(霧山昴)
著者 ちば てつや 、 出版 新日本出版社
私も大学生のころは、毎週、マンガ週刊誌を心待ちにしていました。私のいた学生寮(駒場寮)では、寮生がまわし読みをしていました。発売初日はケンカこそしませんでしたが、奪いあい状態で、みんな競って読んでいました。何をかって・・・。「あしたのジョー」です。この本では原作者の梶原一騎との壮絶なバトルが文章だけでなく、絵によって再現されていますから、まさしく臨場感があります。『少年マガジン』は、そのころ飛ぶように売れていたと思います。
ジョーの相手となったのが力石徹。そして力石徹はついに死んでしまうのです。その死に至るストーリーにするのかどうか、編集とテレビ局と壮絶なバトルが展開していたというのです。ところが、著者はついに力石徹を殺してしまうのです。すると、全国のファンから、たくさんの弔電が届き、ついには力石の葬儀までやられたのです。冗談ではありません。講堂には特設リングがつくられ、お坊さんが真面目な顔でお経をあげたのです。大勢のファンが葬儀に参列しようと行列をつくりました。まあ、私は、そこまではしていませんが、たしかに、「あしたのジョー」のインパクトは相当なものでした。このころ私はまだ20歳前です。著者は30代半ばでした。
私は、著者の丸っこい感じの絵が大好きです。ほのぼの感があり、心がゆったり、気分がよくなります。ちばあきおは弟のマンガ家です。こちらも好きでしたが、50代でなくなったとのこと、惜しいことです。
著者がマンガ家として初めて原稿料をもらったのはなんと高校2年生のとき。1万2351円でした。母親から、本当に原稿料なのかと疑われたとのことです。
著者は戦前の満州で生まれ育ち、6歳までいました。父親は印刷会社につとめていたのです。そして、敗戦後は戦前に親しくしていた中国人に助けられ、生命からがら日本に帰ってきました。その経過も見事な絵で再現されています。ですから、著者は戦争反対、平和を愛する心が人一倍、強いのです。
終戦後に満州で亡くなった日本人が24万5000人もいるとのこと。本当に哀れです。誤った国策による犠牲者です。
いま、著者は宇都宮にある大学で学生に漫画を教えているそうです。そして、東京の自宅では屋根裏のような部屋を仕事部屋としているとのこと。それは満州で中国人一家に隠まれて生活していた屋根裏と同じような気分になって居心地がいいというのです。
著者は何かにつけて要領が悪くてノロマだったとのこと。そのすばらしいマンガからは想像もできません。
ほのぼのマンガをみて、そして人と人とのつながりを大切にして生きてきた著者の話を読んで、いいマンガって、読む人を幸せな気分にしてくれることを実感しました。ありがとうございました。皆さんに強く一読をおすすめします。
(2016年12月刊。1900円+税)
屋根うらの絵本かき
人間

