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ヒトラー、最期の12日間

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著者:ヨアヒム・フェスト、出版社:岩波書店
 天神の小さな映画館で見ましたが、久しぶりに満員盛況で、壁側に補助イスも並べられていました。画面は圧倒的な迫力があり、2時間半ほどがあっというまでした。
 ヒトラーの女性秘書ユンゲの回想記をもとにした映画です。等身大のヒトラーが登場しますので、その不可解な性格が描かれていますが、人によってはヒトラーを美化しすぎているという批判もありうるところです。ユダヤ人だけでも600万人を殺した人間という魔性がきちんと描かれていないという弱点があるでしょう。それでも、ヒトラーの最期の12日間にナチスの首相官邸(地下要塞)で何が進行していたのか、イメージをつかむには絶好の映画です。
 私はこの本とあわせて「ベルリン陥落1945」を読んでいましたので、ベルリン攻防戦でロシア軍が大々的に強姦の限りを尽くすなど、いかにひどいことをしたのか、ナチス・ヒトラーが、それは国民が我々を選んだことによる自業自得だと冷たく突き放していたことを知ることもできました。この映画は、そのあたりを知ると、もっと深く受けとめることができます。
 この本には、初めに主な登場人物が戦後の行く末をふくめて紹介されているので便利ですが、映画には名札がありませんので、この人はいったい誰なのか、人の名前が呼ばれるまで分からないというもどかしさがあります。
 それにしても、ヒトラーは56歳の誕生日を迎えて10日後には自殺するのですが、私もいま同じ56歳です。どうして、同じ年齢であんな悪虐非道なことができたのか、とても理解できず不思議でなりません。ただし、映画に登場するヒトラーは、56歳とはとても思えない草臥れはてた老人です。ところが、ヒトラーは絶頂期(1939年8月)には次のように述べていました(50歳のとき)。
 ドイツ国民のなかで、私ほど自信あふれる人物は未来永劫出現しないだろうという事実がある。また、私より権威ある人物も、この先現われることはないだろう。
 これは、「ニューヨーク・タイムズが見た第二次世界大戦」(原書房)に紹介されている言葉です。異常なほどの自信です。
 この本は、ヒトラーを、政治世界に漂着した賭け事師に過ぎないと断罪しています。ヒトラーを先人たちと区別していたのは、個人をこえる責任感、冷静に私利私欲を抑えた労働倫理、歴史的道徳観といったものの完璧な欠如だった。ヒトラーは、歴史上類例のない自己中心主義によって、この国の存続をみずからの人生の時間と一体化させた。
 ヒトラーには非常に狭い軍事的目的を超えてものを考える能力が明らかに欠如していた。彼は生涯にわたって徒党を率いる成り上がりボスにすぎなかった。徒党のボスとしては、殺戮と強奪の理念をこえる計画など追及する気はなかった。彼には漠たる戦争目的すらなかった。あるのは、ただひとつ、強者の権利という法則だけである。
 いまの日本にも、勝ち組の論理がのさばっています。ぞっとします。
 ナチス・ドイツ最期の日々。この期に及んでもなおSSは脱走兵を捜し出して銃殺してまわっていました。1ヶ月あたり数千人という自殺の伝染病がはびこっていたのです。飲酒(深酒)とあわただしい性的放縦(若者たちの乱交)があちこちで見られました。
 ベルリン攻防戦で赤軍は30万人もの死者を出しました。ドイツ軍の戦死者は4万人ですが、このほか50万人が戦争捕虜としてソ連領に連行されました。
 ずしりと重たいものが胸にのしかかってくる本です。でも、事実ですから、しっかり受けとめるしかありません。

