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2025年2月 の投稿

北朝鮮を解剖する

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 礒﨑 敦仁 、 出版 慶応義塾大学出版会
 人口2600万人の北朝鮮は目が離せない存在です。
 金正日の時代には「先軍時代」でした。ところが、金正恩は「先軍」を過去の遺物として歴史の中に埋めていき、2019年に改正された憲法からは、「先軍」がほとんど消去された。朝鮮労働党の規約にも2021年服に「先軍」の文字はない。これはいったい何を意味するのか…。
 金正恩時代を代表する政治理念は「人民大衆第一主義」である。映画では「豊かさ」に対する憧(あこが)れを肯定的に描いている。
 「人民生活の向上」として、金正恩は2021年に平壌市に5万戸の住宅を建設するとした。5年間にわたって毎年、1万戸の家を建設するというもので、2024年現在、すでに4万戸の住宅が建設された。その多くは高層アパート。
 たしかに平壌市内の写真を見ると、高層住宅がニョキニョキとそびえ立っています。
 北朝鮮は生産手段の社会的所有に強くこだわっていて、民営企業は認めていない。民営企業をまったく認めていないのは、世界の社会主義国家のなかで北朝鮮だけ。
 北朝鮮には民間企業が法律上許容されていないため、商法典は存在しない。
1996年から2000年までは「苦難の行軍」と呼ばれる深刻な経済危機の時代であり、数十万人もの餓死者を出した。
 北朝鮮国民の経済生活において、市場は一定の役割を担うようになってきた。
 2013年に、国営企業や協同農場に一定の経営自主権を与えるという社会主義企業責任管理性が導入された。国営企業や機関の一部門が独立採算の単位として認定され、さまざまな権限が付与された。そのため、部門長は自らの部門の事業とそのメンバーの生活に責任をもつことが期待され、相当なプレッシャーがかかるようになった。
 日常の企業の運営では支配人が采配(さいはい)を振るうとしても、重要な決定は工場の党組織が行うため、党組織の代表のほうが支配人より「偉い」ことになる。
 北朝鮮のサイバー活動は、対外工作機関である朝鮮人民軍偵察総局が主体となっている。キムスキー、ラザルスグループ、ビーグルボーイズなどのサイバー部隊が存在する。
 サイバー領域は兵器開発の導入コスドが低く、高い強度の経済制裁を受けている北朝鮮にとっては参入障壁が低いため、韓国との関係にある通常兵力の差を効果的に縮小することができる。
 北朝鮮はサイバー攻撃への関与を一度も認めたことがない。
 北朝鮮は、暗号資産の奪取や金融機関へのサイバー攻撃能力を急速に向上させており、金融ハッキング部門において世界一位の水準にある。そして、北朝鮮国内と国外居住の双方の北朝鮮サイバー部隊の能力が向上し続けている。
 北朝鮮のサイバー部隊の要因は6800人ほどと推定されている。これは日本の自衛隊のサイバー部隊員が540人であるから、その10倍以上もいるということ。北朝鮮によるサイバー攻撃は2004年の5件が2021年には1462件と、300倍近くも急増している。
 北朝鮮のサイバー攻撃によって、暗号通貨資産7億5000万ドルを窃取した(2023年)とみられている。これが貴重な外貨獲得手段となっているようです。
 金正恩は最近、娘と一緒によく登場してくるようになりました。「尊敬するお子さま」とか「尊貴であられるお子さま」と呼ばれています。いかにも異常です。金王朝を娘に受け継がせるつもりなのでしょうか…。
 男性優位の儒教文化が根強い北朝鮮社会なので、十分な時間をかけて女性指導者の誕生を既成事実化させようという意図が働いている可能性があるとされています。本当なのでしょうか。
 北朝鮮を深く知り、考えるうえで大変勉強になる本でした。
(2024年11月刊。3500円+税)

