著者:魚住昭、出版社:講談社
野中広務というと、そのイカツイ顔からも、いかにも権謀術数を駆使する政治屋としか思えず、好きではありませんでした。この本を読むと、その政治家としての複雑な生きざまの根源が少し分かる気がします。
ところで、私がこの本を読んで、もっとも腹がたって仕方がなかったのは、麻生太郎総務庁長官の発言でした。
「あんな部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」
麻生事務所によると、これは「地元・福岡の炭鉱にからむ被差別部落問題についての発言が誤解されて伝わったものだ」ということですが、それでは弁明にもなりません。これでは、部落差別をなくしましょうという政府のキャンペーンなんて、いかにもそらぞらしいものです。
野中広務は、部落解放同盟の全国集会で「私も部落に生まれた一人です」と公然と名乗っています。しかし、差別をバネとして権力の中枢に喰いこんでいくわけです。ところが、同時に、野中広務は京都の蜷川革新政府を支えた時期があったり、決して一筋縄ではいきません。機を見る敏な政治家(屋)なのです。そして結局、今の小泉首相との権力闘争に敗れ、政界を引退してしまいます。
人間とは、かくも複雑な生きものなのか。政治家のオモテとウラを考える格好の材料になる本です。
野中広務── 差別と権力
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