしていた。各師団で、3000人以上の兵士が行方不明または死亡した。これまた、すごい高い損耗率ですよね…。
 ノルマンディー上陸作戦に参加したカナダ兵5千人のうち、生存者は4割の2千人しかいなかった。1900人近くがドイツ軍の捕虜になった。交戦したカナダ兵の65%が損耗した。いやはや、これはひどい結果です…。
カナダの将兵が上陸したとき、連合軍の艦隊による艦砲射撃は、ドイツ兵をまったく殺傷していないことが判明した。あの艦砲射撃って、見るからに威力がありそうなんですけどね…。
 1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦の翌月、フランスでドイツ軍がまだ連合軍と戦闘していた7月20日、森の中の総統大本営(「狼の巣」)で、ヒトラー暗殺計画の爆発が起こり、未遂に終わった。ワルキューレ作戦の遂行と失敗です。ドイツ国防軍のなかにはヒトラーを亡きものにしようという確固としたグループがあったわけです。ところが、悪運の強いヒトラーは生きのびてしまいました…。
 8月19日、パリ解放のため、フランス(パリ)警察の3つのレジスタンス組織が共同行動をとることで一致して、パリ警視庁の屋上に三食旗を掲げた。このとき、共産党主導のレジスタンスは一歩出遅れてしまい、ドゴール将軍がリードすることになったのでした。
 ノルマンディー上陸作戦の前と後を、アメリカとイギリス軍だけでなく、連合軍に加盟していたカナダ軍、ポーランド軍、フランス軍などについても丹念にフォローしていて、画期的な本だと思いました。
(2024年3月刊。3600円+税)

ジェーンの物語

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ローラ・カプラン 、 出版 書肆侃侃房
 映画のほうは見損なってしまいましたので、本を読みました。アメリカの1970年代初め、まだ妊娠中絶が違法とされていたころ、シカゴの女性たちが「ジェーン」と名づけられた非合法の組織をつくって、中絶を援助した実話を掘り起こして紹介した感動的な本です。
 4年あまりの活動期間に1万1000人の女性を援助して中絶を成功させたとのことです。そして、この「ジェーン」に関わった女性は100人超です。本当に大変なことだったと思います。警察に摘発されてブタ箱(警察署の留置場)に入れられた女性も7人いますが、結局、裁判にはなりませんでした。アメリカの連邦最高裁のほうが、中絶を違法とする州法を無効と判断したからです。
4年あまり活動して「ジェーン」は解散したのですが、中絶は違法とされていたので、記録は意図的に残していない。捜査の手が入ったときに芋づる式に検挙されることを恐れたから。それを著者がインタビューして明らかにしていったのです。
当初の中絶費用は600ドル。1ドル100円としたら6万円です。けっこうな値段ですが、それは、ともかく、安全に中絶してくれる医師を確保するのは大変でした。
 「ジェーン」が依頼していた「医師」は、実は医師免許をもっていないというのが、途中で判明しました。それでも、腕はいいので、続行しました。そして、やがて、その「医師」から中絶技法を学んで、「ジェーン」の女性たち自身が中絶手術をするようになったのです。
中絶を依頼してくるのは、若い人から年輩まで、そして白人も黒人も、いろいろ、裕福な女性も貧困層もいました。なかには、妻や娘を送り込んでくる警官たちもいたのです。決してオトリ捜査ではありませんでした。
 中絶反対派は、「赤ちゃん殺し」と叫びますが、「ジェーン」に関わった女性は、「胎児は人間ではない」と考えました。それより、目の前の女性を助けることにしたのです。
「ジェーン」は決して中絶を推奨したのではありません。
中絶の最初の段階として、過剰出血を防ぐため、エルゴトレートを筋肉注射する。スペキュラムを膣に挿入し、子宮の入口を筋肉でできた子宮頸部を露出させ、膣と子宮頸部を殺菌剤のベタジンでぬぐう。次に、子宮頚管の周囲に麻酔薬のキシロカインを注射して子宮の拡張がもたらす痛みを鈍らせる。子宮頚管の硬く締まった筋肉を拡張させ、柔軟な金属でできているゾンデで子宮頚管の向きを確認してから、拡張器を子宮の開口部である子宮頚管に挿し込み、子宮内に器具を挿入できるようになるまでゆっくりと拡張する。いずれも注意深く慎重にやる。拡張が終わったら、小さなスポンジ鉗子を子宮に入れ、胎児と胎盤を少しずつ取り出す。取り除けるものを取り除いてから、中空のスプーン状のキュレットを使って、子宮内膜をきれいに掻き出す。鉗子とキュレットを代わるがわる用いて、この手順を繰り返す。子宮壁がきれいになって中絶が完了すると、キュレットが子宮膜をこする音は、親指で口蓋をこするのと同じような音になる。
この中絶のプロセスで痛みを伴うのは、ほぼ空になった子宮が収縮して器具にあたる最後だけ。中絶には魔法のようなものはなにもない。その手法は非常にシンプルなもの。
中絶したあと、出産後と同じように、ホルモンレベルの急激な変化がうつ病の引き金になる可能性があるようです。でも、それ自体が生命の危険をもたらすわけではありません。
この本の「ジェーン」に関わった女性は、どうやら私とほとんど同世代(戦後生まれの団塊世代)か、少しだけ上の女性たちのようです。その勇気と行動力に圧倒されました。
いったい、日本はどうなっているのでしょうか。そう言えば、ごく最近、フランスでは、憲法に女性は中絶できる自由のあることが明記されたのですよね。すばらしいことですね。
自民党や公明党はいまだに選択的夫婦別姓すら認めようとしませんし、憲法改正に躍起になっていて、国民の権利を制限する方向の議論しかしません。本当に残念です。
読んで勇気の出る、いい本です。ご一読をおすすめします。
(2024年4月刊。2500円+税)

