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ミャンマー、優しい市民はなぜ武器を手にしたのか

(霧山昴)

著者 西方 ちひろ 、 出版 集英社

 ミャンマー(旧ビルマ)に行ったことはありません。軍政の下で、アウンサンスーチーさんが囚われの身になっていることを知っているくらいの遠い国です。

軍事クーデターが起きたのは、2021年2月1日。軍はアウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領などを一気に拘束して、国家の「非常事態」を宣言した。

 司法・立法・行政の全権限が軍総司令官のミンアンフラインの手に渡った。半世紀もの軍事独裁から10年前に民政移管していたのが、一夜にして再び軍の支配下に戻った。

 ミャンマーの人口は5114万人だから、日本の半分以下。しかし、国土は日本の1.8倍の広さ。

 民族グループは大きく分けて8つ。最大は、人口の7割を占めるビルマ民族。細かく分けると135もの民族がいる。

 人口の9割が上座部仏教を信仰している。上座部仏教では、僧侶は現世の欲望から隔絶された修行者的な存在であり、結婚も労働も禁じられている。在家の仏教徒たちの喜捨によって僧侶たちの生活は支えられている。それは、「僧侶を助けるための寄付」ではなく、あくまで「自分が来世でより良い生を得るための功徳」である。なので、もらった僧侶が悪用したとしても、それはどうでもよいこと。大事なのは、自分が善行を積むことなのだ。

 2007年に、取材中の日本人記者の長井健司氏がデモを鎮圧中の軍によって銃殺された。

2020年11月の選挙で、アウンサンスーチー氏の率いるNLDは改選議席の83%にあたる396議席をとり、前回を上回る圧勝で2期目を決めた。これに対して軍の翼賛政党のほうは前回より8議席を減らしてわずか33議席だった。そのなかで今度の軍事クーデターが起きた。国連総会で、ミャンマーの国連大使が三本指によって反軍政を示した。

 ミャンマーにとって、日本は最大のODA供与国で、2019年には1900億円を注ぎ込んだ。しかし、このODAをミャンマーで実施しているのは、日本の建設会社。つまり、「援助」と称して、日本の経済界にお金が還流してくる仕掛けになっている。

ミャンマーでは、長いあいだ、自治権を求める20ほどの少数民族組織と、多数派のビルマ民族を主体とする国軍との間で内戦が続いてきた。カレン民族同盟もその一つだ。ロヒンギャは、ミャンマー西部のラカイン州に住む少数派のイスラム教徒。

軍政下のミャンマーでは、大学職員が大量解雇された。トップの大学であるカンゴン大学とマンダレー大学では、731人もの教職員が停職処分となった。

2025年2月、クーデターから4年たった。軍は4年前に出した非常事態宣言を7回にわたって延長(続けている)。

 内戦や空爆のため避難民となった350万人もの人々は投票に行けない。

 軍の弾圧によって殺された市民は、少なくとも6500人。2万人以上の「政治犯」が刑務所の中にいる。

 国軍に武器を支援するのは、ロシアと中国。その額はクーデター後の2年間だけ10憶ドル相当にのぼる。

 国軍は、兵士の逃亡や離脱が止まらず、深刻な兵力不足にある。そこで、2024年2月、徴兵制を導入した。

在日ミャンマー人は、11万人(2024年6月)で、クーデター前の3倍に増えた。

ミャンマーの深刻な実情を知ることの出来る貴重な本です。

(2025年9月刊。1980円)

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