(霧山昴)
著者 髙田 郁 、 出版 角川春樹事務所
著者の『あきない世傳金と銀』は何冊か読んだくらいですが、とても面白い時代小説でした。著者は、なんと中央大学法学部を卒業しています。法律の固い文章とは縁遠い、豊かなイメージの湧き出る文書に、読んでいていつかほっこりしてきます。
この本は時代小説ではなく、現代社会の片隅にひっそりと活動している夜間中学を舞台としています。ずい分前に、山田洋次監督の夜間中学を舞台とする映画がありましたよね。まさしく、その世界が見事に再現されています。
ルポルタージュ風の小説だよなと思って読み終わって、「あとがき」を読むと、本当に大阪の天王寺夜間中学に長期取材したと書かれています。
著者には漫画原作者の時代があったのですね。集英社のマンガ雑誌『YOU』誌上に2001年に連載していたのだそうです。
いま、全国に夜間中学が53校あるとのこと。決して多いとは思いませんが、それでもこれだけの夜間中学で勉強したい人に、その機会が与えられているのは立派だと思います。
元文科省の事務次官だった前川喜平氏も、退官したあと、どこかの夜間中学で教えていたことがありましたよね、確か……。
夜間中学に行こうという人は、さまざまな経歴と境遇にあります。
この本の主人公は、中学校のときいじめにあって、「シネ」とまで書かれて怖くなって不登校になったのでした。初めは、夜間中学の授業を遠くから眺めているだけだったのが、つい誘われて入ってみると、とても居心地のいい空間だったというのです。
学ぶというのは、自分の正解が広がることなんです。知れば知るほど楽しくなり、もっと知りたくなります。著者の筆力に押されて、正月休みの夜に一気読みした本です。
(2025年2月刊。1760円)


