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北京烈日

カテゴリー:中国

著者  丹羽 宇一郎 、 出版  文芸春秋
最近まで駐中国日本大使だった著者の話ですから、とても説得力があります。
日本人が北京に赴任すると、必ず1年目の冬に風をひく。北京は、他の地域に比べて4割ほども肺がんの発症率が高い。
 これは、中国がエネルギー源が7割近くを今も石炭でまかなっているから。なにしろ、タダ同然の露天堀り石炭がある。
 著者の中国における大使生活は、尖閣に始まり、尖閣で終わった。
 2012年4月、石原慎太郎都知事(当時)が、尖閣諸島を東京都が購入するという計画を発表した。これは、中国にとって想定外の出来事だった。
 そして、9月9日、ウラジオストックでのAPECの合い間に野田首相(当時)は胡錦涛国家主席(当時)と「立ち話」をした。その翌日、日本政府は国有化を宣言し、11日に閣議決定までした。このような日本政府の動きは、中国の最高指導者の顔に泥を塗っただけでなく、中国の国民感情と面子をとてつもなく傷つけた。
このところを、日本のマスコミはきちんと日本国民に伝えていませんよね・・・。
 尖閣諸島をめぐって、「外交上の争いがある」ことを日本も中国も双方とも認めるべきだ。著者の主張は明快です。まったく同感です。そして、「待つ」という判断が必要なのだと強調しています。この点についても、私は同調します。この問題で対立感情をエスカレートしても、得るところは双方にないのです。
 北京から日本を眺めていてつくづく思うのは、日本には本当に国際感覚がないということ。
そうなんです。橋下徹、安倍晋三には国際感覚なるものがまったくありませんよね。日本民族こそ偉大だなんてウソぶくばかりではありませんか。それでは北東アジアの人々と共存共栄できませんよね。だいいち、侵略戦争による加害責任の自覚が欠如しています。そんなのは親の世代のことで、自分は手を下していないなんて弁明が通用するはずもありません。
農業を大切にしている国ほど農業地帯の風景が実に美しい。
 とは言いつつ、日本の農業を破壊するTPPに加盟せよというのですから、著者の主張には矛盾があります。
 中国は、かつて大豆について世界最大の輸出国だったが、今や世界最大の輸入国となっている。いやはや、中国も矛盾の大きい国です。
 日本でもブルーカラーをもっと大切にすべきだと著者は強調しています。この点も同感です。
 ブルーカラーを馬鹿にしていては、絶対にドイツに勝てない。超大国のなかで、目に見えない労働者教育が一番できていないのが中国である。
 日本の企業が生きのびるためには、ブルーカラーの教育訓練を充実させることが必要。日本の経営者は、ホワイトカラーの正規社員を減らして、ブルーカラーの正規社員を増やすことだ。
 ブルーカラーを大切にしないと、10年後、20年後の日本の労働の効率性を非常に悪くしてしまう。中国の教育環境は、日本とは比べものにならないほど劣悪だったから、工場労働者は製品の品質など気にしない。
 安い賃金で奴隷みたいな使い方をしていると、平然と危ないこと、法令違反をする。正規社員にもなれず、あちこち職場を転々とされると、日本でも必ず今に中国と同じようなことが起きてしまう。企業が教育投資をして、ブルーカラーを育てないと、信頼性のある製品は生まれない。この点は、本当にそうだと思います。
 中国経済は壊れない。いや、壊そうにも壊せない。
 2001年にWTOに加盟した中国は、国際経済体制にがっちりと組み込まれている。もし、中国経済が破壊ないし衰退したら、世界じゅうの国が大きなダメージを受けてしまう。中国がコケたら、日本もコケてしまう。
中国の教育費は、国防費の3倍になっている。中国の労働者の賃金は年に1~2割も上がっていて、2006年と2011年を比べると2倍にもはね上がっている。そして、労働争議の件数は12倍に増えた。
日本と中国の関係について、大所高所から冷静に分析し、提言した本です。一読をおすすめします
(2013年5月刊。1300円+税)

