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2017年5月 の投稿

テクノロジーは貧困を救わない

カテゴリー:アジア

(霧山昴)
著者 外山 健太郎 、 出版  みすず書房
アメリカで育った日本人が英語で書いた本です。著者は12年間、マイクロソフトで働いていました。
アメリカ政府は、テクノロジーは教育の分野に大変革をもたらし、万人の学業成績を向上させ、子どもにとっての公平性を増してくれるだろうと語っていた。ところが現実には、そうはならなかった。アメリカのテクノロジーの爆発的進歩は目ざましいものがある。しかし、アメリカの貧困率は12~13%という高水準のままであり、貧困層や中流家庭の実質所得は停滞したまま、上流家庭との格差はさらに増大している。
子どもを伸ばすには大人の指導が必要だ。指導にもとづく動機づけが必要なのだ。
子どもがやり通すためには、学校にいるあいだに、1年のうち少なくとも9ヶ月間は指導と励ましが常に必要であり、これを12年間続けなければならない。
子どもの教育の質における本質は、昔も今も、思いやりと知識に裏づけられた大人の注目だ。
テクノロジーだけでは、決して成果は得られない。新しい機器の開発と普及は、必ずしも社会的進歩を引き起こしはしなかった。
アメリカには、常に500万人もの子どもたちが安定した食事を得られずに苦しんでいる。テクノロジーの豊かさは、すべての人々にとっての豊かさにはなっていない。
インドで始まったマイクロクレジットは、ある程度の恩恵をもたらすが、貧困にとっての万能薬ではない。
アメリカが世界最強の軍事力を駆使してイラクのフセインのような暴君を追放し、選挙を支援しても、その結果は腐敗と暴力に終わることが多い。
マイクロクレジットも、学校におけるパソコンも、それだけでは効果を生まない。インターネットがいくら普及しても、裕福国アメリカでさえ、貧困や不平等を撲滅できていない。
ネルソン・マンデラは、あるとき、こう言った。
「教育は、世界を変えるために我々が用いることのできる最強の武器である。」
教育の恩恵は、経済的生産性の向上だけにとどまらない。
女の子が学校で1年間、教育を受けると、乳児の死亡率が5~10%削減できる。
5年間の初等教育を受けた母親のもとに生まれた子どもが5歳以上まで生きられる確率は40%高くなる。中等教育を受けた女性の比率が今の倍になれば、出産率は、女性ひとりあたり5.3人から3.9人に減少する。
女の子にもう1年余分に教育を受けさせれば、彼女たちの賃金は10~20%増加する。
ブラジルでは、子どもの健康に対して、より影響を及ぼすのは男性の教育より女性の教育のほうが20倍も高い。
若いウガンダ人が中等教育を受けると、HIV陽性になる可能性が3分の1になる。
インドでは、女性が公教育を受けると、暴力に抵抗するようになる可能性が高まる。
バングラデシュでは、教育を受けた女性は政治集会に参加する可能性が3倍高まる。
こうみてくると、女性に教育はいらないどころか、女性のほうにこそもっと教育の機会を保障すべきなんだということがよく分かります。
すぐれた教育とは、子どもたちが強い願望にみちた未来への展望をもてるようにすること。
自分自身に対する信念、学能力、さまざまな好奇心に対する内面的なやる気、そして自分をこえた大義に貢献したいという思い・・・、これらを育むことが教育の狙いなのだ。
効果的な教育では、「私にはできる」ということを学べる機会が繰り返し訪れる。日本の丸暗記教育は、この限りですぐれている。楽観的な意図、注意深い判断力、そして強い自制心をはぐくんでいる。
なるほどと思わせることの多い本でした。著者のインドで子どもたちに教えたときの実体験をふまえているだけに説得力があります。
(2016年11月刊。3500円+税)

