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透析を止めた日

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 堀川 惠子 、 出版 講談社
 私の身近にも透析を受けている人は多いです。週に3日、1回に何時間も透析を受け、終ったときはぐったり…と聞くと、本当に大変なことだと思います。これだけ医療技術が進んでいるのだから、もっと回数・時間が短縮できないものなのか、不思議で仕方がありません。
 日本は今35万人が透析を受けている。人口比では台湾、韓国に次いで世界第3位。
 ええっ、なぜアジアばかり多いのでしょうか…。
 透析の医療費の総額は年間1兆6千億円。日本の全医療費の4%。透析は巨大な医療ビジネス市場を形成している。透析患者の4割が80歳以上と、高齢化している。
 透析するときは、腕にシャントという人口の血管をつくり出す。シャントによって、500~1000mlの激しい血流を人工的につくり出す。透析患者にとって、シャントは、文字どおり命綱だ。
 透析患者には厳しい水分制限がある。除水量が増えると、透析は辛い。身体に水分を呼びこむ塩分の摂取も1日6グラム以内が理想。4時間の透析は、フルマラソンを走るくらいの負担がある。透析中に低血圧になると命を失う恐れもあり、怖い。透析患者はふだんから水分摂取を控える必要がある。たとえば1日500ml。何を飲むにしても、チビチビと喉をうるおす程度にしておく。飲みたいのに、飲めない。夏場だけは汗をかくので、少し多めに水分がとれる。
 透析患者にとって、バナナはカリウムを象徴する食べ物。透析患者は尿が出ないので、カリウムが必要以上に体内にたまる。カリウム過多は、透析患者の突然死の理由になる。
良質のタンパク質と密接に関わるリンの管理をやりすぎると、大事な筋肉を失い、フレイル(心身の衰え)の原因になる。
 1ヶ月の透析費は40万円もかかる。本人負担は月2万円。透析患者1人につき年間500万もの公費が支出されている。
かつては「透析10年」と言われていたが、今では透析歴52年という患者もいる。10年以上は28%、20年以上も9%に近い。
 透析は大量の水を必要とする(なぜなのでしょうか?)ので、断水になったら透析ができなくなる。
緩和ケアは、がん患者に限定されている。初めて知りました。
透析を中止したら、尿毒症をはじめとする多岐の症状が出現する。透析を中止したら、死亡まで平均して8~12日、中央値は3日、最頻値は2日。4割近くが、当日が翌日に死亡している。
 透析には血液透析のほか、自宅でも可能な腹膜透析もある。腹膜透析PDは、治療効果はゆるやかだけど、身体への負担が小さい。香港では7割、ヨーロッパやカナダでは2~3割、ニュージーランドで3割、アメリカでは1割。日本の3%というのは極端に少ない。
 腹膜透析は、かつては腹膜炎をおこしやすいと言われていた。今は変わっている。
 そうか、日本でも、もっと腹膜透析が増えたらいいのに…。私は、そう思いました。
 大変に目の開かされる思いのした本です。
(2025年4月刊。1800円+税)

