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正体不明という生き方

(霧山昴)

著者 松岡 正剛 、 出版 晶文社

 私もそれなりに本を読んでいますが、上には上がいると思ううちの一人が著者です。

 1944(昭和19)年の生まれですから、私より4歳だけ年長です。大学生のときは「デモの先頭にも立った」というのですから、いわゆる過激派だったようです。

 「若者の教祖」「知の巨人」「博覧強記」というレッテルが貼られていますが、本人はそれを嫌っていたとのこと。「生涯、一編集者」と自称していたそうです。

 生前、十数時間に及ぶインタビューによって、そのさまざまが本人によって再現されています。惜しくも昨年(2024年)8月に亡くなりました。著者はヘビースモーカー、そして午前3時前には寝ないという生活を送った。完全に夜型人間ですね。これが良くなかったのではないでしょうか。

 インタビューで、80歳を目前にして本人は次のように謙遜します。

 「知らないことだらけ。『千夜千冊』をまだ3千冊ほど書かないと、ぼくなりの到達点と呼べるところまで行かない。なので、まったく博覧強記ではない」

 チグハグというのは、漢字で書くと、「鎮具(金槌・かなづち)と「破具」(釘抜き)となる。大工が鎮具と破具を取り違えたら、大変なことになることから、取り違えたときのことを指す。

 「粋」は、京都の「すい」、そして江戸の「いき」を意味している。東は「番(ばん)」の文化で、西は「衆」の文化。チームを作ってみんなで事に当たる。

 著者の基本は独学。自分で日々、書物を通して学び、自己同一的ではない考え方というものに触れて、多様な主語で考えるという方法を自分なりに工夫し、どんなことも生命から語る。星や素粒子から語るということをやり続ける。

読書というのは、ひとときの本の中に入って、また、そこから出てくる。本の世界と日常の世界を行ったり来たりしながら進んでいく。あたかも本というものを仮宿のようにしながら、出入りする。読書体験は、お互いに共有しにくい。読書は交際である。いろいろな交際だ。律儀な交際もあれば、危うい交際もある。

継続することが、一番、人を変える。やめないということが大切。私も、まったく同感です。この毎日1冊の書評もこれまで20年以上続けています。どれだけの人が読んでくれているのか、さっぱり分かりませんが、私が読んで書いたものを、大勢の人々が読んでくれたら幸せだと考えています。続けるという点では、フランス語も続けています。こちらは、もう30年以上、フランス語検定試験(仏検)を年に2回受けています。残念なことに、さっぱり上達しませんが、最近は、YouTubeでフランスの国会での討議を一生けん命に見聞しています。まったく分からないというのではないのが、うれしいのです。

日本仏教は、インドの仏教や中国の仏教に比べると、うんとソフィスケートされている。日本仏教は、きわめて独自であいまいな仏教だ。

歌舞伎の世界では、「お父さんとそっくり」というのが、最高の誉(ほ)め言葉。そ、そうなんですね…??

正剛という名前は、戦前の有名な代議士であった中野正剛にちなんで父親が命名したものだそうです。早稲田大学では革マル派の拠点の一つであった新聞会に属し、文学部の議長として活動していたとのこと。父親が死亡したことから、大学を中退してPR会社に就職したのでした。

370頁もある、読みでのある本です。

(2025年9月刊。2090円)

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