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世界史の中の日露戦争

カテゴリー:日本史(明治)

著者 山田 朗、 出版 吉川弘文館
 私は旅順に行き、203高地にのぼったことがあります。何の変哲もない、低い灌木のまばらに生えた丘のような山でした。203高地というのは、高さが203メートルということから名付けられたものです。
 そして、ロシア軍の築いた堅固な要塞である東鶏冠山堡塁の内部にも足を踏み入れました。とても頑丈な作りでした。フランスの築城技術に学んで、ロシア軍が念入りに作り上げた要塞です。日本軍はこの要塞を攻めあぐねて、大変な死傷者を出しています。
 1904年(明治37年)2月9日、日本軍は旅順軍港にいたロシア軍艦に奇襲攻撃をかけた。日露戦争の始まりである。欧米の新聞は、この戦闘を翌2月10日の新聞で詳しく報道した。今から100年以上も前なのに、どうして可能だったのか。それは、海底ケーブルと電話線によって、世界の主要な都市、軍事拠点が接続していたから。というのも、イギリスは、50年かけて世界を結ぶ海底ケーブル網を完成させていた。
 海底ケーブルの敷設と地上優先通信網の整備、無線電信の導入は、日露戦争における情報力において、日本がロシアに対して優位に立つ大きな要因となった。情報戦の分野では、日英同盟にアメリカが加わり、それと露仏同盟が戦っていた。
 日露戦争のとき、日本軍は機関銃を持っていなかったという俗説は全くの間違いである。日本は、すでに日清戦争のときにイギリス式のマキシム式機関砲を保有していた。日露戦争のときには、フランス式のホチキス式機関銃を保有していた。ただし、日本軍はあまり最前線の陣地では使用しなかった。
 日露戦争で使用された日本の戦艦6隻、装甲巡洋艦8隻は、戦艦はイギリス製、装甲巡洋艦はイギリスやイタリア・フランス・ドイツ製であった。日本はまだ自国で建造する能力がなかった。
 ロシアは、新旧雑多な軍艦で編成されていたのに対して、日本側は新鋭艦を中心に構成されて連合艦隊として佐世保に集結していた、
 ロシアと日本と、戦力はほぼ互角で、総合砲戦力では日本がやや劣るが、快速性の点では日本側が優勢だった。
 日本軍は旅順要塞の総攻撃で大損害を被った。5万7000人が参加して、1万6000人ほどの死傷者を出した(戦死者5000人)。ロシア側の野砲や機関銃に対して、ひらすら白兵攻撃を敢行して人海戦術で突破口を作ろうとするばかりだったからだ。ロシア側の火力にさらされたときの防御陣地や遮蔽物の構築がまったくできていなかった。日本側は、本格的な要塞攻撃のノウハウを知らなかったし、旅順要塞の堡塁の構造やロシア側火器の配備状況の情報収集も十分ではなかった。
 203高地をついに占領したとき、日本軍は6万4000人の参加人員のうち、1万7000人もの死傷者(戦死5000人)を出した。結局、日本側はロシア側の総兵力をはるかに上回る6万人に近い死傷者を出した。ロシア側は4万7000人の兵力で防衛し、2万8000人の死傷者を出した。
バルチック艦隊が今どこにいるのかというのは、マスコミによって刻々と伝えられていた。
 日本の連合艦隊がロシアのバルチック艦隊に大勝利したのは、双方の戦力データを比較検討したら、日本側の勝利は順当なものだったといえる。日本艦隊にとって有利な条件がそろっており、逆にロシア側はきわめて不利な状態で戦闘に突入した。
 ロシア艦隊はのべ3万キロ、7ヶ月の航海を経て、極度に疲弊しており、途中に寄港できる同盟国もなく、将兵の士気は低下し、小暴動が頻発していた。日本側は、いつごろロシア艦隊が到着するかつかんでおり、鑑定の整備と将兵の訓練を十分に行うことができ、準備万端整えたうえで海戦に臨むことができた。
 日露戦争、そして日本海海戦の実相をよく知ることができる本です。
 よく雨が降りました。
 日曜日、昼から雨が止んだので、少し庭の手入れをしました。ネムの木がピンクの花を見事に咲かせています。誰かがネムの花は水彩画がよく似合うと書いていましたが、なるほど、そのとおりですね。ボワボワとふくらみのあるピンクと白の混じった花で、見ているだけでも心が浮き浮きしてきます。
 連日の雨で鳴くヒマがなかったせいでしょうか。セミが薄暗くなった7時半まで鳴いていました。
 
