法律相談センター検索 弁護士検索

「国防軍」、私の懸念

カテゴリー:社会

著者  柳澤協二・小池清彦ほか 、 出版  かもがわ出版
安倍首相は日本を戦争する国にしようとしています。とんでもないことです。ところが、大手メディアはそれを無批判に報道するばかりです。また、橋下徹・石原慎太郎の維新の会は、それをあおり立てています。本当に恐ろしい状況が生まれています。
 そんなとき、本書は、そんなことで日本は一体どうなるのか、強い警鐘を鳴り響かせています。わずか80頁ほどの軽いブックレットですが、ずしりとした重味を感じました。
 柳澤協二氏は東大法学部を出て、キャリア組の官僚として防衛庁で運用局長そして防衛研究所長をつとめ、2009年まで内閣官房副長官補でした。安全保障担当です。その柳澤氏が憲法改正の危険性を論じています。
 ポピュリストは、自分よりも強烈なポピュリストとはうまくいかない。安倍政権について、今回の選挙で自民党が圧勝したと言っても、投票率(60%)と得票率(小選挙区で43%)で見れば、国民の支持率は25%にすぎない。
 安倍政権にとって、もっとも頭の痛い問題は、むしろアメリカかもしれない。財政削減を迫られるアメリカにとって、中国との軍事衝突は、もっとも避けたい悪夢のシナリオだ。少なくとも、アメリカは、尖閣諸島のためにアメリカの兵隊を死なせるようなことは考えない。同盟というのは、美しい友情物語ではなく、冷徹な国益の手段なのである。
 小池清彦氏も東大法学部卒です。防衛庁に入って、防衛研究長になったあと、今は新潟県加茂市長です。
防衛省設置法を改正して、防衛参事官制度とは、文官である防衛参事官が防衛の重要事項に参画し、各局の局長を兼ねるという制度である。政治が軍事をしっかりと統制するシビリアンコントロールのかなめであった。
 内局と統幕・陸・海・空幕は、それぞれが独立していなければ、内局によるコントロールは成り立たない。ところが、内局と統幕・陸・海・空幕を統合するということは、内局が制服自衛官によって乗っ取られることを意味する。実質的に力をもつのは、自衛官の局次長である。
 作戦・運用について内局の関与がなくなり、大臣に直結した統合幕官僚長に、もし田母神氏のような人物が就任したとき、どのような事態となるだろうか。そうなったら、統合幕官僚長の天下だ。制服組は、大臣の言うことなんて聞かない。いとも簡単にクーデターを起こせる。
憲法9条がある故に日本は海外派兵させられることがなかった。結局、本格的な海外派兵をやらされずに今日まで至っているのは、平和憲法9条があるおかげだ。戦争を放棄して、国際紛争を解決する手段としては陸海空軍を持たないと書いてあることが大切なのである。
 国防軍をもつということは、名前が変わるというだけですむことではなく、自衛隊員を危険にさらすことになる。自衛隊が国防軍になれば、アメリカ軍と同じように犠牲者を出す海外派兵を要求される。そうすると、国防軍に猛烈な戦死者が出る。そんな軍隊に入る人はいないので、国防軍を維持するためには、徴兵制を導入するしかなくなる。
 今の自衛隊員は、人道的な扱いを受けている。しかし、徴兵制になったら昔の帝国陸海軍と同じように、リンチ、私的制裁が横行するようになる。
 国防軍から除隊になった人たちは、暴力社会を肯定する人間となって世の中に出てくることになる。そして、世の中全体が暴力組織化しかねない。
 これまで、日本は軍事面でアメリカのために最大限のことをしてきた。その最たるものが対潜兵力である。対潜哨戒機であるP3Cは100機も保有し、そのほか対潜ヘリをたくさんもっている。こうしてアメリカに次ぐ世界第二の対潜航空兵力をつくりあげた。それに加えて、水上艦と潜水艦の強力な対潜兵力がある。
 安倍首相は戦後レジーム(体制)から脱却すると言う。それでは、戦後レジームとは何なのか。それは、平和主義・民主主義、そして地方分権のこと。安倍首相の言う戦後レジームからの脱却とは、平和主義をやめ、民主主義をやめ、それから地方分権をやめるということ。
 これって本当に恐ろしいことですよね。大マスコミはまったくそんな報道をしません。残念です。いま、広く読まれてほしい本です。
(2013年3月刊。900円+税)
 日曜日、庭にアスパラガスが6本ほど大きく伸びていました。さっそく食卓へ。電子レンジで1分あたため、春の味をかみしめました。午後から娘が近くの山にタケノコ堀りに行って持ち帰ったタケノコをアルミホイルに包んで、オーブンで焼きました。刺身でも食べられそうな、ほっこりした素敵な味わいでした。春らんまんです。

