法律相談センター検索 弁護士検索
2010年10月 の投稿

草原の風の詩

カテゴリー:日本史(戦後)

 著者 佐和 みずえ 、 西村書店 出版 
 
 1903年(明治36年)、日本人の若い女性が中国大陸に渡り、万里の長城を越えて、モンゴルの王宮に出かけてのでした。
 実験にもとづく小説です。日本軍の中国そしてモンゴルへの侵略と支配の先兵となってしまうのではありますが、一人の日本人女性の勇敢な生き方が情感あふれるタッチで描かれています。その意味で、大変読ませます。
 そんなように紹介すると、おまえはいつから侵略日本の手先になったのかと、きついお叱りを受けそうです。まあ、そう言わずに、小説として、また、日本人女性の善意ある活躍が政治に翻弄される物語として読んでもいいかなと思います。
 それだけ、モンゴル国を取り巻く状況も描かれているということでもあります。
 侵略軍としての日本人の嫌やらしさも多少は描かれていますので、戦前の日本を知るきっかけになる本だと思いました。
               (2010年2月刊。1500円+税)

性器の進化論

カテゴリー:人間

著者:榎本知郎、出版社:化学同人
 生殖器、体つき、脳など、すべて女性が原型なのである。男性になるには、何段階もの関門があって、そのたびごとに男性にする作業が行われる。そのどこかにエラーがあると、遺伝的には男性にはなれない。つまり、ヒトの原型は女性であり、男性は精一杯がんばって細工をして男性になる。
 射精された2~3億個の精子のうち、卵子に到達する精子は300~500個でしかない。そして、医学的には、射精される精子数が1億を下まわると不妊の原因になるといわれる。卵子に到達する精子は、最低でも150は必要である。
 一番乗りした精子は自分の酵素を放出しては死んで後進に道を譲り、150番以降の順位の精子が福を得て、受精させることが出来ることになる。なんという確率でしょうか・・・。
 ヒトは、半数の人が結婚して妊娠するまで半年ほどかかっている。ヒトの妊娠率は、ほかの動物に比べて低い。なぜか?
 良い遺伝子をもつ雄を選ぶためには、配偶者をきっちり選ぶことが必要なのである。
 ヒトそして、男と女の違いを図解しながら、分かりやすく解説してくれる真面目で面白い本です。
(2010年1月刊。1500円+税)

裁かれる者

カテゴリー:司法

著者:沖田光男、出版社:かもがわ出版
 1999年9月初め、東京の中央線の快速電車に乗っていた男性が若い女性に対して携帯電話による通話を注意したところ、しばらくして、電車内で痴漢したとして改札口を出たところで逮捕されたのでした。「現行犯逮捕」というには、時間と場所が違っています。
 それでも、いったん逮捕されたら、簡単には釈放されません。結局、23日間、丸々警察の留置場に入れられたのでした。それでも、なんとか釈放され、不起訴が決まりました。
 事件のあと、1年半たって、国家賠償請求の裁判を起こしたのです。
 ところが、なんと、刑事事件としては不起訴になったのに、民事訴訟では、一審も二審も「痴漢行為をした」と認定されてしまったのです。うへーっ、と本人ならずとも驚いてしまいます。
 刑事記録は既に廃棄されていました。3年間の保存が義務づけられているのに、担当職員が一年と勘違いして廃棄してしまったのだというのです。なんということでしょう、本当なんでしょうか・・・。
 民事裁判では、男性の身長が164センチで、女性のほうは170センチ。しかも、7センチのハイヒールの靴をはいていた。ところが、女性の「腰」に男性の「股間」を接触させていたという。客観的には、ありえない。それでも、一審も二審も、女性の供述を信用した。そして、最高裁は、なんと法廷での弁論を行った。
 このとき、「被害者」の女性本人が涙ながらに意見陳述したのでした・・・。すごいことですね。
 結果は、高裁への差し戻しを命ずる判決でした。そして、高裁は、痴漢行為は認められないとしつつも、女性の虚偽申告も認められないというものでした。矛盾としか言いようのない判決です。
 この事件が世間の注目を集めた理由の一つは、周防正行監督の映画『それでもボクはやっていない』(2007年1月)にあった。私も、この映画は見ました。大変よく出来ていて、司法の現実、その問題がズバリ描かれていると思いました。
 裁判の限界を実感させる本ではあります。それにしても、本人(1942年生)と家族は、本当に大変な苦労をされたことだろうと推察します。お疲れさまでした。それでも、このような本を書いていただき、ありがとうございます。
(2010年4月刊。1000円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.