(霧山昴)
著者 神永 暁 、 出版 時事通信社
『舟を編む』(三浦しおん)は辞書編集作業の苦労話として、とてもよく分かる本でした。
36年間、ほぼ辞書編集一筋に生きてきたという著者は、この『舟を編む』という本を高く評価しています。
それにしても、20年かけて20万項目の辞典をたった一人で完成させようと計画する人が、この世の中にはいるのですね。いったい、どうやってその20年間、メシを食べていくのでしょうか・・・。不思議でなりません。辞書の編集をする人に、誰が高額(でなくても)の報酬を支払うのでしょうか、ついつい心配になってしまいます。
20年かけて20万項目を執筆するということは、1日に33語について何か書かなくてはいけない計算です。有名な「オックスフォード辞書」も、1日30語ほど執筆したとのことです。ともかく、健康で長生きしなければ出来ないのが辞書編さんですよね。
辞書編集者の主な仕事の一つは、時代とともに思いがけない形で変化していく言葉の諸相を観察していくこと。その変化し続ける言葉を、どの時点で切り取り、それをどう記述するのかが、まさしく辞書編集者の腕の見せどころだ。つまり、言葉の変化を観察していくのが辞書編集者の主な仕事の一つである。ところが、残念なことに、辞書では変化の結果だけしか記載できないことが多い。一番スリリングな変化の過程を記述することは難しい。
その変化の面白さが本書で紹介されています。「あばよ」は、幼児語が元になって生まれ、いまだによく使われている。「あばよ」は江戸時代に使われ始めている。
お母(かあ)さんは、江戸後期に上方(関西)で使われるようになって、明治36年の国定読本(教科書)で一気に全国に普及した。お父(とう)さんも同じ。
「おはよう」と同じような言葉として、「おひなりましたか」「おひんなりまいたか」というのがあるそうです。「おひる」とは、貴人が眠りから覚めること。おひる(お昼)なるは、お起きになるということ。「お夜(よる)」という貴人がお休みになるというコトバもある。
体格のいい人のことを、「がたいがいい」というのは、比較的新しいコトバだ。
同じように、「がっつり」というのも新しいコトバである。「ざっくり」というコトバは最近よく使われますね。これは、2008年から辞書にのっているコトバです。大ざっぱという意味のことばです。
スコップとシャベルは、東日本と西日本とでは反対。東日本で大型のものをスコップ、小型のものがシャベルと言い、西日本では大型のものをシャベル、小型のものをスコップと言う。
「すばらしい」というコトバは、江戸時代には、ひどいとかあきれるという意味で使われていた。
「真逆(まぎゃく)」は、2004年の流行語大賞の候補になったほど新しいコトバ。
「まじ」というのは、江戸時歳からあったコトバ。
漢字のふりがなという意味のルビは英語だけど、英語にルビはない。あくまでも日本での呼び名でしかない。
コトバが生きているということを、辞書編集者の立場から、実証的に解説していて、とても勉強になりました。
(2016年3月刊。1600円+税)
悩ましい国語辞典
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