弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2024年3月 1日

韓国の国防政策

韓国


(霧山昴)
著者 伊藤 弘太郎 、 出版 勁草書房

 韓国の国防費は日本の防衛費を追い抜き、世界第9位となっている。
 2017年5月に発足した文在寅政権の下で、それまで9年間の保守政権よりも高い年平均6.5%の増加率で国防費を増やした。
 2022年の国防費は、前年より4.4%増の54兆6112億ウォンであり、任期中だけで3割も国防費が増加している。2025年には、日本の防衛費の1.5倍に広がる可能性がある。
 文在寅大統領は、「誰からもみくびられない安保態勢を整える」と演説した(2019年10月1日)。
 韓国製の軍装備品の海外輸出額は、李明博政権から急増し、廬武鉉政権期の2006年に2.5億ドルであったのが、10年後の朴槿恵政権期の2016年には10倍の25億ドルにまで到達した。
 韓国の防衛産業の海外への輸出額は2006年に2億ドル、2008年に10億ドル台、2011年に20億ドル台、2013年には30億ドル台に到達した。つまりわずか10年で15倍となった。2014年には36億ドルとなった。
 文在寅政権以前は、防衛産業をめぐる不正が常に存在した。
防衛装備品の海外輸出は、単なる経済的利益にとどまらず、同家の威信をかけ技術力を結集させて、防衛産業業界だけではなく、経済界全体に技術革新の促進効果が滅小することを期待する。
 韓国の防衛装備品は、基本的に民間企業によって生産・販売されているが、歴史的にみると、装備品の開発や輸出は官主導で行われてきた。
 韓国防衛産業界は、財閥系企業であるハンファやLIGネクスワン(LG系)などの大企業と、その他中小企業の2つに分けることができる。サポートする行政組織は主に防衛事業庁である。そして、大企業は車両や艦艇などの防衛装備品そのものを製品として扱うことが多いのに対して、中小企業は主に装備品の部品や素材を扱っている。
 韓国の防衛産業の躍進を支えているのは、官主導による官民軍が一体となった海外セールスへの果敢な挑戦である。
 北欧諸国は、韓国製K-9自走榴弾砲を積極的に導入している。フィリピンは韓国製練習機T‐50を攻撃型に改造したFA-50軽攻撃機を導入した。
 インドネシアもT‐50に加え、韓国製潜水艦を購入し、現在は、韓国の次期戦闘機KF-21を共同開発している。インドは、韓国製のK-9自走榴弾砲を装備した。
 また、韓国はオーストラリアからK-9自走榴弾砲の受注を獲得した。
 しかしながら、2020年の各部品の国産化率は全体で76%、航空部門の装備品では53%である。T‐50の部分の国産化率では61%である。
韓国は世界11位の経済規模をもつ国家としての自信をもち始めている。
 私が不思議でならないのは、韓国にはいくつもの原発(原子力発電所)があることです。北朝鮮の脅威を本気で心配しているのなら、絶対にありえないことです。ちょっとしたミサイルが原発に撃ち込まれたら、それこそ韓国は破滅してしまいますよね(もちろん、日本も同じことが言えます)。
 この原発の存在と国防政策との矛盾に触れない「韓国の国防政策」なるものは、私にとっては単なる絵空事でしかありません。本書は、この点について触れていませんので、本のタイトルに私は違和感がありました。どうなんでしょうか...。
(2023年11月刊。3600円+税)

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