ブラック郵便局

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宮崎 拓朗 、 出版 新潮社
 小泉純一郎の「郵政改革」って、とんでもないものだったと、私はつくづく思いました。なんで、あのとき多くの国民がやすやすと騙されたのか、不思議でなりません。時の勢いというのは恐ろしいものです。今は、「手取りを増やす」というインチキ宣伝で国民民主党がブームですよね。大軍拡に賛成して、消費税減税に消極的な玉木の党が本気で「手取りを増やす」なんて考えているとは思えません。国民を騙すっていうのは、意外に簡単な人だと呆れてしまいます。
郵政改革の「おかげ」で、郵便局は本当に不便になりました。市内でも普通、郵便だと3日かかることが珍しくありません。そして郵便料金の値上がりは呆れるほど大胆です。郵便局が減らされ、配達員の外注化が進んでいるようです。この本の著者は西日本新聞の記者です。
 まずは、郵便局の生命保険。かんぽ生命保険です。この保険事業の収益は全国に張り巡らされた郵便局網を維持するための、欠かせない収入減。そして、この保険のノルマ達成は厳しい。そのため、いろんな「不正」が横行している。その一つが、「不告知教唆」。持病があるのを聞いて知っているのに、正直に書かないでいいと言って加入させる。
 必要もないのに判断力の乏しい高齢者に次々に保険契約をさせ、月の保険料が20万円をこえている。ところが、年金は月12万円しかない…。
渉外社員は、契約をとるたびに、給料とは別に営業手当を支給される。成績上位者は、年間1000万円以上にもなる。
 既に加入している契約を解約して、新たな契約を結ぶ。乗り換え契約も横行している。
 2年分の保険料を支払いさせる。なぜ2年かというと、担当した契約が2年以内に解約されたら、渉外社員は受けとっていた営業手当を返還させられるペナルティがあるため。
 成績が上がらないと、懲罰研修を受けさせられる。そこでは、つるし上げの対象になって、心を病んで休職する人が続出する。ところが、上部は現場の実情を知っていても知らぬふり。すべてはお客様のサインをいただいて、了解のうえのことだと開き直る。厳しいノルマを強要された男性局員が九州で自死している。
そして、自民党のための選挙活動。結果としての得票数は局長にとっての通信簿となる。
 局長の仕事はソフトボールと選挙。いやはや、こんな違法な活動が汚れた自民党政治を支えているのですね、嫌ですね…。
 自民党公認を得た組織内候補の得票数は、だいたい43~60万票ほど。自民党のなかではトップクラス。こうやって日本の政治をけがしている集団の一つになっているわけです。考え直してほしいですよね。
(2025年4月刊。1600円+税)

ビジネスと人権

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 伊藤 和子 、 出版 岩波新書
 2013年4月24日、バングラディシュのダッカ郊外のビルが崩れ落ち、そこの縫製工場で働いていた労働者1000人以上が亡くなり、1000人以上が負傷した。この縫製工場は、ベネトンなど、国際的に著名なブランド服をつくっていた。
 1ヶ月の賃金が4千円という圧倒的に安い人件費がブランド品を支えている。
 しかし、人を活用しようとするのなら、人は尊重されなければならない。まことにそのとおりです。2011年、国連人権理事会は、ビジネスと人権に関する指導原則を全会一致で採択した。この指導原則は、国際条約がハードローであるのに対して、ソフトローに位置づけられる。
 指導原則は画期的な内容を含んでいるが、限界もある。ソフトローとしての指導原則は強制力がないとしても、行為規範としての影響力を持ちうる。
 指導原則は、サプライチェーンの現場でまだまだ実施されていない。
 ILO(国際労働機構)は、世界で2090万人が人身取引、強制労働、児童労働といった「現代奴隷」の状態におかれていて、うち550万人が児童労働であるとした(2011年)。これが2016年に4000万人、2021年に5000万人と増加している。うち強制、児童労働は2500万人、2760万人となっている。
 日本では、経産省が2022年にガイドラインをつくったまま足踏み状態となっていて、規制に踏み込んでいない。しかし、企業に対する実効性のある人権保障は難しい。
 ユニクロの製品をつくっている中国の委託先工場では、月119時間もの長時間残業、エアコンのない工場の室温は37~38度で、「まるで地獄」。
 ミャンマーの工場を取引先としているワコール、ミキハウスも同じく、長時間残業、女性労働者の保護の欠如という問題がある。パーム油、カカオ、シーフードなど、いろいろ状況は深刻だ。
 イスラエル軍に装備品を提供している日立建機、トヨタ、ソニー、三菱自動車。
 ビジネスと人権を考えながら国も企業も進めなければいけない。時代は変わったことを自覚すべきなのだ。一人ひとりが声を上げなければ社会は変えられる。
 企業に「責任」ではなく「義務」を課す法律が必要。
 未来をつくる主導権は私たち一人ひとりにあることを確信して、声を上げ、行動していこう。こんな呼びかけがなされています。まったく同感です。
(2025年2月刊。1100円)

