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ビッグデータの衝撃

カテゴリー:社会

著者  城田 真琴 、 出版  東洋経済新報社
インターネットの世界は、いつのまにか、こんなことも出来るようになったのですね。要するに、すべてはビジネス・チャンスに変えられるというわけです。
 実はもう一つ、すべての個人を監視できる体制がつくられたというわけでもあります。
 グーグルは、月に900億回というウェブ検索のために、毎月、600ペタバイトのデータ量を処理している。この分析対象は、グーグルの多種サービスを利用するユーザーのありとあらゆるデータだ。
 データ分析を軸にしたサービス分析を軸にしたサービス設計が功を奏し、アマゾンは年間売上480億ドル(3兆8000億円)を稼ぎ出す(2011年度)までの巨大企業に成長した。
 テラは10の12乗、ベタは10の15乗、エクサは10の18乗。エクサバイトのレベルがビッグデータと呼ぶにふさわしいデータ量だ。
 監視カメラを利用して、買い物客の店内での行動をモニタリングして分析する試みがある。モンブランは、これまで経験を直感で商品の陳列場所を決めてきたが、監視カメラのデータを分析し、顧客の目にもっともとまりやすい場所に一番の売れ筋商品を稼働させたところ、売上が20%も増加した。
ハドゥープとは、オープンソースとして公開されている大規模データの分散処理技術である。
 ハドゥープの大きなメリットは、これまでコスト面、処理時間の面で、あきらめざるをえなかった膨大な量の非構造化データの処理を可能にした点にある。これまではサンプルデータに頼っていたデータ分析から、関連する全データを対象として分析ができるようになった。
 インターネット・オークション会社のイーベイは、世界最大のネットオークション会社である。全世界で2奥7000万人もの登録会員がいる。1日に売買されるMP3プレイヤーは3600台以上、ダイヤモンドリングは2分に1個、自動車も1分に1台が売買されている。
 フェイスブック上で展開されるソーシャルゲームで人気ランキングの上位を独占するゲーム開発会社がジンガ。ゲームで遊ぶ95%のプレイヤーは、たった5セントのお金も使わない。しかし、残る5%の熱心なファンがジンガの年間11億ドルという売上を支える。
 ユーザー2億人の5%、1000万人が5ドルのバーチャルグッズを購入すれば、5000万ドル(40億円)の売上になる。ジンガの副会長は、「我々は、ゲーム会社の皮をかぶった分析会社だ」という。
 スーパーでは、顧客の購買履歴データがあると、一定期間の累計買い物金額に応じて顧客のランク分析をして、ランクに応じた得点を付与する。たとえば、ある週の累計買い物額が1万円以上の顧客には、2日間限定の5%割引クーポン、2万円以上の顧客には5日間限定の5%割引クーポンといった具合だ。これによって、顧客の購買意欲を刺激し、購買金額のアップを狙うことができる。
 日本のマクドナルドは、会員制モバイルサイト「トクするケータイサイト」などで、顧客一人ひとりの購買履歴を詳細に分析し、購買パターンに応じて、一人ひとり内容の異なる割引クーポンをケータイ電話に配信している。
 日本マクドナルドは、300億円を投じて、2600万人の顧客情報を蓄積し分析するシステムを構築した。
 たとえば、一定期間、来店していない顧客に対しては、従来よく購入していたハンバーガーなどを割り引くクーポン。来店頻度は高いが、新発売のハンバーガーを購入していない顧客に対しては、新発売のハンバーガーを大幅に割り引くクーポンなど・・・。
 ビッグデータを分析すると、スキー場やゴルフ場の従業員なのか、客なのか判明する。
 ケータイ電話会社にとって、優良顧客が離反しそうなことが事前に予測できたら、「割引キャンペーン」「ポイント2倍付与」など、解約を防止する手を打てる。
 とっても便利なスマホ(ケータイ)の利用は、このようにして管理されていくのですね。だから私は、今でもなんでも手書き派なのです。
(2013年6月刊。1800円+税)