昭和文化、1925-1945

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 南博・社会心理研究所 、 出版 勁草書房
 亡父は17歳のとき、働くあてもないまま単身、上京しました。昭和2年(1927年)3月のことです。それから7年間、東京で生活しました。この7年間、日本はまさしく激動の時代であり、戦争へひた走りに突き進んでいきました。軍部の横暴を止める力がなかったのです。
 金融恐慌があり、満州事変があり、五・一五事件が起き、「満州国」が建国しました。国際連盟も脱退します。
 亡父は幸いにも逓信省にもぐり込むことが出来、仕事が決まると、次は法政大学で学ぶようになりました。初めは夜間の文学部国語・漢文科、そして法文学部の法律学科に移りました。我妻栄に学び、司法科試験を受験しました(不合格)。
 そのころの学生生活をしっかり調べ、刻明に再現していきました。『父の帝都東京日記』というタイトルをつけて出版したところ、父が日記をつけていたのが残っていたと誤解する人が出てきました。もちろん、そんな「日記」なんて、何もありません。私が亡父になりかわって当時の社会状況との関わりあいを明らかにしていったのです。亡父の日記はありませんが、法政大学の古ぼけた卒業記念アルバムが残っていて、その余白に父が貼りつけた写真が何枚もあり、学友たちと肩を組んでいる写真もあります。
 根が真面目な亡父は、きっと「マルクス・ボーイ」たちから、いろいろ勧誘されたのだろうと思いますが、「道」を踏みはずすことはなかったようです。
兵隊にとられて(応召)中国に渡りましたが、幸いにも病気にかかり、無事に日本に生還することができました(そのおかげで今日の私がここにいるわけです)。
 昭和6(1931)年ころの給料(賃金)は、陸軍少佐160円、陸軍大尉130円、中尉85円、軍曹67円。
1円で買える「円本」なるものが売り出され、爆発的な人気を得た。
 「現代日本文学全集」は各巻が1冊1円だったのに、第1回配本(尾崎紅葉集)は予約購読者が25万部だった。「世界文学全集」も刊行され、「レ・ミゼラブル」は58万部もの予約読者がいた。まさしく、すさまじいばかりの数字です。それにも大量ですね…。次に岩波文庫が対抗するように出現した。
 雑誌「キング」は、1927年に売り出したとき、140万部を発行した。これはすごいですね。
 日本でラジオ放送が始まったのは1925(大正14)年3月のこと。10年たっても(1934年)ラジオの普及率は15.5%しかなかった。ラジオの普及率が65%に達したのは戦後の1953年のこと。
軍歌が一般に普及したのは案外に遅く、「勝ってくるぞと勇ましく誓って国を出たからにゃ」(露営の歌)は、1930年代も後半のころ。
 「出てこい=ミッツ、マッカーサー。出てくりゃ、地獄へ蹴落とし」
 かけ声だけは勇ましいのですが、裏づける物質がありませんでした。兵站無視の日本が戦争に勝てるはずもなかったのです。
 戦前を複眼的に見るときには欠かせない本だと思いました。
(1987年4月刊。4800円+税)

「平安時代の信仰と暮らし」

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 倉田 実 、 出版 花島社
 図鑑・モノから読み解く王朝絵巻の第三巻です。絵巻に描かれている絵が詳しく解説されていますので、平安時代の人々の暮らしがビジュアルに分かります。
まずは信仰、祭(まつり)です。
 神は夜に天から降臨して物に寄り付き示現(じげん)するとされ、樹木や岩などが憑代(よりしろ)とされた。そして、神霊を神輿(みこし)に移したり、松明(たいまつ)の火で導いたりして御旅所まで行列して運んで安置する。このときの神輿の渡御(とぎょ)を神幸(神のお出かけ)と言った。
 神のお帰りは還幸(かんこう)。神が帰ると、神前に捧げた神酒(おみき)や神饌(しんせん)のお下がりをいただく、神人共食となる直会(なおらい)で終れる。
平安時代には、現世利益のための観音信仰が広まった。仏も旅をした。薬師如来は、天竺(てんじく)から東方を目指した。また、人々を救済するため、仏たちも漂泊した。
 平安時代にもっとも一般的な信仰にかかわるものは、物詣(ものもうで)の旅。貴族の女性が好んだ物詣先は観音霊場。
 稲荷(いなり)神社は、渡来系氏族である秦(はた)氏の氏神だった。そして、平安京になってからは、下京の住民たちの産土神(うぶすながみ。生まれた土地の守り神)となった。
 編木は「びんざさら」と読む。「ささら」とも呼ぶ打楽器の一種。今も江戸時代から伝わる郷土芸能として紹介されていますよね…。
 今日の路上での大道芸と同じものとして、渡来系の散楽(さるがく)芸(滑稽な芸)があった。
 平安時代の旅は食料持参が基本。食材は、唐櫃(からびつ)に入れて運搬した。
 私も熊野古道を歩いたことがあります。平安時代の貸衣装を借りて写真もとってもらいました。室町時代後期になると、「蟻(アリ)の熊の参り」と言われるほど、参詣(さんけい)する人々でにぎわっていた。列をなして人々は熊野に向かっていったのです。
 遊びにも季節感があった。正月の毬杖(ぎっちょう)、そして五月の印字打(いんじう)ち。
 平安時代の貴族には、四つ足の獣は汚れとして忌まわれ、仏教の殺生を禁じる教えもあって、鳥肉以外の肉食をほとんどしなかった。しかし、庶民は肉食もしていた(僧侶を除く)。
 牛飼童(わらわ)は、牛車を扱い、牛の世話をする者であって、大人でも童と呼ばれた。被物(かぶりもの。帽子のこと)のない大人は、僧侶を除くと、まず牛飼童とみて間違いない。
 当時の出産は命がけだった。座産だった。
 印字打ちとは、若者や童、あるいは大人たちが、二手に分かれて石を投げ合う石合戦のこと。石が顔に当たって、額から血を流し、道に点々と血痕がついている絵もある。
 2人の男(大人)が向かいあって、耳に一本のヒモをかけて引きあうという「耳引き」をしている情景も描かれています。
絵巻物には、異時同国法といって、一つの場面に同一人物を何度も描くことで、時間の経過が暗示されている。
 いやあ、絵の細かいところまで、きっちりとした解説がついていますので、本当に勉強になります。
(2024年7月刊。3300円)

