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そこに僕らは居合わせた

著者   グードルン・パウセヴァング 、 出版   みすず書房 
 ナチス・ドイツ時代の社会の醜い実情をも語り伝えるべきだということで書かれた本です。人間の弱さと強みを見つめるということです。全体主義の狂気にフツーの人々がのみこまれていったのでした。今の日本で、ハシモト、イシハラに共通するところがある気がしてなりません。
ユダヤ人家族が強制連行されていく。そのことを知った近所の人々は、すぐにのりこむのです。ユダヤ人一家は連行されるとき、ちょうど昼食をとろうとしていたようです。のりこんだ家族は、そのまま、おいしく他人の昼食をいただくのでした。
 それは、私たちのために用意された食事ではなかった。なのに、みんな、いつものように母に従った。
 学校で、子どもたちはユダヤ人について、教師から次のように教えられていた。
 ユダヤ人は、実直なドイツ人を食い物にしたり騙したりする悪い奴らだ。ユダヤ人は友情を知らないので、つきあってはならない。ユダヤ人は嘘つきなので、信用してはならない。ユダヤ人はたちが悪いので、どんな目にあっても同情してはならない。ユダヤ人は鉤鼻(かぎばな)をしているので、見分けがつく。
 挿絵つきの少年少女向け物語集には、ユダヤ人によるあらゆる悪事が列挙されていた。少年少女に、ユダヤ人に対する敵対心を植えつけ、反ユダヤ主義者を育てるという明確な意図のもとに書かれた本である。
 村の人々は、ユダヤ人の営む商店で、ツケで買い物し始めた。はじめは、みんなためらっていた。しかし、そのうち、みんなツケを利用するようになった。
 村人は、商店が破産していく様子を、冷静かつ満足そうにみていた。そして、ついに本当に行き詰まり、店を売りに出した。示された買値は、本来の値段の10分の1だった。
 戦後、村人は、そんなことをしたということを話すことはなく平穏に生きた。誰かが、戦前の話をしようとすると、みんなでやめさせた。
 こんな暗い歴史でも語り継いでいく必要があると著者は語っています。私も同感です。それは決して自虐史観というのではありません。自らのルーツを全面的にみつめるうえで欠かせないということです。いい本でした。
(2012年7月刊。2500円+税)

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