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2012年10月 の投稿

緒方竹虎とCIA

カテゴリー:日本史

著者   吉田 則昭 、 出版    平凡社新書 
 消費税の増税(5%から10%へアップ)を決めるとき、朝日も毎日も大新聞は一致して早く増税を決めろと一大キャンペーンをはりました。「不偏不党」の看板をかなぐり捨てて政権与党と同じことを言うマスコミは異様でした。
戦前の朝日新聞を代表する記者として活躍し、戦後は保守政治家となった緒方竹虎の実態を明らかにした新書です。日本の政治家の多くが戦後一貫してアメリカ一辺倒だったことを知ると、哀れに近い感情がふつふつと湧いてきます。
 緒方竹虎は、4歳のときから福岡で育っているので、福岡は故郷と言える。
戦後の緒方竹虎についていうと、CIAの個人ファイルのなかに、5分冊、1000頁もあって、日本人のなかでは群を抜いて多い。児玉誉士夫、石井四郎、野村吉三郎、賀屋興宣、正力松太郎などの個人ファイルがある。
 CIAは、緒方竹虎に「ポカポン」、正力松太郎に「ポダム」というコードネームをつけていた。この「ポン」というのは、日本をさすカントリーコードであることが判明した。
 緒方竹虎に対するアメリカ側の士作は1955年9月以降、「オペレーション」、ポカポンとして本格化し、実行された。
 日本の保守政治家の多くがアメリカのエージェントだったというのを知るのは、同じ日本人として、寂しく悲しいことです。表向きは日本人として愛国心を強調していたのに、裏ではアメリカに買収されてスパイ同然に動いていたなんて嫌なことですよね。
(2012年5月刊。780円+税)

風のひと、土のひと

カテゴリー:人間

著者   色平 哲郎 、 出版    新日本出版社 
 著者の元気のいい話を聞いたことがあります。
 大学を中退して世界を何年も放浪したなんて、すごい勇気がありますよね。臆病な私にはとても真似できません。お金もありませんでしたし、大学生のころ日本を出るなんて、一度も考えたことがありません。せいぜい東京から九州までどうやって安上がりに帰省しようかというくらいです。結局、夜行列車に乗って帰りました。まる一日、列車に乗っていた気がします。座席の下にもぐり込んで、新聞紙を敷いて、そのまま寝ていました。4人がけの席の下にもぐり込めたのです。
 著者は、長野で無医村だったような診療所で医師として働きます。大変だったようです。
 メディアの名医志向は、とどまるところを知らない。しかし、特定の名医でなければ病気は治らないというような報道姿勢は、ただでさえ崩壊現象が始まっている日本の医療を追い込むだけだ。
 長野県佐久地方には、「医療どろぼう」という言葉がある。医療保険のなかったころ、村民が医者にかかれば、診察料をごっそりとられた。現金収入の乏しい村民は、医者に診察してもらえば、「どろぼう」に入れられるようなものと覚悟を決めて往診を頼んだ。
 テレビでコメンテーターたちは、農産物をもっと安くしろと平気で言う。食料自給率が4割以下という危機的な状況や山林、野原、水源地の荒廃など、眼中にない。医療崩壊も、突きつめれば地方の農業崩壊、産業崩壊が原因だ。
 実は、地方にある医療部には地方出身者が少なく、大都市出身者が多い。都会で私立の中公一貫校や塾などに多額の投資をしたひとが地方の医学部に多く進学している。昨今の地方の切り捨てという風潮のなかで、地方に残ることを避ける傾向にある。
農村に医者が来ない、居つかない三つの理由。
 第一に、農村では勉強できず、技術が遅れて日進月歩の医学についていけなくなる。
 第二に、文化的環境から離れると子どもに医科大学に入学できるような教育を受けさせられない。
 第三に、村民は口うるさく、しかも、高給取りの医者を目の敵にする傾向がある。
果たして、現実はどうなのでしょうか・・・。
 書かれていることは、ごくもっともなことばかりでした。お医者さんも大変ですね。ともにがんばりましょう。
(2012年6月刊。1600円+税)