(2009年4月刊。2500円+税)

単純な脳、複雑な「私」

カテゴリー:人間

著者 池谷 裕二、 出版 朝日出版社
 日本の高校で、高校生相手に話をした内容が本になっていますので、大変分かりやすく、しかも興味深い内容が満載です。うへーっ、脳って、こういうものなんだ。人間って、こういう存在だったのか……、と目からウロコの数々です。さあ、読んでみましょう。
 人間は、長時間接しているほど好きになってくる。これは脳の性質による。社内結婚が多いのは、そのため。何度も会っていると、もうそれだけで好きになってしまう性質が脳にある。なーるほど、ですね。だましの手口として、足しげく通っているうちに、甘い話に断りきれなくさせるというのがあります。
 恋愛関係にあるのか自信がないとき、周囲から反対されると、緊張してドキドキしてしまう。ところが、このドキドキ感を脳は相手がより魅力的なのだからこうなるんだと間違ってラベルづけしてしまい、どんどん好きになっていく。うむむ、だから本心で反対したいときには、表面上は反対せずに放っておいたほうがいいのですね。
 直感は意外と正しい。というのは、直感は学習、つまり本人の努力の賜物(たまもの)だから。直感は訓練によって身につく。経験に裏付けられていない勘は、直感ではない。
 大人になっても、成長する脳部位が2つある。一つは前頭葉で、もう一つは基底核である。直感は、年齢とともに成長していくのである。
 記憶というのは、覚えていると意識できること、「これは私が覚えている内容」というものばかりではなく、もう一つのタイプもある。
 たくわえた情報は、それ単体で思い出されるのではなく、そこに付帯された情報によって影響を受け、記憶そのものがすり替わってしまう。つまり、人間の記憶というのは都合よく捻じ曲げられてしまうものなのだ。情報は、きちんと保管され、正確に読み出されるというより、記憶は積極的に再構築されるものなのである。とりわけ、思い出すときに再構築される。
 記憶は、生まれては変わり、生まれては変わる。この行程を繰り返して行って、どんどんと変化していく。だから、「見た」という感覚というものは、怪しいものでしかない。そうなんですよね。私も、大学時代、紛争の最前線にいたことは間違いないのですが、たとえば寮食堂で開かれていた代議員大会が全共闘の集団に襲われたとき、寮食堂の中に代議員としていて襲われたのか、外にいて救援活動をしていたのか、今なお自分の体験が思い出せません。今のところ、内側にいて襲われたことにしているのですが……。ちなみにこのとき、かの有名な舛添要一大臣は中にいて、10人の代表団のメンバーに立候補したのですが見事に落選しました。これは記録が残っていますので間違いありません。彼は当時から右翼的行動をしていて、学生のなかに支持を集めることができませんでした。
 感情と行動はどちらが変えやすいか。既成事実を変えるのは大変だが、心の方は容易に変えられる。だから、脳は感情を行動に整合するよう変化させてしまう。
 むひょう。そうなんですね。そんなことまでするのですか……。
 脳は、現に起きてしまった行動や状態を、自分に納得のいくような形で、うまく理由づけして説明してしまう。現状に合わせて都合よく説明するのが脳の働きである。ええっ……。
 人間って生き物は、主観経験の原因や根拠を無意識のうちにいつも探索している。ぼくらは本当は自分が道化師にすぎないことを知らないまま生活している。根拠もないくせに妙に自分の信念に自信をもって生きている。
 脳は、ノイズから生まれる秩序をエネルギー源として用いているため、外部供給として必要なエネルギー量はわずか1日400キロカロリーで済む。電力量に換算すると、20ワットという驚くべき少量のエネルギーである。
 脳、そして人間を知り、考えさせられる本です。
 
