著者 帚木 蓮生 、 出版 新潮社
軍医として戦争に従事した人たちの手記が丹念に掘り起こされ、その悲惨で苛酷な戦場の状況を追体験することができます。
戦争の不条理さには息を呑むばかりです。
ハエは瀕死とはいえ、まだ生きている人間に卵を生みつける。ハエは、いずれ死にゆく人間の見分けをつけている。
ええーっ、そんな・・・。むごいことです。病人はウジがはいまわるので、かゆいかゆいと苦しみながら死んでゆくのです。
終戦後、満州から引き揚げてくる列車のなかで、牡丹江から鉄嶺に着くまでに、恐怖と心配から13人もの妊婦が出産した。幸い早産であっても、死産はなかった。でも、出産した赤ん坊はどうなったのでしょうか。みな、無事に日本へ帰国できたとは思えません。残留孤児になってしまった赤ん坊もいたことでしょうね。
軍馬についての統計がされています。
日清戦争での出征人馬数は、日本が兵員24万人に対して馬数は5万8000。清国は兵員35万人、馬数7万3000。
日露戦争では、日本の兵員は100万9000、馬数は17万2000。ロシアは兵員129万、馬数29万9000。兵員100に対して馬数は2割前後。
馬は倒れるまで全力をふりしぼって動く。従って、疲労を早めに発見して休ませ、水を飲ませなければならない。
うひゃあ、そうなんですか・・・。ちっとも知りませんでした。
騎兵連隊では、人より馬を大切にする。
「馬がなくては騎兵ではない」
ええっ、うむむ、なんだか違う気が・・・。
馬は暑さに弱く、熱地作戦には向かない。
寒さには耐えられるのでしょうか・・・?
さすが現役の精神科医であるだけに、専門用語も駆使されていて、軍医の手記が見事に今によみがえっています。
(2011年7月刊。1800円+税)
蠅の帝国