えん罪原因を調査せよ

カテゴリー:司法

著者   日弁連えん罪原因研究・WG 、 出版   勁草書房 
 なぜ、えん罪がなくならないのか、えん罪はどうやってつくられていくのか、裁判官が見抜けないのはなぜなのか、弁護人はいったい何をしているのか・・・。次々に湧いてくる疑問に答えてくれる本です。
 映画『それでも、ボクはやっていない』をつくった周防正行監督は、3年間で200回ほど裁判を傍聴したそうです。すごいですよね。そして今、法制審特別部会の委員になっています。
 警察や検察は、イギリスは1時間とか2時間の取調で起訴している。それでいいのか、と脅すように投げかける。そして、なぜ、そんなに治安の悪い国の司法制度を真似しようというのかと批判する。だけど、日本の治安がいいのは、決して日本の警察が優れているからではない。日本人の規範意識が高いからだ。
 マスコミは、よく「またも真相の解明はできなかった」と書くが、裁判は真相究明の場ではない。法廷に現れた証拠によって、被告人が有罪か無罪かを決める場である。大きな事件について真相の解明を求めるのなら、まったく違った機関で調べないと無理だ。
 このような周防監督の問題意識と同じようなところから、日弁連は独立した第三者機関をつくってえん罪の真相を究明することを提言しています。
 これまで日本で再審無罪となった事件では、短くて10年、長くて62年とか50年というものがある。最近、無罪となった布川(ふかわ)事件も、なんと44年かかっている。氷見(ひみ)事件の5年というのはもっとも短いもの。
 「やっただろう。認めろ」「いや違う」という不毛なやり取りと我慢くらべが続き、長時間の取調べがいつまで続くのか、明日も、明後日も、その後も続くのか、その不安から取調官に迎合して早く解放されたいと思うようになる。
 愛知県警察の取調マニュアルには、「調べ官の『絶対に落とす』という、自信と執念に満ちた気迫が必要である。調べ室に入ったら自供させるまで出るな。否認する被疑者は朝から晩まで調べ室に出して調べよ」とある。
 国連に提出した日本政府の報告書には、取調べを法律で一律に規律するのは難しいとしている。
 アメリカもEUも、ほとんどの加盟国では、弁護人の立会権を保障している。韓国も台湾も保障している。
 日弁連はえん罪の原因を究明する第三者機関も設置するように提言し、そのときの問題点も検討しています。
第三者機関については、国会の付置機関とするのが政策上妥協と思われる。というのは三権のうち、刑事司法機関と直接の指揮命令系統をもって関係しないのは、国会に限られるだろうから。
 アメリカでは、DNA鑑定によって、無実が明らかになって釈放された人は292人にのぼっている。1973年以降に、誤判が発覚して死刑台から生還した死刑囚が26州、140人にのぼっている。これが司法について深刻な反省を生む契機となった。
 そして、えん罪であることが分かった多くの事件で、死刑囚は、捜査段階で虚偽の自白をしていた。さらに、ビデオの前で自分の母親を殺害したと自白した無実の人さえいた。この自白はまったくの虚偽だった。
 やってもいない人が「自白」なんかするはずがない。これが世間一般のフツーの常識です。ところが、その常識が通用しない世界があるのです。警察そして検察が、その誤った体制を確固たるものにしています。
 私の畏友・小池振一郎弁護士より頼まれて買いました。なるほど、手抜き裁判はひどいものだ、でも、まだなくなっていないと思いました。
(2012年9月刊。2300円+税)

「橋下総理」でいいんですか?