(2009年6月刊。1700円+税)

「稼げる」弁護士になる方法

カテゴリー:司法

著者 鳥飼 重和、 出版 すばる舎リンゲージ
 タイトルからは、なんだかエゲツない稼ぎ方のノウハウでも書かれているのかと勘ぐってしまいますが、実際に読んでみると、きわめてまともなことが淡々と書かれています。
 これで、オビにあるように「今の年収を10倍にするのは容易」と言われると、私には、その気がありませんが、ええっ、そ、そうなの…と、腰が引けてしまいます。
 著者は、独立して3年目で年収が1億円の大台に乗り、6年目で年収から経費を差し引いた所得も1億円を超えたそうです。東京で、これだけのことを実現したというのは、やはり、すごいことだと田舎の弁護士として思います。日経新聞の弁護士ランキングに4年連続で登場し、今や所属弁護士が27人もいる東京の法律事務所の所長というのですから、たいしたものです。
 そんな著者は、なんと私と同世代、つまり団塊の世代でした。なんだか、私と雲泥の差がありそうです。ところが、そんな著者なのに弁護士になるのに時間がかかり、落ちこぼれだったといいます。司法試験に通算18連敗。合格したのは39歳のとき。これまた、すごい記録です。
 新しい分野を開拓していけば、仕事はたくさんある。現状を振りと考えるか、チャンスと考えるか、その違いは大きい。
 人の悩みを解決して、なおかつ自分も元気になれる。こんなにすばらしい仕事はなかなかない。いくらお金になる仕事であっても、社会の役にたち、しかも社会から評価されなければ意味がない。弁護士は、やりがいのある仕事だ。
 知恵と信用。この2つが弁護士の最大経営資源である。
 よい仕事をして、社会に貢献できれば、お金があとからついてくる、はじめからお金を追い求めるのは、本末転倒だ。
 タイトルにある「稼げる」ことは、あくまでも結果であって、理想や目的ではない。弁護士の仕事の理想は、社会の役に立つこと、困っているひとを助けること、つまり、社会正義の実現にある。この理想を追求していくと、自然にお金が付いてきて、稼げる弁護士になる。
 弁護士のつとめは依頼者と一緒に悩むことではなく、その悩みを解決すること。そのため常に冷静な目で問題に取り組む必要がある。
 1週間に1度、頭をリセットする時間を持つ方が良い。頭の中を真っ白にすると、新たな活力がみなぎってくる。遊ぶときは、仕事を忘れて、頭の中を真っ白にする。すると、ストレスが発散して、元気な自分が戻ってくる。
 なかなかいいことが書いてあります。これで年収が10倍になるとは思えませんが、前向きになるのは間違いないと、私も思います。その意味で、若手弁護士だけでなく、弁護士以外の人が読んでも面白く役に立つ本です。
 
(2009年4月刊。1500円+税)

