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三淵嘉子

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 神野 潔 、 出版 日本能率協会マネジメントセンター
 NHKの朝ドラ「虎に翼」は大好評のようですね。弁護士のFBにもこのドラムの意義がひんぱんに取りあげられています。世の中には、あまりにも理不尽なことが堂々とはびこっていますが寅子(とらちゃん、こと、ともこ)が「ハテ」と首をかしげて抗(あらが)う姿が共感を呼んでいるようです。
戦前、日本敗戦時まで日本の女性には参政権がありませんでした。なので、女性が弁護士になれなかったのも、ある意味、当然のことです。女性は一人前とは見られていなかったのですから…。
寅子たちが大学に入れたのも明治大学が受け入れたからです。そして、その次に司法科試験を女性も受験できるようになりました。
 寅子(嘉子)が高等文官(高文)司法科試験を受験したのは1938(昭和13)年のこと。女性が受験できるようになったのは2年前の1936年でしたが、合格者はいませんでした。そして、この1938年に初めて3人の女性が司法科試験に合格したのです。
実は、私の亡父も法政大学の法文学部の学生として、5年前の1933(昭和8)年に司法科試験を受験しています。残念ながら合格できませんでした。この年、有名な民法の教授である川島武宜が合格しています。
 父が受けた司法科試験って、どんなものだったのか気になって調べてみました。今はインターネットで国立国会図書館の蔵書にアクセスできて、コピーサービスも受けられます。本当に便利な世の中です。すると、「國家試験」という受験雑誌があることが判明しました。私の受験生のころの「受験新報」みたいなものです。試験問題も分かりましたし、試験スケジュールも判明しました。残念なのは試験会場が法務省の会議室らしいというくらいで、確定はできませんでした。
この年の合格者は240人ほどで、その前年は356人、翌年は331人で、なぜかこの年だけ少なかったのです。ただし、寅子のときも合格者242人と、ほぼ同数でした。
亡父の生前、司法科試験に合格したら、何になるつもりだったのか尋ねると、その答えは意外なことに検察官でした。
 治安維持法があり、その目的遂行罪というとんでもない悪法・恣意的条文によって法廷で共産党員を弁護したら、それ自体が罪となり、弁護士が次に逮捕され、実刑になっていた時代でした。弁護士になっても、それこそ夢も希望もなかったのです。
寅子が弁護士になろうとした動機は、弱い女性を救うためではなく、困っている人間の力になるため。これには、まったく同感です。男も女も関係なく、困っている弱者の救済こそが法律家の任務です。
 そして、寅子は女性だから家庭裁判所で働くという固定概念を打破しようとしたのです。これも、すごいことですよね、なんでも、ワンパターンで決めつけてはいけないのですよね。
(2024年3月刊。1550円+税)

介護の裏

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 甚野 博則 、 出版 文春新書
 この本によると、介護の質はケアマネ次第とのこと。しかし、そんな重要なケアマネを自由に選べないことが多い。いやあ、これは困りますよね…。
そして、介護サービスも幅がありますが、限度額ギリギリまで料金を上げる業者がいるのです。それは決して詐欺ではありませんが、介護施設と介護業者とが囲い込み、ひも付きという癒着をしているわけです。まあ、これは避けられないことでしょうね。
「サ高住」の監督官庁は国土交通省と厚労省。介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームは厚労省が管轄。介護付き、住宅型の施設は老人福祉法、サ高住は高齢者住まい法にもとづいて運用されている。
24時間介護スタッフが常駐する介護付き有料老人ホームは、入居時に数百万円から数千万円の一時金の支払いのうえ、毎月1人20万円が一般的。いやあ、これは大変なことですね…。いえいえ、入居時に数千万円の一時金が必要なうえ、夫婦あわせて50万円という施設はザラなのです。驚くしかありません。
私は今75歳、後期高齢者の仲間入りしましたが、なんと800万人もいるそうです。この介護保険の自己負担額を自・公政権は増加させようとしています。軍需予算を天井知らずに増やすときには財源のことは何も言わないのに、福祉のときだけ財源がないというのです。こんな不公平・不合理は許せません。団塊世代はもっと怒りの声を上げるべきですよ。昔、20代のころに行動したように…。
 東京や福岡には、入居一時金だけで3億円とかいう超高級老人ホームがあります。まあ、タワーマンションを購入できるスーパー・リッチ層ですね。
 「老人は歩くダイヤモンド」
 いやなキャッチフレーズです。介護保険の給付費は2022年度に11兆円。これで、金もうけしようというのです。嫌ですね…。
 それでも介護ビジネスは、まともにやっても決してもうからない。もうかるためには、人件費を削るしかない。そうすると、貧すれば鈍す、です。
 施設における高齢者への虐待が増えている。介護スタッフにまともな給料が支払われなかったとき、また、スタッフが確保されていないとき、虐待が起きるのは必然です。寝たきりで、文句を言わない入居者を囲っておくと介護報酬が業者に入ってくる仕組みが、虐待を生んでいる。いやあ、怖いです。まるで、「養鶏場のニワトリ」のようだ。いやはや、もはや人間扱いされていないのですね…。
 国が「自立支援」と言い出したのは、「高齢者介護になるべくお金をかけたくない」という本音のあらわれ。いえいえ、そうなら、それを止めさせる必要があります。声を上げ、行動するしかありません。自民党や公明党にまかせていたら、私たちのお先は真っ暗なんですから…。
(2024年6月刊。950円+税)

