法律相談センター検索 弁護士検索
2007年1月 の投稿

風の影

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:カルロス・ルイス・サフォン、出版社:集英社文庫
 本年度のミステリーナンバー1ということです。なるほど、どっしりとした読みごたえがあります。400頁の文庫本で2冊という大長編です。
 オビにある推薦の言葉を紹介します。小説を読む喜びにあふれている。物語の虜になることの愉しさがここにはある。まさに傑作。過去と現在を複雑な糸でつなぎ合わせ、読む者を浪漫の迷宮へ誘い込んでいく。すべての誠実な読書人におすすめしたい、掛け値なしの傑作である。
 どうですか。ここまで書かれると、うん、どんなものだかちょっと読んでみようって気になりますよね。私も、そんなわけで読んでしまったのです。それにしても、オビの3行とか4行で本屋で手に取って読ませようという文書を私も書いてみたいと思いました。
 舞台はスペインのバルセロナです。古書店の父と息子が登場します。スペインの小説には、いつもスペイン内戦の影がまとわりついてきます。フランコ派と人民戦線そしてアナーキストが互いに殺しあった悲惨な内戦の後遺症が今もあとを引いているようです。人々の消すに消せない重大な出来事だったのでしょう。
 いくら読みすすめていっても、いったいこの話はどんなふうに展開していくのか、まるで予測がつかないのです。だから、次はどうなるのか知りたくて、ひたすら頁を繰っていきました。
 話の筋が複雑にからみあっていて、なるほど、そういうことだったのか、と終わりころになって、ようやく事件の全貌をつかむことができます。それまで、物語の基調にあるレクイエムのような暗い調べをずっと聞いている気分に浸ることになります。決して心地よいものではありません。でも、先行見通しの不透明さ、人生の不可思議さをじっくり味わうことのできる小説ではあります。
 私はベトナム行きの飛行機のなかで読みました。ベトナムまで福岡から5時間かかるのです。

モンゴル時代史研究

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:本田実信、出版社:東京大学出版会
 イラクへ侵攻したアメリカ軍兵士が3000人以上亡くなり、ついに9.11の犠牲者を上まわりました。負傷者は数万人にのぼるとみられています。戦場PTSD患者は大変な数になっているようです。もちろんイラク人の犠牲者はもっと多く、5万人は下まわらないと言われています。これらの死傷者をうんでいる原因の一つに自爆攻撃があります。自らの身体に強力な爆弾を巻きつけて要人を暗殺した例としては、スリランカの首相暗殺をすぐ思い出します。イラクでは、スンニー派とシーア派との宗派間の争いもあって、完全な内戦状態に突入しているといわれています。
 11世紀のイスラム世界に、要人暗殺を得意とするイスマイール派という教団があったことで有名です。アッバース朝カリフ制やセルジューク朝スルタン制というスンニー派体制の打倒を目ざし、天険利用の山城群を構築し、暗殺集団を組織していた。イスマイール派の山城の総数は150とも360ともいう。山城には、十全の防備施設をもつ居城、遠望のきく見張り城、有事の際に立て籠もる逃げ城、狼煙などによる連絡点としての山城がある。これらの山城をセルジュク朝も、モンゴル軍(フラグ)も、一つも落とすことができなかった。
 イスマイール派教団には、指導者層として3階級の宣教者がいて、その下に献身者がいた。献身者の任務は暗殺。献身者は信者の若者たちから選択され、困苦に耐える肉体の錬磨、必殺の武技訓練のほかに、高度の教養が授けられ、アラビア語、ラテン語などの学習の習得が課され、自己犠牲を喜ぶ精神的鍛錬が施された。
 暗殺の対象は、スンニー派の法官、市長、さらにカリフであり、将軍や宰相だった。毒薬や飛び道具はつかわず、すべて匕首(あいくち)で刺殺した。闇討ちではなく、むしろ、大モスクの金曜日の祈りの場など、公衆の面前で刺殺するのが建前だった。そのため、献身者はたいていその場で殺害され、生還の望みは初めからなかった。
 また、スンニー派なら無差別に殺傷するというのではなく、政治的・宗教的・社会的にもっとも効果の期待できる者が狙われた。
 暗殺すべき目標の人物が決まると、彼についての詳細・的確な情報が集められ、暗殺の手だてが綿密に検討され、適任の献身者が選ばれた。
 アラムート城には、暗殺された者と暗殺した献身者の氏名、暗殺の場所、日付を書き入れた暗殺者表が保管された。それによると、暗殺された者は、ハサン・サッバーフの治世に48人、第2代と第3代の世には、それぞれ10人、14人となっている。いずれも当代スンニー派ないしセルジュク朝の代表的人物である。
 600頁をこえる分厚い学術書です。今から10年前に読んでいたのですが、イラクで頻発する自爆テロと似通っていると思いましたので、紹介します。