バッタを倒すぜアフリカで

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 前野ウルド浩太郎 、 出版 光文社新書
 前の本(「バッタを倒しにアフリカへ」)は、なんと25万部も売れたそうです。モノカキ志向の私には、なんとも妬(ねた)ましい部数です。その印税で、助手の男性にプレゼントをする話も登場して、泣かせます。
 この本は、前の本の続編ですが、新書版なのに、なんと600頁を超えていて、読みこなすのに一苦労しました。いえ、読みにくいというのではありません。著者の身近雑記が延々と語られていて、それはそれで面白いので、つい読みふけってしまうのです。
ともかく、バッタの婚活の研究をしている著者は、ネットその他を通じて本気で婚活しているのに、なぜかゴールインしないというのです。ええっ、いったいどういうことなんでしょうか…。ひょっとして選り好みが意外に激しかったりして…。
 それにしても好きでバッタ博士になったはずの著者が、バッタアレルギーにかかっているとは、悲劇ですよね…。
著者がアフリカでバッタ研究を始めて、もう13年になるそうです。アフリカの西岸にあるモーリタニアの砂漠にすむ、サバクトビバッタの繁殖行動をずっと研究しています。
バッタは移動能力が高い。バッタは暑さに強い。
 バッタは、フェロモンを利用した独特の交尾システムを有している。
 バッタは多同交尾し、最後に交尾したオスの精子が受精に使われる。
バッタの産卵期間は脆弱(ぜいじゃく)である。
 サバクトビバッタのメスは、オスと交尾しなくても単為生殖でも産卵し、子孫を残せる。ただし、うまれてくる幼虫はすべてメスであり、ふ化率は低い。
 著者は、長く長く粘り続けたおかげで、その論文がなんとか、ようやく高級な雑誌に掲載され、ついに学者の仲間入りができたのでした。
 それを著者は、がんばり、運が良ければ、どんな良いことが待ち受けているのか…と、表現しています。それまでの長く、苦しい研究がついに結実したのでした。2021年10月のことです。
 著者は、今やFBに60万人ものフォロワーがいるとのこと。たいしたものです。「ありえないほどの超有名人」になったのです。
 この本には、ロシアの女性(農民)が27回の出産で69人を出産したという、嘘のような本当の話が紹介されています。双子を16回も産み、また三つ子まで7回、さらに四つ子も4回産んだというのです。とても信じられない話です。
 ちょっとボリュームがあり過ぎて、読みくたびれてしまいましたが、語り口の面白さにぐいぐいと最後まで読み通してしまいました。さすが、5万部も売れている新書です。
(2024年6月刊。1500円+税)