定年自衛官再就職物語

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 松田 小牧 、 出版 ワニブックスPLUS新書
 自衛官の定年は55歳(2024年9月までは54歳)。ただし、将官は60歳。
 そうすると、まだまだ元気な定年後をいかに過ごすのか、真剣に考える必要があります。そのとき、定年後、何もしないという選択肢はおすすめできません。魚釣りざんまいの生活をしいているうちに社会的刺激がなくなって認知症になったという話も聞きます。やはり、何かしらの社会に関わる仕事をしたほうがよいのです。
 定年の早い自衛官だから、年金も早くもらえるとばかり思っていました。でも、年金は65歳からしかもらえないのです。そしたら、ますます働かざるをえませんね。もちろん、自衛官のトップ層は別格です。そんな心配は不要です。需要産業である三菱重工やら川崎重工に顧問として迎え入れられ、破格の顧問料が保障されます。
 潜水艦の保守・点検作業の関係で、川崎重工や三菱重工が現職自衛官に供応・接待している事実が先日から発覚しました。需要産業と軍部の癒着は戦前もありましたし、古今東西、あたりまえの現象です。要するに、口先では勇ましいことを言ってくるくせに、実は自分と身内の便益優先というのが、いつだって、どこだって悲しい高級軍人の現実なのです。
 自衛官が高給取りなのは昔も今も同じです。陸・海・空将は月給70万円から117万円、一左(昔の大佐)で40万円弱から54万円、1尉(少尉)で28から44万円。しかも、これに年4.5ヶ月分のボーナスが付加されます。そのうえ、イラクやジブチなどに赴任すると、さらに破格の危険手当が支給されます。
 そして、55歳で定年退職すると300万円の退職金がもらえます。
 どうですか、こんなに高給・優遇されているのに、近年、志望する若い人が激減しています。なぜ…。もちろん、戦争の危険が現実化しているからです。
 自衛隊の訓練の基本は何か…。要するに、人殺しの訓練です。それも、効率よく大量の人殺しができるようになる訓練です。ためらうことなく「敵国」人を殺さなければいけません。そして、それは当然、殺される危険も伴います。それでも上司の命令とあらば、四の五の言わず黙って従い、文句を言うことは許されず、ただ死ぬしかないのです。死んだら遺族は1億円もらえるぞ、靖國神社に祭られるぞ…、誰だって、そんなの嫌でしょ。私は、もちろん嫌です。
 定年した自衛官の再就職事情をピンからキリまで、知ることができる新書でした。
(2024年6月刊。1100円)