沈没していくアメリカ号を彼岸から見て

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 エマニュエル・パストリッチ 、 出版 論創社
 日米で学び、米韓の大学で教え、アメリカ大統領選挙に立候補したアメリカ人の学者が、アメリカを語り、日本人に訴えています。とても共感できる内容でした。こんなアメリカ人学者がいるのを私は初めて知りました。
 ロバート・キャンベルは私も知っていますが、文学以外の政治について語らないのを著者は不満なようです。それにしても、著者の語学力はすごいです。日本語も韓国語も、そして中国語も話します。どうやらフランス語も話せるようです。それでも、ロバート・キャンベルのように天才的な語学力があるわけではなく、努力したのだといいます。
アメリカの大学は、イエール大学で学び、教え、またハーバード大学で学んでいます。東大では大学院で勉強しています。韓国でもいくつかの大学で教えています。
 日本の平和憲法の意義を高く評価していて、アメリカの憲法を日本国憲法のように変えるべきだと提言しています。そして、日本人とアメリカ人の人的交際が少なすぎる、市民同士のつながりをもっと強める必要があると強調しています。その点、日本(東京)の笹本潤弁護士を高く評価しています。国際法律家協会で世界的に活躍している弁護士です。
 アメリカは日本に企業の支配を押し付け、日本を危険な海外戦争に引きずり込もうとしている。日本とアメリカは、平和を大切にする経済関係に戻るべき。機械やコンピュータではなく、人間性に、コンクリートやプラスチックや鉄鋼ではなく、自然に置かれるべき。人間の心の奥底を探る知的探求にもとづく、新たな強固な関係を目ざすべき。
 今の日米合同委員会は非公開だけど、平和委員会という名称に変え、委員会の透明性を高めて、東アジアの平和体制の構築を目ざすべき。いずれも実にもっともな指摘で、とても共感します。
 日本のテレビニュースの質は著しく低下している。著者は厳しく指摘しています。私はテレビを見ませんが、たまに見ると、くだらないワイドショーやお笑い番組ばかりです。著者は1988年のリクルート・スキャンダルの報道以来、質が劣化しているといいます。NHKをはじめ、いかにも「政府広報」番組ばかりになってしまいました。
 日本人学生は自分の中に閉じこもりがちで、東大生は友だちになるのが一番難しいと言われているが、本当だった。そして、東大でバドミントン部に入ったけれど、厳しい上下関係にはなじめなかったとしています。
今、ハーバード大学はトランプ大統領から目の敵にされ、国の補助金が停止され、ハーバード大学は国を訴えて係争中です。ところが、著者は、このハーバード大学について、厳しい評価をしています。効率性と生産性を追求するあまり、かつてはあった知的自由の多くが破壊されてしまった。この変化は、大学に対する銀行の力が強まった結果であり、ハーバード大学理事会の超富裕層の力が強まった結果である。知的自由の喪失はひどいものだ。 
アメリカでアジアにかかわる政策を立案して推進している人々は、アジアに関する専門知識をもたず、アジアをほとんど理解していない人々でしかない。
 アメリカは、アジアで武器を売る市場を確保することを最優先課題としている。
キッシンジャーは、自分のコンサルティング会社に連邦政府の資金を投入させることを主眼としているビジネスマン。
 韓国社会は深刻な問題をかかえている。高い自殺率、汚染された空気、学校での容赦のない競争、若者たちが感じる疎外感、輸入食品・輸入燃料への過度の依存。そしておびただしい数の貧困な高齢者の存在。
 韓国政治では理想主義的な若い政治家たちも腐敗している。
 韓国では政党の重要性ははるかに低く、個人的な関係、個人の美徳のほうが政治的行動の中心となっている。
 アメリカでは、警察があまりにも残忍になっている。これに対して、日本の警察は国民に対して残忍な弾圧をしていないと評価しています。アメリカでは、警察を呼ぶこと自体が危険、市民にとっても危険だという著者の指摘には驚きました。
 日本人は、多国籍企業や銀行に支配されてはいけない。アメリカが支配権をもっている腐敗した政治・軍事システムから日本は独立すべきだ。まったく同感という思いで230頁の本を読み終えました。
(2025年2月刊。2200円+税)