いま「憲法改正」をどう考えるか

カテゴリー:司法

著者  樋口 陽一 、 出版  岩波書店
安倍内閣が参議院議員選挙のあと、憲法改正に走り出すのは必至の情勢です。投票率が5割前後と予測されているなかでの自民党「大勝」ですが、選挙で信を得たとうそぶいて強権発動する恐れがあります。根っからの狂信的な改憲論者が首相だというのは、本当に怖いですね。
ところで、憲法って、そんな権力亡者を取り締まるためにあるものなんですよね。それを立憲主義と言います。そして、この立憲主義は戦前の帝国憲法の下でも、指導層の共通認識だったというのです。これは初耳でした。
 戦前の日本で、立憲主義は指導層の間で共有されていたキー(鍵)概念だった。伊藤博文は帝国憲法制定の最終段階に、憲法を創設する精神として、第一に君権を制限し、第二に臣民の権利を保護するにあるとした。
 帝国憲法の適用にあたって、立憲主義は憲政のキーワードであり続けた。二大政党の正式名称は、立憲政友会、立憲民政党だった。
 帝国議会の意思を無視した超然内閣だとして寺内正毅内閣を攻撃する側は「非立憲」をもじって「ビリケン」寺内と呼んだ。それほど、「立憲」という言葉は世の中にゆき渡っていた。
 そうなんですか、ちっとも知りませんでした・・・。
 日本国憲法を受け身で受け入れた戦後の日本社会では、憲法が権力の行使にとって多かれ少なかれ邪魔になるという緊張関係をつくり出し、維持することによって、いわばその基本法を確認し直してきた。
 日本の自衛隊は、国際法上はすでに軍として処遇されている。ただし、直接に戦闘行為をすることのない軍として、国際社会で受け入れられていることも確かなのである。
 戦前の大日本帝国は「満州事変」、「支那事変」、「大東亜戦争」を、15年にわたって遂行してきたが、それはすべて「自衛」の名におけるものであった。
 「決める政治」をひたすら求めていけば、憲法という存在そのものが邪魔になるのは道理である。
 憲法を改正するというのは、遠い話とか、毎日の生活とは無縁のことではない、このことがよく伝わってくる本でした。
(2013年6月刊。1500円+税)
 参院選の最終盤になって、自民党の「大勝」が予想されるなか、安倍首相が改めて憲法改正、9条改正を言い出しました。私は、これはひどい、政権党として姑息なやり方だと思います。憲法9条を変えて自衛隊を「国防軍」にしようというわけですが、それは単なる名称の変更ではありません。海外に戦争しに出かける軍隊をかかえたとき、日本社会がどう変わるのか、その点を安倍首相は自分の口から語るべきです。それも、選挙のはじめから・・・。土壇場になって「大勝」が決まってから言い出し、選挙後に、憲法改正を揚げて大勝したから国民の信を得たというのでは、国民を欺したことになると思います。
 いま、弁護士会は10月に、自民党の「国防軍」構想に反対するという決議をしようと論議し、準備しているところです。
 それはともかく、参院選の投票率が5割ほどと見込まれていますが、困ったことです。みんなが投票所に足を運ばないと、世の中は悪くなる一方です。あなたまかせではいけませんよね。

