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2023年4月 の投稿

謎が解かれたその日から

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 国立ともこ・宮本郷子 、 出版 クリエイツかもがわ
 3人の子どもが全員、発達障害、学校に行かなかったり、保健室登校だったり、日々の生活で強いこだわりがあったり・・・。大変な日々をしっかり母親が受けとめて過ごした日々が紹介されています。心を打たれながら、居ずまいを正しつつ読みすすめました。
 人間って、本当に厄介な生き物なんですよね。つくづくそう思いました。いえ、これは我が身と私の周辺を振り返っての実感でもあります。
 「行かないといけないのに、行けない。行きたいのに、行けない。何で行けないの・・・」
自分の欲求を聞き入れてもらえないと、拒否されたと思い、泣く、わめく、かんしゃくを起こす。
 握りしめた手が、不安と緊張と恐怖心で震えているのを感じ、心にため込んできた辛い経験の傷の深さをあらわしている。
 みんなが学校に行っている時間帯は、自分が学校に行っていない罪悪感で外へ出られず、夕方も同級生に会うのが嫌で外に出られない。
楽しそうに振るまっていても、実は周囲の人や状況に適応させるのにエネルギーを注いできた。自尊感情が低く、相手を優先し、自分はいらない人間だと感じていること、自分を守る解釈ができない・・・。
 長女が中学2年生のころ、自分の体形も顔も醜いという思考に襲われ、食べ物のカロリーにひどくこだわり、食事をとらなくて急激にやせていった時期があった。また、強い孤独感や寂しさを感じて、赤ちゃんのころに戻ったかのようなスキンシップを求めてきた。
 二男は小学生のころ、菌に対して過敏な反応を示した。学校はイコール菌なので、学校から帰ってくると、玄関で服を脱ぎ、すぐにお風呂へ入る。学校のものや学校で使っていたものを部屋に持ち込むのは絶対禁止。とくに、布団に入るときの体はきれいな状態でないといけない。母親が風呂上りに、そんな場所を踏んだりすると、「もう一回、お風呂に行って・・・」となる。
 ところが、そんな二男は、運動神経は良く、手先も器用で、いろんな発想力が豊かだと、学校の教員は見ていてくれていたのです。
 母は3人の子どもの一人一人を見守り続けた。これは母たるが故にできること。3人の子どもたちが、それぞれにまったく違った特性をもち、社会の中で生きるのがしんどいと思い続けていた。その一人ひとりの歯車がどの方向に向いているのか、なかなかつかめなかった母だが、いつ、どんなときも口出し、手出しするのではなく、観察し、見守っていた。その母の優しさと忍耐にクリニックの医師は共感しながら応援した。
 「生きろと無理やり産んでこさせられた。生まれたくなかった」
 わが子から、こう言われたとしたら、あなたはどう思い、どう対応しますか・・・。
 ところが、本人は、やがて、「生きてて何が悪い!」と一言つぶやいたのです。お互いの妥協点を出し合い、話し合いながら、折り合いをつけてくれるようになったのでした。
 いやあ、あきらめないでいると、子どもは成長するのですね・・・。心が震えました。こんな教員がいたら、いいですよね、そう思いました。ゆとり感やゆるみ感がにじみ出てくる教員。何も求めず、無条件で受け入れてくれる、大きな包容力・・・。
 こんな態度って、客観的にも余裕がないと出来ませんよね・・・。
 漫画風のカットがあって、情景がよく想像できます。一読を強くおすすめしたい本です。
(2023年1月刊。1200円+税)

足利将軍と御三家

カテゴリー:日本史(室町)