ビジネスで失敗する人の10の法則

カテゴリー:社会

著者 ドナルド・R・キーオ、 出版 日本経済新聞出版社
 コカ・コーラの元社長によるビジネス本です。さすがに鋭い指摘がなされていました。
 会社というのは人間が考えた概念にすぎない。会社が何かに失敗するということは、実際にはない。失敗するのは個人だ。なーるほど、ですね。
 失敗したいなら、柔軟性を否定すべきだ。しかし、柔軟性それ自体に価値があるわけではない。柔軟性と適応力は、企業の指導者に不可欠な資質であり、管理能力や業務の能力、技術力といった個々の能力を超えるものである。
 いまは情報の時代だと言われている。しかし、これは正しくない。情報の時代ではない。データの時代なのだ。データは無限に入ってくる。なるほど、そう、そうなんですよね。
データ中毒になって、未処理のまま洪水のように流れ込んでくるデータに忙殺され、考える時間が取れなくなっている。受信箱ショックと呼ばれる状態になっている。つまり、入ってくるデータが多すぎて、処理しきれなくなっている。
 凡人にとっては、情報通信技術のために、ムダな時間を省いて、今やっていることに集中し、じっくりと考えるどころか、時間が圧縮されて、ストレスがたまるようになっている。
 データはいくら集めても、多すぎるということはありえない。これは間違いなのだ。
 うーん、そうなんですよね。でも、データに振り回されないようにするというのは、実のところ、かなり難しいんです。
 成功をおさめている人はみな、自分の仕事に愛情をもっていて、きわめて熱心に取り組んでいる。どんな職業であっても、みな自分の仕事に心から熱意を燃やしている。少し度が過ぎるのではないかと思えるほど、夢中になっている。
 ふむふむ、これもぴったりくる指摘ですね。なるほど、なるほど、と思います。
 リスクをとるのをやめ、柔軟性をなくし、部下を遠ざけ、自分は無謬だと考え、反則すれすれのところで戦い、考えるのに時間を使わず、外部の専門家を全面的に信頼し、官僚組織を愛し、一貫性のないメッセージを送り、将来を恐れていれば、必ず失敗する。
 そうなんですね。よーく分かりました。
(2009年5月刊。1600円+税)

寡黙なる巨人

カテゴリー:社会

著者 多田 富雄、 出版 集英社
 2001年5月2日、67歳の著者は、突然、脳梗塞に倒れた。右側の重度の片麻痺、舌や喉の麻痺による摂食障害が残った。眠っている間に、麻痺のために舌が喉に落ち込んでしまうので、常に電動ベッドの背を45度に上げていなくてはいけない。しかも、水が一滴も飲めない。むせてしまう。唾を飲み込むこともできない。嘔吐反応まで消失していた。
 舌がまったく動かないから、話すこともできない。
 鏡を見ると、歪んだ表情の老人の顔が映っている。右半分は死人のように無表情で、左半分は歪んで下品に引きつれている。顔はだらしなく涎をたらし、苦しげにあえいでいる。とても自分の顔とは思われない。
 リハビリで受ける発声の訓練は、身体にこたえる。発声は全身の運動なのである。ところが、身体が、声を出す筋肉運動の仕方を忘れてしまっていた。うひゃあ、そういうことなんですか……。
 受けてみて、リハビリは科学であることを理解した。実際の経験によって作り出され、その積み重ねの上に理論を構築した、貴重な医学である。
 そして、歩くというのは、人間であることの条件なのである。歩くという何気ない作業が、実は複雑な手続きで行われていることを初めて知った。
 立ち上がるだけでも、脚のたくさんの筋肉のみならず、重心をとり、平衡感覚を全身の筋に覚えさせる大変な学習を要する。随意運動を指令するのは大脳だが、脳梗塞は、その指令を出す大脳皮質の運動野が障害されることが多い。
 小泉改革は、障害者にとって必要不可欠のリハビリを無情にも最長180日に2006年から制限しはじめた。改革の名を借りた医療の制限である。
 著者は、小泉改革を厳しく糾弾しています。まったく同感です。自民党の弱い者いじめの典型が、このリハビリ一律制限です。とんでもない悪法です。いま、消費税を5%から12%に上げようという動きがありますが、その口実にまたもや福祉予算の充実がつかわれています。とんでもないごまかしです。
 この本で救いなのは、著者が重度の障害を持ちながらもリハビリに励んで、本を出版するまでに回復できたということです。並々ならぬ決意と努力のたまものと思います。引き続き健康に留意され、体験をふまえて現行医療制度の改善のための告発を続けてください。 
(2009年2月刊。1600円+税

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