シロアリ

カテゴリー:生物

著者  松浦 健二 、 出版  岩波科学ライブラリー
シロアリがゴキブリだったなんて、おどろきです。シロアリとアリとは、全然ちがう昆虫らしいのです。ええーっ、と思わずのけぞってしまいました。
 アリとシロアリは分類上は、まったくちがった昆虫だ。アリはミツバチなどハチに近いのに対して、シロアリはゴキブリに近い。アリは翅をなくしたハチであり、シロアリは社会性を高度に発達させたゴキブリ。食べているのも、体の形も、成長の仕方だって、まったく違う。さらには、オスとメスの役割や遺伝子の伝わり方まで、社会の仕組みが大きく異なる。
 シロアリ目は7つの科に分けられ、知られているもので3000種いる。もっと研究がすすむと5000種になるだろう。地球上のシロアリを全部足しあわせると、なんと24京匹になる。アリは全部で1京匹なので、シロアリははるかに多い。
 シロアリの巣には、王と王女が存在する。ハチ目のワーカーはすべてメスで構成されている。シロアリのコロニーでは、ワーカーや兵アリも基本的にオスとメスの両方で構成されている。アリの社会は女性社会、シロアリの社会は男女共同参画社会である。
 シロアリは不完全変態の昆虫であり、孵化した幼虫はすでに立派なシロアリの形をしている。シロアリの社会は、カワイイ幼虫たちの社会である。王と女王を除けば、巣の構成員はワーカーも兵アリもみんな幼虫なのである、
 ヤマトシロアリのコロニーで最大のものは、一匹の王に対して、670匹の女王を保有していた。創設王はコロニーの終焉まで長生きする。女王のほうは比較的早期に二次女王に入れ替わる。
 創設女王は単為生殖で分身を産み、それから後継の女王にすることで、自分の死後も遺伝的には生前と同様に次世代に遺伝子を残す。しかし、女王の分身は二次女王のみで、ワーカーや羽アリは通常の有性生殖、つまり女王と王との交配によって産まれている。つまり、女王は単為生殖と有性生殖を適材適所で使い分けしており、その両方の利点をいかしている。
移動しないキノコシロアリ属の女王は、1日に2万から8万個もの卵を産む。移動するヤマトシロアリの女王は1匹で、産むのは1日あたり25個ほどでしかない。若い二次女王が分化したあと、高齢の創設女王は、その役目を終え、生きながらワーカーに食べられ、子どもたちの栄養となって消えていく。
 しかし、食べられていく女王に苦痛の色はない。その表情は死ぬべきときに死ねる喜びに満ちている。分身を残したあとは、むしろ速やかに死んで二次女王に産卵を委ねたほうが自分自身にとっても多くの遺伝子を残せることになる。この時点では、彼女にとって迷うことなく死こそが適応的であり、まさに至上の喜びなのだ。
 ええーっ、これって本当でしょうか・・・。単なる偽った感情移入にすぎないのではありませんか・・・。いや、それにしても、見事なものですね。
野外の巨大コロニーの王は、どんなに短くも30年以上は生きているだろう。
 これまた、すごい長命ですね。シロアリのことを少し知って、大いにトクした気分になりました。でも、住んでいる家に入ってこられては困る生き物ですよね。わが家もシロアリ予防策を講じています。
(2013年2月刊。1500円+税)