人間力を高める読書法

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 武田 鉄矢 、 出版  プレジデント社
私は年間500冊以上の単行本を、この30年以上よんでいます。でも、それは私の人間力を高めようと思ってしていることではありません。基本は知的好奇心です。次から次に、世の中のことを知りたいと思って、本を読み漁っています。知れば知るほど、知らないことが世の中にいかに多いか、愕然とする思いなのです。
著者は私と同じ福岡県生まれで、私より一学年だけ下になります。もちろん、例の「タバコ屋の息子」のバラードは好きな歌ですし、『幸福の黄色いハンカチ』は泣けました。ですから、何年か前に、夕張に行き、現地にも立ってきました。
歌に劇に大活躍していることは私も知っていました(テレビは見ませんので、実は活字を通して、ということですが・・・)。ところが、この本によると、なんと23年間もラジオのパーソナリティをつとめて、ほとんど毎日、よんだ本を解説しているというのです。すごいですね。敬服します。
「この組を本にしないのは文化的損失です」という口説き文句で本になったとのことですが、この本の密度の濃さは半端ではありません。読書家を自称する私もついタジタジとなってしまいました。
ちなみに、私の書評コーナーも、9.11の年(2001年)に始めましたので、もう16年たっています。ところが、誰も「本にしなければ文化的損失になる」とは言ってくれません。トホホ・・・。
この本の圧巻は、私も書評で紹介した『狼の群れと暮らした男』(築地書館)です。
オオカミにさわられて育てられたという「狼少年・少女」の話はインドにありますが、青年男性が狼の群れに飛び込んでいって、受け入れられる過程が描かれている本ですので、その迫力にはド肝を抜かされます。少しでも犬に関心のある人には強く一読をおすすめしたい本です。
この本を著者はコメント付きで詳細に紹介しています。まさしく、ありえない過酷な状況に自らを置いて厳しい試練を受けるという、信じられない話なのです。この本は、この部分を読むだけでも大いに価値があります。
ノモンハンそしてミッドウェー海戦における日本軍の大失敗も著者は紹介していますが、この大失敗を今、安倍政権の暴走を止めきれなかったときには、現代に生きる私たちは同じ大きな過ちを繰り返すことになるでしょう。
この本の出だしは、「1行バカ売れ」です。なるほど、キャッチコピーは偉大ですよね。
著者の知的レベルの高さには完全に脱帽でした。この本を読んで、私の人間力が少しくらいは高まったかな・・・。
(2017年3月刊。1300円+税)

流しの公務員の冒険

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山田 朝夫 、 出版  時事通信社
東大法学部を卒業して自治省のキャリア官僚になった著者が地方へドサ回りしているうちに、古巣の中央官庁には戻らず、各地を転々とし、ついには定着してしまうという実話です。
すごいですね、鹿児島県、大分県、愛知県の県と市へ派遣されています。その間に、衆議院法制局、自治省選挙課、自治大学校にも勤務しました。
公選法の改正に関わった自治省選挙課では、まさしく不眠不休で仕事をしていたとこのこと。その実情を知ると、ちらっとだけキャリア官僚にあこがれたこともある私ですが、本当にならずに良かったと思いました。
では、ドサまわりを経て、中央官庁でのエリートコースの道を歩まなかったのは、なぜなのか・・・。この本を読むと、さもありなんと納得できます。
仕事とは問題を解決すること。問題とは、あるべき姿と現状のギャップである。問題には、見える問題、探す問題、つくる問題の3種類がある。
人間社会で起こっていることは、人間の仕業(しわざ)である。人がどう動くのかは、人がどう考えるのかによる。人の考えは、多くの場合、合理的ではない。感情で動く。人の心は、どのようなときに動くのか。それは、驚いたときだ。
上から目線では人は動かせないという著者の体験は、集団で物事を考えていく力になっていったのでした。
立身出世よりも、やり甲斐。この社会に、いささかなりとも貢献できているという満足感が著者のエネルギーを支えていたように思います。
そして、ユーモアたっぷりに仕事をする。仕事は楽しいものだという実感を、中央官僚では味わえなかったものを、地方で体感したからこそ、地方に定着してしまったのでしょうね。
読んで元気の出る、いい本でした。キャリア官僚を目ざす学生にはぜひ読んでほしい本です。
表紙にはトイレの便器を素手で掃除している笑顔の著者がうつっていますが、充実した人生を送っていることを見事にあらわしています。
(2016年12月刊。1500円+税)

ダブルマリッジ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 橘 玲 、 出版  文芸春秋
私は、これまでフィリピン人、韓国人との離婚事件の裁判を担当したことがあります。もちろん、日本の裁判所です。ちなみに、相続登記の関係ではアメリカ、ブラジルそしてスウェーデンの人が登場してきました。スウェーデンの件では在日大使館にお世話になり、時間はかかりましたが、なんとか解決しました。アメリカやブラジルについては、現地にある日本の大使館とか領事館に協力をお願いしました。ともかく、なにかと手間と時間がかかります。
フィリピン人女性との離婚裁判では、訴状の送達が大変でした。訴状が届いたという証明書がないと裁判は始まりませんが、それがなかなか得られないのです。ぐずぐずしているうちに、相手方の女性が日本に再びやってきて、居場所が判明したので、ようやく裁判が進行しました。そのとき、相手のフィリピン女性が、「戸籍なんか、お金を出したら簡単にいくらでもつくれるのに・・・」と言ったので、腰を抜かしそうになりました。ちょうど、フィリピンでの自動車運転免許証が国際免許証として日本で通用するかどうかが問題になっていたころの話です。そうなのか、フィリピンでは運転免許証も戸籍もお金を出せば買えるものなのか・・・。私はカルチャーショックを受けました。今のフィリピンがどうなっているのかは知りません・・・。
この本は、フィリピンに駐在していたとき、日本の若い会社員が現地のフィリピン女性に子どもを産ませて認知したあとの話として展開していきます。ありそうな話ですよね・・・。
フィリピンには、日本人の父親をもつ子どもが3万人はいる。これは日本国籍をもつ人をふくめると20万人は下らない。
2004年がピークだったが、8万人のフィリピン人女性が興行ビザで日本に入国した。
私が20年も前にフィリピンのレイテ島へODAの現地視察に行ったとき、辺ぴな田舎の村の広場に、日本製の大型ラジカセで音楽を聴いている若者がいたのを目撃しました。
遠くて近いフィリピンとの関わりを戸籍を通して描いた小説です。
(2017年1月刊。1500円+税)

