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原発と憲法9条

カテゴリー:社会

著者  小出 裕章 、 出版  遊絲社
明快です。とても分かりやすくて、驚いてしまいました。原発について、少しは分かっているつもりでしたが、この本を読んで、本当に頭がすっきりしました。さすがに専門家は違います。それも「原発ムラ」と長年たたかってきた気骨ある学者ですので、明瞭そのものです。あざやかというほかないほどの明快さなのです。
 原子力は安全ではない。少なくとも都会では引き受けられない巨大な危険を抱えている。そのことを原子力ムラが知っていたからこそ、原子力発電所は過疎地につくった。
そして、原子力は安価でもない。現在進行形の事故処理は膨大なものになるのだから、安価なはずがない。
核分裂反応というのは、はじめから爆弾向けの現象だった。核分裂反応がもっている性質が、いちばん開花して、爆弾となった。
広島に落とされた原爆はウランで出来ていた。長崎に落とされた原爆はプルトニウムで出来ていた。プルトニウムという物質は、この世界にはひとつもない。一グラムもない。そういう物質である。
 石油は、残りはあと30年しかないとずっと言われ続けてきた。今も言われている。しかし、これからもそう言われるだろうということは石油は実は、まだまだあるということ。
 日本は「もんじゅ」にすでに1兆円もの大金を投入している。すなわち捨てているのだ。
 日本が現に持っているプルトニウムで長崎型の原爆が実に4000発もつくれる。日本が原子力をどうしてもあきらめない本当の理由は、核兵器をつくることにある。核兵器をつくるには、プルトニウムが必要になるからである。
 同じ言葉を、日本がやるときには原子力開発と呼び、イランがやると核開発という。これはマスコミの情報操作の一つである。
 原子力に反対する根本の理由は、自分だけがよくて危険だけを他人に押しつける社会が許さないから。電力を使うのは都会なのに、原子力発電所は都会にはつくらない。そして、原子力発電所で働く労働者は本当に底辺で苦しむ労働者が多い。
 わずか200頁の本ですが、たたかう団塊世代(私と同世代なのです)の著者から大いなる勇気をいただきました。ご一読をおすすめします。
(2012年5月刊。1400円+税)

サボり上手な動物たち

カテゴリー:生物

著者  佐藤 克文・森阪 匡通 、 出版  岩波科学ライブラリー
野生動物たちは、適当にサボっている。しかし、よくよく考えてみれば、このやり方こそ、厳しい自然環境で生き抜いていく動物たちの本気の姿なのである。
 イルカやクジラは、野生でもかなり遊んでいる。ザトウクジラを滑り台にして遊んでいたのが目撃されている。
 ペンギンは、潜水を開始する前に、深いところまで潜るか浅く潜るかを決め、それに応じて吸い込む空気量を調節している。ペンギンは浮力を利用して水面に浮上している。
 小笠原などの静かな海ではイルカは周波数が高く、複雑で音の大きさは小さい。それに対して、海のうるさい天草では鳴き音が低くて単調で、音量は大きい。水中では、同じ温度なら、1秒間に音は1500メートルも進む。つまり、水中は音が非常に速く、効率よく伝わる環境にある。だから、水中の動物の多くは、音を使ってコミュニケーションをとる。実は、海の中は、「音の世界」なのである。
 イルカの音を調べると、イルカの「見て」いるものが分かる。
 ペンギンやアザラシにカメラを装着して、野生での実際の生活を見ることができるようになりました。超小型・軽量カメラがそれを可能にしたのです。それによって、海中の動物の生態がどんどん分かりつつあるのです。
 この本は、それを写真とともに伝えてくれます。こんな科学・技術の発達を知るのは楽しいことです。
(2013年2月刊。1500円+税)

幸せに暮らす集落

カテゴリー:社会

著者  ジェフリー・S・アイリッシュ 、 出版  南方新社
鹿児島の限界集落に日本語ペラペラのアメリカ人が住んでみた体験記です。
 時間がゆったりと流れ、お年寄りが幸せに暮らしているさまがよく伝わってきます。文章もほのぼのとしていて幸福感がじんわりと伝わってきます。そして写真がまたいいのです。こぼれんばかりの笑みがあふれ、幸せそのものの美しい顔に心がなんとも惹かれます。
 ところは、薩摩半島の山奥。そこに土喰(つちくれ)という小さな集落がある。20軒の家と、たった27人が生活する。65歳以下は3人のみ。平均年齢は77歳。
 集落には有線放送がある。公民館に行って、チャイムを鳴らしてから放送する。各戸の「箱」から声がでる仕掛けだ。
土喰集落は江戸時代の半ば少なくとも240年前から存在している。7代前のこと。
 そして、アメリカ人の著者は薩摩川内市出身の彼女と結婚した。
 土喰集落には女性19人に対して男性は8人しかいない。
 著者は『忘れられた日本人』の著者である宮本常一の翻訳者でもあります。ハーバード大学そして京都大学で学び、現在は鹿児島国際大学の准教授です。
 南日本新聞に連載されて好評だったそうです。限界集落に住む老人は今や忘れられた存在となっていますが、実は、そこにも人間の豊かな営みがあったこと、人々が生き生きと活動していること、そして、人々はそこで枯れるようにして亡くなっていくことを教えてくれます。本当に大切な本だと思いました。
 こんないい本にめぐり会えると、ついうれしくなってしまいます。
(2013年1月刊。1800円+税)