カテゴリー:社会

著者   小西 進 、 出版   日本機関紙出版センター 
 日本に新しい政治が生まれる。アメリカのような二大政党が選挙の結果で政権交代していくシステムが出来た。
 こんな大きな期待を背負ってスタートして二大政党制ですが、今ではすっかり期待はずれの感があります。日本人の忘れやすさを代表するのが橋下徹・大阪市長が代表も兼ねる日本維新の会です。この本は、今や人気絶頂にある橋下徹の内実・真相に迫っています。
橋下徹の言葉は、いつも、いつもながらシンプルである。
 橋下徹は、TPP賛成で、ブレない。労働市場は基本的に自由化すべしと主張する。
 橋下徹は、昔から核武装論者を自認していた。日本は、アメリカの核の傘の中で守ってもらい、原子力空母や潜水艦によって守ってもらっていると主張する。
 橋下徹は次のように演説した。
 「自分でしっかり生きていくことができる力を持つ。分かちあい、助けあい、弱者切り捨てだけ、このような甘い言葉こそ、本当に危険。国民が自立することを忘れてしまい、他人を頼ることを根本原則にすれば、もはや国家として地域として成り立たない。社会保障は、もうもたない。もたれあい、たよりあい、依存しすぎ、悪しき流れをきちっと絶つ」
 驚くべき冷たさ、弱肉強食そのもの超保守政治家です。非正規社員、派遣社員ばかりで、とりわけ若者が自立できない労働環境になっていることを橋下徹は、すっかり忘れてしまっています。こんな政治家は無用です。
 高校生に向かって、「いまの日本は、自己責任がまず原則」と開き直る橋下徹。これほど政治家として無責任な放言はありません。「自己責任」ではどうしようもなくなっている現実をなんとかすることこそ、政治家の果たすべき使命ではありませんか・・・。
橋下府政は、その前の太田府政のときの借金2848億円(年平均)を上回る3587億円を借金した。
 大阪府の財政危機の大きな原因は、関西空港2期事業などの巨大開発。りんくうタウン、阪南スカイタウン、水と緑の健康都市の3事業だけで4440億円の赤字を生んだ。そして、同和対策事業に年50億円も投入して継続した。
その反面、橋下徹の弱い者いじめは徹底しています。
 敬老パスの有料化、コミュニティーバスへの補助費削減、国保料減免の縮減、障害者スポーツセンターの統廃合、などなど・・・。
 橋下徹は、能や文学が好きな人を「変質者」と呼んだ。
 2011年6月29日、橋下徹は有名な演説をした。
 「日本政治で一番重要なのは、独裁だ。独裁と言われるくらいの力、これが日本の政治に一番求められている」
 橋下徹の政治の中身は、民主党や自民党とまったく同じ、いや、もっとひどい政治を一気にすすめようとしています。右側から民主主義を攻撃する突撃隊の役割を果たしているのです。
 「決める政治」と言っても、悪い方向にどんどん強引に決められ、すすめられたら大変なことになりますよね。もう、いいかげんマスコミが橋下徹をもてはやすのは止めてほしいとつくづく思います。
(2012年8月刊。1143円+税)

地熱エネルギー

カテゴリー:社会

著者    江原 幸雄 、 出版    オーム社 
 この夏、電力不足で停電になると電力会社と政府・財界からさんざん脅されましたが、猛暑のなかでもなんとか停電もなく耐え抜きました。原子力発電所に頼らなくてもやっていけること、原子力発電所に頼ってはいけないことが次第に国民に浸透していることを実感します。
原発以外のエネルギーとして、地熱発電にもっと力を注ぎこむべきだと強調している本です。先日、同じことを伊藤千尋氏(朝日新聞)も言っていました。九州には、既に九重に大きな地熱発電所があります。それを大いに活用すればいいのです。
 地熱発電所の歴史は古く、いま世界各地で地熱発電も非常に熱心に進めている。世界最初の地熱発電は、1904年、イタリア北部のラルデレロに始まった。
現在、世界中30ヶ国で地熱発電がおこなわれ、2010年には世界の地熱発電所は1000万kwをこえた。2015年には1850万kwをこえる見込みである。
 日本では、1999年までに全国18ヶ所、54万kwの地熱発電国になったが、その後は原発推進のため、すすんでいない。日本の地熱資源ポテンシャルは2000万kwをこえると推定されている。
地球の中心は6000度Cと推定されており、偶然だが、太陽の表面温度と同じ。地球も堆積の99%は1000度C以上、100度C以下は0.1%にすぎない。したがって、地球は巨大な熱の塊と言うことができる。
 日本の地熱ポテンシャルが2000万kwというのは、アメリカ、インドネシアに次いで世界第3位。日本は世界に冠たる地熱資源大国なのである。ところが、現在、わずか2%、54万kwしか利用されていない。
安全で安いと言われてきた原発が、実のところ、人類がコントロールできないほど危険なものであり、その始末することが不可能なことを考えたら、コストは無限大のようなものだ。このことが明らかになってきた今、私たちは地熱エネルギーのコストが少しくらい割高でも、これを活用しない手はないと思います。
 とってもタイムリーな本でした。
(2012年3月刊。2800円+税)

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