伊東マンショ

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  マンショを語る会 、 出版  鉱脈社
宮崎で生まれた少年が、戦国時代にはるばるスペインそしてローマに渡って教皇に面会したのでした。その天正少年遣欧使節団の首席をつとめたのが伊東マンショです。昨年は、伊東マンショが長崎で亡くなって400年という記念の年でした。
 慶応17年(1612年)11月に43歳で亡くなったのでした。
 マンショは、今の西都市で生まれました。日向国を治めていた伊東氏の重臣の子どもです。ところが、日向の伊東氏は南に薩摩の島津氏、北に豊後の大友氏にはさまれ、島津軍に攻めこまれて大友を頼って落ちのびていったのでした。そして、頼みの大友軍が島津軍に大敗してしまったのです。
 天正10年(1582年)2月、遣欧少年使節は長崎を出発した。首席の伊東マンショ、干々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルチーノの4人。いずれも13か14歳の少年たち。引率者はヴァリヤーノら3人。随員2人。この9人がポルトガル商人の帆船でマカオに向かった。マカオに10ヵ月間滞在して、ラテン語、ローマ字の学習、何より楽器演奏に励んだ。
 ポルトガル領のインド・ゴアについたのは、長崎を出て1年9ヵ月後。そのあと、アフリカ南端の喜望峰を通過して、セントヘレナ島に上陸します。200年後にナポレオンが幽閉された島です。
 ポルトガルのリスボンに着いたのは長崎を出て2年半後の1584年(天正12年)8月のこと。10月にマドリードに入り、スペイン国王フェリーペ2世と会見。使節一行は着物姿。日本語で挨拶。大友・有島・大村の三大名の書状を、同行した日本人修道士が読みあげた。
 1585年(天正13年)3月、ローマで法王グレゴリオ13世の謁見式に参加した。総勢2000人の大行列だったというのですから、大変な見物でしたね。
 このとき、日本から織田信長の「安土城屏風絵」も進呈したようです。残念なことに紛失して、所在が分からなくなっているそうです。
 4人の少年使節の熱狂的な報道が当時の新聞に絵入りで報道されていたというのです。金モールの洋装のりりしい青年4人の絵が載っています。
 ところが、天正18年(1590年)7月、4人が8年5ヵ月後に日本に戻ったとき、日本はすっかり変わっていたのでした。
 それでも、少年たちは豊臣秀吉に京都の聚楽第で面会しています。
 マンショたちは、印刷機を持ち帰ってきました。ローマ字による本の印刷もすすみました。ところが、キリシタン禁教となり、苦難のなかでマンショは病死してしまったのでした。
 ところが、マンショの死んだ慶長17年(1612年)は、徳川幕府のキリシタン弾圧が強化された年だったのです。残酷な拷問を受けなかったのが、まだ幸いだったかもしれません。
中浦ジュリアンは1633年に穴吊りという過酷な刑で処刑されました。64歳でした。原マルチーノは、マカオに流され、そこで1629年に病死しました。
 島原の乱が起きたのは、その何年か後の1637年のことです。
(2012年8月刊。619円+税)

深い疵(きず)

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  ネレ・ノイハウス 、 出版  創元推理文庫
本の扉にあらすじが紹介されています。推理小説ですから、ネタバレは許されませんが、以下は扉にあるものですから許されるでしょう。
 ドイツ、2007年春、ホロコーストを生き残り、アメリカで大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人の老人が射殺された。凶器は第二次大戦記の拳銃で、現場に「16145」という数字が残されていた。しかし、司法解剖の結果、遺体の入れずみから、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして、第二、第三の殺人が発生、被害者らの隠された過去を探り、犯行に及んだのは何者なのか。
刑事オリヴァーとピアは幾多の難局に直面しつつも、凄然な連続殺人の真相を追い続ける。ドイツ本国で累計200万部を突破した警察小説シリーズ・開幕!
 ドイツには今もネオ・ナチがうごめいているようです。でも、日本だって同じようなものですよね。安倍首相なんて、戦前の日本への回帰を臆面もなく言いたてていますので、ドイツを批判する資格もありません。
 それにしても、ナチス親衛隊員が戦後、ユダヤ人になりすましていたなんて、信じられません。そして、残虐な殺人劇が続いていくのです。
 警察内部の人間模様も描かれていますが、やはり本筋はナチス・ドイツの残党が今なおドイツ国内でうごめいていることにあります。
 読ませるドイツの推理小説でした。
(2012年7月刊。1200円+税)