(霧山昴)
著者 谷口 雄太 、 出版 吉川弘文館
 江戸時代、徳川幕府の下で、尾張・紀伊・水戸は御三家として別格の存在だったことは、日本史の常識です。だって、この御三家のなかから、ときに将軍が生まれたのですから・・・。たとえば、吉宗は紀伊國の藩主から将軍になりましたが、そのとき、紀伊藩士をごっそり江戸城にひきつれていったのでした。
この本は、そんな御三家が実は室町時代にも足利(あしかが)御三家として存在していたことを明らかにしています。吉良(きら)、石橋、渋川の三家です。この吉良は、なんと赤穂浪士の討ち入りの対象となった吉良上野介(義英・よしひさ)に連なる名門として、室町時代から戦国時代を経て、江戸時代まで続いていたのであり、しかも、儀式に通暁した存在、高家(こうけ)として存在していたというのです。
足利将軍を中心とする室町幕府には三管領(かんれい)として斯波(しば)氏、畠山氏、細川氏がいて、四職(ししき)として一色氏、山名氏、京極氏、赤松氏がいた。そして、それらより御三家のほうが格が上だった。御三家は、管領家と同等以上の地位にあった。
室町幕府の支配は、政治権力体系と儀礼権威体系の両面(二本柱)から成り立っていた。
吉良氏は、御三家筆頭であり、斯波氏ら三管領家以上の存在だった。
当時の社会における儀礼権威というものの重要性を再認識すべきだ。将軍・公方に准ずる存在、それが御連枝(ごれんし)であり、足利氏の重要な一部を成した。この御連枝に准じたのが御三家だった。
吉良・石橋・渋川の三氏は、足利氏の兄を出自とする面々となる。吉良・石橋・渋川の三氏は、鎌倉時代、「足利」名家を名乗り、足利氏とは惣領一庶子の関係にあるなど、両者の関係は非常に濃いものがあった。
14世紀中葉、足利一族は分裂した。観応の擾乱で敵味方として戦ったとき、最終的には1360年ころ、吉良・石橋・渋川の三氏は幕府のもと再統合された。
足利御三家の役割は、足利氏がいなくなったときには、その立場を後継することにあった。吉良が絶えていたときには、今川氏が継ぐことになるが、本人が拒絶しているので、100%ありえない。
江戸幕府は、室町時代の儀礼制度や身分格式を色濃く受け継いでいた。関東吉良氏は、「蒔田(まいた)」氏として存続した。石橋氏は、戦国時代、当主(忠義)はキリシタン(サンチョ)となって生き抜き、滅んでいった。渋川氏は里民となって生き抜いた。
さすがに学者ですね。よくぞ調べあげたものだと驚嘆しながら読みすすめました。
(2022年12月刊。1700円+税)

君のクイズ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小川 哲 、 出版 朝日新聞出版
 私はテレビを見ませんし、ましてやクイズ番組なんて関心もありません。でも、その裏側がどうなっているのかは関心があるので、つい手にとって読んでみました。
 著者は、先日『地図と拳』で直木賞を受賞しています。そっちは戦前の満州が舞台で、歴史をよく調べてストーリー構想もすごいと驚嘆しました。こちらは、歴史ではなく、クイズ番組の仕組みと、その優勝者たちの心理がよく調べて、本物そっくりに描かれています。あとがきに友人のクイズプレイヤー2人に助言してもらったと書かれています。
この本では、ぶっつけ本番のクイズ番組で優勝するのは、なんと問題文が読み上げられる前に「正解」を回答したという大学生です。どうやら、問題文を読み上げる人の口元を見て、そこから連想ゲームのようにして問題文を推測し、正解を回答したというのです。ありえない・・・と思いました。もちろん、「ヤラセ」じゃないかと疑いますよね。でも、最近のクイズ番組では、ヤラセがあったという話は聞かないというのです。
クイズとは、覚えた知識の量を競うものではなく、クイズに正解する能力を競うもの。クイズには、さまざまな形式がある、早押しクイズ、ペーパークイズ、ボードクイズ・・・。
 Q.日本で最も高い山は富士山。では大阪市港区にある、日本で最も低い山は?
 A.正解は「日和山」
 リスクを負うことも必要だ。展開によっては、まだ五分五分でも、他より先に押さなければいけない。『恥ずかしい』という感情は、クイズに勝つためには余計だ。そんな感情は捨てたほうがいい。クイズの強さとは、相手に先んじて正答を積み上げる強さだ。
早押しクイズでは、答えが分かってから押していると、相手に解答権をとられてしまう。「わかりそう」と思ったら打つ。ランプが点(つ)いて、答えを口にするまでの短い時間で、「分かりそう」だった解答を考える。いやはや、とんだ厚かましさだ。
数列に例えるなら、「クイズの強さ」とは、さまざまな数列の可能性を見つけられる知識と、リスクを計算しながらベストのタイミングで解答ボタンを押す技量と、計算の速さと正確さ、これらの総合値だ。
世界は知っていることと、知らないことの二つで構成されている。クイズに正解したからと言って、答えに関する事象をすべて知っているわけではない。まったく、そのとおりです。
(2023年3月刊。1400円+税)

