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福音派

(霧山昴)

著者 加藤喜之 、 出版 中公新書

 終末論に引き裂かれるアメリカ社会。こんなサブタイトルがついています。メインテーマに入る前に、高名な「宗教者」にもインチキな人間が多いという衝撃的な事実をまず紹介したいと思います。

全国福音派教会の代表をつとめたテッド・ハガードはメガチャーチの牧師として福音派の立場からしばしば同性愛を批判していて、ドキュメンタリー映画にも登場して同性愛について否定的な態度を示していた。ところが、ハガード自身が3年ものあいだ男娼と関係をもっていたこと、ドラッグを使用した性行為をしていたことが暴露された。

 FBI長官として長年にわたって「闇の帝王」のように君臨してきたフーバー長官も、表ではゲイを徹底して批判していましたが、実はずっと部下の男性と性的関係にあったことが明らかにされています。カトリック教会でも高位の司祭・司教たちによるセックス・スキャンダルは昔から無数に起きています。

 表の顔と裏の顔がまったく違うというのは、ある意味で、よくあることですが、宗教家がそうだと、「おまえもか…」と慨嘆したくなります。

 さて、本論です。

 アメリカ人の4分の1近くを占める福音派のうち、その6割は、世界は終わりつつあると信じている。そして、終末に向かう世界においては善と悪の戦いとして、現代の政治的・社会的な対立があると考えている。

アメリカは、そもそもからして対立の国だ。今なお、人種差別はすさまじい。中絶を認めようとしない。

 福音派は、イスラエルを祝福する者は神によって祝福され、イスラエルを呪う者は神によって呪われると考える。『創世記』にある約束に従った考えだ。

アメリカ人の半分近くは、今も進化論を否定し、万物は偉大なる創造主によってつくられたと考えている。

 「ゴッド・ギャップ」とは、定期的に協会に通う人は共和党を支持し、あまり通わない、あるいはまったく通わない人は民主党を支持するという一般的な傾向のこと。

 オバマ大統領は、オバマ・ケアとして、妥協しながらも国民の健康保険加入を促進しました。ところが、このオバマ・ケアについて、福音派は共産主義思想だと攻撃しました。連邦政府による個人の選択の領域への不当な干渉だというのです。

日本は崩壊寸前ですが、今なお国民皆保険で国民は守られていますし、ヨーロッパはもっと進んでいて、病院の窓口で医療費を支払う必要がありません。すると、ヨーロッパは、イギリスもフランスも、福音派のいう「共産主義の国」になってしまいます。そんなことを言われたら、ヨーロッパの人々は「違う、違う」と大憤慨することでしょう。

 黒人の成年が白昼、何もしていないのに警察官から不当に逮捕・拘束されて死亡するという事件が相次ぎ、「黒人のいのちは大事だ」というBLMの運動が大きく盛り上がりました。そのとき福音派は「すべてのいのちは大事だ」という対抗スローガンを掲げたのです。人種差別という構造的な不正義が目の前にあるにもかかわらず、福音派の大部分はそれを認めようとしないし、BLMの運動は決して支持しない。

 今、アメリカでも協会離れが進んでいて、多くの人が「非宗教者」になっている。ただし、非宗教はただちに無神論というわけではない。

福音派のイメージは悪くなっている。モルモン教徒(25%)、無神論者(24%)、ムスリム(22%)よりも高い27%が、福音派を「好ましくない」としている。アメリカ社会における福音派の影響力は、数の減少以上に、構造的な事件で持続している。トランプ支持者と重なるところがあるということですね。

アメリカ社会の暗黒面だと思いながら読みすすめました。

(2025年11月刊。1320円)

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