「弁護士研修ノート」

カテゴリー:司法

著者  原 和良 、 出版  レクシスネクシス・ジャパン
宇都宮健児・日弁連前会長がオビに「若手弁護士にとっての必読文献である」と書いていますが、まったく同感です。 私も、「法律事務所を10倍活性化する法」という小冊子を書いていますが、著者の問題意識と業務についての提起に全面的に賛同します。
 ぜひ、若手だけでなく中堅弁護士に読んでもらいたいものです。それにしても、東京で幅広く活躍している著者が、九州は佐賀県出身というのに驚きました。ひき続き東京でがんばってくださいね。著者は、私より二廻りも年下になります(47期)。
 人の人生に重大な影響を与える怖さを十分に自覚していないと、本当の意味で言い弁護士にはなれない。若いときには、専門用語を並べて質問を蹴散らしたり、必死になりがちだ。依頼者は、なかなか本質的なところを話さない。そこを聞き出して、隠された真の利益と相談すべき事項にたどり着くことこそ、本当の弁護士なのだ。
 相談数が減っているなか、弁護士もマーケティングを勉強する必要性はますます重要になっている。自分を指名して選んでくれる顧客・紹介者を増やすこと。そのリピーターを増やすことが弁護士としての安定的成功のゴールデンルールである。このことは今も昔も変わらない。これは、まったくそのとおりです。そして、そのうえに、やるべきことがあります。
 受任した事件の解決を通じて依頼者に喜んでもらうこと、この弁護士だったら自分の大切な人がトラブルに巻き込まれたときに紹介したいと思ってもらえるような事件処理を積み重ねるしかない。
依頼者の感情や思いに耳を傾けて聴くことが何より重要なこと。「あなたの気持ちは理解できます」という共感は必要。しかし、同化してはいけない。弁護士は解決のためのプロフェッショナルだから。だからといって、事件が解決したときに、一緒に喜びを共有することは大切なこと。
 共感しながらも、同時に法律的に意味のある事実と情報を抽出し、分析していくのが弁護士の仕事なのだ。本当に、そのとおりですね。
弁護団に加入するなどして、同業者のネットワークに参加し、常に自分を客観的に見ることのできる環境、自分の間違いを指摘してくれる環境、迷った時に相談できる環境をつくっておく必要がある。
大切なことは、お金もうけを目的にして仕事をしないこと。もうかりそうかどうかだけで事件を見ていると、いつまでたってもいい仕事はできない。いい仕事をした結果として、お金は後から勝手についてくる。
なかなか勝手についてきてくれないのがお金です。それでも、たしかに自分でいい仕事だと思うことをしていると、なんとなくお金はまわっていくものです。
リスクの説明は、求められたらしなければいけない。しかし、必要なリスクをとらなければ、権利を実現することはできない。リスクの説明は最悪の事態(リスク)を理解したうえで、相談者、依頼者も弁護士も最良の結果を目ざして一緒に事件に取り組むためにするものである。依頼者に、この弁護士じゃなきゃいや、という気持ちになってもらうこと。これは恋愛と同じだ。うーむ、なるほど・・・。
 損害賠償請求事件を担当する時には、本来、お金で換算できないものを扱っていることを常に忘れないことが大切だ。
 苦肉の策としてお金で保障することによって、被害者や遺族が前向きに人生を生きていこうというように、生きる力を持てるようにサポートしていくのが弁護士だ。弁護士は、裁判や交渉をふくむ事件処理業務のプロデューサーである。
訴状はできるだけシンプルなものにする。一度読んだら、言いたいことがスーっと頭に入れる文章を目ざす。弁護士にとって、準備書面とは、裁判官に書くラブレターのようなものである。
陳述書は、打合せ前に内容の8割はできあがっていなければいけない。弁護士が聴きとり作成するものである以上、陳述書は依頼者の表現を超えるものでなければならない。弁護士が手を加え、あるいは下書きをすることを通じて、その人の思いを120%汲み上げた書面・文章にしたい。そして、証拠として信用性の高い、説得力のある陳述書にしなければならない。
今までと同じような仕事を、同じようなやり方でやっていたら、この厳しい世の中を弁護士は生きていけない。時代の求める法律家に変化していく努力を積み重ねていく必要があるし、そこに活路が開かれる。まったく同感です。
人が解決できないストレスを代わりに引き受けるのが弁護士の仕事。ストレスフルな仕事である。だから、悩みを共有できる仲間をたくさんつくっておく必要がある。
休むのも仕事、遊ぶのも仕事。こんな割り切りが大切だ。
実務的、実践的にとても大切なことが200頁あまりでコンパクトにまとまった貴重な本です。あえて注文をつけると、法テラスの活用をもっと強調していいのではないかと思いましたし、本のタイトルがあまりに地味すぎて、せっかくのいい内容が損をしていると思いました。
 若手弁護士にとって必読文献だというのにまったく異存ありません。とってもいい本です。ご一読を強くおすすめします。
(2013年3月刊。1600円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.