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2010年1月 の投稿

新薬ひとつに1000億円?

カテゴリー:アメリカ

著者 メリル・グーズナー、 出版 朝日新聞出版
 アメリカは日本と違って国民皆保険制度がありません。かつて、ヒラリー・クリントンが皆保険にしようと頑張りましたが、保険会社の圧力に負けてしまいました。そのときの反対派の言い分がふるっています。国民皆保険なんて、社会主義だというのです。私なんか、だったらアメリカも社会主義になればいいじゃんと思います。でも、反共風土がマッカーシー旋風以来しっかり根付いているアメリカでは、今なおアカ攻撃が批判として有効なのですね。おかげで保険会社は大もうけです。その勢いをかって、日本にも続々と上陸しています。
 医療保険を民間の保険会社に頼ると、たちまちとんでもない高額になってしまう。2007年の医療保険料の平均額は、個人で年53万円(4479ドル)、家族で144万円(1万2106ドル)。こんなに高額のため、無保険者が4700万人、国民の15%もいる。
 アメリカの医療費は2兆ドルと高いが、それは薬価が高いことと関連している。
 なぜ薬価はそんなに高いのか?アメリカの製薬業界では、新薬一つ当たりの研究開発費が1000億円(8億ドル)するからだという。本当なのか?
 本書は、主としてこの問題を深くさまざまな角度から追って解明しています。
 アメリカの製薬会社アムジェン社は、人工透析を受けているアメリカ人30万人に向けて、エポジェンという薬を売っている。アムジェン社の売上高は50億ドル。8000人の従業員が40棟ものビルで働いている。50億ドルのうち、3分の1は利益である。
 ある企業が、新規化合物の新天地を切り開くと、この業界では同業の他社があっという間にオリジナルの化合物の模倣版を市場に導入する。模倣薬が市場に導入されるときは、先行企業の初期設定価格と同じ高い価格、ないし、ほんの2,3%抑え気味の価格で売り出される。これがたいがいの通り相場だ。
 製薬業界の広告費支出は、1996年に8億なかったのに、2000年には25億ドルにのぼった。製薬業界全体として広告費は1996年から2000年までに71.4%も上昇し、157億ドルになっている。
 これに対し、研究開発費のほうは52.7%の増加率であり、257億ドルとなっている。
 世界の結核感染者は年に800万人。その77%は薬を手に入れられない。年100万人に及ぶ死者は、治療に100ドルもしない抗生物質があれば救うことができたはずの命だ。
 マラリアは毎年3億人が感染し、100~200万人の生命を奪う。治療薬のクロロキンは、耐性のせいで効き目が悪くなっている。
 もっと薬価を下げて、みんなが安心して治療を受けられるような日本、そして世界にしたいものです。現在は、あまりにも製薬会社とPR会社(電通や博報堂)がもうけすぎているのではないでしょうか。
 
(2009年10月刊。1500円+税)

建礼門院という悲劇

カテゴリー:日本史(平安)

著者 佐伯 真一、 出版 角川選書
 建礼門院(平徳子)は、平清盛の娘として生まれ、高倉天皇の中宮となり、安徳天皇を生んで国母(こくも)となった。しかし、夫の高倉天皇が若くして亡くなり、続いて父の平清盛も熱病のために64歳で病死し、やがて平家は木曽義仲に追われて都を落ち、ついには壇ノ浦合戦で滅亡してしまった。母の二位尼(にいのあま)時子(ときこ)と愛児の安徳天皇は、壇ノ浦の海に沈んだ。徳子も海に飛び込んだものの、源氏の荒武者にとらわれて京都に連れ戻され、命は助けられて出家して大原に籠った。
 そして、平家一門を滅亡に追いやった後白河法皇が大原まで徳子を訪ねてやってくる。大原御幸(おおはらごこう)である。
 このとき、建礼門院は、自らの運命を仏教で考える全世界を表す六道の輪廻転生になぞらえて語った。
 著者は『平家物語』にある建礼門院の物語を縦横無尽に考察しています。その謎ときは、素晴らしいものがあります。さすが一流の学者はえらいものです。ほとほと感心しながら読みすすめました。
 平清盛の権力は、後白河天皇との親密な関係によって支えられていた。平清盛の妻・時子と後白河法皇の最愛の女性であった建春門院(平滋子)とは姉妹だった。
 人間道には四苦八苦がある。四苦とは生老病死の四つの苦しみ。これに、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦(ぐふとくく)、五陰盛苦(ごおんじょうく)を加えたのが八苦である。
 女院の栄華から転落の歴史、平家の滅亡への道程が、六道の上位から下位への転生と重ね合わせて語られてきた。天上道のような生活から人間道へ、そして餓鬼道、修羅道を経て地獄道へと、平家滅亡への道程が六道の上位から下位への転落のように語られた。
『平家物語』が生まれる背景には、平家一門の怨霊が恐れられる風土があった。
 安徳天皇は、地上の政権に敵対するヤマタノオロチの化身であるとも言われた。もし、鎮魂が果たされないなら、冥界にいるその集団は現世に対してどんなに恐ろしい災いをもたらすか分からないのである。そのような一門の怨霊をなだめるという性格を、『平家物語』という作品は、生成当初において多かれ少なかれ帯びていたはずである。
 知らないことがたくさんあるということを実感しました。
 