教員不足

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐久間 亜紀 、 出版 岩波書店
 この本は主として日本の教育の現状と問題点を紹介しています。日本と対比させる意味で、アメリカのシリコンバレーにある私立の中学校を見学したときの様子が紹介されているのが私の目を惹きました。
学校は、資産家の元邸宅が改築されていて、教室もゆったり。そして、国語(英語)の時間には10人ほどの生徒がジェンダーに関する学術論文を読み合っている。天国のような環境だと驚嘆していると、それでも、ここの教員によると、問題を抱えているのは、他の学校と同じだという。生徒同士のトラブルがあり、親の虐待もある。そして、この豊かな教育環境は、特定の人々を排除することで成り立っている。黒人の子どもや身障児はごく少数しかいない。なので、こんな閉ざされた環境で育った子どもたちが、社会に出て、マイノリティの人々の住む現実をどこまで理解できるようになるのか、アメリカ社会の分断を統合へと導く市民に育ってくれるのかどうか…不安がある。
 そして、教員自身も不安を抱えている。年収1000万円以上をもらっていても、それは平均年収が3億円というこのシリコン・バレーでは低いほうでしかない。そして、私立学校なので、大口寄付者を確保しなければいけないが、彼らは、教育内容にまで介入しようとしてくる。すると、学校、そして教員との摩擦が生じかねない。要は教員の身分は決して安定したものではないということ。なーるほど、金持ち学校にも、内外ともに難しい問題を抱えていることを初めて知りました。
 今の日本の教員不足は深刻。それを実感するのは、とっくに高齢者になっている私の世代でも、まだ嘱託だとか名目はいろいろ違っていても、現役の教員として生徒に接しているという人が少なくないのです。
 日本の教員不足は、今に始まったことではない。戦前から断続的に繰り返されている。今では、政府は教員定数を増やすことはないとしている。すると、教員は非正規化するしかない。
 教員数について、地域格差が拡大している。自治体の財政力によって少人数学級を推進できる自治体と、推進できない自治体と差が生まれている。
驚くべきことに、教員給与を政府は削減しつつあるのです。これはたまりませんね…。
 国は教育費の国庫負担の割合を削減し、今では、教員給与の3分の1しか国は負担せず、残る3分の2は、自治体が負担している。
 終身雇用の公務員は大幅に削減され、伝期付、臨時・非常勤職員が急増している。教員を志望する子どもが減っている。いやあ、これは困ったことです。
 教員に憧れる子どもが減っているというのは、忙しそうな教員を見ているからでしょうか。
 教職の魅力は、第一に子どもが好き、第二に経済的に安定、第三に家庭生活と両立しやすい、だった。ところが、政府による「教育改革」はこれらを否定してしまった。
 教員の労働環境を改善する必要があります。まずは、仕事量を適正化することがあげられます。外部からは余剰にしか見えない人員が、実は必要不可欠な人員であるというのが公務員では多いというのは、私の実感でもあります。
 にもかかわらず、世間には公務員叩き(バッシング)して政治家としてデビューして評判を上げるというパターンが、今でも少なくないという悲しむべき現実があります。
 アメリカでは、学年別の学校行事というのはない。入学式も卒業式もない。運動会や修学旅行というのもない。また、生活集団としての学級(クラス)自体が存在しない。
 私の孫が通っている韓国の小学校では運動会はあるものの、それは担任の手を離れて、イベント業者の手になるもののようです。
 私は小中学校が次々に統廃合されているのに反対です。どんなに人数が少なくても、子どもたちが歩いて通えるところに小学校はあるべきです。少人数学級でいいじゃないですか。先生も生徒も、みんな伸び伸びと遊べ、学べる環境が一番です。そこでお金をケチケチすべきではないと思います。要は、なんでも効率化という名目で、大切な子どもたちの伸び伸びした可塑(かそ)性を奪ってはいけません。
 いろいろ考えさせられる指摘がたくさんありました。
(2025年2月刊。960円+税)
 日曜日に、朝顔のタネを庭のあちこちに植えつけました。夏は朝顔ですよね。いま、庭は黄ショウブが一面に咲いています。アマリリスの白っぽいピンクの花も見事で、心が安まります。クレマチスは終わりました。今年はジャガイモの花に勢いがあります。この調子で地中のジャガイモが大きく育ってくれたらうれしいのですが…。サツマイモは地上部分は元気一杯に生い繁っていても、地中は生育不十分ということが何回もありました。
 サボテンの白い花が一斉に咲いてくれました。まるで鉄砲百合のようです。濃い紫色の矢車菊もところどころに咲いています。
 ジャーマンアイリスは終わりかけています。もうすぐ近くの小川にホタルが飛びかう時期になります。

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