法律事務所「総合力」経営の実務

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  長井 友之・仁本 恒夫 ほか 、 出版  日本加除出版
 法律事務所で事務職員を活用しているか、できているか、というのは、とても大切です。事務職員がやる気があって、明るく前向きに働いているところは、法律事務所の雰囲気が良いので、相談に来た人は安心して相談できますし、事件解決を一緒にたってくれそうだと依頼され、新規の受任にもつながっていきます。
 事務職員の能力向上に主体的に取り組む組織として一般社団法人日本弁護士補助職協会(JALAP)が存在します。
 日弁連は2009年から、毎年1回、能力認定試験を実施しています。15科目の基本応用研修が出題範囲で4択60問を2時間で回答します。合格には7割の正答が必要で、合格率は受験者の5割前後です。2022年5月までに4695人の合格者を出しています。
 ただ、この認定試験に合格したからといって、直ちに給与が上がったり、仕事が質的に拡大する(できる)というものではありません。今のところは、あくまで事務職員の質の向上に姿するというものでしかありません。
 そこで著者たちは、一つの提案をしています。それが「弁護助手」です。「弁護士の助手」を体現したものですよね。ただし、弁護助手でなく法律事務職員が、ここからは関与できないとか、そんなものをつくってはいけないともしています。ここらあたりが実に悩ましく、難しいところです。
アメリカではパラリーガル職がすっかり定着していますし、日本でも大手の法律事務所ではパラリーガルと名乗って働いている人たちが多数いて、それなりの処遇も受けているようです。私は20年前に「一級秘書」という名称はどうかと提案しましたが、受けは良くありませんでした。
この本によると、アメリカの大規模法律事務所では、経営者弁護士に依頼したら、時給で400~800ドル。「イソ弁」だと時給225~400ドル。パラリーガルだと時給100~300ドルだとのこと。
 ちなみに、ニューヨークでは、スタッフをもっていない「一人弁護士」も珍しくないそうです。日本でも、最近は、事務所(オフィス)をもたず、パソコンとケータイだけで仕事をしているという若手の弁護士が少しずつ増えていると聞きます。
 この本は、事務職員の採用面接についても手の内を明かしています。3回の面接で、向上心のある人、明るい人を選ぶ。最後は、なんといっても、一緒に働きたいと思えるかどうかに尽きる。まったく、そのとおりです。
 「法律事務職員活用のバイブル」というのがサブタイトルになっています。この本を読んで大いに「総合力」をアップさせ、経営と生活を安定させましょう。この分野に関心のある方には強く一読をおすすめします。
(2023年2月刊。3300円+税)