(2009年6月刊。1500円+税)

ネット評判社会

カテゴリー:社会

著者 山岸 俊男・吉開 範章、 出版 NTT出版
 インターネットを利用した取引詐欺が増えている。
 アメリカの2006年の統計によると、利用者が詐欺にあったり、IDが盗まれたという事件は、67万件あまり。その3分の1がクレジットカードや運転免許証のIDを盗まれて悪用されたというもの(25万件近い)。インターネット関連の詐欺やID盗難は20万件ほどで、全体の3割に近い。ネット詐欺は、2000年に1万件だったのが、2003年に10万件をこえ、2005年には23万件をこえた。詐欺の中でもっとも多いのは、オークションに関する詐欺で、全体の63%近い。
日本におけるインターネットの不正アクセスと詐欺も増えていて、2006年上期だけで1802件が検挙された。そのうち733件が詐欺で、4割を占める。
 インターネットをつかった詐欺の9割近くがネットオークションに絡んでいる。
 日本のインターネットを利用する人口7270万人の4.7%が何らかのオンライン詐欺にあっている。その被害総額は1304億円にのぼる。1件あたりの被害額は、スパイウェアによる不正利用が9万余円で高く、次にオークション詐欺の5万円ほど。
 日本におけるオークションは2006年1~9月までの取引総額5104億円に対して、詐欺被害者に支払った補償金は4億4400万円にすぎない。わずか1.0%以下である。これは理論的な予測より、実際の不正行為ははるかに少ない。うむむ、これって、やっぱり少ないとみるべきなんでしょうかね……。
 ネット上の評判には、追い出し作用だけでなく、呼び込み作用もある。
 11世紀の地中海貿易で活躍したユダヤ商人たちを、マグリブ商人という。マグリブ商人たちは、エージェントを使って地中海貿易にたずさわり、そこから大きな利益を得ていた。エージェントの不正を防ぐため、マグリブ商人たちは自分たちの仲間しかエージェントとして雇わない、裏切ったエージェントの評判を仲間内で広げ、そんなことをした人間はエージェントとして雇わない。マグリブ商人たちは、集団を閉ざしておいて、その中で評判を回すことで不正直なことをした連中を仲間から追い出すことでエージェント問題を解決した。
 ここで肝心なのは、集団を閉ざしておくということ。
 同じようなことを江戸時代の商人がしていた。株仲間である。株仲間は、取引を独占する状態が存在することで、公権力からの制約がなくても、自分たち自身で不正行為に対する制裁を加えることができるようにしていた。
マグリブ商人も江戸時代の商人も、公的な法制度による保護を得られない状態で、情報の非対称性問題に対処する必要性に迫られ、解決していた。
 私の依頼者の一人がネットオークションを利用していますが、ともかく時間にしばられ、夜中までの仕事の割には残業手当が出るわけでもなく、大変きつくて割の合わない仕事だとこぼしていました。
 ネットオークションがこんなにやられているとは驚きです。でも私は、やっぱり商品は手にとって眺めて決めたいと考えています。
 