葉の上の昆虫記

カテゴリー:生物

著者:中谷憲一、出版社:トンボ出版
 葉っぱの上に昆虫がとまっています。蜜を吸っているのでしょうか・・・。
 モンシロチョウのメスが交尾を拒否する姿勢を見せています。チョウチョもオスを選ぶのです。オスも、さっとあきらめたり、なかなかあきらめきれずに、その辺をウロウロしたりします。まるで人間のオスと同じです。
 アリとアブラムシ。アブラムシは植物の篩管を流れる糖分の多い栄養液を吸っている。ところが、アブラムシはその栄養液の一部しか吸収せず、たっぷり糖分を含んだ甘い液を、お尻から出してしまう。この甘露をなめようと、たくさんの昆虫が集まる。チョウやハナアブ、アシナガバチなどがやってくる。
 ほかの昆虫とちがって、アリとアブラムシは特別な関係にある。アリはアブラムシのお尻から、直接、この甘露をもらう。アリが触角でアブラムシのおなかを叩くと、アブラムシは甘い液を出す。アブラムシがアリを特別扱いするかわりに、アリはアブラムシを保護する。テントウムシなどがアブラムシを食べようと近づいてくると、アリはテントウムシを攻撃して追い払ってくれる。いってみれば、アブラムシが出す甘い液は、警備員として働いてくれるアリへの報酬なのだ。
 アリはハチの一種。翅がないだけで、からだつきはハチそのもの。その生態もハチそのもの。アリとシロアリは、昆虫という大きなグループの一員ではあるが、昆虫のなかのグループ分けでは、なかり違う。
 擬態。毒ともつ生き物のまねをして、毒があるように見せかける。簡単に毒をもつことができるのなら、毒をもって身を守ればいい。しかし、毒をもつのは実際には大変なこと。だから、見かけだけ毒のある生き物に見せかけるほうが簡単で、てっとりばやい。
 昆虫のいろんな生態がよくも微細に写真で紹介されています。昆虫好きの人には、絶対おすすめの写真集です。

新・富裕層マネー

カテゴリー:社会

著者:日本経済新聞社、出版社:日本経済新聞社
 日本に金融資産1億円以上の富裕層は131万人。全世界の富裕層(770万人)の 17%を占める。
 5億円以上のスーパーリッチは6万世帯。1億〜5億の大衆富裕層は72万世帯。これは、遺産相続による人が大きな割合を占めている。
 居住目的の不動産を除いた純資産で100万ドル以上の日本の富裕層は134万人、これは世界第2位。1位はアメリカで250万人。3位はドイツの74万人。
 スイス銀行が相手にするのは、金融資産5億円以上の人。
 グロソブという言葉を初めて知りました。グローバル・ソブリン・オープンというものです。日本に比べて高利まわりの欧米の国債を中心に運用し、投資家に毎月、分配金を還元します。購入者は100万人をこえているヒット商品だということです。
 団塊世代が退職するのは間近かだ。1人あたり平均2000万円として、年間15兆円。3年で47兆円。その前後をふくめての80兆円が、いま狙われている。団塊世代は既に110兆円をもっており、あわせると団塊マネーは150〜190兆円になる。
 ひゃあー、そんな金額になるんですか・・・。
 銀行預金に利子がつかない現在、投資信託が注目されているという。銀行が投信販売に熱心になるのは、販売手数料だけでなく、預かり資産に比例して信託報酬が見込めるから。
 たとえば、いちよし証券では、信託報酬が前年同期比38%増の19億円となった。これは、グロソブの預かり資産が400億円になったことによる。
 しかし、投資信託の基本は、元本保証のないこと。これを見逃して投資すると、痛い目にあう。投信ビジネスは証券会社にとって三度おいしい。販売手数料、代行手数料、委託手数料が入るから。あのグリコ以上のおいしさを証券会社がひとり占めするなんて、そんなことが許せるでしょうか・・・。
 不動産をふくむ資産が1億円を超す富裕層の日本人は300万人をこえる。彼らは遺言書を作成する。信託協会に加盟する銀行は4万8000通の遺言書を保管している。
 信託銀行の扱うリバースモーゲージというのがあるそうです。私は知りませんでした。自宅を担保とし、そこに住み続けながら年金のように一定額を受け取り続けるというものです。利用者が死亡したときなどに自宅を売却して元利金を一括返済することになります。7000万円の評価のある自宅を担保とし、毎年180万円を受けとれたというケースが紹介されています。果たして利用者にとってのリスクはないのでしょうか。どなたか、教えてください。
 信託銀行は、たとえば3000万円を預けている顧客に対しては、名医の紹介や金持ち向けのパック旅行紹介のサービスをしているそうです。でも、パリのコンドミニアムを紹介するというサービスがあるというのには笑ってしまいました。私は別荘も持ちたくありません。旅行先では、すべてあげ膳、据え膳でいきたいのです。炊事・洗濯、すべて自己責任、だったら日常生活そのものではありませんか。
 5%の利まわりがあるという宣伝文句だったのに、実は、信託報酬など差しひかれると1%にしかならないという。あくまでも信託銀行がもうかる仕組みになっているということです。
 金融資産が1億円あるということは、1億円しかないということ。信託銀行をふくめて銀行や証券会社にとっていいカモになる危険性はきわめて大きいのです。
 いや、証券会社などに頼らずインターネットで直接取引をしてもうけるのだ、そういう人がいるでしょう。でも、そんな人はパソコンの画面と24時間にらめっこしていなくてはなりません。仮に1日で10万円もうけたとしても、それってむなしくありませんか。四季折々の移り変わり、人間の生きざまの変わり方を議論するよりなにより、パソコンの画面をじっと、何時間もみつめ続けるなんて・・・。貴重な人生時間のムダづかいの典型ではありませんか。人生にはお金に代えがたい、大きなものがある。それは、たとえば親友です。なんでも話せる友だちって、お金なんかでは買えないでしょ。
 それにしても、なんだか欺しのテクニックがどんどん広がっているようで、怖い世の中です。同じ団塊世代のみなさん、お互いに気をつけましょうね。

