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憲法九条裁判闘争史

カテゴリー:司法

著者   内藤 功 、 出版   かもがわ出版 
 知的好奇心を大いに刺激し、満足させる本です。若手弁護士が大先輩の内藤弁護士から聞き出すという仕掛けが見事に成功しています。難しい話を面白く、分かりやすく語るという狙いが見事にあたりました。そのおかげで、伊達判決の意義がよく理解できます。
砂川事件が起きたのは1957年9月のこと、立川にあった米軍基地の滑走路延長のための工事に反対運動が起きて23人の労働者と学生が逮捕され、そのうち7人が安保条約にもとづく行政協定に伴う刑事特例法2条違反で起訴された。
 この一審判決を書いた伊達秋雄判事は、満州国で裁判官をやっていた。そして、最高裁判所で調査官もしていた。その伊達裁判長が原告の申請でもなく、職権で外務省条約局長を証人喚問した。裁判長は原告弁護団より一般見識が上だった。伊達裁判長は『世界』をよく読んでいたようだ。
 日本政府がお金を出し、予算を出し、施設を提供し、物資を提供し、労務を提供しているからこそ、米軍が駐留していられるのだから、駐留米軍は憲法9条において日本が保持している軍隊にあたる。
ところが、この伊達判決を田中耕太郎・最高裁長官たちがひっくり返した。
 田中耕太郎は、1950年と1951年、裁判所時報の年頭あいさつのなかで、中国やソ連は恐るべき国際ギャング勢力だと言っていた。田中耕太郎が駐日アメリカ大使に裁判の秘密を漏らしていたこと、その指示を受けていたことは、前に本の紹介のなかで明らかにしています。本当に許せない、でたらめな裁判官です。
 日本本土にある自衛隊の基地がアメリカ軍と共用関係にある。つまり、日本の自衛隊基地は全部がアメリカ軍の基地と化しつつある。その意味で、日本にあるアメリカ軍基地は実質的にこの10年来増えている。アメリカ軍だけの専用基地はふえていないけれど・・・。
 これがいまの安保の変質、量的、質的変化の実態である。日本人は、自衛隊を日本独自の軍事組織と思い込んでいるけれど、それは間違いである。
 アメリカにとって対等な日米同盟というのは、日本の軍隊が外国へ行って、アメリカの青年が死ぬかわりに、日本の青年に血を流してくれるように頼みたいということ。
 日本全国にアメリカ軍がいて、しかも、自衛隊がアメリカ軍と一体化しているということは、日本は世界一位の軍隊をかかえているということではないのか・・・。
 軍隊の強さをはかるには、兵器だけを見てはいけない。兵器だけで、軍隊が動くわけではない。それを動かす人間はどうなっているのか、隊員が本当に戦闘のモチベーションをもっているか。戦争目的、軍隊としての堅確な意志をもっているかどうかが戦力の要素を左右する。
 日本の自衛隊は従属的な軍隊なので、堅確な意思はもっていなかった。自衛隊とアメリカ軍の装備だけを比べてみても本質は分からない。
 航空自衛隊の戦闘機の純国産はアメリカが許さない。故障したとき、部品がなくなったときに、日本はアメリカに頼らざるをえない。戦闘機を握るか握らないかというのは、日本の自衛隊の急所を支配する。また、日本のイージス艦の主要部分、コンピューターの主要部分はアメリカ製のもの。自衛隊の本質は、アメリカ軍との従属性、一体性にある。
 自衛隊は、単独で海外攻撃する正面装備はそろっているが、それを単独でやり抜く仕組みにはない。その装備が生かされるのは、アメリカ軍との共同、アメリカ軍と一緒という仕組みのなかである。
 反米の方向に行く皇国史観は、アメリカが許さない。
陸上自衛隊は、イラク派兵以降、米国陸軍との一体化がすすんでいる。と同時に、アメリカ海兵隊との連携、一体化を目ざしていて、少し複雑な両面をもっている。いまでは、日本の自衛隊だけが先進国のなかで唯一、アメリカに深く従属する軍隊である。
 日本の自衛隊は、アメリカ軍の作戦指導に従うしかない。世界戦略と世界軍事情報の力で劣るので日本の自衛隊は従うほかない。アメリカ軍の情報・アドバイスによって自衛隊はコントロールされ、作業指導されている。
 航空自衛隊の任務は、アメリカ軍基地からアメリカ空軍が発進していくのを守ること。日本の都市を守ることではない。
遠藤三郎・元陸軍中将は戦争は、なぜ、誰が起こすものなのか。結局、軍需産業が原因だということを強調した。兵器をたくさん作るためには兵器を消耗した方がいいので、兵器をつかう戦争が必要になる。だから、軍需産業、民間会社の利潤を目的とする企業が兵器を作っていたのでは、戦争はなくならない。
 アイゼンハワーも大統領を辞めるときに、国を誤るのは軍需産業と軍人の複合体であると述べた。
 憲法は何の役にも立たないとか、憲法9条は無力だとか言われることがあるが、絶対にそうは思わない。憲法の存在と、その憲法を守ってたたかってきた運動、憲法意識の普及と定着というものが自衛隊の太平洋統合軍構想や日米同盟の強化を阻止し、遅滞させてきた力なのだ。
 砂川・恵庭・長沼・百里闘争は憲法を武器にした生命と暮らしを守るたたかいなのだ。逆にいうと、自衛隊反対というのを最初から真っ正面に揚げて突進したたたかいではなかった。
 裁判は一つの学校である。弁護士としての道場。ここが腕をみがく稽古場になる。
 憲法がある限り、この論争は絶対に勝つ。だから相手は憲法論争を極力避けるわけだ。避けないで、憲法の土俵の上に引き上げて論争する。
裁判官は、我々が思うほど、記録を読まない。前の記録を整理して読もうという気持ちはない。今回の法廷をいかに早くすますか、と考えている人が案外多い。そこで、毎回、一から整理して話してやる。書面で、杓子定規ではなく、ナマの言葉で強調すると印象に残る。くどいくらい話す。そうやってポイントに誘導していく。裁判官に一番大切なところに着目してもらう。裁判官は、ともすると逃げ腰になる。そこで、原告を勝たせる肚を決めさせることが必要である。
 傍聴している原告団や支援者に到達点と展望をいつも示す必要がある。そうやって裁判の意義を徹底する。法廷の中で聞くとまた一般と印象深い。
 防衛省は、本当に「人殺し」できる軍隊、兵隊をつくりたいと考えている。このとき、自衛隊は災害救助、人を救う、人を活かす仕事をやるべきだ、人を殺す仕事なんてやってはいけないという方向に国民世論が動いたら困ることになる。
 自衛隊と隊員を本当に活かしてやりたい。若い隊員を外国の人との「殺しあい」の戦場になんか絶対に送りたくない。
 私、自衛隊員を愛す。故に、憲法九条を守る。
よい言葉ですね。広めたいものです。いろいろ、大変示唆に富んだ話が盛りだくさんでした。
(2012年10月刊。3000円+税)

