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サボテンは世界をつくり出す

(霧山昴)

著者 堀部 貴紀 、 出版 朝日新書

 わが家の庭の一隅にもサボテンが代々すみついています。いえ、私が手植えしたものです。「代々」というのは本当です。今のサボテンたちはもはや10代以上前に植えたものの子孫たちです。この本にもサボテンは5年だったら引き抜いて植え替えたほうがいいとあります。

 サボテンにトゲがあるのは、第一に身を守るため。第二に、強い日差しから身を守るため。トゲによって、表面に細かな影が出来る。そして、トゲは、体温調節の役割も果たす。そして、第三にトゲを使って動物に運んでもらって繁殖を増やしていく。

 ところが、食用にするにはトゲが邪魔。そこで、トゲなしサボテンの開発(育種)が取り組まれた。

サボテンはメキシコでは日常的な食材。日本のアロエのような存在。主食からジュース、菓子、化粧品そしてサプリメントにまでなっている。メキシコでは、サボテンは健康に良いと広く認識されている。

食用サボテン(ウチワサボテン)は生命力の強さと栽培の手軽さという特徴がある。挿(さ)した木によって簡単に増やせる。しかし、古くなったら力を失っていくので、5年たったら古い株は抜く。

 メキシコのサボテン料理(モルカヘテ)は、肉と一緒に食べる。オクラやメカブに似ているが、ちょっとクセがあり、まったく新しい味わい。独特のぬめりがあり、酸味がじんわり口の中に感じられる。食べるなら若いサボテンに限る。古いと硬い繊維質ばかりになる。

 サボテンは、はるか昔から中南米では薬草として扱われてきた。火傷、痛み、胃の不調、皮膚病、肝機能障害、アルコール依存、血糖値の上昇抑制などだ。

 日本でウチワサボテンが群生しているのは茨城県神栖市。そして千葉県銚子市。愛知県春日井市は「サボテンのまち」。

 サボテンの原産地は、南北アメリカ。サボテンは、3500万年前ころにアルゼンチンからチリ、ボリビア地域で延生した。そして、多様化して、生息域を広げていった。

多くのサボテンは寒さに弱い。しかし、すべてのサボテンというのではなく、なんとマイナス40度の低温に耐えるサボテンも存在する。

 サボテンの根は、一時的かつ浅い水分を逃さず取り込むため、地表近くをはうようにして広がっている。サボテンの光合成は特殊。水分損失は致命的なため、「水の節約」を優先して光合成する。

サボテンの「ねばねば」(唾液)は、天然の保水ゲルの役割を果たすもの。

 サボテンは「食べられる水」として畜産の持続可能性を支えるカギとなる可能性をもっている。

手塚治虫のマンガ「ブラック・ジャック」には、サボテンが人間の体内に寄生して広がっているのを治療で取り除くという話が出てくるそうです。知りませんでした。

 日本にサボテンが入ってきたのは、17世紀中期以降といいますから江戸時代の初めころのことになります。サボテンは人類を救う食料の一つになりそうです。

(2025年10月刊。950円+税)

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