(霧山昴)
著者 清和 研二 、 出版 築地書館
これまで、針葉樹林業では植栽木を育てるためにネズミを殺し、害虫を駆除し、殺菌剤をまき散らしてきた。特定の樹木は一瞬だけ守られる。しかし、同時に多くの生物がたおれる。
鳥とともにネズミは種子を運び、病原菌や昆虫類は実生(みしょう)の密度を調整することで、多様な木々の共存を促している。広葉樹林業では、すべての生命体を生かす。これまでの人工林の常儀は通用しない。
日本に今や原始の森は存在しない。大径、通直、高密度の三拍子が原始の森では、そろっていた。
天然のスギ林は、手を入れなくても何百年も見事に太い木々が天を衝(つ)いている。これに対して、日本中のスギ人工林には、手入れ不足だと込みあって、ひょろひょろと細くなる。
寿命の長いのは、カツラ620年、オノオレカンバ613年、アサダ600年、ミズメ525年、ハルニレ512年。ミズナラ、トチノキ、ハリギリは平均寿命350年で、最大樹齢は700年。
森の炭素貯留量を増やすには、気を太くし、太い木をたくさん森に残すことが大切。太い木ほど炭素の吸収・固定量が多い。太い木は早めに伐(き)って森を若返らせたほうが健全だという説は間違い。そうではなくて、森の中に太い木が多いことはきわめて大事なこと。太いものから順番に伐ってはいけない。
ブナの実生は、ブナの樹冠の直下では、ほとんど死んでしまい、樹冠の外側で大きく成長する。
外生菌根菌(ECM菌)は、芽生えを病原菌から守り、土壌の栄養環境を改善する。
菌類の種特異性が、種の多様性をコントロールする。
芽生えが生きのびるためには種子の重さは、きわめて重要。種子が重いほど、天敵の多い親木の下でも生きのびる確率が高い。
杉の天然林は、種の多様性に富む針広混交林だ。
森林は、本来、物質がムダなく、循環する生態系である。
窒素濃度が高いほど葉の光合成能力も高くなるので、植物にとって、無機体窒素は、光合成を活発にして体を大きくするためには欠かせない大事な栄養素である。
土壌動物や土壌生物はスギより広葉樹を格段に好む。広葉樹の葉は柔らかく、スギに比べて難分解性のリグニンやフェノール化合物が少ない。それに窒素濃度が高いので、微生物が大挙して寄ってくる。
ミミズなどの大型の土壌動物の消化管を通った腐植は、さらに細かく砕かれ、糞として排泄される。これらの排泄物は微生物の利用性を高めている。ミミズは広葉樹の葉を好むので、広葉樹の落葉が増える効果は二重三重となって現れてくる。
ミミズは土壌に団粒構造をつくる。団粒構造とは、土壌粒子が緩(ゆる)くくっついて、団粒をつくっている状態を指す。団粒化することで土壌の孔隙率はふえ、団粒内部の狭い孔隙に毛管水を保持できる。同時に団粒外の大きな孔隙は排水性や通性を高める。保水性と排水性という相反する機能をあわせもつのが団粒構造である。その結果、雨水は土中に浸透しやすくなる。
樹木にも最後まで生き通す権利がある。種々の寿命をまっとうする権利を認めながら行う林業があっても良い。いやあ、これはすごい提言ですよね。モノ言えない樹木にも権利がある、なんて痛快な直言です。
実生の定着をさえぎる最大の難物はササ。ササには天敵がいない。不思議な生物。
病原菌の蔓延は、混植によって回避できる。アメリカの草木群落では、種類が多いほど病気の被害が少ない。
クマ被害が最近とくに目立つ。クマたちが秋に飢えるのは巨木たちが急激に失われたことで、餌の量が急激に減ったせいである。ブナやミズナラが不作のときは、クリは餌のない年のクマの避難所になっている。天然のクリを奥地の林や生山で大きくしていくことがクマを留めておくために必要なこと。種の多様性を高めていけば、いくつかの樹種が堅果の不作を補(おぎな)う。多様性とは、補いあうこと。森に多くの広葉樹が混在し、それらが太い木であることは、クマにとって、とても心強いこと。
著者は最後に二つの提言をしています。その一は、山間地の集落にもう一度、人を呼びこむこと。快適に住めるようにしなければいけない。その二は、山で働く、林業作業に従事する人の待遇を今すぐ改善すること。そうなんですよね。アメリカの押しつけで軍事費に膨大な予算が使われていますが、むしろ日本山林を保持し発展させるためにこそ予算は使うべきです。プンプンプン、読んでいると勉強になるとともに怒りも湧いてくる、貴重な文献です。
(2025年8月刊。2640円)