憲法の創造力

カテゴリー:司法

著者  木村 草太 、 出版  NHK出版新書
憲法学会の若き俊英が世に問う、ラディカルで実践的な憲法入門書。これは本のオビにあるキャッチ・フレーズです。そうならば、手にとって読まざるをえません。
 実りある憲法論のためには、何より想像力が重要である。
 そうなんです。条文(案)に何と書いてあるか、それがどういう意味なのかを知るためには、想像力が重要なのです。
 卒業式で、君が代を斉唱させ、日の丸掲揚を義務づけ、それに反する教員を処分する。これは、まさしく憲法問題である。
 著者は、次のように指摘します。そもそも、校長が式典での所作について命令を出すというのは、いかにも強権的である。冷めた目で見てみれば、「歌をうたえ」という職務命令が出ること自体が滑稽ですらあろう。たとえば、教員に対し、「入学式では、ちゃんと『ビューティフル・サンデー』をうたえ」という職務命令を出したり、歌わない教員に戒告処分や減給処分を科したりする学校があったら、多くの人は「変な学校だなあ」と思うのではないか。「ビューティフル・サンデーを歌わなかったこと」を理由とした懲戒免職など、もはやコントの域である。
 まったくもって、そのとおりです。学校を世界の常識が通用しない場にしてはいけません。それでは、何より子どもたちが可哀想です。
 生存権の保障というのは「フツー」の人の支持を「自然に」集められる政策ではない。貧困とは縁のない(と思っている)人々は、国家財政は、救貧施策ではなく、もっと文化的なものや、景気を刺激する政策に使ってほしい、と考えるかもしれない。また、勤労の才能に恵まれた「フツー」の人から見れば、生活保護受給の中には、「怠けている」ように見える人もいるだろう。
 しかし、個人の尊重という規範を貫くためには、生存権保障という「不自然」きわまる制度の意義を「フツー」の人々に十分に理解できるように説明できなくてはならない。
 憲法25条1項は、制度の現状を調査し、そこで何が行われているかに想像力を働かせ、改善のための想像力を発揮することを求めている。
 「最低限度」の生活に何が必要かを真剣に検討し、社会住宅の提供やコミュニティー形成への援助の重要性を憲法教育の現場で教えられていたら、政治や行政の現場も今とは違う状況になっていたかもしれない。
 ちょっと冷静に考えてほしい。休日に政治的行為をする人は、仕事でも政治的に偏ったことをするはずだという信念は、不合理な偏見にすぎない。私も、全く同感です。
憲法9条は、日本国の非武装を要求しているのではなく、日本国が非武装を選択できる世界の創造を要求しているということである。
 日本が非武装を選択できる世界の創造は、終わりがないと思えるほど途方もない仕事かもしれない。しかし、これは世代をこえて受け継がれなければならない仕事である。
 まだ30代前半の若きケンポー学者の指摘には本当に鋭いものがありました。
 多くの人に、とりわけ若い人に読んでほしい憲法の本です。
(2013年7月刊。780円+税)

クモはなぜ糸をつくるのか?

カテゴリー:生物

著者  キャサリン・クレイグ、レスリー・ブルネッタ 、 出版  丸善出版
クモは、その始祖から4億年の星霜を経て今日にいたった生き物である。
クモは4万種以上いる動物のなかで、一番多いのは昆虫、次がダニ、そして3番目はクモ。
クモの歴史は海から始まる。クモは、節足動物門の仲間だ。三葉虫も仲間になる。出糸突起は、水生節足動物の特徴を受け継いだもの。
クモは必ず糸をつくる。クモの一番の特徴は、なんといっても糸で円網をつくること。糸を作らなくては、クモとは言えない。クモが何万種に分かれていても、糸こそがクモをクモらしくするもの。
 クモが、さまざまな環境で生きられるのは、糸があったからこそ。クモは、進化するにつれて、糸の使い道を広げてきた。進化したクモは、いろいろに使える6種類以上の糸をつくる。
 クモの糸は、最強の化学繊維ケプラーよりも丈夫だ。糸はタンパク質だ。
 クモの糸のうち、しおり糸は、クモが懸垂下降するときに使う糸。地球上で、もっとも強靱な物質で、大きな力に耐え、莫大なエネルギーを吸収して壊れない。
 大瓶状腺糸の構成は、素晴らしい引っ張り応力に耐える能力を生む。引っ張り強さが大きいことから、クモが突然に下降したり、糸をすばやく上って戻ってくるのに耐えられる。
 すべてのクモの糸のタンパク質は、初めは液体だが、腺から導管を通って出糸突起に移動するあいだに導管のうち側の細胞が水を抜き取る。クモの体から出して空気に触れると、さらに水を失う。
 わが家の室内にも、自然が近いせいか、大小たくさんのクモが生息しています。毒蜘蛛はいないと思いますが、大きなクモを発見すると、大騒ぎして、外へ放り出します。殺したくはありません。これは芥川龍之介の『クモの糸』を読んで以来のことです。
 たくさんのクモの面白い生態を知ることのできる本でした。
(2013年6月刊。2300円+税)