プーチンの過信、誤算と勝算

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 松島 芳彦 、 出版 早稲田新書
 ロシアのウクライナへの侵攻が昨年2月に始まり、1年以上たつのに、いつ戦争が終わるのか、どうやって終わるのか、誰にも予測できない状況が続いています。私はプーチンのロシアがウクライナに攻め込んだのは絶対に間違いだと考えています。でも、アメリカもヨーロッパもウクライナに軍事支援を強めるだけで、ロシアのプーチンとの外交攻勢が弱いと思われてなりません。うがった見方をすれば、アメリカの軍事産業の好景気を続けさせるため、戦争が早く終わるのを望んでいないのではないかとさえ思われます
今やプーチンは核兵器を使うと脅しています。これは自分の身の保全のためには世界を破滅させてもいいというのと同じです。絶対に許せません。
それにしても、日本は今度もアメリカ追随だけ、なさけない限りです。私は岸田首相がゼレンスキーにしゃもじを贈ったのは許せますが、「非軍事援助」と称して莫大な経済援助を約束してきたのには疑問を感じます。どうして、岸田首相はロシアに行ってプーチンに会って話そうとしないのでしょうか・・・。もちろん、ただ話しただけで何か成果がすぐに上がるなんて私も期待しません。でも、行くだけのこと、行って話そうとすることはそれなりに国際世論を動かす意味があると思うのです。
ゼレンスキーは今ではロシアと戦うウクライナの先頭に立ってがんばっていますが、ロシアの進行する前、大統領の支持率は下がっていたようです。
ゼレンスキーは、有力なオリガルヒ(財閥)と協力関係にあった。ゼレンスキーは、キーウ大学で法律学を先行し、喜劇集団の一員として芸能界で活躍していた。
プーチン大統領によると、昨年(2022年)2月24日にウクライナに侵攻したのは戦争ではなく、「特殊軍事作戦」だ。
ロシアではメディアが「戦争」として報道すると、「虚偽の情報を拡散した」罪に問われ、最長15年の懲役刑を科される恐れがある。
ロシア軍は19万人もの兵員がウクライナとの国境線を踏み超えてなだれ込んだ。ロシア軍が大挙して攻め込めば、すでに支持基盤が揺らいでいて、政治・軍事の素人であるゼレンスキーは首都キーウからすぐに逃げ出すとプーチンは踏んでいた。しかし、プーチンの目論見は外れ、ゼレンスキーは国内に踏みとどまり、ウクライナ国民にロシアに対する徹底抗戦を呼びかけた。そして、初戦でロシア軍は大打撃を受けた。
ロシア軍はウクライナ領内に侵攻して、120万人ものウクライナ国民をロシアに強制連行した。そのうち50万人近くが子どもだった。
ロシアは深刻な人口減少に悩んでいる。アメリカのバイデン大統領は、オバマ政権が発足した2009年からウクライナ情勢に深く関与していた。これもロシアのプーチンと確執を深めた。
アメリカとロシアは、水面下でウクライナの奪いあいを展開していた。このアメリカ側の司令塔は、今のバイデン大統領だった。
プーチンは、「ロシアは過去も未来も大国である」と断言する。プーチンは、ロシアの核兵器に言及するとき、決して「核保有国」とは言わない。常に「核大国」とする。ロシアが生来の大国であるが故に当然のように核兵器を有していると言わんばかりだ。
プーチンにとって、現在のウクライナは真の意味での国家ですらない。プーチンは、「近い外国」つまり旧ソ連圏に加えて、「スラブの同胞」には手を出すなと宣明した。
第二次チェチェン紛争当時のロシア国民は、プーチンの「男ぶり」を熱狂的に支持した。プーチンのいう「強いロシア」を体現するのが核兵器だ。核兵器で相手を威圧するためには、核使用が現実的な選択肢であることを繰り返し見せつける必要がある。アメリカはプーチンが核を使うかもしれないと警戒している。プーチンのほうはアメリカが核を使うとは考えていない。
アメリカもロシアも核保有国として核兵器禁止条約に反対している。そして、日本はアメリカの言いなりに、この条約の署名・批准を拒み、締約国会議にオブザーバー参加すらしなかった。
裏切り者は決して許さない。これがプーチンの支配する世界の掟だ。娘が戦争反対する絵を描いてニュースになると、その父親を逮捕し、娘は施設に放り込む。これがプーチンのロシア。
チェルノブイリ(チョルノービリ)原発もロシアに占拠されていますよね。ザボロジア原発もです。原発への攻撃は冷戦時代からの悪夢だったが、プーチンは悪夢を現実に変えた。核兵器の使用と原発への攻撃は、どちらも核による威嚇という点で変わりがありません。
プーチンは、ロシアの若き経営者との面談のなかで、自分をピョートル1世になぞらえたとのこと。350年も前の皇帝を夢見ているということ。
プーチンにとって、ウクライナは「奪う」のではなく、「取り戻す」だけの存在。いやぁ、怖いですよね、これって・・・。プーチンとは何者かを知ることができる新書です。
(2022年8月刊。990円+税)

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