著者 池田 清彦 、 出版 PHP文庫
もっとも原始的な生物であるバクテリアは、エサが豊富にあり、無機的な環境条件が好適な限り、原則的には死なない。たとえば大腸菌は、栄養条件をふくむ環境条件が好適な限り、どんどん増え続ける。捕食者に食われたり、事故死したりしない限り、細胞系列は不死である。また、がん細胞の系列にも寿命がない。
バクテリアの細胞系列がどうして不死なのかというと、DNAの総量が小さいため、突然変異の蓄積速度を上回るスピードで分裂して増殖するからである。ふうん、分かったような。
生物は、無生物にはみられない二つの特徴をもっている。一つは代謝は、もう一つは遺伝である。
DNAは、宇宙線によって簡単に壊されてしまうので、宇宙線の強いあいだは生物が地球の表面に進出してくるのは容易ではない。しかし、宇宙線が弱まれば、地球の表面には太陽光があふれているので、光をエネルギー源として利用できる生物にとって、これほどすばらしい場所はない。かくして、シアノバクテリアは大増殖をはじめることになる。
光をエネルギー源として、光と二酸化炭素から有機物(糖類)をつくり、副産物として酸素を放出する。これがシアノバクテリアの光合成である。
原始大気の大半は水蒸気と二酸化炭素で、酸素はほとんどなかったと思われる。シアノバクテリアのおかげで、地球の大気には大量の酸素が含まれるようになり、ひいては人類の生存が可能になった。
実は、細胞にとって、酸素は猛毒なのである。真核生物はペルオキシソームという細胞内小器官をもち、活性酸素を無毒化している。
動物などの真核生物の従属栄養生物は、すべて酸素をつかって有機物を分解してエネルギーを得ている。これは、ミトコンドリアという細胞内小器官が担っている。
生物にとって最重要な課題は、動的平衡を保つシステムを細胞分裂を通して次々に伝えていくこと。遺伝子はDNAの塩基配列にすぎず、突然変異や多生物との水平移動によりどんどん変わる。
遺伝子は、このシステムを動かす部品であって、遺伝子がシステムをつくったわけではない。重要なのは遺伝子ではなく。動的平衡を保つシステムを次世代に遺伝させる不死の系列、すなわち生殖細胞なのだ。
動物では、分化した細胞がほかの種類の細胞になることができない(きわめて難しい)。しかし、植物では、分化した細胞の相互転換が比較的たやすい。
小笠原諸島に存在するハカラメという植物は、葉を一枚とって土の上に放置しておくと、やがて根や芽を出して立派な個体に育っていく。だから「葉から芽」なんですね・・・。
ヒト(人間)では、ニューロンや心筋細胞の最大寿命は120年と言われている。
ヒトの最大寿命は、せいぜい120歳、日本では、100歳以上の人口は、1980年に1000人だったが、2013年には5万4000人をこえた。しかし、最長寿の年齢は延びない。
抗がん剤の投与によって一時的にがんが消失しても、運悪く再発すると、同じ抗がん剤は効かないことが多い。突然変異によって抗がん剤体制をもつがん細胞が生じ、この系列だけが生き残って増殖する。これも、なんだか怖いことですよね・・・。
生物について、寿命は必然です。もちろん、ヒトも同じこと。なにしろ、上がつかえていれば、下の人たちはいつまでたっても上にあがれませんよね。新陳代謝が図れないのです。
生物の本質について、文庫本なので、手軽に読める本です。
(2014年8月刊。560円+税)
なぜ生物に寿命はあるのか?