民主党の原点

カテゴリー:社会

著者   鳩山 由起夫・高野孟 、 出版   花伝社 
 民主党政権が誕生したとき、これで日本の政治が少しはまともになり、人間本位の政治に向かうと期待した国民は多かったと思います。
 ところが、残念なことに、今の民主党・野田政権は自民党・野田派としか言いようがありません。そして、この本で、他ならぬ鳩山由紀夫が同じことを言っているのです。
 消費増税、原発再稼働、TPPそしてオスプレイ。この4つとも、自民党政権なら賛成だろうが、本来の民主党ならば、すべて慎重でなければならない。だから、自民党・野田派と言われることになる。
 今の野田内閣はあまりにも自民党に近寄りすぎている。せっかく政権交代して、自民党政治と決別するはずだった民主党が、なぜか自民党のほうばかりを向いて政策を遂行しようとしているのが、大変に気がかりだ。その最たるものが消費税の増税だ。民主党と自民・公明が歩み寄り、3年前に民主党のマニフェストで約束した後期高齢者医療制度の廃止や最低保障年金制度の導入も棚上げし、事実上、撤退してしまった。
 もし、消費税が5%あがったら、マチの中小企業の3分の1は倒産するだろう。これが現実なのだ。
 原発については、もともと推進派だったが、今なお福島第一原発の事故がどういう原因で起きたのか判明していないとき、政府が原発再稼働を決めるのは、どうにも理屈に合わない。
 日本の領土の中にアメリカの軍隊がずっと居続けて、未来永劫、守られ続けていくと考えるのは、すなわち一国の領土の中に他国の軍隊が駐留し続けることによって日本の安全が守られると考えるのは、世界史のなかでも、きわめて異常な姿だ。
 普天間問題で立ちはだかった壁に対して勝利をつかむことができなかったことは、力不足で申し訳なかった。
 思いやり予算が、財政の厳しいアメリカにとって大変な魅力であるのは間違いない。アメリカに対して、ただいつも従順に従うばかりではなく、言うべきときにはノーというのが真の友情だ。
 イラク戦争のとき、小泉首相(当時)が、自衛隊を派遣したのは、歴史的に誤りだった。しかし、日本政府はいまなおその間違いを認めていない。
 私は鳩山由紀夫を支持するつもりはまったくないのですが、その言っていることはかなりあたっている、正しいと共感しました。
80頁あまりの薄くて読みやすい小冊子です。ぜひ、あなたも手にとってみて下さい。
(2012年9月刊。800円+税)

