(霧山昴)
著者 文在寅 、 出版 実業之日本社
文在寅回顧録、外交安保編というサブタイトルのついた面白く興味深い本です。一読して、文在寅元大統領を心から尊敬する気になりました。
ひたすら平和だけを願い、過去の政権の対北政策をグレードアップさせながら、引き継いできた私たちの意思が成し遂げた。アメリカと手をとりあって南北会議の突破口を切り開き、史上初の米朝首脳会議につなげた。
昔から想像すらできなかったことを成しとげた。その過程は、現在、中断されているが、だからといって悲観し、希望を捨てるわけにはいかない。再び、対話へ局面を転換していかなければならない。再び対話を始めには勇気が必要。平和に対する意思のないところに、平和が訪れるはずはない。
文在寅は、北朝鮮の体制崩壊と吸収統一を望まないと断言しています。それは、現実問題として韓国に何の利益をもたらさないからといいます。
北朝鮮の体制が崩壊したら、中国の助けを求める。その結果、中国が北朝鮮の状況を主導することになれば、韓国にとっていいことは何ひとつないし、統一の道もさらに遠のいてしまう、そうみています。北朝鮮を簡単に吸収できると考えるのは、あまりに現実離れした、ナイーブなものにすぎないというのです。考えさせられます。
文在寅は、日本について、きわめて冷静に、かつ批判的です。日本国民として、その批判があたっていると言わざるをえないのが、本当に残念です。
日本は本当に度量のない国、これから上昇する国ではなく、下落する国だと強く感じた。非常に了見の狭い外交姿勢を見せる。
日本の発言は終始一貫、徹底して自国中心的なもので、アジア-太平洋地域のリーダー国家として全体をまとめる観点がまったくなかった。東北アジアのリーダー国家らしく、東北アジア全体の平和と安定を考える観点もなかった。
アメリカには、チキンホークという言葉があるそうです。臆病なタカ派という意味。実戦経験はもちろん、軍に服務すらしたこともないのに、発言はタカ派で、勇ましいことばかり言う連中のこと。日本にも高市のようにチキンホークそのものが我が物顔で威張っている人たちがいますよね。中国まで届くミサイルを備えたら、中国は屈服させられるなんて考える人たちです。
ひどい言葉や悪態は、相手を傷つける前に自分自身を傷つける。レベルの低い対北チラシは、韓国民自身を辱(はずかし)める。
北朝鮮の金正恩とアメリカのトランプはハノイで会談したわけですが、このとき北朝鮮にはベトナムまで飛ばせる専用の飛行機がなかったので、中国の飛行機を借りるしかなかった。これで北朝鮮は中国に借りをつくってしまった。
金正恩は、会談場所としてモンゴルを提案し、それがダメなら、北朝鮮の海域に空母のようなアメリカの大型船を停泊させてそこで会議することも提案したとのこと。ところが、これはアメリカ側が受け入れなかった。
2018年9月19日、文在寅大統領は15万人もの北朝鮮の人々の前で演説しました。実に泣かせる演説です。
「私、文在寅は金正恩委員長とともに核の脅威と戦争のない朝鮮半島をつくることにしました。私たちは5000年をともに暮らし、70年を別れて暮らしました……」
平壌市民の困難を韓国民はよく知っていると激励したのです。同じ同胞としての気持ちを伝えようとしたわけです。金正恩からは、内容や時間について、何ら制限をつけられず、すべてが文在寅にまかせられたとのこと。金正恩には、それだけの包容力はあったわけです。側近が演説原稿を起案したとしても、最後は文在寅が自分の言葉で語ったのが、人々の胸をうちました。このときは、金正恩も文在寅に対して誠意をもって誠実に対応していたのです。それがなくなってしまったことが、読み手の私も本当に残念です。
今の金正恩は、対話を失い、再び核にしがみつき、敵対視と対決を叫ぶ道に戻ってしまい、南北の敵対関係はさらに増幅している。今、金正恩が見せている姿は、非常に無謀で、危険だ。
日本にも、このように平和外交を中心にすえて進めていく政治家が本当に必要だと思います。トランプ大統領のそばで、しかも、アメリカの航空母艦の上で飛んだりはねたりするような高市首相の存在は、日本に不幸をもたらすだけでしかありません。
会話体の文章ですので、とても読みやすく、550頁もの大作ですが、一気に読了しました。ご一読を強くおすすめします。
(2025年12月刊。3630円)