鷲たちの盟約(上)(下)

カテゴリー:アメリカ

著者  アラン・グレン 、 出版  新潮文庫
舞台は第二次世界大戦直後のアメリカです。
 失業者がたくさんいて、ナチス・ドイツからゲシュタポが乗り込んできて、大威張りしています。知られざる不気味なアメリカ社会が描かれています。アカ攻撃が激しくなり、ハーバード大学の教授も職場から追放され、貧しい下宿人です。
 そして、主人公の警察官の自宅がいつのまにか地下鉄道の「駅」になっています。夫である警察官の了解なく妻が手助けをしているのです。もちろん、南北戦争のときの地下鉄道ではありませんから、脱走した黒人を北部に逃亡させるというのではありません。政府ににらまれた人々をカナダへ逃亡させようというのです。警察官の兄は労働組合の結成をはかろうとして逮捕され、強制収容所に入れられています。
 戦中に日系人の強制的収容所があったことは知っていましたが、労働組合活動家などを入れる強制収容所がアメリカにあったというのは、私には初耳でした。本当のことなのでしょうか・・・。
 まだ、アメリカはドイツと宣戦布告していません。ドイツとソ連がスターリングラードで市街戦をたたかっているという時代です。FBIがナチス・ドイツゲシュタポに協力して動いています。信じられませんが、これは恐らく本当のことなのでしょう。FBIの長官がフーバーだったころのことです。日頃はゲイを口汚くののしっていながら、実は自らゲイだったというフーバー長官です。
 ナチス・ドイツが逮捕・収容していたユダヤ人をアメリカ政府が買い受け、強制収容所でひそかに働かせていたという話が登場します。本当にそんなことがあったのでしょうか・・・。アメリカの闇世界ですね、これは。シカも、そこで働くユダヤ人は、ヨーロッパで抹殺されるよりも良いと満足していたと言います。
 アメリカは今カネを必要としている。アメリカは10年以上、この大恐慌から抜け出せずにいる。そういうときに、あのユダヤ人たちの労働力が輸出で稼いでいる。
 ナチスはユダヤ人なきヨーロッパを手に入れ、アメリカは格安の労働力を手に入れたのだった。
 下巻にたどり着き、その解説を読んで、ようやく、この本が歴史的事実をふまえつつ、それを改案した小説だということを知り、安心もしました。なんだ、なんだ、そういうことだったのか・・・。すっかりだまされてしまいました。人騒がせな小説です。
(2012年11月刊。1500円+税)

原発報道

カテゴリー:社会

著者  東京新聞編集局 、 出版  東京新聞
購読しているわけではありませんが、ときどきインターネットで記事を読んでいますが、世の中の動きを真正面から取りあげ、鋭く切り込んでいる記事が多くて、とても勇気づけられます。今や大手全国紙は、どれもこれも政府の広報誌になりさがってしまった感があります。消費税にしろ、TPPにしろ、また国会定数削減にしろ、声をそろえて政府の言っていることと同じですし、その後押しをするばかりです。
 原発報道もそうですよね。まだ「収束」したとはほど遠い実情にあるのに、それを知ったうえで、政府の「収束」宣言に加担してしまいました。
 マスコミは「原子力村」の有力な一員なのです。その状況下で、東京新聞は一人がんばっています。九州のブロック紙にも、もっとがんばってほしいと思いますが、九電の影響力が依然として強いようで残念です。
 この本は東京新聞の原発記事が総まとめにされています。問題の所在が一冊にまとまっていますので、本当に便利です。しかも、記事を再編成し、カラー図版を多用していますので、本当に分かりやすいのです。
 東電は原発について「絶対安全」なのだから、余計な対策はとる必要がない、このように高をくくっていたのでした。だから、今回の大災害はまさしく人災なのです。東電の経営者に刑事罰が課されるべきは当然です。
 そして、福島第一原発の1~3号炉のどれも今なお内部に接近することができません。あまりにも放射能が高すぎるからです。
 そして、放射性廃棄物質を収納する場所がありません。わずか何十年間しか使われない(使えない)私たちが、これから何万年ものあいだ日本列島に住む人々に、とんでもない置きみやげを残していくなんて許されないことだと思います。
 そんな経緯がとても分かりやすく一冊にまとまっています。360頁の大型の本ですが、3.11原発事故とは何だったのか、これからどうなるのかを考えるときに不可欠な資料集です。ぜひ手にとって読んでみてください。
(2012年12月刊。1800円+税)
 東京で長い会議を終えて、みんなで六本木の夜桜見物に出かけました。地下鉄の駅から地上に出ると、ライトアップされた桜並木が目の前にありました。その名も桜坂と言います。道の両側に満々開の桜が切れ目なく続いています。たくさんの見物客が歩いています。途中にあるレストランはオープンな庭にテーブルを並べ、飲食しながら夜桜見物ができるようになっていました。下から見上げると黒々とした空に華やかなピンク色の桜が満点の星のように大きく広がっていて、これは素晴らしいと思わず唸ってしまいました。

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