 正月明けに恒例の人間ドッグ(1泊2日)に入りました。日頃読めなかったツンドクの分厚い本を持参します。今回は7冊持って行って、全部を読みとおすことができて大満足でした。
 私が人間ドッグに入るようになったのは、40歳になったときのことですので、もう20年になります。医学技術の進歩を体感しています。たとえば、胃カメラです。その前はバリウムを飲んでいましたが、これは糞づまりして苦しいものでした。胃カメラも、初めのうちは死ぬかと思うほど苦しいものでしたが、今は少しばかりの苦痛で済みます。もっとも、まだ鼻から入れるのは利用していません。眼底カメラにしても、今ではフラッシュをあてられて何も見えなくなるというものではなくなりました。
 そして、一泊するのも、病院から今では提携ホテルに変わり、広々とした大浴場に夜と朝、入ることができます。
 なんのことはない、身長、体重、腹囲測定が一番の心配です。身長は年齢とともに縮んでいきます。体重・腹囲はメタボ度の問題があります。今回は、体重が前より少し増えてしまいましたが、さらに重大なのは腹囲が2センチも増えてしまったことです。せっかく減らした体重なのに、またこのところ増加傾向にあり、しかも、腹周りは無用の脂肪がついてしまったというわけです。それでも、心の優しい看護師さんから、この程度の軽肥満のほうが一番長生きできるそうですと慰められました。
 そうなんですよね。人間(ひと)は励ましと慰めあって支えあいながら生きていくものなんです。
 人間ドッグの楽しみは、本が読めることと、美味しい食事をいただけることです。いえ、自宅でも美味しくいただいているのですが、平日のお昼に仕事を気にせず、ゆっくりと味わうことができるというのはうれしいことなのです。
 この20年間、毎年2回、1泊2日の人間ドッグを利用しています。最近、利用者が減っているようです。ぜひみなさんも利用してやってください。
(2009年10月刊。1600円+税)

世界を変えるデザイン

カテゴリー:アメリカ

著者 シンシア・スミス、 出版 英治出版
 こんな取り組みななされているのですね。とてもいいことだとひたすら感心しました。
 世界の人口のほぼ半分にあたる28億人は、基本的ニーズをかろうじて満たせるだけの生活をしている。そして、世界の6人に1人、11億人は、1日1ドル以下で生きている。
 1日の稼ぎが2ドル以下の世界の27億人にとって、手に入る価格かどうかが決め手だ。
 手頃な値段がすべてなのではない。手頃な値段しかないのだ。
 初年度から採算がとれ、その利益をつかって後から大幅に拡張していけるように、システム全体を開発するのだ。なるほど、なるほど、言われてみればそのとおりです。
 1日1ドル以下の収入で農村地方に住む8億人のほとんどは、住む家を持っている。でも、売ろうとしてもお金にならず、担保として銀行からお金を借りようとしても話にならない。
 1歳から5歳までの子どもの死因の第1位は、栄養失調でも下痢でもマラリアでもなく、ほとんどが家庭内で調理する時の煙を吸ったことによって引き起こされる呼吸器疾患である。
 そこで、どうするか。サトウキビの不要部分、トウモロコシの穂軸などをドラム缶いっぱいに入れ、火にかける。数分たってふたをぴっちり閉めて炭化させる。そして、キャッサバで作ったつなぎを入れて、手動プレス機で練炭型に成型する。この練炭を太陽で乾燥させる。こうやって炭を作って燃料にすると、煙が少なく、子どもへの悪影響が減らせるのである。うへー、すごいですよね。安上がりの材料で、子どもたちの健康を守れるわけなんですね。
 Qドラムという水運搬用のドーナツ型の75リットル入りポリタンクが考案されました。水運びが子どもでもできるようになったのです。水を転がして運ぶのです。なるほど、デザイン力の成果です。
 ポットインポット・クーラーというのもあります。二つの壺があり、その隙間に湿った砂を入れておく。すると、ふつうなら2、3日しかもたないトマトが、3週間持つ。
 ライフストローという大きな笛のような容器があります。個人携帯用浄水器なのです。子どもたちが、これを口にくわえて川の水を飲んでいる写真があります。これによって、チフス・コレラ・赤痢や下痢などが予防できるのです。
 お金をそんなにかけることなく、効果が目に見えて上がるようにして少しずつ大きな成果を上げていく。そんなデザインが工夫されているのです。初めて知りました。
 関係者の熱意に心から声援を送ります。
 3が日は好天に恵まれましたので、庭仕事に精を出しました。お天道さまの下での土いじりこそ最高の悦楽です。エンゼルストランペットと芙蓉はノコギリを使って根元から切ってしまいました。こうしたほうがいいのです。庭のあちこちで群生している球根を掘り起こしてやり、分球しているのはきちんと切り離して植えかえました。あまりに増えすぎたものはコンポストに放り込みます。
 刈り取った枝や枯れ葉は穴を掘って投げ込み、肥料にします。
 正月3日間で、我が家の庭がすっきりして、私の気持ちまですっかり解放感に満ちました。
 