警視庁捜査一課殺人班

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著者:毛利文彦、出版社:角川書店
 戦後ながく警察の本流は警備・公安警察であって、刑事警察は傍流だと言われてきました。これは歴代の警察庁長官が警備・公安畑出身者で占められてきたことで証明されます。
 ところが、最近の公安警察の凋落ぶりは目を覆うものがあります。その典型がオウムによる警察庁長官狙撃犯を公安が捕まえることができなかったことです。いえ、公安は2度も逮捕し、世間に胸を張って公表したのです。でも、起訴にもちこむことができませんでした。自分とこの長官を狙撃した犯人も捕まえられないなんて、そんな警察はまさに世間の笑いものです。これで公安警察の威信はまったく地に墜ちてしまいました。最近、東京あたりでビラ配りという市民的自由をふみにじる逮捕・起訴事件が相次いでいます。これは、公安警察が失地回復を狙ってのことだと観測されています。
 この本は、このところ本流にいるとされる刑事警察の実態に迫ったものですが、なかなか読みごたえがあります。携帯電話をもっていると、それだけで所在を追跡できるということを初めて知りました。電源が入っている限り、携帯からは微弱電波が発信されている。全国にはりめぐらされた電話会社の基地局を追っていくと、その携帯の微弱電波はどの基地局で拾われているかをとらえることができる。つまり、だいたいどのあたりにいるか観測できるわけ。
 取調べ官のスタイルもさまざまです。ともかく最初に、言葉と態度でガツンと容疑者に一撃を加える。容疑者のプライドを粉々に崩し、服従の本能を呼び起こさせる。これが一つ。
 ホシは多かれ少なかれ、自分自身と闘っている。取調官は、そうしたホシの心理の変化を読みとらなければいけない。取調官は、あまり奇異な性格ではつとまらない。人の痛みの分かる、ふつうの感覚をもちあわせていなければ無理だ。
 人殺しに対しては、三尺高いところに上げてやると思うのが殺し(殺人班)の刑事。三尺高いところとは死刑ということ。本能的に減刑対象となる犯人の行動を封じたいという発想が刑事にはある。これも一つ。
 殺しのホシは犯行を自供したからといっても、100%反省しているわけではない。ホシにとって、謝罪と自供は、自分の身を守るための行為なのだ。死刑を免れたい、刑罰を軽くしてほしい。一番かわいいのは自分、だから、情だけでは殺しのホシは落ちない。
 取調のテクニックと、それ以上に取調官もさまざまな人がいることがよく分かります。
 Nシステムの構築・運用の主体は警察庁刑事局。当初から犯罪捜査がシステム導入の目的だという。1986年からNシステムをはじめ、2003年9月現在、全国580ヶ所にNシステムが設置されている。全国すべてのデータが警察庁の中央制御コンピューターに蓄積される。目あての車が通ると赤ランプが点灯する仕掛け。もちろん公安警察もNシステムを愛用している。
 Nシステムが、オウム事件のとき、大活躍したのは有名な話です。でも、怖い話ですよね。

セビーリャの冷たい目

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著者:ロバート・ウィルスン、出版社:ハヤカワ文庫
 ポルトガル在住のイギリス人によるサスペンス小説です。
 スペイン・セビーリャでは毎年1万5千件もの殺人事件が発生する。たいていは麻薬がらみで、残りは家庭内のいざこざ、情痴のもつれによる。被害者と加害者とは必ず顔見知りで、親密な関係にある。このことを背景として、しかし、今までになく類いまれなほど残虐な殺人事件が発生するのです。
 スペインで第二次大戦中に内戦があり、人民戦線とファシスト勢力が殺しあったことが物語の重要な背景として登場します。そして、ソ連に攻めこんだナチス軍にスペインのファシスト勢力もいて敗退しながら残虐行為を重ねていたことも紹介されます。
 そんな経歴を戦後ひた隠しにし、画家として名を売っていた人物が殺されます。殺される前に、被害者のまぶたが切りとられてしまいました。目をふさいで見ないですむようになるのを防ぐためです。いったい、何を殺される直前、強制的に見せられたのでしょうか・・・。次から次に残虐な殺人シーンが出てきて、気持ち悪くなるほどです。
 殺された人間が生前つけていた日記を読みながら、いかにその人間が虐殺を続けていたか、綿々と書きつづられていきます。では、その虐殺された人々の死体を見せられたのでしょうか・・・。
 ルール違反になるのを承知のうえで、見せられたものをあえてバラします。それは殺された人々の、かつての幸せだったころの映像だったのです。お前が殺した人は、こんなに幸せな生活をしていた。お前はそれを何の正当な理由もなく奪い去ったのだ、よく見ておけ・・・。うーん。そうなのか・・・。それこそ人間の心にグサリと刺さる映像なのかもしれない。そう思いました。
 私はいま死刑相当事案を担当しています。殺された人の遺体の写真はむごいものです。目をそむけたくなります。でも、殺された人が生前、幸せに笑顔で生活していたときのフィルム(映像)を殺した被告人に見せたとき、彼がどう思うか。それもショック療法として劇的効果があるかもしれない。つい、そう思ったことでした。