大統領の品格

カテゴリー:アメリカ

著者:宮本信生、出版社:グラフ社
 外務省に入り、キューバやチェコの大使も歴任した元外交官が、ブッシュ大統領を厳しく糾弾しています。
 この本のオビには、元外務事務次官で駐米大使もつとめた人が推薦文をのせています。日本にも心ある外交官がいたことを知って、少しは安心します。いつだってアメリカの言いなり、対米追随外交で定評のある日本ですが、少しは気骨のある人もいるということなのでしょう。
 ブッシュはその願望に反し、アメリカ史上最低の大統領として適しに名を残しかけている。ブッシュ大統領は、偉大な大統領という個人的目的達成のためには手段を選ばない。その結果、彼我に多大の死傷者を出し、しかも平然としている。イラクにおけるアメリカ兵の死者は9.11の死者を上まわり、3000人を超えてしまいました。
 この傲慢な自己中心主義者とその側近は、平和に対する罪に加え、通例の戦争犯罪、人道に対する罪の下でも、その責任が厳しく問われて然るべきである。
 公の場に出てくるたびにスター気取りで新しく豪華なスーツを着用しているライス国務長官は、その背後にある優越感と傲慢をまず除去する必要がある。ライスは、メイドか付き人のようにブッシュに忠実な非白人である。
 西暦2世紀に書かれた、「ローマ皇帝伝」において、傲岸不遜なカエサルは暗殺されて当然だと断じられている。ローマ皇帝にしろ、独裁者にしろ、テロリストにしろ、また自由・民主主義を標榜する「皇帝的」大統領にしろ、その傲慢に起因する背徳性、違法性、自己中心主義のために、結果的に、無辜の民を大量に死に追いやる為政者は万死に値する。ブッシュ大統領は、ビンラディンやサダム・フセインと同罪である。
 うむむ、胸のすくような判決です。
 ブッシュは、裕福で甘い両親の下、無理が通る環境で育ったためか、自己中心主義的で、わがままな幼児性を大人の世界にまで持ち込んだ感がある。長じて、それは傲慢となったように思われる。
 アメリカは今、人も物も、電話による会話も、ことごとく国家の監視下に置くことによって、テロの国内への浸透を食い止めることに、とりあえず成功している。しかし、将来に向けて成功し続ける保証はどこにもない。テロは極度に予知しがたい。テロの根源を除去すべきであるのに、現状は蚊が発生する汚水を清掃することなく、そこから発生する蚊を一匹一匹たたき殺すか、都市全体に蚊帳を張りめぐらしているようなものである。まずなすべきことは、反米テロが発生する汚水を清掃すること。汚水とは、アメリカの傲慢である。
 よくぞここまで言ったと思われるほど、ブッシュ大統領を明快に裁いた本です。日本人は、一刻も早く目が覚めるべきだと私はつくづく思います。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.