(2009年10月刊。2000円+税)

描かれた戦国の京都

カテゴリー:日本史(戦国)

著者 小島 道裕、 出版 吉川弘文館
 16世紀、室町時代の終わりころの京都とその周辺の景観、風俗を描いた屏風絵が残っています。『洛中洛外国屏風』と呼ばれるものです。この本は、この屏風絵を部分拡大もしながら、そこに描かれている人物を特定しつつ、その情景を解説しています。カラー図版もあり、楽しく学びながら室町・戦国期の京都風景を味わうことができます。
 学者って、本当にすごいですね。よく勉強しています。ほとほと感心します。
 屏風は2つで一双と呼ぶ。左右で1組になる。右隻(うせき)、左隻(させき)と呼ぶ。京都の東側を描くのは右隻で、西側は左隻。そして、この屏風絵は鳥瞰図(ちょうかんず)となっている。市街地を上空から眺めている。
 著者は、相国寺(しょうこくじ)の東に六角七重の巨大な塔が建っていて、その上から見た景色が描かれているとみています。この塔は、高さが109メートルあり、今の京都タワー100メートルより少し高いというのです。すごい塔がそびえ立っていたのですね。信じられません。
 屏風図には、伝統的な四季絵、月次(つきなみ)祭礼国を踏襲して、春夏秋冬がきれいに配分されていて、それが京都の東西南北の方位に合致している。いやあ、大したものです。
 室町時代の幕府、すなわち将軍の御所は、かなり転々としており、代替わりごとに新たな御所を営んでいた。花の御所を作ったのは、三代将軍足利義満である。それまで幕府はほかの場所にあった。その後も、必ずしも花の御所が使われたわけではない。応仁の乱のあと、将軍は逃亡して京都にいないことが多く、京都にいるときも寺院や武家などの屋敷に間借りすることが多かった。
 幕府の門前では、たとえ関白であろうと乗り物に乗ることは許されないという慣行があった。これは将軍の格の高さを示すものである。
 このようなことを手掛かりとして、絵に描かれている人物を特定していくのです。
 古い京都とそのころの日本人の生活の一端を視覚的に知ることのできる本として、面白く読みました。
 明けましておめでとうございます。今年もよろしくご愛読ください。
 お正月は風もなく晴れ上がって気持ちの良い一日でした。午後から庭に出て球根を植えました。通りかかったお隣さんが、「いいお天気に恵まれましたね。今年はいいことがありそうですね」と声をかけてくれました。本当にそうですね。今年が日本と世界にとっていい年であることを心から願っています。
 大晦日は恒例の除夜の鐘をつきに近くの山寺に出かけました。11時45分から鐘をつき始めます。まだ若いお坊さんから、つく前に注意を受けました。つく前に、まず今年一年の反省をしてください。そして、ついた後に新年の希望を願掛けしてください。なるほど、と思いましたが、どちらもたくさんありますので、とりあえず新年は家内安全、無病息災を願いました。
 不況のせいなのか、例年になく鐘つきに並ぶ人は少なかったのですが、午前0時を過ぎたころ人が次々にやってきました。実は、我が家には韓国から娘の友人である若い女性が泊まりに来ていましたので、一緒に出かけて鐘をついてもらいました。日本は初めての人です。
 
(2009年10月刊。2200円+税)

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