信仰が人を殺すとき

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著者:ジョン・クラカワー、出版社:河出書房新社
 モルモン教徒は世界中に1100万人いるそうです。1830年に、アメリカ人のジョセフ・スミスがはじめました。信者はジョセフ・スミスをモーゼやイザヤに匹敵するほどの偉大な予言者だと信じています。そのモルモン教にも原理主義者がいることを知って驚きました。信者(聖徒)には、複数の妻をめとる神聖な義務があると本気で信じこんでいる人々です。
 創始者のジョセフ・スミスは、実際、48人の女性と結婚しました。最年少は14歳です。その教義のなかには、男性が晩年に大きな喜びを得るには、少なくとも3人の妻が必要である。この聖約を守らなければ永遠の断罪を受けることになると書かれているそうで
す。驚いてしまいます。世間に対しては一夫多妻制をきっぱり否定しつつ、その内側では、とうぜん継続すべきものとしてひそかに一夫多妻制を奨励し、実際に、教会の幹部は多数の女性たちと結婚していました。
 モルモン教会の運営は、大管長と使徒評会という15人の男性が最高権威者です。女性はありえません。モルモン教会は、ブリガム・ヤング大学を所有・管理し、そこから毎年3万人の若い男女を世界中へ布教活動に送り出しています。私の町にも、自転車に乗って駆けめぐっている白人男性二人連れをよくみかけます。ケント・ギルバートもかつてはその一人でした。そして、ブリガム・ヤング大学の99%は白人です。だらしない服装は禁止されていて、女子学生は飲酒もコーヒーも禁止されています。
 日曜日の仕事はすべて休み。モルモン教は妊娠中絶を禁止し、養えるかぎりできるだけ多くの子どもをうむ神聖な義務があります。ですから、アメリカのなかでユタ郡はもっとも出生率が高くなっています。同時に、共和党員の多い郡でもあります。
 神の選民でもあるモルモン教徒は、本質的に高潔であり、なんの償いもする必要はない。お金もうけも正しい仕事だとされています。
 信者同士で信用しすぎる傾向があるため、ユタ郡ほどホワイトカラーの犯罪が多いところはないとされています。詐欺の首都と「ウォール・ストリート・ジャーナル」は呼びました。
 それにしても、宗教家(信者)が信じるあまりに人を殺すなどということは、とても考えられないことだと思います。でも、これはキリスト教徒だけではありませんね・・・。

ワインと戦争

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著者:ドン&ペティ・クラドストラップ、出版社:飛鳥新社
 ヒトラーは鷲の巣と呼ばれる山荘に貴重な超高級ワインを貯めこんでいました。ナチス・ドイツが1945年5月、シャトー・ラフィット・ロートシルト、シャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・ラトゥール、シャトー・ディルケム、ロマネ・コンティなどなど、古今第一級のワインが50万本もありました。なんとなんと・・・。
 ところが、実はヒトラー本人はまったくワインに興味をもっていなかったというのです。ひと口、有名なワインを味わったとき、ヒトラーは、「ただの酢と少しも変わらないじゃないか」と言ったそうです。でも、ほかのナチスの高級幹部はそうではありません。ゲッベルス宣伝相は洗練されたブルゴーニュ・ワインを好み、ゲーリング元帥は偉大なボルドー・ワイン、とりわけシャトー・ラフィット・ロートシルトがお気に入りでした。リッペントロップ外相はシャンパーニュの愛好家であり、パーペン元首相もワイン通です。
 この本は、ナチス・ドイツに占領されたフランスのワイン産地がどうやって守られていったが、その苦労のほどを明らかにしています。
 シャトー・ラフィット・ロートシルトを守るため、ヴィシー政府はこれを没収した。フランス政府の財産にして、ドイツ軍当局に没収させないようにしたのです。
 ドイツのためのワイン総統という役割を果たす人間がいて、面従腹背の危ない綱渡りをしていったようです。さすがはワインを愛するフランス人ですね。
 ブドウに最適な土壌は、水はけがよく、根が地中深く下がり、砂利の多い土地。そこは野菜には、あまり適しない。ブドウは過酷な条件の方が良く育ち、野菜は甘やかさなければいけない。
 アルザスでは、少なくとも4万人の若者がドイツ軍として、ほとんどロシア戦線で戦死した。終戦直後、ドイツ軍はボルドーを撤退するとき、攻撃しないなら港は爆破しないと提案し、レジスタンスはそれに同意した。それで、ボルドーは救われた。
 戦争が終わって、対独協力者は厳しく処罰された。レジスタンスによる即決裁判で、少なくとも4500人が死刑に処せられた。フランス新政府は、対独協力の罪で7000人に死刑を宣告し、800人が処刑された。別に3万8000人が刑務所に入れられた。
 ところで、私はこの夏、ボルドーワインの産地のひとつ、サンテミリオンに3泊してきました。見渡すかぎりのワイン畑のなかのホテルです。陽差しは暑いのですが、人々は日光浴を楽しんでいました。木陰にいて風が吹くと、涼しくて暑さを忘れます。美味しいワインをしっかり堪能し、久しぶりに生命の洗濯をしてきました。

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