ウマと科学と世界の歴史

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 リュドヴィク・オルランド 、 出版 河出書房新社
 家畜ウマのルーツは4200年前の北カフカスのステップにある。DNAによる探査で判明した。より正確には、ドン川とヴォルガ川の下流域。いやあ、なんでそんなことまで判明するのでしょうか…。不思議です。
 インド・ヨーロッパ語族の起源は、ステップの騎馬民族にある。
 ウマは、かつてもっとも狩られた動物種のひとつだった。
野生のウマは、きわめて社会的な動物であり、複数の雌(メス)ウマと、その子どもから成る群れで暮らし、総じて一頭の雄(オス)ウマに守られている。
若い雄ウマ、つまり独身雄は4歳か5歳になると群れを離れ、単独で生活する。それはしばしば数年におよび、年老いた「リーダー雄」を倒してトップの座につくまで続く。「リーダー雄」といっても、実は群れのウマに力を行使するのは雌ウマだというのは、珍しいことではない。
野生ウマは、どちらかというと移動を好まず、自然の原産地の周辺にとどまろうとする。
 ウマは1日に50グラムの塩を摂取する。いったい、どうやって、こんな量の塩を摂れるのでしょうか…、不思議です。
 ラバはウマより丈夫で、飢えや渇き、病気や害虫にも強い。ウマより足は遅いが、飼育にそれほど手間がかからない。ラバは辛抱強い。ラバはロバの性質を受け継いでいるが、ロバより体が大きく、ロバの悪い性質、強情さは持ち合わせていない。
 ラバはよく働き、自立心が強く、丈夫なので、運搬用の動物というだけでなく、貨幣の役割も果たした。ただし、ラバに繁殖力はない。
考古遺物がウマのものかロバのものか、それともラバのものか、決定するのは容易ではない。古代ローマ人にとって、ラバはきわめて重要な動物だった。オリエントでは、高位の者がラバに乗るのは珍しくなかった。
アラブウマが世界中で知られているのは、その特徴的なシルエットや自然な優美さとともに、並外れた持久力をもつから。もっともスタミナのあるウマは160キロメートルにもなる長距離耐久レースを競う。レースのあいだに4回の休憩をとりながら、騎手を乗せたまま平均時速20キロのペースで走り続ける。チベット王国では、現ナマではなく、ウマで茶の代金を支払っていた。四川省で生産された茶の半分が2万頭以上の馬と引き換えにチベットに送られた。
今日、アメリカにいるウマは、入植者たちが旧世界の出身地から連れてきたウマの子孫。かつてアメリカ大陸に生息していたウマは絶滅している。その子孫のウマは今のアメリカ大陸にはいない。
ウマの体は6歳にならないと完全に成熟しない。ところが、多くのウマが生後18ヶ月でトレーニングを始める。これは、人間ならわずか10歳の子どもがプロの競技会に出るようなもの。
競走馬にサイロキシンを過剰に投与すると心臓の不整脈を引き起こして死亡することがある。
 サラブレッドは競馬産業の中心にいて、アメリカ一国だけで毎年340億ドルの収入、そして50万人もの雇用を生み出している。
 ウマのことを初めて詳しく知ることができました。
(2024年9月刊。2970円)

虚の伽藍

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 月村 了衛 、 出版 新潮社
 古都京都に巣食う坊主、フィクサー、そしてヤクザの生々しいからみ合いが描かれ、まったく息もつかせぬ迫力の展開でした。
 坊主は、伝統仏教最大宗派である包括宗教法人の末寺出身。
 地方の貧乏寺出身者は、宗務を司る総局部門にいても不利な末端の一役僧でしかない。寺格が低いと宗門での出世は望めない。宗教界でも出自の上下は厳然として存在する。
坊主に必要なのは、読経の際の声の良さ。およそ名僧は読経の声に極楽を見せるもの。そして、人の上に立つ坊主は、まず見てくれがよくないといかん。
 まあ、たしかに読経の声がほれぼれするお坊さんに出会ったことが私もあります。
バブル期に計画された再開発事業によって、京都の街の景観も人心も、そして闇社会の勢力国も一変した。
 日本中の金融機関に闇社会が広く深く浸透したのは、政財界との蜜月期間ともいえるバブル期の癒着によってである。
 地上げは宋門とヤクザの役割分担によって、えげつなく進められていった。その大義名分は、宗門の生き残りのため、というもの。
 そして宗門のトップである貫首についての選挙では、実弾が乱れ飛び、怪文書がスキャンダルを広めた。
もちろん、フィクションだと断りがありますし、私もフィクションだとは思うのですが、それにしてもヤクザの食い込みといい、宗門の全権まみれの腐敗ぶりといい、さもありなんと読ませるド迫力に圧倒されてしまいました。今年の直木賞候補作品だそうです。
(2024年10月刊。2200円)

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