水族館飼育係だけが見られる世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 下村 実 、 出版 ナツメ社
 これは面白くて楽しい本でした。水族館だからもちろん魚を扱うわけです。でも、ジンベエザメって、これも魚なんですかね…。最大全身14メートルという、最大の魚類。イルカやクジラはもっと大きいわけです。こうなると、魚って何者なのか…という疑問も湧いてきます。
 ジンベエザメの「ハナコ」さん。立ち泳ぎして、1ヶ所にとどまって餌を食べるそうです。慣れてくると、頭をなでさせてくれ、背ビレにつかまっても悠々と泳いでいく。いやあ、ここまで慣れるのですね…。
 ただし、頭をなでられて喜ぶのは犬と一部の哺乳類だけ。多くの生き物にとって頭頂部は急所なので、触られるのは嫌なこと。
ジンベエザメは24時間、泳いでいる。寝ているあいだも泳ぐ。これって、マグロと同じですよね。
 水族館の飼育係になるのに、特別な免許は必要ない。ただ、潜水士の資格はもっていたら都合がよいし、潜水経験があって、泳げたら、うれしい。
 ただし、飼育係も接客業なので、コミュニケーション力は重要。人間同士で話し合うコミュニケ―ション能力がないと、生物たちと通じ合うのは無理。なーるほど、ですね。意思伝達は必要なのですね、相手が魚であっても…。
 マンボウの体表についていた寄生虫を指でこすって取ってやると、1回しただけなのに、マンボウはそれを覚えていて、著者を見ると、近寄ってくるようになったそうです。ちゃんと人間を見分けているのです。
毒をもつ生物は多いので、要注意。アカエイは痛い。カラスエイは激痛。マダラトビエイも激痛。ハオコゼは痛い。ゴンズイも痛い。カカクラゲは激痛。アンドンクラゲも同じく激痛。オオスズメバチは熱い痛い、苦しい。そしてミノカサゴは激痛かつ苦しい。
 ヤモリは、「チーチー」と鳴くそうです。わが家の台所の窓にはヤモリが夜になると貼りつきます。でも、「チーチー」なんて鳴き声を聞いたことはありません。本当に鳴くのでしょうか…。
 同じ水槽に小さい魚と大きな魚を入れて共存させるための秘訣(ポイント)は、小さい魚を先に入れて優先権を与え、小さい魚が逃げ隠れできるようにする。大きな魚には適正に餌を与えて、極力空腹にならないようにする(もっとも肥満にも気をつけるとのこと)。
 水族館で魚を飼うときに気をつけないといけないのは、「衝突死」が多いこと。つまり、水槽のアクリルガラスに衝突して死んでしまう個体が少なくないそうです。
 日本は水族館大国と言われるほど、水族館が多く、100館もあるとのことです。
 鹿児島の水族館も大きな水族館ですけれど、沖縄の「美ら海(ちゅらうみ)水族館」のスケールの大きさにはど肝を抜かれました。スカイツリーにも「すみだ水族館」があるそうです。
 著者は「さかなクン」と同じで、幼いころから「魚、大好き少年」だったようです。それを一生の仕事にしたというのです。すばらしいことですよね、尊敬します。
(2024年5月刊。1540円)

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