セミたちの夏

カテゴリー:生物

著者   向井 学 、 出版   小学館 
 夏にあれほどうるさく鳴いていたセミも、今は昔。大人のセミたちは死に、子どもたちははるか地中に潜んでいます。では、地中のセミはどんなにしているのでしょうか・・・。この本は、私の長年の疑問を写真で明らかにしてくれました。
 セミの生態写真集です。あのうるさいセミの鳴き声は、みんなオスのセミが、「ぼくはここにいるよー」、そして、「寄っといでよ。おヨメさん募集中なんだよ」と誇示しているのです。
セミは、はりのような尖った口をかたい幹に突き刺して木の汁を吸っている。
 そして、木の汁を吸おうと、おしっこを出す。それも、5分に1回も・・・。
セミは、油断していると、カマキリや鳥に食べられてしまう。
 セミがうまく交尾できるチャンスはあまり多くはない。セミの成虫が地上で生きているのは、わずか2週間だけ。
 メスは、8月のお盆が過ぎたころ、卵を木の幹の表面に産みつける。2ミリほどの細長い小さな卵を300個ほど・・・。雨がたくさん降る梅雨のころ、木の枝の中の卵から、小さなセミの幼虫が顔を出す。そして、地面にぼとぼと落ちていく。ところが、地面にはアリたちが待ちかまえている。ほとんどの幼虫が地中に潜り込む前に食べられてしまう。
幸い土中に潜り込んだ幼虫は、木の根っこを目ざして掘りすすむ。そして、木の根にたどり着くと、木の根の汁を吸いはじめる。
 4齢幼虫にまで達すると、たくさん汁の出る根っこを探してトンネル掘りをする。5齢幼虫になると、からだが白からあめ色になる。
 6年目の夏、土中からはい出してきて、木にのぼる。そして、成虫へと羽化する。夜の8時から9時のあたり羽化のピーク、夜明けと同時に飛び立っていく。
 これが全部、写真で紹介されています。素晴らしい写真集でした。
(2012年7月刊。1300円+税)

税務署の裏側

カテゴリー:社会

著者   松嶋 洋 、 出版    東洋経済新報社 
 消費税値上げをマスコミが政府と一体となって強引におしすすめて成立させました。小選挙区制そして郵政民営化のときとまるで同じです。でも、税金って、持てるものと大企業にはどこまでも甘く、持てない者そして中小零細企業には限りなく苛烈なものなのです。これを徴収する側にいた人が実感をもって明らかにしています。
 税務署に4年半つとめ、今は税理士になっている著者は次のように断言しています。
税務署で見たのは、数多くの「不公平」だった。税務署の実体は、正義感あふれる組織という印象からかけ離れている。
 税務署員のホンネは税金をとるために税務調査をやるというもの。最低でも、年収の3倍の税金をとって来るべきだ。
税務署員がもっとも嫌うのは、税務調査をしても何も間違いが発見されないという事態。この「申告是認」を税務署員の恥とする文化がある。だから、税務署が是認通知を発送することはほとんどない。
 納税者に対しては書面を求めるが、税務署は自分は書面を出さない。
実調率(確定申告した人が税務調査に入られる割合)は1%にすぎない。
 重要事案審議会(重審)の実態は、有能な職員を税務署長等の幹部職員にお披露目し、今後の人事に活かすという意味が大きい。
 税務調査に対処するとき、税理士がリスクを負わないと顧客を満足させる提案はできない。しかし、税務署に長くつとめたOB税理士は、過大評価する傾向がある。
 署長経験者の税理士が対応すると、税務署は道理を引っ込ませることが多い。税務署OB税理士は、実は限られた税法知識しかもっていない人がほとんど。
 税務署の内情って、昔も今も変わってないんだなと思ったことでした。
(2012年7月刊。1500円+税)

ちいさいひと 1

カテゴリー:社会

著者   夾竹桃ジン 、 出版   小学館 
 青葉児童相談所物語というマンガ本です。あまりによく出来ているので、ついつい涙が抑えきれなくなりました。
 幼い子どもたちが虐待(ネグレクト)されています。でも、親がそれを認めようとしません。そこに、児童相談所の新米児童福祉司が登場します。
 子どもたちは、ひたすら親をあてにしています。でも、若い親は夜の仕事に忙しく、また、大人の世界の交際にかまけて、子どもたちは放ったらかし。
 食べるものも食べられず、まったく無視されてしまいます。親の親は、それを見て見ぬふりするばかりです・・・。
 そのあいだにも、子どもたちはどんどん衰弱していきます。食事どころか、満足な医療も受けられずに放置され、死ぬ寸前・・・・。
 近所の人々は異変を感じますが、誰も何か行動するわけでもありません。男親が子どもに厳しいせっかんをしても、母親は子どもにガマンさせるだけ。何も悪くないのに子どもは自分が悪いからと言い聞かせています。そんなとき、ついに児童相談所の出番です。
 こんな実情を知ると、一律に公務員を減らしたら、子どもの生命・健康も守れないということに、よくよく思い至ることができます。
 残念ながら、こんな現実が日本中にありふれていると弁護士生活40年近くになる私は痛感します。
 本当によく出来たマンガ本です。ぜひ、手にとって読んでください。
(2011年11月刊。419円+税)

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