著者:鈴木 忠、出版社:岩波科学ライブラリー
小さな怪物、クマムシについて日本語で書かれた一般向けの本としては最初の本だと言われると、ヘーン、そうなのー・・・、という感じです。でも、読んでいくと、なるほど怪物としか言いようのない小さな生き物ではあります。
クマムシは大きいものでも1ミリぐらい。ほんの小さなケシ粒ほどの大きさしかない。昆虫ではないし、節足動物でもない。電子顕微鏡でとった写真があります。8本足のクマとしか言いようのない姿をしています。
クマムシは私たちの身近に、どこにでもいる。1000種ぐらいいて、そのうち1割は日本でも見つかっている。
オニクマムシの歩くスピードはクマムシのなかでは、ずば抜けて速い。その速度は、秒速0.1ミリだ。もちろん、これはゾウリムシの泳ぐスピードのほうが、よほど速い。
クマムシは海にもすんでいる。フジツボの殻のすき間にすむクマムシ(イソトゲクマムシ)は乾燥に耐性がある。しかし、フジツボの内部にすむ別種のクマムシは、乾くと死んでしまう。ただ、海こそクマムシの生まれた故郷であり、今もそこに大勢の種がすんでいる。
クマムシの化石も見つかっている。白亜紀のコハクに閉じこめられているクマムシは、現代のオニクマムシにそっくりだ。
クマムシは、絶対零度近くまで冷やされても生きのびることができる。また、X線をあてても、ヒトの致死量の1000倍の57万レントゲン(5キログレイ)にも耐えると報告されている。
ところが、クマムシは何をしても死なないというのは完全な誤り。クマムシには、実は簡単に死んでしまう。
クマムシをゆっくり乾燥させていくと樽のようになる。乾燥状態のクマムシはトレハロースという糖が蓄積される。組織に含まれる自由な水分はほとんどなくなる。水分がなくなると、それを媒体とする化学反応は起こらない。そして水の代わりにトレハロースが入りこんで、タンパク質や細胞膜分子の形をがっちり保持している。つまり、水を放出し、そのかわりにトレハロースを蓄積してクマムシは生きのびる。だから、クマムシを電子レンジに入れてチンしても、水分がないので、クマムシは平気なのだ。
カラーグラビアの写真を眺めるだけでも楽しくなる本です。生物の多様性を保全しようという呼びかけに、共感を覚えます。
クマムシ
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