赤ペンチェック自民党憲法改正草案

カテゴリー:司法

著者  伊藤 真 、 出版  大月書店
自民党の憲法改正草案を紹介し、その問題点を分かりやすく解説している本です。カリスマ講師との定評ある著者の手になるだけあって、さすがにすっきり明快です。
憲法は強い立場の者から弱い立場の者を守る役割を果たすもの。
 そうなんですよね。取締役の年俸1億円なんていう大会社に支えられている自民党・安倍政権が言い出した憲法改正が、弱者救済を目ざしているなんて、とても考えられません。
 近代以降の憲法は、国家権力から国民の自由を守るためにつくられたもの。個人の尊重が国家の基本的な価値であることが中心で、それを実現するために立憲主義が採用された。立憲主義の考え方は、古代ギリシャ・ローマ時代にすでにあった。
 立憲主義は、国民の権利・自由を保障することを第一の目的として、権力者を拘束する原理である。だから、憲法には、必ず人権保障と、国家の権力を分ける権力分立(三権分立)の定めが必要になる。
 今の自衛隊を、自民党は「国防軍」に変えると言う。これは、単なる名称変更ではない。今の自衛隊は、たしかに装備や人員の点から戦力と言えるが、憲法9条2項のしばりがあるので、交戦権はない。つまり、敵国兵士を殺したり敵国の基地を破壊したりはできない。自民党の改正草案は、日本がアメリカと共に普通に戦争のできる国になりたいということ。日米同盟を強固なものとし、アメリカの従来からの要請に応えたいという自民党の思いを「改正憲法」に結実させたもの。
自民党の改正草案では、「個人として尊重される」とあるのを「人として尊重される」に変える。個人を人に言い換えることに、どれほどの意味(違い)があるのか・・・。個人として、一個独立の人格をもつ人間として尊重されなければならない。すなわち、まったく重要な点で変更されることになる。
 自民党草案には、新しい環境権なるものが取り入れられていることを積極的に評価する人に、本当にそうなのか、と鋭い問いかけがされています。
 肝心の環境権なるものは、国の努力義務でしかない。さらには、今や判例上も確立している環境権が、かえって後退してしまうことになりかねない。
 環境権やプライバシー権などは、現在も解釈・運用で使われているものです。
 自民党の改憲理由がきちんと紹介されたうえで、それが論破されています。ですから、読んで胸がすく思いがします。
 カラーを使った、見た目にもセンスのいい本です。とりわけ多くの若者に読まれることを願っています。
(2013年6月刊。1000円+税)
 東京で時間をつくってイギリス映画「アンコール」をみました。じんわりと心が温まる、いい映画でした。年金生活の男女が公民館に集まってコーラスを練習し、コンクールに出場するというストーリーです。歌声がすばらしいです。とくに主人公と、その奥さんがそれぞれソロで歌うシーンでは、歌声に聞きほれてしまいました。
 イギリス映画には、ときどきこのように庶民を主役にした、いい映画がありますよね。いま、福岡でも上映中です。おすすめします。

卵子老化の真実

カテゴリー:人間

著者  河合 蘭 、 出版  文春新書
世の中のことについて、本当に知らないことが、こんなにたくさんあるんだってことを実感させてくれる本でした。
 だって、卵子って、女性がまだ胎児のときに700万個つくられて、あとは生まれてから大人になるまで減る一方だ、なんてまったく知りませんでした。ウソでしょ、そんなことが・・・、っていう思いです。
卵子をつくる卵祖細胞は、一気に一生分の卵子をつくりあげて、いなくなってしまう。女性が女の子として初潮を迎えるときには、すでに20万個に減っている。
 卵巣は、何十年も前につくられた卵を大切に寝かせていて、少しずつ起こしてつかっている。卵巣に眠っている卵子は「原始卵胞」といって、とても小さな卵胞。それが間断なく起きてきて、若い人なら1日平均30~40個、つまり月に1000個くらいは新たな原始卵胞が起きて育ちはじめる。
 小さな小さな卵子は、そのほとんどが消えてしまうが、ごく一部のものが生き続ける。3ヶ月目に入るころ、残った1%の卵子のなかから、いよいよ排卵するたった1個の卵子が決まる。一つの卵子が決まると、他の卵子は、すべてしぼんで消えてしまう。
 老化のすすんだ卵子は、数が減るだけでなく、質も低下する。
 卵子は老化すると、減数分裂が苦手となり、若い人より繁繁に、染色体の数が22本とか24本の卵子ができてしまう。
 いま、初めて出産する女性の平均年齢は30.1歳。35歳以上の高齢出産で生まれる子の割合は全国では4人に1人、東京では3人に1人となっている。
 女性の妊娠する力「妊孕(にんよう)」性」は、若いころから下がりはじめる。外見が変わっても、人の卵巣は何も変わらない。
 一度も生まないで年齢を重ねていくと、女性の生殖機能は意外なほど早く弱くなってしまう。
 江戸時代の「おしとね下がり」は30歳、それと同じ年齢が現在では、初産年齢になっている。30代も後半になると、卵巣のなかでは、卵子の老化がどんどん進行している。妊娠力とは、何といっても「若さ」だ。
 精子と卵子が出会っただけでは、妊娠は成立しない。その質、つまり生命の力が問われる。卵子が老化し、質が低下するといっても、母親の年齢と生まれてくる子どもの能力とは何の関係もない。
 高齢出産で生まれた子どもとして、夏目漱石(母は42歳)、羽生善治(母38歳)がいる。
30代後半で妊娠すると、子どもをもうけるのに、20歳の2倍の年月がかかる。
 大正14年、45歳以上の母親から生まれた子が2万人いた。これは、現在の2倍にもなる。50代の母親から生まれた子も、3648人いた。このように、昔は高齢出産が多かった。
 体外受精による出産は、いま日本では年に3万人近い。その費用は、保険の適用がなく、30~80万円ほどかかる。
子どもが3人もいる私なんて、本当に幸せものなんだなと。この本を読んで、しみじみ思ったことでした。とはいっても、今の若い女性に、早く結婚して、子どもを早くつくったほうがいいよ、なんてとても言えませんよね・・・。
(2013年6月刊。850円+税)
 6月に受験したフランス語検定の試験(1級)の結果が分かりました。63点で不合格でした。合格基準点は85点ですから、22点も足りません(150点満点)。実は、自己採点では68点でしたから、5点も自分に甘かったわけです。これは書き取り、仏作文の出来についての評価が甘すぎたということです。
 それでも、ようやく4割台に乗りました。次は5割の得点を目ざします。毎朝、書き取りを続けています。
 今は、梅本洋一氏(故人)によるフランス映画の話をNHKラジオ講座で聞いています。女優の美声が聞けたり、トリュフォー監督も出てくる楽しい講座です。