私の従軍・中国戦線

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  村瀬 守保 、 出版  日本機関紙出版センター
1937年(昭和12年)7月に招集されてから1940年12月に日本に帰国するまで、2年半のあいだ中国大陸を兵站自動車中隊の一員として転戦した兵士のとった写真です。
カメラ2台を持っていたので、中隊の非公式の写真班員として認められていた。召集兵ばかりの中隊だったので、古参兵によるいじめはなかった。
 天津市内に入ると、すっかりさびれていた。日本軍の爆撃で目ぼしい建物はほとんど崩壊していた。
 続いて上海へ。上海戦線は、日中両軍が2ヶ月間も死闘を尽くした激戦だった。
逃げ遅れた中国人の老人と子どもをとった写真があります。いかにも脅えた表情のあどけない子どもは痛々しいばかりです。キャプションには80にもなる老婆がつかまって、2人の日本兵に犯され、ケガをしたとあります。
南京大虐殺の現場をうつした写真も何枚かあります。今でも、「幻の大虐殺」などという日本人がいるのは信じられないことです。
 そのあと、有名な徐州作戦に参加しました。ところが、中国軍の主力は逃げたあと。待ちうけていたのは、待ち伏せ攻撃だった。
 狭い路地を通過しているときに、真ん中の車両が攻撃され、分断される。怪しい中国人は、日本刀の試し切りとして惨殺される。そんな写真が何枚もあります。
 漢口に行き、山西省へ八路軍の討伐に向かう。そして、従軍慰安婦に出会います。日本軍の公設の慰安所が各地にありました。河野談話を否定するなんて、歴史のねじ曲げでしかありません。
 ノモンハン戦線に向かって、もうダメかと思っていると、休戦協定が成立。これで、無事に日本へ生還できたのでした。
くっきり鮮明な戦場写真は、それだけ余計に戦争の悲惨さ、残酷さを浮きぼりしています。
(2005年3月刊。2400円+税)

オウム真理教秘録

カテゴリー:社会

著者  NHKスペシャル取材班 、 出版  文芸春秋
オウム真理教と言えば、私にとっては坂本堤弁護士一家殺害事件と地下鉄サリン事件を忘れるわけにはいきません。
 オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺害事件が起きたのは、1989年11月のこと。私と同期で親しい岡田尚弁護士(同じ横浜法律事務所)と別れた日に一家で住んでいたアパートに踏み込まれて、妻子ともども殺害されてしまったのでした。
坂本弁護士夫妻は、全国クレジット・サラ金被害者交流集会で大牟田市に来たこともあり、面識ある関係だっただけに、その「救出」活動に私も少しばかり関わりました。殺害されたあとに「救出」というのも変ですが、どこかに「拉致・監禁」されているという話もあったのです。占い師というのは、まったくあてにならない存在だと改めて実感したのは、このときです。すべての「占い」が見事にはずれてしまいました。
 私は、事件の真相が見えていないとき、坂本弁護士一家の住んでいたアパートの見学会にも参加しました。フツーの庶民の住む、どこにでもあるアパートです。この前途有為な弁護士が殺害されたのには、マスコミの責任重大でした。テレビ局が軽率にもオウム真理教に事前に画像を見せてしまったのです。
 霞ヶ関サリン事件についても、その後まもなく日弁連の会議で上京した私にとって、他人事(ひとごと)ではありませんでした。
 そんな殺人集団の信者が今でも存在するなんて、とても信じられません。
 熊本の波野村(なみのむら)にオウム真理教の拠点がつくられようとした話も怖いですよ。ここに教団武装化の拠点をつくろうとしたというのです。上九一色村のサティアンと同じような施設がつくられようとしたわけです。本当に怖い話です。それでも、抵抗した村民は、まさしく生命がけでした。本当に偉いものです。
麻原は、不遇な生いたちや学業・事業での挫折から、強い被害妄想と誇大妄想があった。自らの不遇・挫折について、弾圧されるキリストのようなものとして、奇妙な形で正当化しようとした。そして、麻原には、不幸にも霊能的なカリスマ性があったため、誇大妄想が強まっていった。
未解決事件といえば、国松警察庁長官の襲撃犯も、結局、今のところ検挙されていません。ひところはオウム真理教の信者である、射撃のうまい警察官が犯人だとされていました。しかし、それも「無実」が確定して、まったく犯人の手がかりはありません。これでは世界一有能な日本の警察という看板が泣いてしまいますね・・・。
(2013年5月刊。1600円+税)

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