韓国映画から見る、激動の韓国近現代史

カテゴリー:韓国

(霧山昴)
著者 崔 盛旭 、 出版 書肆侃侃房
 この本を読むと、韓国の近現代史は、まさしく激動そのものです。済州島四・三事件、朝鮮戦争、朴正煕暗殺、光州事件、IFM危機、セウォル号沈没事件…。
 韓国の人々は、決して黙って受けとめたわけではありません。キャンドルを持って集まり、声を上げて世の中を大きく動かしていきました。それで、日本に住む韓国人である著者は日本人の態度は理解しがたいと嘆いています(いるように思われます)。
 日本人は、権力の不正や理不尽な仕打ちに対する怒りを行動として表明しない。森友・加計問題、公文書偽造、河合夫妻の選挙違反、検察庁の不正、東京オリンピックをめぐる諸問題…。自民党の裏金問題もそうですよね。近年、あとを絶たない権力側の疑惑に対して、多くの国民は納得できないものを感じているにもかかわらず、それが明確な行動として示されることがほとんどない。一部の人がデモに集う一方で、そんなことをしてもムダだという、あきらめムードが国全体に漂っているように見える。韓国なら、これではすまされないだろう。
 本当に、そうですよね。先日の東京都知事で160万票以上もとった石丸某は、まともな政策らしいものは何もしないのに、SNSでなんとなく好感をもたれて集票してしまいました。国民(ここでは都民)の怒りが妙なところに吸い込まれてしまって、怒りの表明にはなりませんでした。
 しかも、三位にとどまった「蓮舫」に対して、女のくせに強く主張しすぎるから嫌だといわんばかりのバッシングがマスコミとSNS上であふれています。正論を主張したら、それが叩かれる世の中になってしまっては、どうしようもありません。それでは、カイロ大学を中退したのに卒業したという学歴詐称が濃厚な小池百合子のステルス(逃げ切り)を許してしまうのです。
 光州事件は1980年5月に起きた軍による市民虐殺事件です。当局は、ずっと「北朝鮮にあおられたアカによる反乱」だとしてきましたが、軍事政権から替わった金泳三政権のとき、真相究明のための特別立法がなされ、ついに、軍を動かし虐殺を指揮した大統領である全斗煥と慮泰愚に対して2人とも死刑判決が下ったのです。これはすごいことです。
 日本で、自民党の裏金事件というのは、数千万円いや数億円もの税金が私物化されたというものです。なので自民党の責任者(総裁)である岸田首相は当然に刑事裁判の被告人として裁かれるべきものですし、死刑はともかくとして、金額からして、実刑相当なのです。
この本を読んで、韓国で死刑制度が廃止されていないのに死刑執行がされていない理由として、明らかな冤罪(えんざい)にもかかわらず、死刑判決確定後まもなく処刑してしまった事実があるということを知りました。
 朴政権は、何の根拠もなく「北のスパイ」として罪なき人々を逮捕し、国家転覆を図ったとして死刑判決に持ち込み、死刑の確定からわずか18時間後の1975年4月9日に8人を処刑してしまったのです。いやあ、これはひどい、ひどすぎます。
 この裁判の過程では、事件を担当した検事が起訴を断念しようとしたこと、ついに4人のうち3人まで辞職してしまったのでした。良心がとがめたからです。
 韓国映画は大変面白く、勉強になりますので、私はなるべくみるようにしています。見逃してしまった映画もたくさんありますので、これからはできるだけ見逃さないように心がけるつもりです。
(2024年6月刊。2200円+税)

病棟夫婦

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宮川 サトシ 、 出版 日本文芸社
 よく出来た、考えさせられる社会派マンガです。
もう十分に老年の夫婦が二人してガンにかかって、入院中です。病院ですから、ホテルと違って夫婦同室というわけにはいきません。どっちが先に逝(い)くのか、ちょっとした言い争いになりします。
 抗ガン剤の影響で食欲がなかったりします。
 病院食の塩気抜きだと味気ないので、白ごはんにふりかけをたっぷりかけて、看護師に叱られてしまいます。
遠くに住む娘は孫を連れて病院にまで面会に来てくれます。でも、もう一人の息子のほうは、ずっと自宅に引きこもっています。もう10年にもなります。家の中は両親が出たあとは、ゴミ屋敷状態です。ゲームざんまいの生活のようです。恐らく両親の財産と年金を頼りにしているのでしょう。
もう青年とはいえない年齢の引きこもりの男性は、私の身近に何人もいます。いろんな原因があると思いますが、この本では、親父が息子のやりたい道を「世間体(せけんてい)」を気にして「弾圧」したことによります。父親は息子のためを思ってというのですが、それは自分の見栄のためということが少なくありません。
夫婦の入院先の病院には小児ガンの子どももいます。元気だったのですが、ある日突然、亡くなってしまいます。その子の好きなゲーム機を買ってやったのに、手渡す前に亡くなってしまったのです。
 そして、いよいよ老夫婦は終末期を迎えます。主治医は転院を息子に言い渡します。
 そのとき、息子は、土下座して両親を同室にさせて下さいと主治医に頼むのでした。
 「こんな自分なんかの土下座になんの価値もないのは分かっています。それでも、これしか思いつかなくて、すいません」
 泣かせるセリフです。まもなく、夫婦はほとんど同時に、同じ病室で亡くなります。
 老親と引きこもりの子どもを描いたマンガとして、秀逸だと思いまいた。
 ひきこもっていた息子はマンガ家になるのです。自伝のように思わせるところが憎いです。
(2024年6月刊。814円)

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