植田正治の写真と生活

カテゴリー:社会

著者  増谷 和子 、 出版  平凡社
戦前から写真家として有名だった父親の姿を愛娘カコちゃんが親しみを込めて紹介しています。ほのぼのとした情景が目に浮かんできて、読んでいるうちに、じわりと心が和みます。どこかしら憎めない雰囲気の、ほのぼのとした写真が、また実にいいのですね。本当に写真が好きで好きで、たまらない、そんな気分がよく伝わってきます。
 鳥取県は西の端、境港は「ゲゲゲの鬼太郎」の水木しげるで有名ですが、同じ境港に生まれ育った写真家です。
祖父の家は履物屋、年末になると、お正月におろす新しい下駄を買いに客が押し寄せ、朝6時から店の前に行列をつくる。
 12月29日は、お正月の準備は何もしてはいけない日である。
 写真館は、正月は忙しい。家族写真をとろうという人が詰めかける。
 いまの境港はひっそりしているが、戦前までは大いに栄えていた。美保関とあわせて、北前(きたまえ)船の寄港地であり、朝鮮半島を窓口にした大陸貿易の拠点でもあった。だから、新しいものや珍しいものがどんどん集まった。
 父・植田正治は新しいもの好きだった。境港で初物を買って、自慢にしていた。祖父は父が東京の美術学校へ行くのを阻止した。代わりに舶来カメラを買ってやる。それでも、東京の写真学校に入学した。1932年のこと。5.15のあった年ですね。
 そして、19歳で境港に「植田写真場」の看板を揚げて開業したのです。とびきりハイカラな西洋風の写真館でした。日曜日になると、3軒先まで写真を撮ってもらおうという人々の行列ができた。予科練があり、訓練生(水兵)たちがよく来ていた。
徴兵検査で2度も不合格となって命びろいをしました。背が高くて貧弱な身体をしていたためです。不幸が幸いするのですね。終戦になって、ますます元気に写真をとりはじめました。
鳥取・大山(だいせん)の麓に植田正治写真美術館があるそうです。個人名のついた写真美術館は日本初だったそうです。ぜひ行きたいと思いました。なつかしい日本の風景を撮った写真が堪能できそうです。
(2013年3月刊。1800円+税)

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