トランプ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ワシントンポスト取材班 、 出版  文芸春秋
アメリカという国は、今では理性で推測することが出来ない危険な国になってしまいました。ベルリンの壁と同じような国境障壁をつくるというのは、まさしくバカげています。そして、北朝鮮への先制攻撃をほのめかすなど、危険きわまりありません。どうして、こんなウソぱっかりの男がアメリカの大統領になれたのか、不思議でなりません。といっても、我が国の首相もアベといって、同じように危険な存在なのですが・・・。
トランプは、プライバシーを重視しない珍しいタイプの億万長者だ。
トランプは、いかに大金持ちかをアピールし、豪勢にお金をつかい、ゴシップ欄やビジネス欄としてスポーツ欄をにぎわせる。雑誌の表紙を飾り、常に自身をメディアにさらしている。
トランプは社会に出てまもないころから、自分をブランド化してきた。ブランド化のカギは、自分について書かれたあらゆる記事をじっくり研究することに始まる。トランプが朝一番にすることは、自分に関する記事の切り抜きを見ること。
トランプは若いころから、噂になるにはどうすればよいかを研究してきた。
トランプは自分の意見が正しいと信じて疑わない。自分の能力に絶対の自信をもつ。しかし、完全な知識があるわけではない。
トランプの娘イヴァンカは、正統派ユダヤ教徒と結婚するにあたって、ユダヤ教に改宗した。
トランプの顧問弁護士をつとめていたコーンは地方検事局時代に、ユダヤ人のローゼンバーグ夫妻をソ連のスパイとして死刑台に送り込んだ。コーンもユダヤ人だった。コーンが検事局に入り出世したのは、マフィアとつながっていたからだと本人が公言していた。コーンはゲイであり、のちにエイズにかかり、59歳の若さで亡くなった。
トランプはコーンを大いに活用した。トランプ・タワーを建設するときには、トランプはマフィアとのつながりを活用し、ボスの愛人のために特注の部屋を用意してやった。
トランプにとって女性は、プロジェクトや資産と同じく、成功の証だった。
トランプがつくりあげたイメージに、控え目なところは皆無だった。トランプは、自分とその暮らしぶりがどう見えるかにこだわり、慎重に「自画像」を組み立て、美しく彩り、その周囲には富の象徴としてデートの相手、愛人妻、子どもたちを配した。
公の場では、隣に必ず豪華な女性がいた。好みタイプは決まっていた。モデル、ミス・コンテストの優勝者、女優の卵。たいては典型的な美人で、脚が長く、グラマーでゴージャスな髪をしている。特権階級に生まれた女性はおらず、相手の女性は公の場では発言しない。トランプにとって、女性は常に狩りの獲物で、追い求める対象でしかない。
トランプは、常に結婚における上下関係をはっきりさせていた。
「結婚は人生で唯一、完璧でないものをオレが受け入れた領域だ」
大荒れの結婚生活にもかかわらず、元妻たちが離婚後に公然とトランプを批判することはなかった。トランプは、そうはさせなかったのだ。元妻たちに秘密保持契約にサインさせた。たとえば年間35万ドルの扶助料が打ち切られることになる。
トランプが32億ドルもの謝金をかかえたとき、銀行家は、トランプを殺すより、生かしておいたほうが良いと決断した。
トランプは、ヒラリー・クリントンへ10年ものあいだ政治献金をしていた。そして、トランプは2001年に民主党員になった。
1999年から2012年までに、トランプは、7回も所属する党を変えている。トランプは、立候補するつもりなら、友人をつくっておく必要があるからだと説明した。なんと節操のない男でしょうか・・・。最低の金持ちです。
トランプという恥知らずな金持ち男が、あたかも庶民の味方であるかのようなポーズで多くのアメリカ人を騙したツケをアメリカ人はこれから払わされることでしょうね。そのトバッチリが日本にまで来そうなのが怖いのですが・・・。
(2016年11月刊。2100円+税)

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