(霧山昴)
著者 井上 麻矢 、 出版 集英社
私のもっとも尊敬する現代作家である井上ひさしの貴重な言葉が記録されています。娘(三女)に対するものです。
自分の不幸さえも幸せに転化させる術、「書くこと」を見つけた父。中年期以降は本来が明るい性格だったのだろう。とても楽天家だった。
癌とたたかっていた父は、なるべく大好きな鎌倉の家に戻りたいと思っていた。なるほど、竹林を見ていると、心が落ち着く。
父は死ぬのが怖いので、人はいかに死んでいくのかを戯曲に書いてきた。病院嫌いだし、そうとう怖かったと想像できる。父は、よくも悪くも真面目な人だ。
父は元気になったら書く演目を決めており、それをいつから書き始めると計画を立てていて、強い意思をもっていた。
父は、生真面目なので、新しい家庭ができると決まった日から、娘たち3人とは一線を引いた。この事実も、娘たちには、大きなショックとしてのしかかった。
父にとっての幸せは作品を書くことだった。父とは行楽に行くこともなかった。父は眠る時間さえなかったのだから、子どもとの会話など、あろうはずもない。父は、忙しくて書斎にこもってばかり。机に向かって書いている父には、誰ひとり声をかけられなかった。
立食パーティに行ったら、食べ物を食べないこと。どんなにお腹が空いていてもダメ。私も、いくら高い会費を払っても、立食パーティでは食べないようにしています。それは、どれだけ食べたのか分からない食べ方はしないようにしているという、ダイエットの一環であると同時に、話すべき相手をつかまえて談論することを優先させていることによります。それがうまくいったときには手にした赤ワインが2杯、3杯となって酔いを感じてしまうのです。やはり、空きっ腹にワインは良くありません。
まじめなことをだらしなく、だらしないことをまっすぐに、まっすぐなことをひかえめに、ひかえめなことをわくわくと、わくわくすることをさりげなく、さりげないことをはっきりと書く。
井上ひさしの偉大さは、こんなにも分かりやすく課題を提起していることにもあります。
言葉は、お金と同じだ。一度だしたら元に戻せない。だから、慎重に、よく考えて使うこと。
絶対に成功するという強い心をもつことは、逃げ道をつくらないで進む覚悟にも通じる。
後ろ向きな言葉を言うときには、一日、置いてみる。仕事でも恋愛でも家族でも、決定的なことは最後まで口から出さない。
言葉は、自分が身につけられるものの中で、もっとも重要なもの。仕事場に行くとき、気分が落ち込む原因は、その場所で自分の立ち位置がよく分かっていないからだ。
井上ひさしが作品を書くために膨大な資料を調べたのは、想像力をかきたてる下準備だ。調べてはじめて想像することが容易になる。
プロというのは、自分で決めたことは、どんなことがあっても実行してしまう、強い魂の持ち主を言う。
交渉時は、まず相手にしゃべらせること。仕事では、まず相手の話を聞くこと。人間は、自分の意見を聞いてくれた人には、割と素直になれる。
突然「こまつ座」を率いる立場になった井上ひさしの三女の話です。井上ひさしも偉いですが、三女である著者もすごい、すごいと感じながら読了しました。
(2015年12月刊。1200円+税)
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