著者 中島 京子 、 出版 文春文庫
直木賞の受賞作です。モノカキ志向の私ですから、日頃、直木賞か芥川賞、それでなくても文化勲章を狙っていると高言している身として、この小説の出来の良さにはただただモノも言えません。直木賞を受賞したのに何の異論もありません。細かい部分(ディテール)の描写といい、筋の運びとして、そして見事な結末には息を呑むしかなく、文句のつけようもありません。
山田洋次監督が映画にしてくれて、来年1月には見れるとのこと。今から楽しみです。
先日、妹尾河童原作の映画「少年H」をみましたが、戦前の平和な生活がいつのまにか戦争へ突入していく情景が、きめこまかに再現されていました。
裏表紙に、この本のストーリーが要領よく紹介されています。
昭和初期、女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。だが、平穏な日々にやがてひそかに”恋愛事件”の気配が漂いだす一方、戦争の影もまた刻々と迫りきて―。晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。
戦前の上流サラリーマンの家庭生活が、住み込み女中の目から、ことこまやかに描写されていますから、つい没入させられます。そして、いつのまにか微妙な男女の機微に触れていきそうです。
女中タキのお見合い話をふくめて、戦争が日常生活に忍びこんでくるのです。
この本には、私のつれあいがこよなく愛する永藤(ながふじ)菓子店が登場します。上野駅近くにあって、タマゴパンなどで有名なのでしたが、今は閉店してしまいました。
あと味もさわやかな、ロマンあふれる小説です。
(2013年6月刊。543円+税)
小さいおうち
